13 / 27
1章
13話 佐藤先生がどんなに口説いて来たって塩対応よ!
しおりを挟む
「あれ? 中山先生、今朝は早いね。……ん? 何だかやつれてない?」
月曜日の早朝、学校の更衣室に入ると今井先生が壁際のベンチに座って本を読んでいた。
私がやつれて見えるのはきっと土曜日から泣き過ぎたのと、夕べ眠れなかったせいだろう。
だらだら布団にいても仕方がないと思って、今朝は早めに出勤した。
今井先生は満員電車を避ける為にいつも学校に一番乗りだ。
私はロッカーに荷物を入れると首からネームホルダーを下げて、今井先生の隣に座った。
今日の今井先生は私にはとても眩しく輝いて見える。
「……今井先生はツヤツヤしていますね。幸せオーラ全開じゃないですか? 週末はカレシさんと過ごしたんですか?」
「えへへ、分かる? あの後、彼に温泉に連れて行って貰ったんだ~、お土産買ってきたから後で渡すね」
温泉だって? カレシさんめ、けしからん! しっかり休日を満喫しちゃって。……こっちはあれから色々あったんだぞ!
「私も、カステラとかよりよりとか沢山持ってきたので……。」
私はよりよりの外袋をあけると綺麗にねじられたお菓子を一つ今井先生に手渡した。
愛美さんが持ってきてくれたお菓子が多すぎて私とトシヤさんだけではとても食べきれない。トシヤさんは『平日は自炊しないから』と野菜は持って帰らなかったので、私は今夜から料理しまくる予定だ。
「ありがとう。中山先生、長崎に行ったの?」
今井先生はよりよりをかじりながら聞いた。私も個包装を破って一つ頬張る。硬い……。でも、噛んでいるうちに優しい味が口の中に広がって美味しかった。
「いえ……これには、深ーいワケがあるんです。あの夜、今井先生と別れてから行ったタイ料理店のトムヤムクンのジャガイモが実は生姜で大好きな生姜焼きが食べられない身になったり、とってもかわいい蓮君とちいちゃんという親子と運命の出会いと別れを経験したりですね……。それから嬉しいことにトシヤさんは長い間かけられていた呪いが解けたんです。そして……私は自分の過ちに気が付いてとても反省しました……」
「……なんだか全然分からない。……けど、ホントにいろいろあったのね。……中山先生はすごく頑張ったのかな?」
「はい……」
「じゃあ、偉かったね」
「はい……ありがとうございます」
私はこの時きっと思いつめた顔をしていたんだろうと思う。
こんなに、しっちゃかめっちゃかな話を今井先生は笑わずに聞いてくれた。
なんだか沢山の事が私の身に起こり過ぎて私は混乱していたみたいだ。
心をどこに持っていけばいいのか分からない。
こんなことでは子供たちの前に立てない。
「中山先生、まだ時間はたっぷりあるから、話したいことから話していいよ。ゆっくり聞いてあげる」
今井先生はそういってほほ笑んでくれた。こうやって何度相談に乗って貰って励ましてもらったことか。
トシヤさんと愛美さんの関係とかいくつか話せない事もあったけど、私はゆっくり頭の中を整理しながら今井先生に話した。そうすることで私の感情も整理されて次第に心が落ち着いていくのを感じた。
「中山先生には怒涛の休日だったのね……それにしても良かったね、あの日、中山先生と佐藤先生が一緒に食事に行ったから蓮君と千尋さんに会えたわけでしょ?」
「そうですね……それは本当に幸運でした」
そうだ、本当にラッキーだった。
あの日、あの場所にいたことでちいちゃんと蓮君を助けることが出来た。
でも、私は戸惑っている。
トシヤさんとあの日飲みに行ったことがきっかけで、私は深みにはまってしまった。
気が付きたくなかった感情に気づいてしまった。
私は……トシヤさんが好きなことに気が付いてしまった。
「どうしよう、今井先生。……私、トシヤさんが好きなんです」
「うん、話を聞いた限りでは佐藤先生も中山先生の事が好きなように感じるけど……?」
「……でも、付き合うのは怖い……」
臆病な私は、また、ダメになるのが怖い。
傷つくのも傷つけるのも嫌だ。
「そうだね、中山先生がまだ一歩を踏み出すのが怖いのなら、しばらくはこのままの状態でもいいんじゃない?……お付き合いするかどうかは中山先生の気持ちが落ち着いてから考えてみたら?」
「でも……それまでトシヤさんは待ってくれるでしょうか?」
トシヤさんは昨日、もう私しか口説かないって言ってくれたけど……。
「大丈夫よ! 佐藤先生はしつこいことにかけては誰にも負けないから」
今井先生はニコッと笑った……。
「先生、それ、褒めてませんよね」
「うふふ……」
やっぱり褒めてない。
「私はどうしたらいいと思います?」
私の問いに先生は胸をはって答える。
「それはもちろん、気持ちが固まるまでは佐藤先生がどんなに口説いて来たって塩対応よ!」
サトウ先生にシオ対応って?……今井先生、そんなかわいい顔して。
「ダジャレですか?」
「違うわよ! 私『イケメンに迫られたときの対処法』は結構マスターしているつもりよ。私に任せなさい!」
今井先生は握った手で軽く胸を叩いた。そんな仕草もかわいいなぁ。それに。
「たしかにあんな超絶イケメンと付き合っている今井先生なら頼りになるかも?」
「そうでしょ? 普段から鍛えられてるんだから、完璧なはずよ。私に任せて!」
今井先生は腰に手を当てておどけて見せる。私はぴょこっと頭を下げた。
「はい、オネガイシマス! ところで、先生。あんなイケメンとどこで知り合ったんですか?」
先生のカレシさんは、そうお目にかかれない超絶イケメンだ。競争率が半端なさそう……。
「あー、それが……実は、彼は……」
今井先生はとても言いづらそうだ。聞いちゃいけなかったのかな?
「その、彼は……私の……いとこなの」
いとこ? いとこ! ええええええ! いとこって……。
私はびっくりして目を見開いてしまった。
今井先生は困ったように苦笑している。
「今井先生! そんなマンガみたいな素敵な恋をしているなんて! やっぱり今井先生はかっこいいです!」
ほわ~、すごくない? いとこだよ、幼馴染より萌えるシチュエーションだよ~!
あまりの衝撃でなんだか私の悩みなんて吹き飛んでしまった。
あんなにかっこいいイケメンがいとこならそりゃあ甘いマスクの佐藤先生にもなびかなかったはずよね。
「そう……? ありがとう」
今井先生は、どこかホッとしているように感じた。
「あれ? 今井先生、うなじを虫にかまれてますよ」
先生は長い髪を束ねていて、耳の後ろあたりが少し赤くなっているのが見えた。
「え? ホント?」
今井先生は更衣室の鏡で確認しようとしているが自分では分からないらしい。
あ、まさかアレ……?
絶妙な位置じゃん! 私は気が付いてしまった。
今井先生、先生のカレシさんは凄いです。絶妙な位置にキスマークを付けられてますよ!
マーキングされてます。
まるで、この人は自分のものだと言わんばかりのアピールぶりですよ。
「先生、今日は髪を下ろしていたほうがいいかも……?」
その言葉で察したらしく先生は耳をおさえて真っ赤になった。
カレシさんは今井先生に夢中なんですね。先生も大変ですね……。
月曜日の早朝、学校の更衣室に入ると今井先生が壁際のベンチに座って本を読んでいた。
私がやつれて見えるのはきっと土曜日から泣き過ぎたのと、夕べ眠れなかったせいだろう。
だらだら布団にいても仕方がないと思って、今朝は早めに出勤した。
今井先生は満員電車を避ける為にいつも学校に一番乗りだ。
私はロッカーに荷物を入れると首からネームホルダーを下げて、今井先生の隣に座った。
今日の今井先生は私にはとても眩しく輝いて見える。
「……今井先生はツヤツヤしていますね。幸せオーラ全開じゃないですか? 週末はカレシさんと過ごしたんですか?」
「えへへ、分かる? あの後、彼に温泉に連れて行って貰ったんだ~、お土産買ってきたから後で渡すね」
温泉だって? カレシさんめ、けしからん! しっかり休日を満喫しちゃって。……こっちはあれから色々あったんだぞ!
「私も、カステラとかよりよりとか沢山持ってきたので……。」
私はよりよりの外袋をあけると綺麗にねじられたお菓子を一つ今井先生に手渡した。
愛美さんが持ってきてくれたお菓子が多すぎて私とトシヤさんだけではとても食べきれない。トシヤさんは『平日は自炊しないから』と野菜は持って帰らなかったので、私は今夜から料理しまくる予定だ。
「ありがとう。中山先生、長崎に行ったの?」
今井先生はよりよりをかじりながら聞いた。私も個包装を破って一つ頬張る。硬い……。でも、噛んでいるうちに優しい味が口の中に広がって美味しかった。
「いえ……これには、深ーいワケがあるんです。あの夜、今井先生と別れてから行ったタイ料理店のトムヤムクンのジャガイモが実は生姜で大好きな生姜焼きが食べられない身になったり、とってもかわいい蓮君とちいちゃんという親子と運命の出会いと別れを経験したりですね……。それから嬉しいことにトシヤさんは長い間かけられていた呪いが解けたんです。そして……私は自分の過ちに気が付いてとても反省しました……」
「……なんだか全然分からない。……けど、ホントにいろいろあったのね。……中山先生はすごく頑張ったのかな?」
「はい……」
「じゃあ、偉かったね」
「はい……ありがとうございます」
私はこの時きっと思いつめた顔をしていたんだろうと思う。
こんなに、しっちゃかめっちゃかな話を今井先生は笑わずに聞いてくれた。
なんだか沢山の事が私の身に起こり過ぎて私は混乱していたみたいだ。
心をどこに持っていけばいいのか分からない。
こんなことでは子供たちの前に立てない。
「中山先生、まだ時間はたっぷりあるから、話したいことから話していいよ。ゆっくり聞いてあげる」
今井先生はそういってほほ笑んでくれた。こうやって何度相談に乗って貰って励ましてもらったことか。
トシヤさんと愛美さんの関係とかいくつか話せない事もあったけど、私はゆっくり頭の中を整理しながら今井先生に話した。そうすることで私の感情も整理されて次第に心が落ち着いていくのを感じた。
「中山先生には怒涛の休日だったのね……それにしても良かったね、あの日、中山先生と佐藤先生が一緒に食事に行ったから蓮君と千尋さんに会えたわけでしょ?」
「そうですね……それは本当に幸運でした」
そうだ、本当にラッキーだった。
あの日、あの場所にいたことでちいちゃんと蓮君を助けることが出来た。
でも、私は戸惑っている。
トシヤさんとあの日飲みに行ったことがきっかけで、私は深みにはまってしまった。
気が付きたくなかった感情に気づいてしまった。
私は……トシヤさんが好きなことに気が付いてしまった。
「どうしよう、今井先生。……私、トシヤさんが好きなんです」
「うん、話を聞いた限りでは佐藤先生も中山先生の事が好きなように感じるけど……?」
「……でも、付き合うのは怖い……」
臆病な私は、また、ダメになるのが怖い。
傷つくのも傷つけるのも嫌だ。
「そうだね、中山先生がまだ一歩を踏み出すのが怖いのなら、しばらくはこのままの状態でもいいんじゃない?……お付き合いするかどうかは中山先生の気持ちが落ち着いてから考えてみたら?」
「でも……それまでトシヤさんは待ってくれるでしょうか?」
トシヤさんは昨日、もう私しか口説かないって言ってくれたけど……。
「大丈夫よ! 佐藤先生はしつこいことにかけては誰にも負けないから」
今井先生はニコッと笑った……。
「先生、それ、褒めてませんよね」
「うふふ……」
やっぱり褒めてない。
「私はどうしたらいいと思います?」
私の問いに先生は胸をはって答える。
「それはもちろん、気持ちが固まるまでは佐藤先生がどんなに口説いて来たって塩対応よ!」
サトウ先生にシオ対応って?……今井先生、そんなかわいい顔して。
「ダジャレですか?」
「違うわよ! 私『イケメンに迫られたときの対処法』は結構マスターしているつもりよ。私に任せなさい!」
今井先生は握った手で軽く胸を叩いた。そんな仕草もかわいいなぁ。それに。
「たしかにあんな超絶イケメンと付き合っている今井先生なら頼りになるかも?」
「そうでしょ? 普段から鍛えられてるんだから、完璧なはずよ。私に任せて!」
今井先生は腰に手を当てておどけて見せる。私はぴょこっと頭を下げた。
「はい、オネガイシマス! ところで、先生。あんなイケメンとどこで知り合ったんですか?」
先生のカレシさんは、そうお目にかかれない超絶イケメンだ。競争率が半端なさそう……。
「あー、それが……実は、彼は……」
今井先生はとても言いづらそうだ。聞いちゃいけなかったのかな?
「その、彼は……私の……いとこなの」
いとこ? いとこ! ええええええ! いとこって……。
私はびっくりして目を見開いてしまった。
今井先生は困ったように苦笑している。
「今井先生! そんなマンガみたいな素敵な恋をしているなんて! やっぱり今井先生はかっこいいです!」
ほわ~、すごくない? いとこだよ、幼馴染より萌えるシチュエーションだよ~!
あまりの衝撃でなんだか私の悩みなんて吹き飛んでしまった。
あんなにかっこいいイケメンがいとこならそりゃあ甘いマスクの佐藤先生にもなびかなかったはずよね。
「そう……? ありがとう」
今井先生は、どこかホッとしているように感じた。
「あれ? 今井先生、うなじを虫にかまれてますよ」
先生は長い髪を束ねていて、耳の後ろあたりが少し赤くなっているのが見えた。
「え? ホント?」
今井先生は更衣室の鏡で確認しようとしているが自分では分からないらしい。
あ、まさかアレ……?
絶妙な位置じゃん! 私は気が付いてしまった。
今井先生、先生のカレシさんは凄いです。絶妙な位置にキスマークを付けられてますよ!
マーキングされてます。
まるで、この人は自分のものだと言わんばかりのアピールぶりですよ。
「先生、今日は髪を下ろしていたほうがいいかも……?」
その言葉で察したらしく先生は耳をおさえて真っ赤になった。
カレシさんは今井先生に夢中なんですね。先生も大変ですね……。
0
お気に入りに追加
190
あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

寒い夜だから、夫の腕に閉じ込められました
絹乃
恋愛
学生なのに結婚したわたしは、夫と同じベッドで眠っています。でも、キスすらもちゃんとしたことがないんです。ほんとはわたし、キスされたいんです。でも言えるはずがありません。

白い結婚は無理でした(涙)
詩森さよ(さよ吉)
恋愛
わたくし、フィリシアは没落しかけの伯爵家の娘でございます。
明らかに邪な結婚話しかない中で、公爵令息の愛人から契約結婚の話を持ち掛けられました。
白い結婚が認められるまでの3年間、お世話になるのでよい妻であろうと頑張ります。
小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。
現在、筆者は時間的かつ体力的にコメントなどの返信ができないため受け付けない設定にしています。
どうぞよろしくお願いいたします。
明智さんちの旦那さんたちR
明智 颯茄
恋愛
あの小高い丘の上に建つ大きなお屋敷には、一風変わった夫婦が住んでいる。それは、妻一人に夫十人のいわゆる逆ハーレム婚だ。
奥さんは何かと大変かと思いきやそうではないらしい。旦那さんたちは全員神がかりな美しさを持つイケメンで、奥さんはニヤケ放題らしい。
ほのぼのとしながらも、複数婚が巻き起こすおかしな日常が満載。
*BL描写あり
毎週月曜日と隔週の日曜日お休みします。
マルヤマ百貨店へようこそ。
松丹子
恋愛
就職後10年目の研修後は、久々の同期会。
楽しく過ごしたその夜に、思いつきで関係を持った那岐山晴麻と広瀬成海。
つかず離れずな関係は、その夜を機に少しずつ変わっていく……
我が道を行くオトコマエ女子と一途な王子系男子のお仕事ラブコメ? です。
*拙作『素直になれない眠り姫』『トキメキの押し売りは困ります!~イケメン外商とアラフォーOLの年末年始~』と舞台を同じくしておりますが、それぞれ独立してお楽しみいただけます。

顔も知らない旦那さま
ゆうゆう
恋愛
領地で大災害が起きて没落寸前まで追い込まれた伯爵家は一人娘の私を大金持ちの商人に嫁がせる事で存続をはかった。
しかし、嫁いで2年旦那の顔さえ見たことがない
私の結婚相手は一体どんな人?

転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~
月
恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん)
は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。
しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!?
(もしかして、私、転生してる!!?)
そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!!
そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる