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1章
12話 私、恋愛には臆病になってしまう
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それからしばらく私たちは抱き合っていた。最初は飛び出しそうなくらいに早鐘を打っていた私の心臓も次第に落ち着いてきた。
好きな人に抱きしめられるのってこんなに気持ちがいいものなんだ。
ずっと、こうしていたい……。
そう思ったけど、私達は明日からまたお仕事だ。
いつまでも引っ付いてはいられない。
私はトシヤさんの背中をポンポンと叩いて言った。
「トシヤさん、そろそろお開きにしましょうか?」
「え?」
トシヤさんは驚いているみたいだ。
いや、そんなに驚かれても。
今夜ももちろん泊めてあげませんよ。
「……ツレナイね、葵ちゃん……」
トシヤさんの顔が若干引きつっているように感じたけど知~らない。
「そういうところも魅力的だけど」
トシヤさんがイケメンのオーラ全開の笑顔でこんなことを囁いたりするから、私はギョッとしてトシヤさんを再び家から追い出した。
ヤバイ、やっぱり、イケメンが本気出したら私なんか太刀打ちできないって!
リビングテーブルの上のお菓子や野菜を片付けていると『お礼』と書かれた白い封筒があった。愛美さんが置いていったもののようだ。裏には『二人で美味しいものを食べに行ってね、千尋』の文字が。
ちいちゃんだ! ちいちゃんからだ。
中には結構な金額のグルメカードと手紙が入っていた。
『葵ちゃん、電話だと泣いて話が出来そうにないから手紙にしました。
手紙なんてまともに書いたことがないから変なところがあったらごめんね。
あの日、わたしを家に連れて行ってくれて本当にありがとう。
正直、勢いだけで福岡に飛び出してきちゃったけれど、あの時はもうどうしたらいいのかわからなくて蓮と二人で途方に暮れていたの。
わたし、すぐに彼に会えるって簡単に思ってたんだ。バカだよね。
もし、あの時葵ちゃんと俊哉さんと出会えていなかったらって思ったらすごく恐ろしい。
あんなに寒い雨の中にまだ小さい蓮を連れて行ったなんて、今考えたら本当に怖くなるの。
葵ちゃん、わたし達を助けてくれてありがとう。
葵ちゃんの家に泊まって葵ちゃんとわたしと蓮の三人で同じ部屋で寝たでしょう?あの夜は葵ちゃんの存在が頼もしくてわたし、安心してぐっすり眠れたの。多分、あんなにぐっすり寝たのは蓮が産まれてから初めての事だと思う。
わたしが仕事に行っている時は、蓮は保育園にあずかって貰えるけど夜はいつもわたし達二人だけだったから、わたしはいつも不安だった。蓮に何かあっても頼れるのは自分だけだから。
昨日も楽しかったな。葵ちゃんや俊哉さんが蓮のオムツを替えてくれたり、ミルクを飲ませてくれたの、本当に嬉しかったの。
わたしね、蓮が産まれてから今まで、あんなふうに誰かと蓮の世話をしたことがなかったからすごく楽しかった。
彼の事も、一緒に探してくれてありがとう。
わたしの事を親身になって思ってくれてありがとう。
葵ちゃん、わたし、今まで強がって意地はってたんだなって気が付いた。
一人で蓮を育てていくのは寂しいよ。
もう一人には戻れないって思ったの。
わたしが実家に帰れたのは、全部葵ちゃんのおかげだよ
本当にありがとう。
葵ちゃん、大好きだよ』
……こんなに嬉しい手紙を貰ったのは人生で初めてだ。
ちいちゃん、ちいちゃんがおうちに帰れて本当に良かった。
蓮君と二人でだれにも頼らずに生きてきたちいちゃん。
これからは、蓮君のお爺ちゃんとお祖母ちゃんに沢山愛してもらってね。
ちいちゃん、私も大好きだよ。
ちいちゃんも蓮君も本当に大好きだよ。
……手紙には続きがあった。
『P.S.わたしの両親には葵ちゃんと俊哉さんはラブラブでお姉ちゃんの入る余地はないよって言っておいたから。お姉ちゃんには負けないでね。』
ってどういうこと?
私、この後、愛美さんと戦うの……?
あんな美人と戦っても負ける気しかしない。
あんなゴージャスな美人相手じゃ私の戦闘値はゼロ以下だよ。
ていうかそもそも戦う予定がない……。
ちいちゃん、ちいちゃんのお姉さんはとても素敵な人だったよ。
トシヤさんを呪縛から解放してくれた。
それにしても……ちいちゃんは、私のトシヤさんへの想いに気が付いていたんだ……。
私は今日、自覚したっていうのに。
そうだよ、ちいちゃん、素直に認めるよ。
私はトシヤさんが好きだよ。
トシヤさんも私の事を好いてくれていると思う。
でもね……。私は自分に自信がないの。
今まで、誰とも上手くいかなかった。
気づかないうちに恋人を傷つけてしまっていた。
また、同じことをしたらどうしよう?
……だからトシヤさんとこれ以上進むのは怖いの。
怖いんだよ、ちいちゃん。
私、恋愛には臆病になってしまう。
情けないな。
こんな弱虫、情けなくてちいちゃんに笑われちゃうね……。
私はトシヤさんに本気で恋することを心のどこかで恐れている。
結局この日、私はトシヤさんに『好き』と口にしていないことに気が付いてしまった。
好きな人に抱きしめられるのってこんなに気持ちがいいものなんだ。
ずっと、こうしていたい……。
そう思ったけど、私達は明日からまたお仕事だ。
いつまでも引っ付いてはいられない。
私はトシヤさんの背中をポンポンと叩いて言った。
「トシヤさん、そろそろお開きにしましょうか?」
「え?」
トシヤさんは驚いているみたいだ。
いや、そんなに驚かれても。
今夜ももちろん泊めてあげませんよ。
「……ツレナイね、葵ちゃん……」
トシヤさんの顔が若干引きつっているように感じたけど知~らない。
「そういうところも魅力的だけど」
トシヤさんがイケメンのオーラ全開の笑顔でこんなことを囁いたりするから、私はギョッとしてトシヤさんを再び家から追い出した。
ヤバイ、やっぱり、イケメンが本気出したら私なんか太刀打ちできないって!
リビングテーブルの上のお菓子や野菜を片付けていると『お礼』と書かれた白い封筒があった。愛美さんが置いていったもののようだ。裏には『二人で美味しいものを食べに行ってね、千尋』の文字が。
ちいちゃんだ! ちいちゃんからだ。
中には結構な金額のグルメカードと手紙が入っていた。
『葵ちゃん、電話だと泣いて話が出来そうにないから手紙にしました。
手紙なんてまともに書いたことがないから変なところがあったらごめんね。
あの日、わたしを家に連れて行ってくれて本当にありがとう。
正直、勢いだけで福岡に飛び出してきちゃったけれど、あの時はもうどうしたらいいのかわからなくて蓮と二人で途方に暮れていたの。
わたし、すぐに彼に会えるって簡単に思ってたんだ。バカだよね。
もし、あの時葵ちゃんと俊哉さんと出会えていなかったらって思ったらすごく恐ろしい。
あんなに寒い雨の中にまだ小さい蓮を連れて行ったなんて、今考えたら本当に怖くなるの。
葵ちゃん、わたし達を助けてくれてありがとう。
葵ちゃんの家に泊まって葵ちゃんとわたしと蓮の三人で同じ部屋で寝たでしょう?あの夜は葵ちゃんの存在が頼もしくてわたし、安心してぐっすり眠れたの。多分、あんなにぐっすり寝たのは蓮が産まれてから初めての事だと思う。
わたしが仕事に行っている時は、蓮は保育園にあずかって貰えるけど夜はいつもわたし達二人だけだったから、わたしはいつも不安だった。蓮に何かあっても頼れるのは自分だけだから。
昨日も楽しかったな。葵ちゃんや俊哉さんが蓮のオムツを替えてくれたり、ミルクを飲ませてくれたの、本当に嬉しかったの。
わたしね、蓮が産まれてから今まで、あんなふうに誰かと蓮の世話をしたことがなかったからすごく楽しかった。
彼の事も、一緒に探してくれてありがとう。
わたしの事を親身になって思ってくれてありがとう。
葵ちゃん、わたし、今まで強がって意地はってたんだなって気が付いた。
一人で蓮を育てていくのは寂しいよ。
もう一人には戻れないって思ったの。
わたしが実家に帰れたのは、全部葵ちゃんのおかげだよ
本当にありがとう。
葵ちゃん、大好きだよ』
……こんなに嬉しい手紙を貰ったのは人生で初めてだ。
ちいちゃん、ちいちゃんがおうちに帰れて本当に良かった。
蓮君と二人でだれにも頼らずに生きてきたちいちゃん。
これからは、蓮君のお爺ちゃんとお祖母ちゃんに沢山愛してもらってね。
ちいちゃん、私も大好きだよ。
ちいちゃんも蓮君も本当に大好きだよ。
……手紙には続きがあった。
『P.S.わたしの両親には葵ちゃんと俊哉さんはラブラブでお姉ちゃんの入る余地はないよって言っておいたから。お姉ちゃんには負けないでね。』
ってどういうこと?
私、この後、愛美さんと戦うの……?
あんな美人と戦っても負ける気しかしない。
あんなゴージャスな美人相手じゃ私の戦闘値はゼロ以下だよ。
ていうかそもそも戦う予定がない……。
ちいちゃん、ちいちゃんのお姉さんはとても素敵な人だったよ。
トシヤさんを呪縛から解放してくれた。
それにしても……ちいちゃんは、私のトシヤさんへの想いに気が付いていたんだ……。
私は今日、自覚したっていうのに。
そうだよ、ちいちゃん、素直に認めるよ。
私はトシヤさんが好きだよ。
トシヤさんも私の事を好いてくれていると思う。
でもね……。私は自分に自信がないの。
今まで、誰とも上手くいかなかった。
気づかないうちに恋人を傷つけてしまっていた。
また、同じことをしたらどうしよう?
……だからトシヤさんとこれ以上進むのは怖いの。
怖いんだよ、ちいちゃん。
私、恋愛には臆病になってしまう。
情けないな。
こんな弱虫、情けなくてちいちゃんに笑われちゃうね……。
私はトシヤさんに本気で恋することを心のどこかで恐れている。
結局この日、私はトシヤさんに『好き』と口にしていないことに気が付いてしまった。
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