あまーいマスクの佐藤先生に塩対応!~ちょっと! イケメンが本気出したら私なんか太刀打ちできないって!~

深海 なるる

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1章

8話 もしかして……やけぼっくいに火が付いちゃうの?

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「ねえ葵ちゃん、俊哉さんはどういう先生なの?」
「あーそうだねー。佐藤先生はとってもいい先生。子供たちにも好かれてるよ」
「そうなんだ、でもホントに良かった、ちゃんと先生になれて。俊哉さんが教員採用試験で大変な時にお姉ちゃんの浮気が発覚しちゃって、俊哉さんすごく落ち込んでたから心配してたの」
「ヘー、ソウナンダー。ソンナコトガ……」
 この話、佐藤先生がいない時に私なんかが聞いていい話だったんだろうか……。
「葵ちゃんは、俊哉さんとは長いの? お付き合い……」
「私達同じタイミングで赴任したのでまだ知り合って二年目だけどって! つ、付き合ってないよ! 私達」
「そうなんだ、てっきり俊哉さんの恋人かと思った」
「ト、トシヤさんには、好きな人がいるから……」
 昨夜の今井先生の嬉しそうな顔とカレシさんの優しそうな顔を思い出して複雑な気分になった。
 トシヤさん、完全に振られているけどね……。

 蓮君のお風呂を用意していたらトシヤさんが大量の買い物袋をもってやって来た。
 赤ちゃん用品の専門店に行っておすすめされたものを片っ端からかごに入れたらしい。
 オムツやミルクや離乳食に加えて肌着、洋服、靴下、よだれかけ、おもちゃっていったいいくら使ったんだろうこの人?
「こんなに買ってきても電車じゃ持って帰れませんよ、トシヤさん」
 私は小姑モード発動だ。
「えーっと、ゴメンネ、葵ちゃん?……いや、いざという時は明日、長崎まで車で送ってもいいと思って……」
 トシヤさんなりに考えているようで許すことにした。
 ちいちゃんがとっても喜んでいたしね。
「おー、ほかほかでかわいいなー」
 お風呂上がりの湯冷ましを飲ませながらトシヤさんの顔は緩みっぱなしだ。
 赤ちゃんが好きらしい。
 私と一緒だ。
 それから私たちは競って蓮君のお世話をした。
 私はオムツ替えが出来るようになった。
 フフンと勝ち誇った顔をした私にトシヤさんは対抗心を燃やして蓮君のオムツをあけたらその瞬間にオシッコを飛ばされて大騒ぎになった。
 やるな、蓮君!
 私とちいちゃんは顔を見合わせて笑った。

「……なあ、ちいちゃん、やっぱり、福岡にいるうちに愛美に連絡した方がいいと思う。蓮君にとって愛美は伯母さんだ。伯母さんがこんなにかわいい甥っ子が、いる事さえ知らないっていうのはどうだろう? それに今のまま無理をして、ちいちゃんがもし倒れたりしたらこの子の面倒は誰が見るの? ちいちゃんだって風邪をひいたりする事もあるだろ?」
 ちいちゃんはうつむいて何も言わなかった。
「愛美に連絡だけしてみてもいいかな? 蓮君のためだよ」
 ちいちゃんは小さく頷いた。
 トシヤさんは、スマホを片手にベランダに出ると長い事愛美さんと話していた。

 私たちはその後、軽く食事をすませて交代で色々なお店に彼を探しに行った。
 本当の聞き込みだ。
 私たちは最近は教師じゃなくて刑事になったみたいだ。
 なんてふざけてでもいないとやってられないよ。
 全然見つかる気がしない。
 ここは福岡の中でもけっこう都心なのだ。
 簡単に探し人は見つからない。
 結局この日は見つからず私たちは家に戻った。
 この辺りで働いているのならともかく単に飲みに来たところを目撃されたのなら、もうここにはいない可能性もある。
 明日の午前中までさがして見つからなければ、ちいちゃんは、蓮君と長崎に帰ることになった。

 夜、デパートの仕事が終わった愛美さんから連絡があってトシヤさんは駅まで迎えに出掛けた。ちいちゃんは少し緊張しているようだ。
 こういう時こそ美味しいコーヒー!
 私はコーヒーとマグカップを四つ用意して愛美さんが来るのを待った。

 デパート勤務明けの愛美さんはゴージャスな美人だった。
 お化粧もバッチリ、紺のパンツスーツも決まっている。
 うわー、トシヤさんこんなに綺麗な人とお付き合いしていたのね。
 愛美さんはとっても丁寧な人で私にも本当にお世話になりました、と頭を下げてくれた。
 愛美さんとちいちゃんは結構年が離れているから保護者のような感じなのかもしれない。
 私の後ろに立っていたちいちゃんに気が付くと、
「千尋っ……!」
 と一言名前を呼んでちいちゃんをきつく抱きしめた。

 落ち着いたところで私は愛美さんにソファーに座って貰うよう促した。トシヤさんもその隣に腰かける。我が家のソファーは二人掛け。そう広くないから肩や腕が自然と触れる。恋人でもない限りドキドキしちゃって隣には座れない。
 うーん、さすがもと恋人同士。
 違和感ゼロ?
 かと思いきや……。

 なんと二人は愛美さんが浮気してトシヤさんを振って以来の再開だった!
 二人はにらみ合っている?
 これは、修羅場の予感?
 これから修羅場に発展するんでしょうか?
 いや……見つめあっているのかも?

 もしかして……やけぼっくいに火が付いちゃうの?

「葵ちゃん、コーヒーだよ」
 私がドキドキしながら固まっていたらちいちゃんがコーヒーをリビングテーブルに持ってきてくれた。
 ゴメン、私が家主なのにボーっとしてしまったよ。
 だって二人があまりにもお似合いなんだ。
 とっても綺麗でかわいくて眩しいぐらいなんだ。
 自分の家のソファーにこんなに素敵なカップルが座っているなんて信じられないんだ。
 ああ、感情の整理が出来ない。
 私が突っ立っていると『葵ちゃん座ろ』ってちいちゃんが手を握ってくれた。

 あとからあとからこみ上げてくるこの感情は何なんだろう?
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