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1章
7話 家に招いて一緒にコーヒーを飲んだらもう友達でしょ?
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本日二度目の聞き込みによると、ちいちゃんは結婚してはいなかった。
そして、今ちいちゃんは長崎に住んでいる。
ちいちゃんとそのお姉さんである元カノさんのお父さんの転勤に伴って一家は長崎から福岡に引っ越してきた。その時に佐藤先生は元カノさんと出会って、元カノさんはそのままここ福岡のデパートに就職したそうだ。
でもお父さんが再び長崎に帰ることになった時ちいちゃんはまだ子供だったから一緒に長崎に帰ったんだって。
そして、大きくなって長崎で好きな人が出来たんだけど、この人が全然仕事もしないダメな男で家族は交際に猛反対。恋に浮かれていたちいちゃんは彼氏と家を飛び出しちゃった。
つまり駆け落ち……? ちいちゃん、見かけによらず情熱的だな。
ちいちゃんは生活のために必死に働いた。ところがその男、赤ちゃんが出来たのに籍もお金も入れてくれない。それどころか妊娠中のちいちゃんを置いたまま家に帰ってこなくなってしまった。
ひどくない?
こんなにかわいい彼女を置いて出ていくなんて。
本当に信じられない。
結局ちいちゃんは未婚の母になった。
私はちいちゃんがかわいそうでずっと隣で肩を抱いていた。
ちいちゃんはいま、二十一歳。もちろん大人だけれど自分が二十一歳の頃を思い出すと私はまだ大学生で、教育実習とか自分の事に精いっぱいだった。
ちいちゃんは今、子供の父親に捨てられて一人で働いて蓮君を育てている。
今日、この辺りで彼氏を見たという人がいて、長崎から急遽電車に飛び乗ってきたそうだ。
「後先考えずに、来れば彼に会えるって思って来ちゃったんです……」
そして、今でもその馬鹿な男の事を愛している。
ああ、その男ぶん殴ってやりたい!
子供たちに暴力はダメ! って教えている私でもそう思うよ!
「ちいちゃん、愛美に連絡しようか?」
マナミさんっていうのはちいちゃんのお姉さん――つまり佐藤先生の元カノ――の名前だ。
ちいちゃんは首を横に振った。
駆け落ち中だもんね……。家族には知られたくないよね。ましてや、その相手に捨てられたなんて。
「佐藤先生、今夜はもう遅いですし、ちいちゃんはここに泊まってもらってかまいませんよ」
「葵先生……ご迷惑じゃ……?」
ちいちゃんは力なく私を見た。
ちいちゃん、弱っている時は誰かを頼っていいんだよ。
佐藤先生の知り合いだし、もう私の知り合いでもある。
家に招いて一緒にコーヒーを飲んだらもう友達でしょ?
「いえいえ、むしろ大歓迎です。そのかわり……蓮君が機嫌のいい時に抱っこさせてくださいね。ちいちゃん。あ、体が冷えちゃったからお風呂の用意をしてきます」
私はバスタブにお湯を張るためにお風呂に向かった。
「っていうか、私さっきから勝手にちいちゃんって呼んでました。ゴメンナサイ!」
お風呂の用意をしていて急に気が付いた。
馴れ馴れしいにもほどがある。
リビングに戻って謝る私にちいちゃんは優しかった。
「ううん、ちいちゃんって呼んでもらえて嬉しいです、葵先生」
「じゃあ、私の事も葵ちゃんって呼んで下さい……オネガイシマス」
ちいちゃんは本名は千尋だと教えてくれた。
まるでお見合いか合コンのような私たちのやり取りを佐藤先生はほほ笑ましそうに見ていた。
佐藤先生……。
「佐藤先生、私達今から順番にお風呂に入ります」
「はい」
「先生は帰ってください、今夜はちいちゃんと蓮君と三人で寝るので」
先生は泊めてあげないよ。
リビングに寝ようと思えば寝られるだろうけど、こちとら二人とも独身女性だ。
成人男性を泊めるわけにはいかない。
「電車がなくてもタクシー、駅前で拾えますから。あ、明日また来てくださいね。来るときにオムツとかミルクを頼みたいので電話貰えると助かります」
私はさっさと先生を追い出した。
とにかく今はちいちゃんを休ませてあげたい。
ちいちゃんに先にお風呂に入って貰って私も手早く入浴をすませると私たちは和室で三人川の字で眠った。蓮君はとてもいい子で一度も目を覚まさなかった。
翌朝、私は蓮君の元気な泣き声で目が覚めた。
おーおー、朝から威勢がいいですね。
ちいちゃんは、テキパキとオムツを替え、ミルクを作った。
「葵ちゃん、飲ませてくれますか?」
私があんまり見つめていたものだからちいちゃんはミルクを飲ませるのを変わってくれた。
蓮君は私の下手くそな抱っこも気にせずにコクコクとミルクを飲んでいる。
かわいい! かわいいぞ!
はぁぁぁ、抱っこしている膝の上が柔らかくてあったかい……って、
「ちいちゃーん、蓮君ウンチしたかもー!」
漂ってきた匂いに気が付いて私とちいちゃんは笑った。
それから佐藤先生が来るまで私たちは沢山話をしてすっかり打ち解けた。
本当にお友達になったのだ。
ちいちゃんの仕事は土日が休みなので明日帰れば仕事に間に合う。
今日と明日、いなくなった蓮君の父親を捜したいという事だった。
そりゃ、そうだよね。
籍は入っていなくても家族だもん。蓮君を父親に会わせたいよね。
でも、たとえ見つかったとしてもその男は心を入れ替えていい父親になれるだろうか?
ちいちゃんと蓮君を幸せにしてくれるだろうか?
ちいちゃんはこれ以上迷惑をかけられないから近くのホテルに移るって言ったけど私は断った。ホテルに移って、ひとりで彼を探したらその間、蓮君をずっと連れまわすことになる。まだまだ一日に五、六回はミルクを飲むって言ってたのにそんなのは無理だよ。
「それよりもこの家を拠点にして交代で蓮君の世話をしながらみんなで探した方がいいよ、ね、そうしよう」
私にとっても蓮君はかわいい。
ちいちゃんがありがとうって頷いたからもう決定だ。
そして、今ちいちゃんは長崎に住んでいる。
ちいちゃんとそのお姉さんである元カノさんのお父さんの転勤に伴って一家は長崎から福岡に引っ越してきた。その時に佐藤先生は元カノさんと出会って、元カノさんはそのままここ福岡のデパートに就職したそうだ。
でもお父さんが再び長崎に帰ることになった時ちいちゃんはまだ子供だったから一緒に長崎に帰ったんだって。
そして、大きくなって長崎で好きな人が出来たんだけど、この人が全然仕事もしないダメな男で家族は交際に猛反対。恋に浮かれていたちいちゃんは彼氏と家を飛び出しちゃった。
つまり駆け落ち……? ちいちゃん、見かけによらず情熱的だな。
ちいちゃんは生活のために必死に働いた。ところがその男、赤ちゃんが出来たのに籍もお金も入れてくれない。それどころか妊娠中のちいちゃんを置いたまま家に帰ってこなくなってしまった。
ひどくない?
こんなにかわいい彼女を置いて出ていくなんて。
本当に信じられない。
結局ちいちゃんは未婚の母になった。
私はちいちゃんがかわいそうでずっと隣で肩を抱いていた。
ちいちゃんはいま、二十一歳。もちろん大人だけれど自分が二十一歳の頃を思い出すと私はまだ大学生で、教育実習とか自分の事に精いっぱいだった。
ちいちゃんは今、子供の父親に捨てられて一人で働いて蓮君を育てている。
今日、この辺りで彼氏を見たという人がいて、長崎から急遽電車に飛び乗ってきたそうだ。
「後先考えずに、来れば彼に会えるって思って来ちゃったんです……」
そして、今でもその馬鹿な男の事を愛している。
ああ、その男ぶん殴ってやりたい!
子供たちに暴力はダメ! って教えている私でもそう思うよ!
「ちいちゃん、愛美に連絡しようか?」
マナミさんっていうのはちいちゃんのお姉さん――つまり佐藤先生の元カノ――の名前だ。
ちいちゃんは首を横に振った。
駆け落ち中だもんね……。家族には知られたくないよね。ましてや、その相手に捨てられたなんて。
「佐藤先生、今夜はもう遅いですし、ちいちゃんはここに泊まってもらってかまいませんよ」
「葵先生……ご迷惑じゃ……?」
ちいちゃんは力なく私を見た。
ちいちゃん、弱っている時は誰かを頼っていいんだよ。
佐藤先生の知り合いだし、もう私の知り合いでもある。
家に招いて一緒にコーヒーを飲んだらもう友達でしょ?
「いえいえ、むしろ大歓迎です。そのかわり……蓮君が機嫌のいい時に抱っこさせてくださいね。ちいちゃん。あ、体が冷えちゃったからお風呂の用意をしてきます」
私はバスタブにお湯を張るためにお風呂に向かった。
「っていうか、私さっきから勝手にちいちゃんって呼んでました。ゴメンナサイ!」
お風呂の用意をしていて急に気が付いた。
馴れ馴れしいにもほどがある。
リビングに戻って謝る私にちいちゃんは優しかった。
「ううん、ちいちゃんって呼んでもらえて嬉しいです、葵先生」
「じゃあ、私の事も葵ちゃんって呼んで下さい……オネガイシマス」
ちいちゃんは本名は千尋だと教えてくれた。
まるでお見合いか合コンのような私たちのやり取りを佐藤先生はほほ笑ましそうに見ていた。
佐藤先生……。
「佐藤先生、私達今から順番にお風呂に入ります」
「はい」
「先生は帰ってください、今夜はちいちゃんと蓮君と三人で寝るので」
先生は泊めてあげないよ。
リビングに寝ようと思えば寝られるだろうけど、こちとら二人とも独身女性だ。
成人男性を泊めるわけにはいかない。
「電車がなくてもタクシー、駅前で拾えますから。あ、明日また来てくださいね。来るときにオムツとかミルクを頼みたいので電話貰えると助かります」
私はさっさと先生を追い出した。
とにかく今はちいちゃんを休ませてあげたい。
ちいちゃんに先にお風呂に入って貰って私も手早く入浴をすませると私たちは和室で三人川の字で眠った。蓮君はとてもいい子で一度も目を覚まさなかった。
翌朝、私は蓮君の元気な泣き声で目が覚めた。
おーおー、朝から威勢がいいですね。
ちいちゃんは、テキパキとオムツを替え、ミルクを作った。
「葵ちゃん、飲ませてくれますか?」
私があんまり見つめていたものだからちいちゃんはミルクを飲ませるのを変わってくれた。
蓮君は私の下手くそな抱っこも気にせずにコクコクとミルクを飲んでいる。
かわいい! かわいいぞ!
はぁぁぁ、抱っこしている膝の上が柔らかくてあったかい……って、
「ちいちゃーん、蓮君ウンチしたかもー!」
漂ってきた匂いに気が付いて私とちいちゃんは笑った。
それから佐藤先生が来るまで私たちは沢山話をしてすっかり打ち解けた。
本当にお友達になったのだ。
ちいちゃんの仕事は土日が休みなので明日帰れば仕事に間に合う。
今日と明日、いなくなった蓮君の父親を捜したいという事だった。
そりゃ、そうだよね。
籍は入っていなくても家族だもん。蓮君を父親に会わせたいよね。
でも、たとえ見つかったとしてもその男は心を入れ替えていい父親になれるだろうか?
ちいちゃんと蓮君を幸せにしてくれるだろうか?
ちいちゃんはこれ以上迷惑をかけられないから近くのホテルに移るって言ったけど私は断った。ホテルに移って、ひとりで彼を探したらその間、蓮君をずっと連れまわすことになる。まだまだ一日に五、六回はミルクを飲むって言ってたのにそんなのは無理だよ。
「それよりもこの家を拠点にして交代で蓮君の世話をしながらみんなで探した方がいいよ、ね、そうしよう」
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