あまーいマスクの佐藤先生に塩対応!~ちょっと! イケメンが本気出したら私なんか太刀打ちできないって!~

深海 なるる

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1章

5話 これ、どういう展開なのーーーーー?

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「葵先生、おかわりは?」
 佐藤先生は私にもう一杯ビールを頼んでくれた。
 うーん、このペースは酔っぱらっちゃうよ。
 今井先生の事で落ち込んでいる佐藤先生を励ましたいのに仕事を教えてもらうばかりで私は何も返せないじゃないかぁ……。
 あれ、わたし、ホントに、酔っぱらってきている気が……。
「佐藤先生は結婚願望とかあるんですか~?」
 ちょっと、わたし! 唐突に何を聞く? 今の佐藤先生にしていい質問じゃないぞ~!
 酔いがまわって来た私に怖いものはない。
 ゴメンナサイ、佐藤先生、こんな失礼な質問、華麗にスルーして下さいー!
「あるよ」
 佐藤先生はいい人だ。酔っ払いに対しても誠実な人だ。
「児童にとっても保護者にとっても僕なんてまだ独身で子供もいない若造なんだよ。……正直、周りの先生たちが『結婚して子供が出来て歳をとったら、もっと教師の仕事は楽になるよ』って言っている意味が最近身に染みて分かるんだよね……。早く人の親になってみたいよ」
「そんな~仕事のために結婚したいっていうことですか~」
 からみ酒だ! わたし、絡んでるよね。最低だ……。
 でも佐藤先生は優しい。
「まさか……あのね、葵先生。好きな人とずっと一緒にいたいからするのが結婚でしょ?」
 正論だ、ここにきての正論……。
 たしかにそうです、好きだから結婚したいんです。
 ずっと一緒にいたいんです。
 性根がくさっているのは私だ、反省。
 佐藤先生の心は綺麗だ、ピュアだ。
……そして、佐藤先生はすごく、かっこいい!
 もう、認めるしかない。
 佐藤先生は、今井先生の事が好きすぎる残念なイケメンだけれども、やっぱりかっこいい人だ。
 私はこの人の事が……。
 私はこの人の事が?

 はい、カット! これ以上はまずいんじゃないの? 私!
「葵先生、ほら食べよう!」
 佐藤先生はそれはもうキラキラした笑顔でガパオライスを頬張っている。
 美味しいのね、うん、うん、美味しいと笑顔になるよね。
 甘いマスクのイケメンは、自分の魅力を分かっているのだろうか?
 スプーンを口にくわえている姿がすでにカワイイ。
 ヤバイゾ、今日は、これ以上飲まない様にしよう……。
 私はトムヤムクンに入っているジャガイモを噛んだ。
「!!!ッ!辛っ!からーい!」
 これ、ショウガだーーーーーー!
 口の中に辛みが一気に広がる。
 刺激が強すぎるっ!
「葵先生! 大丈夫?」
 佐藤先生が急いで水を渡してくれた。
 ジャガイモだと思って油断したー! 口の中が異様に辛い。
「さとうせんせー、舌がヒリヒリします~」
 私が舌を出して見せると佐藤先生はふきだした。すごく痛いのにひどいよ~。
「ゴメン、葵先生がかわいすぎて」
 そ、そんな事笑顔で言われたら怒れないじゃないか!
 佐藤先生がタピオカ入りのココナッツミルクを頼んでくれたので舌のヒリヒリは少しおさまった。

「葵先生、ありがとう。今日は本当に楽しかったよ」
 お店を出た後お礼を言われたけど……ホント絡んでゴメンナサイ!
 私の方こそ本当に眼福でした。アリガトウゴザイマシタ!
 私はまだ酔っているみたい。 
 雑居ビルから表通りに出ると、私より若い女性が赤ちゃんを抱っこして歩いているのが見えた。
 え? こんな時間に……赤ちゃん!
 驚いて眺めていたらその女性もじっとこっちを見ている。
 そして、
「もしかして……俊哉さん!」
 佐藤先生の名前を呼んだ。
「えーと、誰……?」
 先生は首をかしげている。
 って、ええええええ! これ、どういう展開なのーーーーー?

 小さなビニール傘をさした女性が私たちのもとに駆け寄ってきた。まだ小雨が降っている。
 私は赤ちゃんが濡れないようにあわてて傘を開く。梅雨の夜はまだ肌寒い。赤ちゃん風邪ひいちゃうよ……。
「俊哉さん、私です」
 彼女はそういって佐藤先生の顔をのぞき込んだ。佐藤先生は未だに相手が誰だか分からないようだ。
 先生、ひどいよ!
 こんなに若い女の子が雨の中赤ちゃん連れで名前を呼んでいるんだよ。
 早く思い出しなよ!
 酔っている私は、もしかしたら心の声がダダもれだったかも知れない。
 佐藤先生は困ったように私を見た。
 どういう関係か知らないが彼女は結構切羽詰まった感じだ。
 あれ? これ私が同席していてもいいんだろうか……?
「先生、私お先に失礼しましょうか?」
 私がそーっと後ろに下がるとガシッと腕を掴まれた。
「ちょっと待って、葵先生、置いていかないで」
 トレードマークの捨てられた子犬のような顔で追いすがられては、帰りたくても帰れない。
 しょうがない付き合うか……。
「葵先生? あの、先生なんですか?」
「はい……佐藤先生と同じ小学校で教師をしている中山葵です」
「良かった……俊哉さん、先生になれたんですね」
 彼女は佐藤先生に微笑んだ。
「あ、もしかして……ちいちゃん?」
 先生が名前を呼ぶと同時に彼女、ちいちゃんは佐藤先生の胸に飛び込んで泣き出した。
「え、ど、どうしたの? ちいちゃん、長崎に帰ったんじゃなかったの?……その子は?」
 先生! 聞きたいことは後にして、まずは抱きしめてヨシヨシしてあげなさいよ。
 酔っ払いの小姑みたいな私ににらまれて、
「どうして僕が……」
 といいつつも先生はちいちゃんの背中をトントンと優しくたたいてあげていた。
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