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1章
4話 私達、薄暗い個室に二人っきりじゃないかっ!
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「とりあえず、カンパーイ!」
まずは、ビールで乾杯だ。
くーーーーーーっ!
やっぱり、週末に飲むビールは最高!
あ、料理はメニューを見ても全然何を頼んだらいいのか分からなかったのでおすすめコースにしてみました。
サラダにトムヤムクン、鶏肉と野菜のカシューナッツ炒め、ガパオライス、など美味しそうな料理を前にしてテンションが上がる。
私たちはお互いに近くの料理を取り分けながらしばらくは夢中で箸を動かした。
だって、美味しくって止まらないの。
色気がなくてごめん、まずは食欲を満たしたい!
「葵先生は、本当に美味しそうに食べるね」
佐藤先生はそういってほほ笑んだ。少し頬が赤らんで瞳も潤んでいる。
も、もしかして佐藤先生お酒弱いの……?
真正面からそんなにかわいく見つめられるとこまっちゃうよ!
しかも、今自覚したけど私達、薄暗い個室に二人っきりじゃないかっ!
「そ、そういえば小川君のお母さんの話は何だったんですか?」
「ああ、それはね……」
私の唐突な質問に佐藤先生は急に仕事モードになって姿勢を正した。
よ、良かった~。さっきのままの雰囲気だったらもう私の心は持たない。
本当にやばかった。佐藤先生にドキドキしかけていたもん。
今井先生の事が好きすぎる残念なイケメンを好きになったって、どうしようもないって分かっているのに……。
「小川のお母さんは南から怪我をさせられたって息子から聞いてカッとなって電話してきたんだけど……色々、話をしているうちに冷静になってね……。最終的には息子から先にちょっかいを出しているから息子も南に悪いことをしたって納得してくれたよ」
「そうだったんですね……小川君のお母さんから、そういう抗議の電話は結構かかってくるんですか?」
「まぁ、多い方かな……。難しい子を育てているんだ。お母さんの苦労は並大抵のものじゃないよ。ただ、葵先生も保護者からの電話を抗議だと受け取らずに一番子供の近くにいるお母さんから指導のヒントを貰えるチャンスだと考えられるようになれたらいいね」
指導のヒントを貰えるチャンス……?
「僕が新米だった頃に受け持ったクラスにとても反抗的な男の子がいてね、なかなかうまく指導できずに困っていたんだ。当時は経験も浅くてどうしたらいいか分からなかった。ある日、体育の授業中にあんまり遅く走るから『そんなにやる気がないのなら走らなくていい』って言っちゃったんだ。そしたら本当に走るのをやめてしまって……。走るならもっときちんと走れ、という意味で言ったのになんて生意気なんだってカチンと来ちゃった。それで『もう、走らないなら教室に帰りなさい』って叱ったんだ。そしたらその子本当に教室に帰ってしまったんだよ。こっちとしては、ごめんなさい、ちゃんと走りますって謝ってくるのを期待して指導しているのになんて反抗的なんだろうって思ってた」
佐藤先生にもそんな日があったなんて……。今の先生からは想像もつかない。先生は少しビールを飲んで喉を潤してからまた話を続けた。
「その日の夕方その子のお母さんから電話を貰ってね。『息子は先生の発言の真意や言外の意図をくみ取ることが難しいので直接行動を指示して貰えませんか?』って言われたんだ。早く走らせたければ、早く走りなさいって言って欲しいって。息子は先生に反抗する気は全くなくて『走らなくていいと言われたから走るのをやめた、教室に帰りなさいと言われたから教室に帰った、なのに反抗的だって言われる意味が分からない』って言っているって。確かにその子は全部僕のいう事を聞いていたんだよ。配慮のいる子は一人一人、個性が違う。その子に合わせた指導法を一番よく知っているのは、おうちの人だよ。だからしっかり話を聞くことで力になれるなら出来るだけの事はしたいと思ってる」
佐藤先生は本当に誠実な人だ。子供たちや保護者に対するそのまっすぐな姿勢が好ましいと思う。
……私もそんな先生を見習いたいと思う。
「葵先生は? 南の家に電話したの?」
私の事まで気にかけてくれてとても嬉しい。
……しかし、南君のお母さんとの電話はとても不思議な感じだった。
「南君の家に夕方電話をかけて、お母さんに今日の事をお話ししたんです。小川君とは家が近所で知り合いなのですぐに怪我をさせてしまったお詫びの電話をされるっておっしゃってました。ただ、南君は小さい頃から気が弱くて、そのせいで小川君から随分からかわれていたらしいんです。だから今回、初めて南君が抵抗したのは彼の成長だから小川君には悪いけど親としては嬉しいって……。私は今まで何があっても手をあげるのはいけないことだって思ってたんすけど……。先生はどう思われますか?」
「うーん、そうだね……」
佐藤先生は考え込んでしまった。
「……結局、それぞれの家庭の考え方があるっていう事じゃないかな?葵先生が言っていることはもちろん間違っていないよ。でも、もし僕が男の子の父親だったらやっぱり『嫌なことをされたらちゃんと抵抗しなさい』って言ったかも知れないね」
「え? 佐藤先生もですか……?」
「ま、男の子の世界はなんだかんだいっても力が強い奴が偉いっていう単純なもんなんだよ」
男の子の世界……。難しい……。
まずは、ビールで乾杯だ。
くーーーーーーっ!
やっぱり、週末に飲むビールは最高!
あ、料理はメニューを見ても全然何を頼んだらいいのか分からなかったのでおすすめコースにしてみました。
サラダにトムヤムクン、鶏肉と野菜のカシューナッツ炒め、ガパオライス、など美味しそうな料理を前にしてテンションが上がる。
私たちはお互いに近くの料理を取り分けながらしばらくは夢中で箸を動かした。
だって、美味しくって止まらないの。
色気がなくてごめん、まずは食欲を満たしたい!
「葵先生は、本当に美味しそうに食べるね」
佐藤先生はそういってほほ笑んだ。少し頬が赤らんで瞳も潤んでいる。
も、もしかして佐藤先生お酒弱いの……?
真正面からそんなにかわいく見つめられるとこまっちゃうよ!
しかも、今自覚したけど私達、薄暗い個室に二人っきりじゃないかっ!
「そ、そういえば小川君のお母さんの話は何だったんですか?」
「ああ、それはね……」
私の唐突な質問に佐藤先生は急に仕事モードになって姿勢を正した。
よ、良かった~。さっきのままの雰囲気だったらもう私の心は持たない。
本当にやばかった。佐藤先生にドキドキしかけていたもん。
今井先生の事が好きすぎる残念なイケメンを好きになったって、どうしようもないって分かっているのに……。
「小川のお母さんは南から怪我をさせられたって息子から聞いてカッとなって電話してきたんだけど……色々、話をしているうちに冷静になってね……。最終的には息子から先にちょっかいを出しているから息子も南に悪いことをしたって納得してくれたよ」
「そうだったんですね……小川君のお母さんから、そういう抗議の電話は結構かかってくるんですか?」
「まぁ、多い方かな……。難しい子を育てているんだ。お母さんの苦労は並大抵のものじゃないよ。ただ、葵先生も保護者からの電話を抗議だと受け取らずに一番子供の近くにいるお母さんから指導のヒントを貰えるチャンスだと考えられるようになれたらいいね」
指導のヒントを貰えるチャンス……?
「僕が新米だった頃に受け持ったクラスにとても反抗的な男の子がいてね、なかなかうまく指導できずに困っていたんだ。当時は経験も浅くてどうしたらいいか分からなかった。ある日、体育の授業中にあんまり遅く走るから『そんなにやる気がないのなら走らなくていい』って言っちゃったんだ。そしたら本当に走るのをやめてしまって……。走るならもっときちんと走れ、という意味で言ったのになんて生意気なんだってカチンと来ちゃった。それで『もう、走らないなら教室に帰りなさい』って叱ったんだ。そしたらその子本当に教室に帰ってしまったんだよ。こっちとしては、ごめんなさい、ちゃんと走りますって謝ってくるのを期待して指導しているのになんて反抗的なんだろうって思ってた」
佐藤先生にもそんな日があったなんて……。今の先生からは想像もつかない。先生は少しビールを飲んで喉を潤してからまた話を続けた。
「その日の夕方その子のお母さんから電話を貰ってね。『息子は先生の発言の真意や言外の意図をくみ取ることが難しいので直接行動を指示して貰えませんか?』って言われたんだ。早く走らせたければ、早く走りなさいって言って欲しいって。息子は先生に反抗する気は全くなくて『走らなくていいと言われたから走るのをやめた、教室に帰りなさいと言われたから教室に帰った、なのに反抗的だって言われる意味が分からない』って言っているって。確かにその子は全部僕のいう事を聞いていたんだよ。配慮のいる子は一人一人、個性が違う。その子に合わせた指導法を一番よく知っているのは、おうちの人だよ。だからしっかり話を聞くことで力になれるなら出来るだけの事はしたいと思ってる」
佐藤先生は本当に誠実な人だ。子供たちや保護者に対するそのまっすぐな姿勢が好ましいと思う。
……私もそんな先生を見習いたいと思う。
「葵先生は? 南の家に電話したの?」
私の事まで気にかけてくれてとても嬉しい。
……しかし、南君のお母さんとの電話はとても不思議な感じだった。
「南君の家に夕方電話をかけて、お母さんに今日の事をお話ししたんです。小川君とは家が近所で知り合いなのですぐに怪我をさせてしまったお詫びの電話をされるっておっしゃってました。ただ、南君は小さい頃から気が弱くて、そのせいで小川君から随分からかわれていたらしいんです。だから今回、初めて南君が抵抗したのは彼の成長だから小川君には悪いけど親としては嬉しいって……。私は今まで何があっても手をあげるのはいけないことだって思ってたんすけど……。先生はどう思われますか?」
「うーん、そうだね……」
佐藤先生は考え込んでしまった。
「……結局、それぞれの家庭の考え方があるっていう事じゃないかな?葵先生が言っていることはもちろん間違っていないよ。でも、もし僕が男の子の父親だったらやっぱり『嫌なことをされたらちゃんと抵抗しなさい』って言ったかも知れないね」
「え? 佐藤先生もですか……?」
「ま、男の子の世界はなんだかんだいっても力が強い奴が偉いっていう単純なもんなんだよ」
男の子の世界……。難しい……。
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