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1章
3話 私、ちょっと傷ついた佐藤先生にほだされてしまっているのかも……?
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夕方、事務室に行くと佐藤先生は電話に掴まっていた。
「ええ、はい、ええ、そうですね……ええ」
先生はずっと相槌を打っている。
「電話の相手、誰なんですか?」
私は小声で事務の原先生に尋ねた。原先生は今井先生と同い年の二十六歳で昨年、縁結びの神社にお参りにいった仲間だ。テキパキとした性格で事務室はいつも綺麗に片付いている、ショートカットが似合う仕事の出来る美人だ。
「小川君のお母さん。手に怪我して帰ったら速攻電話があったのよ」
「そうなんですね……」
佐藤先生はそれからも随分長い事小川君のお母さんの話を聞いていた。
長いまつげを伏せて、少し愁いを帯びた横顔がとても綺麗だ……。
って、男の人にこんなことを思うのはおかしいよね……。
ふと、隣に立つ原先生の頬が赤く染まっていることに気が付いた。
「お疲れさまでしたー、お先に失礼しまーす」
何とか一週間の仕事を終えて、私は帰宅することにした。
昨年、この小学校に赴任することが決まって、それまで大学の近くで一人暮らしをしていたアパートから小学校の隣の校区のマンションに引っ越した。
こういう時一人暮らしは身軽だ。勤務時間が長い分、通勤時間が短いのはかなり助かる。
普段私は自転車で通勤している。ただ、最近は雨続きで今日も二十分ほど歩いて帰らないといけない。
はぁ、今日も疲れた~!
傘をさして歩き始めると後ろから誰かが走ってくる音が聞こえた。
「中山先生、一緒に帰りましょう!」
今井先生と佐藤先生だ。二人は電車通勤なので良く一緒に駅まで歩いている。私の家は駅を越えたところにあるから雨の日は三人で帰ることもあった。
仕事を離れた時の佐藤先生と今井先生のやり取りを聞くのは本当におもしろい。
今井先生は佐藤先生の誘いを『しません』『イヤです』『ムリ』とばっさりと断る。今井先生の愛らしい見た目とは異なる潔さがかっこいいのだ!
「今井先生~。相変わらずツレナイ……」
がっくりと落ち込む佐藤先生には悪いけど……。
「リカ!」
駅の近くのコインパーキングの前を通りがかった時に男の人の低い声がした。
「リョータ?」
え?……もしかして、今井先生のカレシさん!
パーキングに停めた黒い車に寄りかかっている様は雑誌の表紙から抜け出してきたみたいだ。
なにあれ? 超絶イケメンじゃん! 物凄く顔の作りが整っている。正統派イケメンだ! めちゃくちゃかっこいい!
背が高くスタイルがいいのでシャツにベージュのチノパンというシンプルな着こなしもおしゃれに見える。
離れたところからでも優しいまなざしで今井先生を見つめているのが分かった。
今井先生……あんなすごい人と付き合っているの?……さすがです! やっぱり憧れの今井先生はすごい人だった!
「ごめん、彼が迎えに来てくれたみたいだから、ここで。じゃ、また来週ね」
今井先生はとびっきりの笑顔でそういうとカレシさんの方へと駆けていった。
今井先生、かわいいなー。あんなに顔をほころばせちゃって! 恋する乙女なんだね~。
今井先生のカレシさんは、私と佐藤先生に軽く会釈をすると、今井先生のために助手席のドアを開けてあげている。
紳士だ……! ジェントルマンだ!『彼、すごくマメな人なのよ……』って今井先生はため息交じりに言っていたけど本当だ。……いいなぁ~。
私と佐藤先生も会釈を返すとまた駅に向かって歩き出した。
駅に着くまで佐藤先生は終始無言だった。
「……佐藤先生、大丈夫ですか?」
「イヤ……正直これはかなりきついね」
うなだれる佐藤先生が気の毒になって、
「飲みにでも行きますか? 私、付き合いますよ」
と思わず言ってしまった。
これが失敗だったのだ!
この日、佐藤先生と飲みに行ったせいで私、深みにはまってしまった!
駅の近くには飲食店が結構立ち並んでいるんだけど、私達が入れるお店は限られている。というのも個室がないといけないからだ。『学校の話を外でするときは、なるべく聞かれないところでする』というのは当然の配慮だ。
私たちは以前今井先生に教えてもらった居酒屋に行くことにした。その店は、小さな個室が沢山あって料理も美味しい穴場の店らしいのだ。
雑居ビルの三階まで小さなエレベーターで昇る。ドアが開くとそのままお店の入り口だった。ワンフロアに一店舗しか入っていないらしい。
店内には南国風のヤシの木や象の置物が飾られている。
とってもオリエンタルな雰囲気だ。
居酒屋というよりこの店は……タイ料理のお店だ! 店内には美味しそうな匂いが漂っている。
「お二人様でいらっしゃいますね。お席をご用意致しますので少々お待ちくださいませ」
うん、すごく感じがいいお店だ。うわー、急激にお腹がすいてきたー!
なんだかワクワクしてくる。
隣の佐藤先生を見ると先生の顔にも笑顔が戻っていた。
やっぱり佐藤先生はこうでないと。
いつもの素敵な笑顔でないと……って何?
私、ちょっと傷ついた佐藤先生にほだされてしまっているのかも……?
「ええ、はい、ええ、そうですね……ええ」
先生はずっと相槌を打っている。
「電話の相手、誰なんですか?」
私は小声で事務の原先生に尋ねた。原先生は今井先生と同い年の二十六歳で昨年、縁結びの神社にお参りにいった仲間だ。テキパキとした性格で事務室はいつも綺麗に片付いている、ショートカットが似合う仕事の出来る美人だ。
「小川君のお母さん。手に怪我して帰ったら速攻電話があったのよ」
「そうなんですね……」
佐藤先生はそれからも随分長い事小川君のお母さんの話を聞いていた。
長いまつげを伏せて、少し愁いを帯びた横顔がとても綺麗だ……。
って、男の人にこんなことを思うのはおかしいよね……。
ふと、隣に立つ原先生の頬が赤く染まっていることに気が付いた。
「お疲れさまでしたー、お先に失礼しまーす」
何とか一週間の仕事を終えて、私は帰宅することにした。
昨年、この小学校に赴任することが決まって、それまで大学の近くで一人暮らしをしていたアパートから小学校の隣の校区のマンションに引っ越した。
こういう時一人暮らしは身軽だ。勤務時間が長い分、通勤時間が短いのはかなり助かる。
普段私は自転車で通勤している。ただ、最近は雨続きで今日も二十分ほど歩いて帰らないといけない。
はぁ、今日も疲れた~!
傘をさして歩き始めると後ろから誰かが走ってくる音が聞こえた。
「中山先生、一緒に帰りましょう!」
今井先生と佐藤先生だ。二人は電車通勤なので良く一緒に駅まで歩いている。私の家は駅を越えたところにあるから雨の日は三人で帰ることもあった。
仕事を離れた時の佐藤先生と今井先生のやり取りを聞くのは本当におもしろい。
今井先生は佐藤先生の誘いを『しません』『イヤです』『ムリ』とばっさりと断る。今井先生の愛らしい見た目とは異なる潔さがかっこいいのだ!
「今井先生~。相変わらずツレナイ……」
がっくりと落ち込む佐藤先生には悪いけど……。
「リカ!」
駅の近くのコインパーキングの前を通りがかった時に男の人の低い声がした。
「リョータ?」
え?……もしかして、今井先生のカレシさん!
パーキングに停めた黒い車に寄りかかっている様は雑誌の表紙から抜け出してきたみたいだ。
なにあれ? 超絶イケメンじゃん! 物凄く顔の作りが整っている。正統派イケメンだ! めちゃくちゃかっこいい!
背が高くスタイルがいいのでシャツにベージュのチノパンというシンプルな着こなしもおしゃれに見える。
離れたところからでも優しいまなざしで今井先生を見つめているのが分かった。
今井先生……あんなすごい人と付き合っているの?……さすがです! やっぱり憧れの今井先生はすごい人だった!
「ごめん、彼が迎えに来てくれたみたいだから、ここで。じゃ、また来週ね」
今井先生はとびっきりの笑顔でそういうとカレシさんの方へと駆けていった。
今井先生、かわいいなー。あんなに顔をほころばせちゃって! 恋する乙女なんだね~。
今井先生のカレシさんは、私と佐藤先生に軽く会釈をすると、今井先生のために助手席のドアを開けてあげている。
紳士だ……! ジェントルマンだ!『彼、すごくマメな人なのよ……』って今井先生はため息交じりに言っていたけど本当だ。……いいなぁ~。
私と佐藤先生も会釈を返すとまた駅に向かって歩き出した。
駅に着くまで佐藤先生は終始無言だった。
「……佐藤先生、大丈夫ですか?」
「イヤ……正直これはかなりきついね」
うなだれる佐藤先生が気の毒になって、
「飲みにでも行きますか? 私、付き合いますよ」
と思わず言ってしまった。
これが失敗だったのだ!
この日、佐藤先生と飲みに行ったせいで私、深みにはまってしまった!
駅の近くには飲食店が結構立ち並んでいるんだけど、私達が入れるお店は限られている。というのも個室がないといけないからだ。『学校の話を外でするときは、なるべく聞かれないところでする』というのは当然の配慮だ。
私たちは以前今井先生に教えてもらった居酒屋に行くことにした。その店は、小さな個室が沢山あって料理も美味しい穴場の店らしいのだ。
雑居ビルの三階まで小さなエレベーターで昇る。ドアが開くとそのままお店の入り口だった。ワンフロアに一店舗しか入っていないらしい。
店内には南国風のヤシの木や象の置物が飾られている。
とってもオリエンタルな雰囲気だ。
居酒屋というよりこの店は……タイ料理のお店だ! 店内には美味しそうな匂いが漂っている。
「お二人様でいらっしゃいますね。お席をご用意致しますので少々お待ちくださいませ」
うん、すごく感じがいいお店だ。うわー、急激にお腹がすいてきたー!
なんだかワクワクしてくる。
隣の佐藤先生を見ると先生の顔にも笑顔が戻っていた。
やっぱり佐藤先生はこうでないと。
いつもの素敵な笑顔でないと……って何?
私、ちょっと傷ついた佐藤先生にほだされてしまっているのかも……?
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