イケメンに迫られたときの対処法~誰か正解を教えてください!~

深海 なるる

文字の大きさ
上 下
8 / 15
1章

番外編 あの人、普段は何でも私のお願いを聞いてくれるのに、ああいう時だけ意地悪なんだ

しおりを挟む
 六月のある雨の金曜日、同僚の佐藤先生と中山先生と三人で勤務先の小学校から駅まで歩いて帰っていたら、
「リカ!」
 って名前を呼ぶ声が。
「リョータ?」
 大好きな恋人が、パーキングに停めた黒い車に寄りかかっている。今日はシャツにベージュのチノパンというシンプルな格好だ。いつもと同じ優しいまなざしで私を見つめている。
 リョータ! リョータだ!
 すごく嬉しい。今日は遅くなってしまったからもう会えないと思っていた。
 「ごめん、彼が迎えに来てくれたみたいだから、ここで。じゃ、また来週ね」
 私は顔がにやけるのを抑えられない。遼太に向かって一目散に駆けていった。遼太は、中山先生と佐藤先生に軽く会釈をすると、私のために助手席のドアを開けてくれる。
 相変わらずマメで嬉しいけど、ちょっと恥ずかしい。
 中山先生とと佐藤先生は無言で会釈を返し、駅に向かって歩いて行ってしまった。
 えーん、絶対見られたよー、月曜日にからかわれるよ……。
 私は助手席でちょっぴりしゅんとしてしまったけど遼太はお構いなしに車を駐車場から出した。

 あれ? これ家に向かってないよね。
 気が付いたら都市高速に乗っている。太宰府で高速道路に乗り換えると車は熊本方面に向かった。
 リョータ、これ家を通り過ぎちゃうよ!
「ねぇ、どこに行くの」
「ん? ナイショ。リカ、遅くまで仕事して疲れてるでしょ? 寝てていいよ、着いたら起こすから」
 遼太は私をすぐに甘やかそうとする。
 遠出して夕食を食べるのかなー? 久留米とか……? 全く分かんない。
「大丈夫、私、寝ないよ。眠くないもん」
 そう言っておきながら、完全に熟睡してしまった。子供の頃から車に乗ると寝てしまうのだ。リョータは、もちろんそんなことお見通しだ……。

 目が覚めたら高速のパーキングだった。
「少し降りようか?」
 遼太はそう言って私のシートベルトを外してくれる。その時、軽くかすめるようにして唇を重ねられた。
 んもうっ! 隙を見せたらこのイケメンはすぐにこういう事をしてくる! なんてヤツだ!
 私は赤くなった頬をごまかすように膨らましてみせた。
「ハハハッ、相変わらずリカはかわいいな」
……何をどうやっても勝てない……。
 ところで、ここは、どこのパーキングなんだろう……。
 車を降りてびっくりした。綺麗な夜景が見える。
……別府湾の夜景だ! ここ、別府湾サービスエリアだ!
 私、2時間位寝てしまっていたみたい……。

 って、ちょっと待って。こんなに遠いところ仕事終わりにふらっと来るところじゃないよ!
 私、家に連絡してない!
「あ、伯父さんと伯母さんの許可は貰ってるから心配なく」
 青い顔をした私に遼太は平然と言った。
 準備良すぎじゃない?
 私はここでやっと自分がすっかりはめられたことに気が付いた。
 これは、計画的犯行だー!

 その後、私たちを乗せた車は別府湾を一望できる高台の大型リゾートホテルに……。
 ああ、懐かしいなー。子供の頃に遼太と泊まりに来たことがある。このホテルは今は水着で入れる温泉があったりと、アミューズメントパーク化している人気のホテルだ。久しぶりに来てみたかったんだよね!
 部屋に荷物を置くと早速バイキングに向かった。
「お腹空いただろ? たくさん食えよ」
「でも、このあと温泉に行きたいのに」
 あんまり満腹になったらすぐにはお風呂に入りたくなくなっちゃうよ。なんて思っていたのに、あまりにバイキングが楽しくてついつい食べ過ぎてしまった……。

「もう食べられないよ~」
 再び部屋に戻ると私は大きなベッドに倒れこんだ。
「俺も……食べ過ぎたー!」
 遼太も私の横にごろんと横になる。
「ぷっ、ふふふ、なんかリョータのそういう姿って珍しいね」
「そうか? こう見えて俺もはしゃいでるんだよ」
 隣を見ると遼太が肘枕をして私を見下ろしていた。
 少し伏せた瞳が色っぽい。
 あ……。
「……リカ」
 遼太の綺麗な顔がゆっくり近づいて来たから私は目を閉じた。
「ん……」

 優しい口づけにうっとりしちゃったけど、ちょっと待って!
 今、ベッドの上でこんな雰囲気になっちゃったら、温泉に入りに行けないよっ!
 リョータ、お願い。
 せっかく別府に来たんだから温泉に入らせてーーー!!!


「はー、気持ちいいー!」
 朝から温泉なんて、なんて贅沢なんだ!
 このホテルの露天風呂は絶景だ。五段の湯船を棚田状に広げた大展望露天風呂なんだって。
 ああ、朝日が眩しいよ。チェックアウト前に入りに来て正解だったなー。
 いい気分。

 え? 夕べ無事に温泉に入れたかって?
 それは聞かないで。
 温泉に入れるのは二十四時まで。ただでさえ到着時間が遅かったのに遼太が……。
 あの人、普段は何でも私のお願いを聞いてくれるのに、ああいう時だけ意地悪なんだ。
 うう、イケメンにはかなわない……。
 
 露天風呂を出て部屋に戻ると遼太はもう荷物をすべて鞄に詰めていた。リョータのすごいところは私に内緒で私の荷物も完璧に用意していたことだ。
 どんな顔して買い物したんだろ? まあ、今は、ほとんどのものはネットで買えるから平気なのかな?

 車に乗って帰るのかと思っていたら、
「さあ、今から水族館に行って、そのあと湯布院に移動するぞ」
 なんて駐車場で言うから驚いた。
「え?」
「湯布院でもう一泊だ」
「そうなの……?」
「ああ、今度の宿は離れになっていて部屋に露天風呂も付いてるぞ」
「すごいね……」
 なんだか驚き過ぎて言葉にならない。
 私たちはお互いに実家暮らしだから、二人きりで過ごせる時間はあまりとれない。付き合ってから半年目で初めての旅行にサプライズで連れて来てくれるなんて……。
「リョータ……ありがとう」
 私は思わず遼太に抱き着いた。遼太もギュッと抱きしめてくれる。
 ん? 私、今日は長い髪をまとめているんだけど……。
「あ……ん、くすぐったいって、もうリョータ……」
 耳の後ろに唇を寄せるのはヤメテ!
 遼太は私の耳元で囁いた。
「リカは髪をまとめているのも似合うよ」
「そう……かな?」
「うん、かわいい」
 そ、そんなことを言われたら照れてしまう……。
「あ、ありがと」
 休み明けの月曜日は髪を結んで出勤しようかな~!
 なんて、気を良くした私がバカだった。

 リョータめー!
 私には見えないところに痕を付けるなんて!
 中山先生に見られちゃったじゃないかっ!

 もう、絶対に髪はまとめないからねっ!

 でも、初めて二人で行った旅行は本当に楽しかった。
 旅行中、何度も遼太に『大好きっ』て言ったことは恥ずかしいから二人だけの秘密だよ。
 
 リョータ……大好きっ!



<この番外編は『あまーいマスクの佐藤先生に塩対応!~ちょっと! イケメンが本気出したら私なんか太刀打ちできないって!~』の3話、13話と連動して執筆しております。そちらの作品もあわせて読んでいただけたら嬉しいです。>
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】お姉様の婚約者

七瀬菜々
恋愛
 姉が失踪した。それは結婚式当日の朝のことだった。  残された私は家族のため、ひいては祖国のため、姉の婚約者と結婚した。    サイズの合わない純白のドレスを身に纏い、すまないと啜り泣く父に手を引かれ、困惑と同情と侮蔑の視線が交差するバージンロードを歩き、彼の手を取る。  誰が見ても哀れで、惨めで、不幸な結婚。  けれど私の心は晴れやかだった。  だって、ずっと片思いを続けていた人の隣に立てるのだから。  ーーーーーそう、だから私は、誰がなんと言おうと、シアワセだ。

【完結】家族にサヨナラ。皆様ゴキゲンヨウ。

くま
恋愛
「すまない、アデライトを愛してしまった」 「ソフィア、私の事許してくれるわよね?」 いきなり婚約破棄をする婚約者と、それが当たり前だと言い張る姉。そしてその事を家族は姉達を責めない。 「病弱なアデライトに譲ってあげなさい」と…… 私は昔から家族からは二番目扱いをされていた。いや、二番目どころでもなかった。私だって、兄や姉、妹達のように愛されたかった……だけど、いつも優先されるのは他のキョウダイばかり……我慢ばかりの毎日。 「マカロン家の長男であり次期当主のジェイコブをきちんと、敬い立てなさい」 「はい、お父様、お母様」 「長女のアデライトは体が弱いのですよ。ソフィア、貴女がきちんと長女の代わりに動くのですよ」 「……はい」 「妹のアメリーはまだ幼い。お前は我慢しなさい。下の子を面倒見るのは当然なのだから」 「はい、わかりました」 パーティー、私の誕生日、どれも私だけのなんてなかった。親はいつも私以外のキョウダイばかり、 兄も姉や妹ばかり構ってばかり。姉は病弱だからと言い私に八つ当たりするばかり。妹は我儘放題。 誰も私の言葉を聞いてくれない。 誰も私を見てくれない。 そして婚約者だったオスカー様もその一人だ。病弱な姉を守ってあげたいと婚約破棄してすぐに姉と婚約をした。家族は姉を祝福していた。私に一言も…慰めもせず。 ある日、熱にうなされ誰もお見舞いにきてくれなかった時、前世を思い出す。前世の私は家族と仲良くもしており、色々と明るい性格の持ち主さん。 「……なんか、馬鹿みたいだわ!」 もう、我慢もやめよう!家族の前で良い子になるのはもうやめる! ふるゆわ設定です。 ※家族という呪縛から解き放たれ自分自身を見つめ、好きな事を見つけだすソフィアを応援して下さい! ※ざまあ話とか読むのは好きだけど書くとなると難しいので…読者様が望むような結末に納得いかないかもしれません。🙇‍♀️でも頑張るます。それでもよければ、どうぞ! 追加文 番外編も現在進行中です。こちらはまた別な主人公です。

【完結】私が王太子殿下のお茶会に誘われたからって、今更あわてても遅いんだからね

江崎美彩
恋愛
 王太子殿下の婚約者候補を探すために開かれていると噂されるお茶会に招待された、伯爵令嬢のミンディ・ハーミング。  幼馴染のブライアンが好きなのに、当のブライアンは「ミンディみたいなじゃじゃ馬がお茶会に出ても恥をかくだけだ」なんて揶揄うばかり。 「私が王太子殿下のお茶会に誘われたからって、今更あわてても遅いんだからね! 王太子殿下に見染められても知らないんだから!」  ミンディはブライアンに告げ、お茶会に向かう…… 〜登場人物〜 ミンディ・ハーミング 元気が取り柄の伯爵令嬢。 幼馴染のブライアンに揶揄われてばかりだが、ブライアンが自分にだけ向けるクシャクシャな笑顔が大好き。 ブライアン・ケイリー ミンディの幼馴染の伯爵家嫡男。 天邪鬼な性格で、ミンディの事を揶揄ってばかりいる。 ベリンダ・ケイリー ブライアンの年子の妹。 ミンディとブライアンの良き理解者。 王太子殿下 婚約者が決まらない事に対して色々な噂を立てられている。 『小説家になろう』にも投稿しています

婚約者に選んでしまってごめんなさい。おかげさまで百年の恋も冷めましたので、お別れしましょう。

ふまさ
恋愛
「いや、それはいいのです。貴族の結婚に、愛など必要ないですから。問題は、僕が、エリカに対してなんの魅力も感じられないことなんです」  はじめて語られる婚約者の本音に、エリカの中にあるなにかが、音をたてて崩れていく。 「……僕は、エリカとの将来のために、正直に、自分の気持ちを晒しただけです……僕だって、エリカのことを愛したい。その気持ちはあるんです。でも、エリカは僕に甘えてばかりで……女性としての魅力が、なにもなくて」  ──ああ。そんな風に思われていたのか。  エリカは胸中で、そっと呟いた。

【完結】捨ててください

仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
ずっと貴方の側にいた。 でも、あの人と再会してから貴方は私ではなく、あの人を見つめるようになった。 分かっている。 貴方は私の事を愛していない。 私は貴方の側にいるだけで良かったのに。 貴方が、あの人の側へ行きたいと悩んでいる事が私に伝わってくる。 もういいの。 ありがとう貴方。 もう私の事は、、、 捨ててください。 続編投稿しました。 初回完結6月25日 第2回目完結7月18日

顔も知らない旦那さま

ゆうゆう
恋愛
領地で大災害が起きて没落寸前まで追い込まれた伯爵家は一人娘の私を大金持ちの商人に嫁がせる事で存続をはかった。 しかし、嫁いで2年旦那の顔さえ見たことがない 私の結婚相手は一体どんな人?

白い結婚は無理でした(涙)

詩森さよ(さよ吉)
恋愛
わたくし、フィリシアは没落しかけの伯爵家の娘でございます。 明らかに邪な結婚話しかない中で、公爵令息の愛人から契約結婚の話を持ち掛けられました。 白い結婚が認められるまでの3年間、お世話になるのでよい妻であろうと頑張ります。 小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。 現在、筆者は時間的かつ体力的にコメントなどの返信ができないため受け付けない設定にしています。 どうぞよろしくお願いいたします。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

処理中です...