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173 キジメロの過去

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 雪が降っていた。

「さあ、雪なんかに負けずに、さっさと討伐依頼を片付けるわよ!」

 あの時のあたしは、全ての事がうまくいっていて、周りが見えていなかった。

「キジメロ様、この吹雪は想定外です。一旦戻りま──」

「これくらいで音を上げるなら、冒険者なんか止めたら? とにかく、あたしが行くって言ったら行くの! 」

「「「……はい」」」

 異論を唱える歴戦のパーティーメンバーたちを黙らせる。

 彼らがなぜあたしの言葉に従っていたのか?

 その時は分からなかった。

 依頼は全て完璧にこなしていた。

 モンスター討伐は連戦連勝。要人の捜索以来は即日解決。

 その功績は、全て自分が成し遂げたものだと思っていた。

 そう、それが起こるまでは……。



「キジメロ様、これ以上は無理です!」

「引き返しましょう」

「今ならまだ、皆余力があります」

「はあ? 帰りたいならあんたたちだけで帰りなさいよ! こんなことであたしのキャリアに傷をつけるなんて、考えられないわ!」

 後から知ったことだが、それは、かりかりタウン始まって以来の災害だった。

 街から大して離れていない草原が雪原に変わり、猛吹雪は視界を遮り方向感覚を狂わせた。

「たかがドラゴンの幼体討伐くらいで、つまずいてられないのよ!」

 かりかりタウンを襲っていた災害の元凶は、フロストドラゴン。

 その幼体、と言う噂が流れ、それならばと冒険者ギルドに討伐依頼がもたらされたのだ。

 破竹の勢いだったあたしのパーティーが、それを受けるのは当然の流れだった。

「あたしに任せておけば、かりかりタウンは安泰よ! みんな、大船に乗ったつもりでこたつにでも入ってなさい!」

 何故破竹の勢いだったのか? あたしは考えもしなかった。


 グルルルル……。

「いた! みんな、戦闘態勢を──」

 遭遇した奴は、実は幼体ではなく成体……それも、何世紀も生きているようなレジェンドクラスの化け物……。

 前触れなく吐き出されたブレスで、瞬時に二匹が氷漬けにされた。

「え?」

 今までとは桁違いの暴力に、足が動かなかった。

 そして、奴と目が合い……。

 大きく開かれた口から、白く輝くブレスが漏れ……。

「まずい! キジメロ様!!」

 生き残っていたタンクが、大盾を構えてあたしの前に立ちふさがった。

「い、今のうちに……お逃げ下さい」

「で、でも……」

「頼みます……ここでキジメロ様を死なせたら、ギルマスに顔向けできないんです」

「そんな……あたしも一緒に戦──」

「いいから早く! もう……そんなに持たないんだよ!」

「ご、ごめんなさい」

 あたしは逃げた。

 一度も振り返らずに、泣き叫びながら……。

 そして、思い知った。

 彼らがなぜ、あたしに従っていたのかを。

 そう、あたしはギルドマスターの娘。

 彼らが全てをあたしの手柄にすべく、奮闘していたのだ。

 思い上がっていた。

 その結果が、これだ。

 ──────────────────
 

「悪い冗談は……やめてよ……」

 にゃんこキラーの体内で再び見せつけられた悪夢に、キジメロは崩れ落ちた。
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