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138 ぶち、うっかりする

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 学生さんは夏休みの真っ只中だが、世間はまだ通常運転である。

 ねこさんも今日はバイトに行く予定だ。

『あ、ご主人おはようごぜえやす』

「おはようなのねー、黒ぶち」

 せっせとリースを磨いていたぶちが、ねこさんにきっちりとお辞儀した。

(ねこさん、今日も暑いから気をつけてね)

「はいなのね」

 そこへ、すいー、とネコサンが朝食を持ってくる。

『ご主人、しっかり食べるんだぞ』

「ありがとなのねー」

 ごはんにわかめの味噌汁。納豆に焼き鮭。THE和食な朝食に、ねこさんのお腹がたまらず、ぐう、と鳴った。

『お、ご主人のお腹は朝から腕白でさーねえ!』

「あ、あはははは‥‥‥いただきますなのねー」

 どこにでもある朝の風景が、ゆっくりと流れる。

『さーて、あっしは今日は何をしやしょうかねー』

 ここでネコサンが、はたと気づいた。

『いやぶち。もう一週間はここにいるが、ダンジョンキーパーの仕事はいいのか?』

『あ‥‥‥』

 すっかり忘れていた、そう顔に書いてあった。

『い、いやー、ご主人の所が居心地よくって、つい‥‥‥』

「なんなら引っ越してくるといいのねー」

 一瞬ぱあ、と明るくなった表情が、すぐに引き締まる。

『お気持ちだけ頂いておきやす。あっしはダンジョンキーパー。年中無休でやんすから‥‥‥』

「そうなのね‥‥‥」

 すっかりぶちのいる事が当たり前になっていたねこさんも、表情を曇らせた。

(まあ、たまにはお休みするのもいいんじゃない? 必要ならすぐに転移してあげるわよ)

『姐さん‥‥‥そん時はよろしくお願いしやす』

『ワタシはダンジョン外から管理しているが、ぶちには無理か‥‥‥』

『へい、残念ながら』

『少し考えてみるか‥‥‥何かあったら連絡する』

『? わかりやした』


 こうしてぶちの夏休みは終了し、その日の夜にダンジョンに戻っていった。
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