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58 子猫の日のねこさん

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「ふんべーらふーんふぺーぱぱぴょーい♪」

 ねこさんはご機嫌に鼻歌なんぞをかましていた。

 すれ違う誰からも、冷たい視線を向けられていたが、全く気にする様子もない。

 それもそのはず、酔っぱらいどものせいで有耶無耶になっていたギルドの報酬が、ついさっき支払われたのだ。

 所持金ゼロからいきなりの高額報酬ゲットである。誰だって浮かれぽんちになると言う物だ。

 しかも、今日は子猫の日!

 ねこさんは、足取り軽く和菓子屋さんに向かっていた。


「ごめんください、なのねー!」

 行きつけの『かりかり堂』にご機嫌な声が響く。

「柏餅を下さいなー、なのねー!」

「おや、ねこさん! 今日はまたえらくご機嫌だねえ!」

 キジトラ親方がにこにこと対応する。

「今日はいくついっとく?」

「む、む~ん?」

 腕組みをして、ショーケースの中の柏餅と自分のお腹に相談中。

「っ! 二十個でお願いなのねー!」

 ふんす、と鼻息荒くご注文!

「え? 二十個も‥‥‥ねこさん、一人じゃ食べきれないんじゃないかい?」

「二人で食べるのねー」

 心配そうな親方に、ぽむ、と胸を叩いてみせた。

「そうかい? それでも一人十個は食べすぎだねえ‥‥‥冷蔵庫に入れれば明日くらいまでなら大丈夫だから、気をつけるんだよ?」

「はいなのねー!」


 お会計を済ませて、柏餅を受け取る。

「ありがとう、なのねー」

 そして、うっきうきで店を出た。



「ただいまー、なのねー!」

『ご主人、おかえり、おかえり』

 ばーん、と派手にドアを開けたねこさんを、ネコサンが出迎えた。

「ネコサン、昨日はありがとうだったのねー」

『もういい、何度目だ、何度目だ』

 そう、かつ丼の恩義を忘れないねこさんは、顔を合わせるたびにお礼を言っていたのだ。

「これ、一緒に食べるのね!」

『ん? なんだ、なんだ?』

 小首を傾げるネコサン。

「じゃーん! 柏餅、なのねー!」

 満面の笑みで、大ぶりなそれを見せた。

『‥‥‥ご主人、お気持ちだけいただきます』

「え?」

 仲間がいないのに突然普通に話し始めたネコサンに驚き、更にまさかのお断りを喰らったねこさんのお口は、がくーん、とあごがはずれるほど大きく開いた。

『ワタシはロボです。電気以外は口にできないんです‥‥‥すいません、ご主人』

 本当に申し訳なさそうなネコサンは、額が地面につくくらい頭を下げていた。

「い、いいのねー。気にしないのねー」

 若干青ざめて袋の中を見るねこさん。その額に、脂汗が滲みだしていた。

(明日までに二十個も‥‥‥食べられるかなー‥‥‥)

 とりあえずお茶を淹れる事にしたねこさんだった‥‥‥。
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