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その1
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「……好みだな……」
それは、何気なくつぶやいた、一言だった。
帰宅してキッチンのカウンターに無造作に投げられていた、美形の男性の写真を見た瞬間、反射的に呟いた言葉は、もちろん誰かに聞かせるためではない。
むしろ誰にも聞かせる気持ちはなかったのだが。
「……あんた、ゲイだった?」
今でもあれほど恐ろしく冷静な母の声を聞いたことはない。
だが背後から聞こえてきた声に、俺の心臓は弾けんばかりにバクバクと波うち、背中には嫌な汗が伝わった。
「……あれ?
言ってなかった?
俺、男も女もイケるんだよね?」
平静を取り繕いながら、俺は振り向いた。
半分は嘘だ。
バイはバイでも、男九割、女一割な、ゲイよりのバイ。
いや、むしろゲイだ。
だが高校時代に彼女がいたりした俺が、ゲイですけど何か? って言うもんなら、うちの親、錯乱しちゃうかもしれない。
そんなビビりから、俺はそのような言い訳じみた返答をした。
だがもちろん、俺のチキンハートは遺伝だ。
後で聞いたところによると、母親も心臓が爆発しそうなほどバクバクいってたらしいが、この時はそんなことをおくびにも出さず、ただ「そうなんだ」と応えて終わった。
それはちょうど俺が大学を卒業し、実家を出て東京で一人暮らしを始める、その直前の出来事だった。
それは、何気なくつぶやいた、一言だった。
帰宅してキッチンのカウンターに無造作に投げられていた、美形の男性の写真を見た瞬間、反射的に呟いた言葉は、もちろん誰かに聞かせるためではない。
むしろ誰にも聞かせる気持ちはなかったのだが。
「……あんた、ゲイだった?」
今でもあれほど恐ろしく冷静な母の声を聞いたことはない。
だが背後から聞こえてきた声に、俺の心臓は弾けんばかりにバクバクと波うち、背中には嫌な汗が伝わった。
「……あれ?
言ってなかった?
俺、男も女もイケるんだよね?」
平静を取り繕いながら、俺は振り向いた。
半分は嘘だ。
バイはバイでも、男九割、女一割な、ゲイよりのバイ。
いや、むしろゲイだ。
だが高校時代に彼女がいたりした俺が、ゲイですけど何か? って言うもんなら、うちの親、錯乱しちゃうかもしれない。
そんなビビりから、俺はそのような言い訳じみた返答をした。
だがもちろん、俺のチキンハートは遺伝だ。
後で聞いたところによると、母親も心臓が爆発しそうなほどバクバクいってたらしいが、この時はそんなことをおくびにも出さず、ただ「そうなんだ」と応えて終わった。
それはちょうど俺が大学を卒業し、実家を出て東京で一人暮らしを始める、その直前の出来事だった。
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