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第8章 結婚式

210【結婚式7 新婚生活】

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 翌日、新居の寝室で目を覚ました俺は、自分の腕の中で幸せそうに眠るクリスを見て、昨日の事を思い出す。

(なんか……凄かったな)

 一晩経っても、まだ心地よい倦怠感が身体を包んでいる。それだけ昨日は凄かった。

(うわ……そのまま寝ちゃったから色々凄い事になってるな。もう一組買っておいて良かった)

 家具をそろえるときに、色々な人からシーツや掛け布団カバーは、絶対に予備を買っておけと言われたので、もう一組買っておいたのだ。

(あれ? という事は、あの人達は布団がこうなるって分かってたって事か?)

 よくよく思い返してみると、予備を買うように勧めてくれた人達は、皆、既婚者だった。

(………………な、なんか恥ずかしいな)

 そんな事を考えていると、腕の中のクリスが目を覚ます。

「ん……んー……ん? ………………アレン?」
「あ、おはよう、クリス。目覚めた?」

 クリスは目を開けたものの、まだ寝ぼけた様子で俺を見る。

「あー、アレンだぁー。頂きまーす」
「え? ちょ! クリス!?」
「あむ」
「――!?」

 何を思ったのか、クリスは俺の頭に手を回し、そのまま俺の耳を甘噛みしてきた。

「あむあむ」
「ひゃわ! クリス、やめて! くすぐったい!」
「ふふ。可愛いー。のアレン、すっごく可愛いー。ふふふふ」
「く、クリスー……」

 何とか逃げようとするも頭を抱きしめられているため、想うように逃げられない。というより、身体が逃げる事を拒んでいた気がする。結局、俺はそのまま5分程、クリスにおもちゃにされた。

「あむあむ――ちゅっ。さて、そろそろ起きましょうか。おはようございます、アレン。いい朝ですね」
「へ? あ……うん。そ、そうだね」

 最後に軽くキスをされてから、俺は解放される。少しだけ残念に思ったのは内緒だ。

「今日は家の中を綺麗にして、明後日からの新婚旅行に備える予定でしたが……アレン、動けますか?」
「もちろん! あ、あれ?」

 俺は身体を起こそうとしたが、思うように力が入らない。

「ふふ。昨晩は頑張って下さいましたからね。が朝食を作ってきます。アレンはもう少し休んでいてください」
「え? い、いや、大丈夫だよ。俺も――」
「――アレン。アレンには、頑張って頂きたいので、今は休んでいてください。いいですね?」
「え、あ、はい」

 一瞬、妖艶な笑みを見せたクリスに俺は逆らえなかった。

(クリスだって疲れているはずなのに……なんでいつもより元気なんだろ?)

 クリスがいつもより活発で肌もつやつやなのは気のせいではないと思う。結局、クリスが呼びに来るまで、俺はベッドに腰かけて休ませてもらった。

「さ、アレン。朝ご飯できましたよ。調子はいかがですか? まだ歩けないようでしたら、わたくしが抱っこしますよ?」
「だ、大丈夫! もう歩けるから!」
「そうですか? それは残念です。では食堂で待ってますね」
「う、うん」

 昨晩からクリスのスイッチが入りっぱなしな気がする。いちいちドキドキしてしまい、心臓に悪い。もちろん、決して嫌ではないし、どこか喜んでいる自分がいるのも事実なのだが……。

(なんか……新しい扉を開けられてる気がする)
 
 ちなみに朝食は、豚のレバニラ炒めだった。クリス曰く俺が元気になるメニューを選んでくれたらしい。寝起きの胃に優しい、さっぱりとした味付けのレバニラ炒めは、俺の身体に驚くほどしみ込んできた。

(美味しい! なんかすごく優しい味!)

「どうでしょう? お口に合うといいのですが……」
「めちゃくちゃ美味しいよ! ありがとう!」
「まぁ! それは良かったです。お代わりもありますので、遠慮なく言ってくださいね」
「うん!」

 大好きな人が自分のために作ってくれた朝食を、大好きな人と一緒に食べる。この時点で美味しくないわけがない。しかも、実際にご飯が美味しいとなれば、これ以上美味しい朝食は無いだろう。俺は最高の朝食を最高の気分で完食した。



 朝食を食べ終わった俺達は、届いていた荷物の荷ほどきを行い、新居を整えていく。色々な物の配置を、クリスと相談しながら決めていく作業は、思っていた以上に楽しい。

「クリス、これ何?」
「それはわたくしの裁縫道具です。たまに使うので、寝室の棚に置かせて頂きますね」
「わかった! こっちの箱は?」
「それはわたくしが子供の頃好きだったぬいぐるみ達です。お母様に頼んで、送って頂きました」
「なるほど! それじゃ、寝室にでも飾る?」
「いえ、その……大事にしまっておいて、わたくし達の子供が出来た時にプレゼントしたいな……と」

 愛おしそうにお腹をさすりながら、クリスが答えた。その仕草に俺は自分の頬が熱くなるのを感じる。

「な、なるほど。それじゃ、これはこのまま押入れにしまっておこう」
「え、ええ。お願いします」



 そうして、1つ1つ荷物を整理していき、全ての荷ほどきが完了する頃には、日が暮れていた。

「遅くなってしまいましたね」
「そうだね。でも、家の中が綺麗になったよ」
「ふふ、そうですね……あ! そうでした! アレン、アレン!」
「ん? どしたの?」

 クリスが上目遣いで俺を見ながら聞いてくる。

「お姉様から、こういう時に言うべき台詞を聞いていたのでした。いきますね。アレン、『お風呂にしますか? ご飯にしますか? それとも、わ、た、し?』」
「ぶっ!!」

 ぺろりと唇を舌で舐めるその様は、完全に捕食者のそれであった。

 そんなクリスの姿に、俺は既視感を覚える。

(血は争えないのかな……父さん……)

 昔、あった時に、父さんに迫っていた時の母さんの姿と、クリスの姿が被ったのだ。だとすると、この問いの答えは1つしかない。

「――クリスで」

 本音を言えば、お腹が空いていたので、晩御飯を食べたかった。身体も汚れていたし、疲れてもいたので、風呂にも入りたい。だが、捕食者となったクリスを前にしてそんな事を言えるわけがない。それに……。

「まぁ。ふふふ。はい、喜んで」

 にっこりと満面の笑みを浮かべるクリス。捕らわれた俺に、逃げる術はない……というわけではなかった。

「……と、言いたいところですが、汚れてしまったので、先にお風呂に入りましょうか。お腹も空きましたので、晩御飯用に用意した鰻を食べましょう。わたくしはその後で」

 そう言ってクリスは楽しそうに笑う。初めから、俺が風呂に入りたがっていることも、空腹で晩御飯を食べたがっている事も分かっていたのだ。そのうえで、あえて聞いてきたのは、ただのいたずらだろう。

「ですが、せっかくわたくしを選んでくださったのです。お風呂は一緒に入りましょう。大丈夫、

 だが、一度入ったスイッチはそう簡単には切れないらしい。妖艶な笑みを浮かべたクリスは、とても美しかった。

(夜、かぁ……俺の体力、それまで持つかなぁ?)
 
 そんな心配をしていた俺だったが、そんな物俺の残体力はクリスの魅力の前では関係ない事が、その日の夜に分かった。翌日、クリスは2組のシーツと布団カバーを洗い、俺は新しいシーツと布団カバーを買いに行くこ事になる。


 そんな幸せな生活を続けていた俺が、モーリス王太子から『時間を貰えるか?』と言われていた事を思い出したのは、披露宴から5日が経った日だった。
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