知識チートの正しい使い方 〜自由な商人として成り上ります! え、だめ? よろしい、ならば拷問だ〜

ノ木瀬 優

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第7.1章 王子達 (全話に残酷な描写、女性軽視な表現が含まれております。ご注意ください)

198【王子達3 サーカイル=ルーヴァルデン】

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 僕がこの世に生を受けた時、母上以外の人間は、僕に大した期待をしていなかった。僕が生まれる少し前に、母上がすでに長男を産んでいたからだ。皆、長男であるカミール兄上には期待を寄せるものの、次男であり、スペアでしかない僕の事など、大して興味もないのだろう。むしろ、側室派閥の貴族を分断させかねない要因として、冷たい目を向けられたのを覚えている。唯一、母上だけが、僕に期待してくれていた。

 そんな僕に大きな転機が訪れた。カミール兄上が初めて婚約者候補の令嬢と顔合わせをした時に、あろうことか、カミール兄上はその令嬢をソファーに押し倒して、全身を弄ったらしい。貞操を重んじる貴族令嬢からすれば、全身を弄られるというのは、命を奪われるのと同じくらい耐えがたい行為だ。

 当然、その令嬢の家は王家に猛抗議した。僕らの父上にも直談判したらしい。結果として、その家にはかなり優遇措置が取られ、カミール兄上の評判は大きく下がることになる。だが、そこには大きな誤解があった。母上の命により、詳細な調査が行われた結果、その家はカミール兄上に大人用の精力剤を盛っていたことが判明したのだ。怒り狂った母上により、その家は取り潰しとなり、カミール兄上に同行した従者達にもきつい処罰が言い渡された。

 これにより、カミール兄上の名誉は回復するかと思われたが、そうはならなかった。カミール兄上はその後も様々な女性に手を出していったのだ。次第に公務もおざなりとなり、勉強もさぼるようになっていった。

 周囲の期待を裏切り続けてく、カミール兄上。もはや、カミール兄上に期待している人間はくなっていた。皆、手のひらを返すように僕に群がってきていたのだ。カミール兄上の側に残ったのは、娘を犠牲にして甘い蜜を吸おうとしている寄生虫のような連中と、母上だけだった。

 そう、こんな状態でも母上はカミール兄上を見捨てなかったのだ。カミール兄上の周りを、女性で固め、悪評が広まるのを防ごうとしたり、貸しのある貴族に掛け合い、何とか婚約者を決めようとした。それらは全て、カミール兄上自身の行いによって無駄になってしまうのだが、それでも母上はカミール兄上を助けようとしたのだ。

 もちろん母上は、僕の事もカミール兄上と同じように大切にしてくれた。カミール兄上の後始末で忙しいだろうに、ちゃんと僕の事も大事にしてくれたのだ。このころから、僕は母上の期待に応えて、立派な王様になりたいと強く思うようになった。『王様になって、母上と、(ついでにカミール兄上と)一緒に楽しく暮らせるようにする!』というのが、僕の目標になったのだ。

 幸いなことに、僕はそれなりに優秀だったらしい。カミール兄上がこなしていた公務も引き継ぐ事が出来たし、それ以外にも必要な事はどんどん身に付けていく。それと同時に、カミール兄上の後始末も母上と一緒にこなした。正直、兄上の後始末をするのは嫌だったが、交渉術の勉強だと思って我慢する。それに、王族でいると、『こちらが不利な状況で交渉する』という事はめったにないので、貴重な経験であった事は間違いない。『これも王様になるための試練だ』と思えば、頑張る事が出来た。

 そんな暮らしをしていたある日、僕に2度目の転機が訪れる。異母兄弟のモーリスがとある政策の提案書を提出してきたのだ。当時6歳のモーリスが考案したその政策は、『農家で作る農作物を毎年変える』という物だった。この政策を実行すれば、収穫量が増えるというのだ。正直、この時点では誰もモーリスの政策が上手くいくとは思っていなかった。というのも、政策の実行手段や手順などは良くまとまっているものの、収穫量が増える根拠が、提案書のどこにも書いていなかったのだ。

 しかし、モーリスはこの政策にかなり自信を持っているようで、父上にこの政策を実行させて欲しいと直訴した。常識的に考えれば、そんな根拠があやふやな政策を実行するなどありえない。だが、父上は、その政策をファミール侯爵家の農家で実行する許可を与えた。

 父上がなぜ、そのような判断をしたのかは定かではない。失敗も経験だと思ったのか、もしくは、正妻がようやく産んだ男の子が可愛くて、甘い判断をしてしまったのか。それは分からない。だが、結果的にその判断は正しかった。翌年、ファミール侯爵家の農家の収穫高は激増したのだ。

 それからというもの、モーリスは次々と新しい政策を提案しては、大きな成果を上げていった。新しい政策も、なぜそうなるのか、という根拠が分からないものだらけで、本来であればもっと吟味してから実行に移すべき政策も、『結果を残しているから』という理由で次々と実行されていく。

 負けじと僕も様々な政策を提案するが、ほとんどが提案書の段階ではじかれてしまい、何とか父上の許可を得られた政策も、大した成果を上げられなかった。次第に『次期王太子にはモーリス王子がふさわしいのでは?』という風潮が聞こえてくるようになる。今までずっと僕の周りに群がって来た人間の中からも、モーリスに付くものが現れだした。



(ふざけるな! このまま……このまま終わってたまるか!)

 カミール兄上が皆の期待に応えられなかった時、その周囲の人間がすぐに僕に群がって来た事を知っている。ゆえに、僕の周囲の人間が、いつまでも僕の周りにいてくれるわけじゃない事も、僕は知っていた。

(こいつらの期待に応えるためには……金だ。金が要る!)

 僕は周りの人間の期待に応えるために、金稼ぎに尽力する。今まで得てきた知識をフルに活かして、僕の周りの人間を潤した。必死の努力の甲斐あってか、人数は減ったものの、一定数の人間が、僕の周りにとどまってくれる。

(これだけの数の人が僕を支持してくれているんだ。大丈夫。大丈夫だ)

 この時、僕は『王太子に任命される』ということで頭がいっぱいだった。というのも、僕は来年成人を迎える。父上が僕を次期国王にするつもりなら、『僕を王太子に任命する』という話が出てもいいはずの時期だった。それなのに、父上からは何の声もかからない。

(なんで父上は僕を認めてくれない!? 確かにちょっと人数は減っちゃったけど……でも、僕を認めてくれている人がこれだけいるのに! なんで!?)

 僕は気付いていなかったが、この時、僕の周りにいたのは、モーリス兄上の周りに残った連中と同じ、甘い蜜を吸おうとしている寄生虫のような連中ばかりだったのだ。そんな連中に、必死にお金という蜜を与え続けていた僕を、父上が王太子に任命する事は無かった。



 そして、僕が成人となるその日。僕の中で何かが壊れた。この日まではまだ希望があった。だが、父上から何の話もなく、この日を迎えたという事は、僕が王太子になる可能性が消えたという事だ。

(くそ……くそ…………)

 何もかもがどうでもよくなった。本来なら公務に向かわなければならない時間だったが、身体を動かす事が出来ない。

「何やってんだ? お前」
「? カミール兄上?」

 自室で項垂れていた僕にカミール兄上が声をかけてくれた。

「……ついてこい」
「?」

 僕が返事をする前にカミール兄上は歩き出す。気力を失っていた僕はカミール兄上に言われるがままついて行った。そしてその先で、僕はカミール兄上から女性遊ぶ方法を教えてもらったのだ。

「どうだ?」
「あはは。なんか楽しいね。これ」
「おう」

 長年の目標だった、王太子になるという夢は断たれてしまったが、僕は新しい楽しみを見つけたおかげで何とか立ち直る事が出来た。母上はまだあきらめていなかったみたいだけど、それより僕は『金稼ぎ』と『新しい遊び』に夢中になった。

 金を稼ぐと、周りの人間が褒めてくれる。皆に褒められると気分が良かった。何か嫌な事があれば、『新しい遊び』でスッキリすればいい。幸い、新しい遊びに必要な女性の調達方法は、カミール兄上のおかげでよく知っている。ただ、女性を事が好きなカミール兄上と違い、僕はどうやら女性を事が好きだったみたいで、後始末が大変だった。変な噂がたつと面倒なので、近くの病院の院長を脅して、遊べなくなった女性は、そこに放り込む事にする。院長には『ちゃんと処理する』ように言ってあるし、これで問題ないだろう。

 そんな生活を続けていたある日、重大な問題が発生した。僕が遊んでいた女性の1人が妊娠してしまったのだ。こんなことは初めてだった。身体を売る女性は、皆、妊娠しないよう処置が施されているものだと思っていたのに、まさか、処置が施されていない女性が身体を売っているなんて思いもしなかったのだ。

 その女性は色々具合が良かったので、カミール兄上と一緒に遊んだりもしたのだが、僕がその女性をからは僕しか遊んでいない。時期的に、お腹の子は間違いなく僕の子だろう。

 王族として、平民に種付けしてしまったのは本当にまずい。何とかして堕胎させる必要がある。いや、もったいないが、女性ごと始末してしまった方が良いかもしれない。そう考えた僕はその女性の始末をいつもの病院に任せた。絶対にちゃんと始末するように厳命して。



 その後、僕は平穏な日常を過ごせていた。金稼ぎの一環として、東側の商人にちょっかいを掛けたり、モーリスがロイヤルワラントを授与した商品の特許権を奪ったりして楽しい日々を過ごしていたのだ。

 母上はいまだに僕かカミール兄上を王太子にしたかったみたいだが、僕としては、そこに強いこだわりはなかった。『金稼ぎ』と『新しい遊び』が出来る環境があれば、それでよかったのだ。あまりにも西側の貴族がモーリスに寝返りすぎたため、『金稼ぎ』に支障が出始めていたので対抗策を取ったが、決してモーリスに歯向かうつもりなどなかった。僕は、母上とカミール兄上と楽しく過ごせればそれでよかったのだから。

 だが、モーリスは王太子に就任するための儀式の場で、僕とカミール兄上を断罪した。罪状は『貴族令嬢への暴行』との事だ。

(まずい!)

 僕はカミール兄上が罪から逃れられない事を直感した。なぜなら、その罪は僕と母上が何とか隠蔽しようとしていた事であり、暴露されてしまった以上、その罪から逃れる事が難しい罪だからだ。

(こうなった以上、カミール兄上の無罪を主張する事は難しい……だけど!)

「モーリス王太子! わ、私は貴族令嬢に暴行を加えた事などありません! このような――」

 僕は近衛兵に拘束されながらも必死に弁明した。ここで僕まで捕らえられては、カミール兄上を助ける事が出来なくなってしまう。僕が今の立場を維持する事さえできれば、カミール兄上が罪に問われたとしても、僕が助けてあげる事が出来る。

「確かに、カミール兄上は罪を犯してのかもしれません。その罪は――」

 そのために、今はカミール兄上を売ってでも、僕が助からなければならない。僕の言葉にカミール兄上は激昂したが、その隣で母上が優しい眼で僕を見てくれていた。おそらく母上は僕の意図に気付いたのだろう。カミール兄上には誤解されてしまったが、母上が信じてくれた事が、僕に自信をくれた。自然と弁明にも力が入る。

「ですから、モーリス王太子。私は――」
「――サーカイル兄上。兄上は1つ、勘違いをしていますよ」
「え? 勘違い?」

 だが、そんな僕の目論見は儚くも崩れ去る。

「『ミリア=オーティス』という名前に心当たりがありますよね?」
「――っ!?」

 モーリスが言った女性の名前を聞いた瞬間、僕の全身を絶望が包む。『ミリア=オーティス』。僕が遊んで、僕が孕ませて、そして僕が処分したはずの女性の名前だ。その名がモーリスの口から出てくるという事は、僕が詰んでいる事を意味している。

「そうか……残念だ」
「ち、父上……どうか……どうかご慈悲を……」
「我が孫を殺したお前に慈悲だと? ふざけるな! この世に生を受けることが出来なかったその子を想う気持ちが少しでもあるならば、大人しく罪を受け入れろ」

 みっともなくも、父上に縋ってみたが、そんな僕を父上はバッサリと切り捨てた。僕に残された手は、もうない。

「ありがとうございます! アレン、魔道具を起動してくれ」
「承知しました」
「……は? ちょっと――」

 モーリスと商人が会話をするのが聞こえる。父上が何かを言いかけていたが、言葉の途中で僕は『転移』させられた。王宮の中は『転移防止』の魔道具が設置されているが、どうやら何かしらの手段で魔道具を打ち破ったらしい。

 そして、そこから僕の地獄が始まった。
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