知識チートの正しい使い方 〜自由な商人として成り上ります! え、だめ? よろしい、ならば拷問だ〜

ノ木瀬 優

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第7章 その日

195【断罪10 目標】

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「モーリス王太子にお声がけしなくて良かったのですか?」

 俺の実験室でマークさんが俺に聞いて来た。この場にいるのは、王宮に行ったメンバー、すなわち、俺とクリス、ユリとマークさん、そしてバミューダ君とミーナ様だけだ。

「いいんです。流石に王宮の人まで呼んでいたら、サーカイル王子の心が壊れちゃいます。何より、モーリス王太子には聞かれたくない話もありますから」

 サーカイル王子の心が折れたという通信が入ってから皆を集めたため、すでにそれなりの時間が経過している。いくらカミール王子の『転移』先より苦痛が少ないとはいえ、そろそろ心が壊れてもおかしくはない。

「それじゃ、呼び戻しますね」

 俺は手元の魔道具を操作して、サーカイル王子をこの場に『転移』させた。

「嫌だ! 嫌だ! もうやめてくれ! 嫌だ 嫌だぁぁああ!!」

 『転移』してきたサーカイル王子は何かにおびえるように両手両足を激しく振り回している。

「サーカイル王子。貴方に聞きたいことがあります。正直に答えて――」
「嫌だ! 来るな、来るな、来るな! 嫌だぁぁああ!!」
「……アレンさん、これもう壊れていませんか?」
「………………えっと……」

 呼び戻すのに時間がかかり過ぎてしまっただろうか? 1週間持ったのだから、多少遅れても平気だと思ったのだが、サーカイル王子は狂ったようにわめくのみで、会話が成立しない。

「もぉ、しょうがないなぁ。ちょっと待ってね」

 見かねたユリがサーカイル王子に手をかざすと、サーカイル王子の身体が暖かい光に包まれた。少しすると、色々わめいていたサーカイル王子が大人しくなり、その眼に理性が灯った。これなら会話は出来そうだ。

「はい、終わったよー」
「……『回復』魔法って心は治せないんじゃなかったっけ?」
「『回復』魔法だけじゃ無理だよ。一緒に『強化』魔法も使って精神を強化しながら治したの」
「あ、そうですか……」

『強化』と『回復』が使えるユリだからこそ出来る芸当なのだが、使った本人はけろっとしている。義妹がとんでもない魔法使いになりつつあることは一旦おいておいて、俺はサーカイル王子に話しかけた。

「サーカイル王子。貴方に聞きたい事があります」
「あ、ああ。アレン殿、か。分かったなんでも答えるよ……なんでも聞いてくれ」

 サーカイル王子は、まるで悟りを開いたかのような静かな調子で答えた。

「まず一つ目。ダーム=マグゼムの身体を操ってクランフォード商会を特許権侵害で訴えたのは貴方ですね?」
「ああ、その通りだ。僕がやったんだ」
「……なぜ、そのような事をしたのですか?」
「モーリス王太子……いや、当時のモーリス王子の力をそぐためさ。あの時、西側の貴族達の大半がモーリス王子に寝返っていたからね。奪った特許権で新しい商会を立ち上げて、寝返った貴族達を呼び戻しつつ、東側の貴族達に寝返るように呼び掛けたんだ。失敗に終わったけどね……」

 ようは、モーリス王太子というより、ミッシェルさんがやっていた事をマネしようとして失敗したのだ。サーカイル王子は、商売をするうえで一番大切な、信頼というものを甘く見ていたようだ。

「二つ目。カミール王子が俺の両親を襲って特許権を奪うように仕向けたのは貴方ですね?」
「ああ、そうだよ。特許権を奪うために、カミール王子をそそのかしたんだ」
「それは、本当にあなたの意思ですか?」
「……? どういう意味かな?」
「誰かにそそのかされて行動した、という事はありませんか?」

 直球な質問となってしまうが、これでいい。懐にはいつものように『噓発見』の魔道具を隠し持っているのだ。黙秘されない限り、俺を騙す事は出来ない。

「ああ、そういう意味か。それはないよ。私は私の意思で行動したんだ。モーリス王子や母上にそそのかされて行動したわけじゃない」

 サーカイル王子の答えに、俺は懐の『噓発見』の魔道具を確認する。

 結果は……反応なし。つまり、サーカイル王子の言葉に嘘はなかった。

「つまり、貴方が、俺の両親を殺した黒幕。という事ですか?」
「ああ。そうなるね。申し訳ない、としか言えないが、当時の僕にはそれがどれほどの事なのか、分からなかったんだ……自分が痛めつけられて、ようやく被害者の気持ちを理解出来た。本当に、申し訳ない」

(いまさら!)

 瞬間的に怒りがこみ上げる。だが、カミール王子の時のようにサーカイル王子を撃ち殺そうという気にはならななかった。意外ではあるが、サーカイル王子が心から後悔し、反省していることが伝わってきたのだ。

「……今の俺は、貴方を許すことは出来ません。だから、一生かけて償って下さい。貴方には、国のために働いてもらいます。自死する事は許しません」
「分かった。僕の罪が許されるとは思っていないが、精一杯償おう。国のために働くことが償いになるのであれば、一生懸命働くと誓うよ」
「……それでは、後でモーリス王太子のもとに『転移』させます。ここでしばらく待っていてください。今、椅子を準備しますので――」
「――罪人の僕に気遣いは無用だよ。そこの隅で、立って待たせてもらうよ」

 そう言って、サーカイル王子は実験室の隅の邪魔にならない場所に移動した。その様子を見届けてから、俺達は実験室を後にする。

(――くそ!)

 支店の休憩室に戻りながら、俺は内心で悪態をつく。もっと、カミール王子のように自己保身に走って欲しかった。そうすれば、もっとすっきりと地獄に落とせただろう。だが、反省している人間を地獄に落とすのは、心が痛む。だが、黒幕であるサーカイル王子を許す事など、とてもではないができなかった。

「アレン……」
「お兄ちゃん……」

 クリスとユリが心配そうに声をかけてくれる。皆、俺の内心を分かっているのだろう

「アレンさん。アレンさんはなぜ復讐をしようとしていたか覚えていますか?」
「え……」

 マークさんの質問に俺は、答えに詰まってしまう。

「おや、覚えていませんか? アレンさんが私におっしゃったことですよ?」
「俺が?」
「ええ。私はそれを聞いて、アレンさんの復讐を手伝う気になったのですが、忘れてしまいましたか?」

(俺が言った事? マークさんに? えっと……)

「実行犯と黒幕に、自分達がしでかしたことの大きさを実感してもらう……」
「そうです。それが今の状況でしょう」

 しでかした事の大きさを実感したから、サーカイル王子は償いをする事を決めたのだ。確かに、俺が望んだ結果になっている。

「アレンさん。辛いとはおもいますが、ここまでです。これ以上を望んではいけません。腕輪の魔道具がある限り、王子達は、罪を忘れる事はありません。もし、王子達が罪を忘れたのであれば、その時は、腕輪の魔道具で『転移』させて、後は放置してしまいなさい」
「マークさん……」
「どうしても、もっと復讐したいのであれば、アレンさん自身が幸せになる事です。それが、アレンさんに残された唯一の復讐の手段なんです。いいですか? アレンさん。ここまで、ですよ」

 マークさんの眼はいつになく真剣だった。

 確かにマークさんの言う通りだ。俺は、当初の目標を達成したのだ。ならば、復讐について、これ以上思い悩む必要は無い。気持ちの整理には、もう少し時間がかかってしまうかもしれないが、それは、時間が解決してくれる。

「幸せになる……か」
「ええ。……というか、アレンさんはそろそろ、クリスさんの婚約者としての務めを果たすべきでは?」
「……え?」
「ま、マーク様!? 何を!」
「アレンさん、復讐に夢中になって、クリスさんをほったらかしていましたよね? そりゃ、復讐を終えるまでは、甘い気分になれないのは仕方がないと思います。ですが、クリスさんはずっと、健気にアレンさんの復讐を手伝ってきたんです。そろそろクリスさんの事を考えてあげても良いのでは?」
「そうだそうだー。このままじゃ、お兄ちゃん、クリス様に嫌われちゃうよー」
「お義兄ちゃん、クリス様大事にしなきゃダメ……です」
「クリス様がお可哀そうですわ! 婚約者たるもの、定期的にデートに誘って差し上げなければ! バミューダ様を見習ってくださいまし!」
「あ、あの、皆様? わたくしは……」

 皆、マークさんに乗っかって俺を責めて来た。とはいえ、皆が、わざと明るく振舞っているのは、俺にも伝わってきている。

「そうだね。ごめん、クリス。今まで復讐ばっかで……この穴埋めはちゃんとするから」
「え? あ、はい。ありがとうございます。ふふ、そうですね。ちゃんと穴埋めしてくださいね」
「もちろん! さっそくだけど、明日――」

 15歳の誕生日の日からずっと、心の中に棘が刺さっていたのだ。その棘は、楽しい事があったり、嬉しい事があった時に心を指してくるのだ。ゆえに、俺はずっと、本心から笑う事が出来なかった。

 この日、俺はようやく、心の中の棘を抜く事が出来たのだった。
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