知識チートの正しい使い方 〜自由な商人として成り上ります! え、だめ? よろしい、ならば拷問だ〜

ノ木瀬 優

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第7章 その日

188【断罪3 サーカイル王子の罪】

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 モーリス王太子がこの上ないくらい笑みを深めているのに対し、サーカイル王子は必死の形相で弁明をする。

「な、なんの事ですか? そのような者、私は知りませんよ」
「兄上……。証言は取れております。潔く、罪を認められてはいかがですか?」
「っは! 平民の証言など、あてにはならないでしょう? そんなもので――」
「おや? 『ミリア=オーティス』が平民だとご存じだったのですか?」
「――っ!」

 この辺りで、周りの雰囲気も変わって来た。特に、側室やバージス公爵家、そして、その後ろに並んでいる貴族達が慌てているのを感じる。

「モーリス! このような場で、平民の証言を取り上げるなど――」
「ブリンダ、口を閉じていろ。命令だ」
「っ! 陛下!」
「命令だ、と言ったのが聞こえなかったのか?」
「――!」

 皆、サーカイル王子に、何か後ろめたいものがあるという事に気付いてきたのだろう。側室がモーリス王太子を黙らせようとするも、逆に国王陛下から一喝されて引き下がった。

「さて、モーリスよ。ミリア=オーティスの証言とはどのようなものなのだ?」
「へ、陛下!平民の証言など、陛下のお耳に入れる価値は――」
「黙るのだ、サーカイル。王太子となったモーリスが取り上げた証言だ。貴様にその価値を否定する権限はない」
「で、ですが――」
「くどい! サーカイル。貴様も、余が許可するまで口を閉じていろ。命令だ」
「――っ!」

 側室と同じようにサーカイル王子の事も黙らせた国王陛下は、モーリス王太子に向き直る。

「さて、それでは改めて聞こうか。モーリスよ、ミリア=オーティスの証言とはどのようなものなのだ?」
「はい、陛下。ミリア=オーティスの証言。それは、『サーカイル王子との子をその身に宿したが、サーカイル王子によって堕胎させられた』というものです」
「「「――!」」」

 モーリス王太子の言葉に、衝撃が走る。

「堕胎……だと!?」
「王子の子を?」
「禁忌だぞ……」
「王族殺しだ……」

 この世界で堕胎というのは、殺人と同じ扱いだ。万が一、望まぬ妊娠という悲しい事故が起きてしまった場合、責任もって育てなければならないとされている。そういった時のために、父親である男性を探す魔道具まで存在しているのだ。そのため、娼婦となる女性には、妊娠できなくする処理を施すのが一般的なのだが……。

(ミリアさんにそんな形跡はなかったからな)

 そういうお店に属していたわけでもなく、お金も持っていなかったミリアさんは、自分にそんな処理を施す事が出来なかったのだろう。だが、サーカイル王子からすると、そんな娼婦がいるなど、予想も出来なかったはずだ。結果として、ミリアさんはサーカイル王子の子を宿してしまう。

 しかし、平民の娼婦が王族の子を宿したとなれば、それは、国家を揺るがす一大事だ。間違いなく、サーカイル王子の汚点となってしまう。サーカイル王子からすれば、何とかして隠し通す必要があったのだろう。その手段が、堕胎というわけだ。

「ふむ。証言の信ぴょう性はあるのか?」
「はい、陛下。『嘘発見』の魔道具を使用して確認しました。それに、当時王宮にて、サーカイル王子の身の回りの世話をしていた者達の証言も取れております。皆、、仕事をクビになっていたので、探すのに苦労しましたよ」

 苦労したのは、おばあちゃんと諜報部隊だが、まぁ、それは良いだろう。その言葉で、サーカイル王子の心証が悪くなったのだから。

「なるほどの……サーカイルよ。発言を許可する。何か言いたい事はあるか?」
「――っ! 陛下! 全くの誤解です! 事実無根です! 証言は全て捏造です! モーリス王太子がなぜこのような事をされるのか、私には理解できません!」

 発言の許可を与えられたサーカイル王子は必死になって口を動かす。だが、その姿を見て、彼の言葉を信用する者はいないだろう。皆の眼が険しくなる。

「ほう、モーリスが嘘をついていると申すか。では、この場で『嘘発見』の魔道具を使用するとするかの。余に対して嘘の証言をしたとなれば、王族と言えど罪に問わねばならぬからな」
「へ、陛下……それは……」

 『嘘発見』の魔道具があるこの世界で、口先だけの誤魔化しなど通用しない。このような場で罪を明るみにされた時点で、サーカイル王子は詰んでいるのだ。

「どうなのだ? サーカイルよ。沈黙は罪を認める事と同義だぞ?」
「……」

 国王陛下に催促されるも、サーカイル王子は口を開く事が出来ない。

「そうか……残念だ」
「ち、父上……どうか……どうかご慈悲を……」
「我が孫を殺したお前に慈悲だと? ふざけるな! この世に生を受けることが出来なかったその子を想う気持ちが少しでもあるならば、大人しく罪を受け入れろ」
 
 国王陛下の言葉で、サーカイル王子の最後の望みは絶たれた。側室とバージス公爵家の方々も崩れ落ちる。

「はぁ……めでたい日になるはずが、このような事になるとはな。モーリスよ。この落とし前はどのようにつけるつもりだ? 法に基づけば2人は死罪となるが……」
「いいえ、陛下。このような日に王族の血を流すのは得策ではないでしょう。兄上達の処罰は、に任せて頂けないでしょうか?」
「ふむ、よかろう。ほかならぬ、からの頼みだ。2人の処罰は、モーリスに一任するとしよう」
「はっ! ありがとうございます。2人への処罰ですが、『真人間となって、国政を手伝う』にさせて頂きます」
「む? それは……」

 処罰の内容に国王陛下が難色を示す。当然だ。そんな口先だけでどうとでもなりそうな処罰では、誰も納得しないだろう。現に、サーカイル王子の眼に希望の光が灯っている。だが、それでいい。

 実は、この処罰は、俺からモーリス王太子に提案した物だ。最初は俺も、カミール王子とサーカイル王子を殺すつもりだった。しかし、クリスから『殺してしまえば、それで終わりです。それより、生きて償わせ続けましょう』と言われて、考えを改めたのだ。死んで楽にさせるより、生きて地獄を味わってもらおう、と。
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