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第7章 その日

187【断罪2 罪状】

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 始まる前こそ、側室がわめいたりという事があったものの、儀式が始まってからは、特に問題なく、進んでいく。

「――王太子となれば、そなたの両肩にかかる責任はこれまでの比ではなくなるだろう。それでも、そなたは、国のため、民のため、身を粉にして働く意思があるか?」
「はい! あります!」
「よく言った。我が息子、モーリスよ。そなたを王太子に任命する。今後も国のため、民のために全力を尽くすのだ!」
「はっ! 国のため、民のため、全力を尽くします!」

 モーリス王子が宣言すると、会場が拍手であふれた。ここまでは予定通りだ。

「うむ! さて、モーリスよ。王太子として何か言いたいことはあるか?」
「はい! ございます! 王太子として最初の仕事をさせてください!」

 モーリスの言葉に、会場にざわめきが生まれた。通常、ここでは新たな王太子としての意気込みや理想を話したりするのだ。『最初の仕事』をするというのは、今までに例が無い。

「ほう、最初の仕事か。良かろう。やってみるがよい」
「はっ! ありがとうございます。――衛兵!」
「「「はっ!!!」」」

 モーリス王太子の合図とともに、控えていた衛兵がカミール王子とサーカイル王子を拘束する。

「――な、何を!?」
「――貴様ら……我は第1王子だぞ!? 拘束を解け! 我にこんなことをして……楽に死ねると思うなよ!?」

 サーカイル王子は茫然としているのに対し、カミール王子は自分を捕まえている衛兵を脅して、拘束を解かせようよする。だが、予めモーリス王子から事情を聞いている衛兵は、拘束の手を緩める事はない。

「モーリス!? これはどういうことですか! なぜ王子達を……気でも狂ったのですか!?」
「側室殿。その発言は余への侮辱ですか? ならば、側室殿も不敬罪で捕まえねばならなくなりますが」
「――な!? ち、違います! 貴方が王子達を急に捕まえたりするから……」
「それについてはちゃんと理由があっての事です。当然じゃないですか。もしや、余が理由もなく王子達を捕える愚か者だとでも思ったのですか?」
「い、いえ………………失礼。息子達を急に捉えられて気が動転していたようです」
「そうですか。まぁ、気が動転していようが不敬である事に変わりはないのですが。確か不敬罪は縛り首、でしたよね?」

 側室が唖然とした顔でモーリス王太子を見つめた。その様子を見たモーリス王太子は一瞬、俺を見てニヤリと笑う。おそらく、俺が裁判にかけられた時の復讐を、俺の代わりにしている気でいるのだろう。俺としてはこんな事をされても気が晴れるわけでもないのだが、ここはモーリス王太子にあわせて笑っておく。

「も、モーリス王太子。どうか、お情けを下さい。」
「ふむ……まぁ、良いでしょう。皆の者も王子達がなぜ捕まっているのか知りたいでしょうしね」

 俺が笑っていたので、もう十分だと思ったのか、モーリス王太子は側室との問答を止めて王子達に向き直った。

「さて、達。状況は理解してますか?」
「モーリス……きさまぁ!」
「も、モーリス王太子! これはどういう事でしょう!? いくら、王太子に任命されたからといって、好き勝手出来るというわけではないのですよ!?」

 2人共、自分達が捕まった理由を理解していないらしい。そんな中、カミール王子は怒りでただ怒鳴り散らしているだけのようだが、サーカイル王子は戸惑いながらもこの状況を打破しようとしているようだ。

「サーカイル兄上。王太子とはいえ、好き勝手出来るわけでない事は理解していますよ。当然、罪もない人を捕える事は出来ません。お二人には、明確な罪状があるのですよ」
「罪状……ですか?」
「ええ。いくつかありますが……最も多くの罪状は罪もない女性への婦女暴行罪、です」
「な……婦女暴行だと!?」

 モーリス王太子が述べた罪状に、カミール王子が反応した。

「そうですよ。心当たりがあるでしょう?」
「っは! 何を言い出すかと思えば! 婦女暴行だと? それが、我ら王族を捕えていい理由になると思っているのか?」

 サーシス元伯爵の時もそうだが、王族貴族が平民を殺したとしても、この国の法律上、問題になる事はほとんどない。意外にも、カミール王子はその事を理解しているようだ。

「ええ、残念ながら、カミール兄上が平民を何人襲おうが罪に問われる事はありません。ですが……貴族令嬢を襲えば話は別です」
「……なんだと?」
「多くの貴族から『カミール王子に娘が襲われた』と報告が来ております。言い逃れは出来ませんよ?」
「――っな!? あ、あいつら……裏切ったな!!」
「兄上……脅されていた者が勇気を出して悪事を告発することを『裏切り』とは言わないのですよ」

 カミール王子の悔しがる顔を見て満足したのか、モーリス王太子は続いてサーカイル王子の方を見た。

「モーリス王太子! わ、私は貴族令嬢に暴行を加えた事などありません! このような扱いを受ける謂れは無いはずです!」

 サーカイル王子は必死に弁明している…………ように見えるが、今の俺には分かる。あれは、演技だ。モーリス王太子が述べた罪状を聞いて、自分は大丈夫だと思ったのだろう。それが分かったうえで、冤罪を掛けられた事をモーリス王太子への借りにするため、このような演技をしているのだ。

「確かに、カミール兄上は罪を犯してのかもしれません。その罪は償うべきでしょう。ですが、私は国のため、そして民のために働いてきました。そんな私に、なぜこのような仕打ちをするのでしょうか!?」
「サーカイル! 貴様、兄を売るのか!?」

 流石はサーカイル王子だ。身の安全に自信があるにも関わらず、モーリス王太子に媚びを売るためにカミール王子を差し出した。当然カミール王子は サーカイル王子に怒りの表情を向けるが、衛兵に抑えれらえて怒鳴る以上の事は出来ない。

 そんな2人の様子をモーリス王太子は楽しそうに眺めている。

「ですから、モーリス王太子。私は――」
「――サーカイル兄上。兄上は1つ、勘違いをしていますよ」
「え? 勘違い?」

 サーカイル王子の顔が曇った。モーリス王太子の笑みが深くなる。

「ええ。サーカイル兄上の罪状は、婦女暴行ではありません。そんなものとは比べ物にならないほど、重い物ですよ」
「……は? 何を言って――」
「『ミリア=オーティス』という名前に心当たりがありますよね?」
「――っ!?」

 ミリアさんの名前が出た瞬間、サーカイル王子の仮面は、剥がれ落ちた。
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