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第6章 裏側
185【王子の傷跡5 最後の鍵】
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「まずは……そうね。私とルーミルが娼婦だった事は知ってる?」
俺は首を横に振った。
「そう。それじゃそこから話すわ。12の時に親を亡くした私達は、生きていくために身体を売ってお金を稼いでいたの。幸い、私もルーミルも見た目は良かったから、最初こそ苦労したけど、すぐに、人並み以上の暮らしが出来るようになったわ」
ミリアさんは淡々と語っている。12歳で両親を亡くすというのは、この世界ではそれほど珍しくはない話だが、それでも、こんな淡々と語れるような話ではない。
「その頃は、まだ私とルーミルも仲の良い姉妹でね。たまに姉妹丼なんてのもやってたのよ。そういうのを望む客は金払いもいいから、喜んでやってたわ。そんなある日、1人の男が私達の所にやってきて、私達を一緒に買おうとしたの。その男は一目で高貴な人だと分かる格好をしていたから、ルーミルはとても喜んだわ。でも、私には分かってしまったの。その男がヤバい奴だって」
ミリアさんの観察眼の凄さは理解している。ミリアさんがヤバい奴というのであれば、本当にヤバい奴なのだろう。
「喜んで相手をしようとするルーミルを近くにあった置物で殴って気絶させて、その男に言ったの。『私が2人分相手をするから妹には手を出さないで』って。その男の狂気が、『必死に妹を守る姉を壊す』事と『姉の目の前で大事な妹を壊す』事のどちらを選ぶかは賭けだった。だけど私は賭けに勝ったわ。男は私の絶対服従を条件にルーミルには手を出さないと約束してくれたの」
(殴って気絶って……それもそれでヤバい気がするけど……)
それほどまでにヤバい相手だったという事だろう。そう思う事にした。
「その日は、普通に事を済ませて帰って行ったんだけど……それから毎週のようにそいつは私を買ったわ。わざわざルーミルの前で、ね。当然、私とルーミルの仲は悪くなっていったわ」
事情を知らないルーミルさんからすれば、姉が強引に奪った上客が、毎週のように姉を買っていくのだ。思う所があるのは仕方がないだろう。
「少しすると、その男は、私を普通に犯すだけじゃ物足りなくなったみたいで、色々な事をしだしたわ。最初は軽く殴る程度だったんだけど、だんだん、首を絞めたり鞭をつかったりするようになって……最後は拷問器具を使うようになっていったわ。まぁ、予想通りだけどね」
ミリアさんは笑っていたが、そういう行為に拷問器具を使うなんて聞いた事が無い。
「傷だらけの私を見て、ルーミルは『もう、男のもとに行くのはやめた方が良い』って言ってくれたわ。でも、私はやめなかった。私がやめたら、あの男はルーミルを狙うと分かっていたからね。『金払いの良い客を逃がすわけにはいかない』って言って、止めようとするルーミルを払いのけたわ。事の詳細をルーミルに話すことを禁じていたから、そう言うしかなかったのよ」
恨んでいた姉に、どんな気持ちでルーミルさんは声をかけたのだろうか。そして、声をかけた姉から払いのけられた時、どんな気持ちだったのだろうか。俺には想像することも出来ない。
「そのうち、男は自分の家にある拷問器具を使いたいからって、私を家に泊るようになったわ。その分のお金はちゃんともらったし、何よりそこなら、拷問された後、『回復』魔法をかけてもらえたからね。私としても都合が良かったんだ。数年間はその男の家でひっそりと暮らしてたんだよ。だけどある時、その男のお兄さんに私の存在がバレちゃってね。お兄さんも私で遊び出したんだ」
拷問器具がある家。そして兄。うすうす分かっていたが、そういう事なのだろう。
「そこからはひどい物よ。それまでその男は、非可逆的な事はしなかったんだけど、お兄さんはそんな事、全く気にしていなかった。どんどん私を壊していったわ。そしたら、その男も競うように私を壊していって……その結果がこの様よ。これが無ければ、私は発狂していたでしょうね」
ミリアさんは、自分の頭を眼で示した。『鑑定』魔法が使える俺に頭に埋め込まれた魔道具を見せたかったのだろう。
『名称:マゾヒズムの種 所有者:ミリア=オーティス 特性:痛覚を快感に変換する』
両腕両足を失うような苦痛も、快感に変換されれば、耐えられるだろう。それでも、そんな経験をしたいとは思わないが……。
「以上が、私がこの身体になった経緯よ。何か質問はあるかしら?」
「……その男というのがサーカイル王子、というわけですね」
「ふふふ。ご名答! だから私を壊したのはサーカイル王子とそのお兄さんのカミール王子なの。これで、聞きたかった事の答えになっているかしら?」
「ええ。ありがとうございます。そのうえで、もう1つだけお聞きしたいことがあるのですが……」
「あら? 何かしら? 今更隠すことはないし、なんでも聞いて」
「ありがとうございます。お聞きしたいのは――」
俺はミリアさんにある事を聞いた。
「ああ、そういう事! ふふ、なるほど。それで私の話を聞きたかったのね」
「ええ。どうでしょうか?」
「ふふふ。答えは『あったわ』よ。『噓発見』用の魔道具も反応していないでしょ? これでいい?」
「はい! ありがとうございます!」
思った通りだ。これで、最後の鍵も手に入った。これで、王子達に制裁を食らわせる事が出来る。
「ふふ。君達なら、その情報を使って、妹の敵を討ってくれそうね。期待しているわ」
「――!? ……気付いていたんですか?」
「いいえ? 今、君から聞いたのよ」
「あ……」
またしても、ミリアさんのカマかけに引っ掛かってしまったようだ。
「そっか……そうかもしれないとは思ってたけど、あの子、死んじゃったのか……」
「ミリアさん……その……」
「? ……ああ、気にしないで。あの子を実際に殺したのは別の人かもしれないけど、死に追いやったのはあのクソ王子よ。もし、私に申し訳なく思うのなら、その分も王子にぶつけて頂戴。私に出来る事なら何でもするから………………お願いよ」
ミリアさんの眼に涙が浮かんでいた。
「……分かりました。必ず、ミリアさんにも納得いく結果を出してみせます」
その後、ミリアさんにお礼を言ってから、予定通り、ガンジールさんのお見舞いをして、家に戻る。そして、おばあちゃんにミリアさんが見つかった事と、最後の鍵が手に入った事を伝えた。
「流石じゃの! アレン! これで、サーカイル王子も罪に問える。『立太子の儀式』が楽しみじゃの」
「そうだね。その日に全部終わらせるんだ。」
モーリス王子が王太子として正式に認められる、『立太子の儀式』。その日に行動を起こす事を俺達は前々から決めていた。
「よし! わしらは、その日に向けてもう少し情報を精査する。アレンは開発した魔道具が問題ない事を再度、確認しておくのじゃ。失敗は許されないぞ」
「了解!」
魔道具の確認はもう何度も行ったが、さらに完璧なものにするため、アナベーラ商会の尋問担当者やマークさんにもアドバイスをもらい、不確定要素を廃除していった。これで、仮に予想外の事が起きたとしても大丈夫だろう。
そして、ついにその日がやって来た。
俺は首を横に振った。
「そう。それじゃそこから話すわ。12の時に親を亡くした私達は、生きていくために身体を売ってお金を稼いでいたの。幸い、私もルーミルも見た目は良かったから、最初こそ苦労したけど、すぐに、人並み以上の暮らしが出来るようになったわ」
ミリアさんは淡々と語っている。12歳で両親を亡くすというのは、この世界ではそれほど珍しくはない話だが、それでも、こんな淡々と語れるような話ではない。
「その頃は、まだ私とルーミルも仲の良い姉妹でね。たまに姉妹丼なんてのもやってたのよ。そういうのを望む客は金払いもいいから、喜んでやってたわ。そんなある日、1人の男が私達の所にやってきて、私達を一緒に買おうとしたの。その男は一目で高貴な人だと分かる格好をしていたから、ルーミルはとても喜んだわ。でも、私には分かってしまったの。その男がヤバい奴だって」
ミリアさんの観察眼の凄さは理解している。ミリアさんがヤバい奴というのであれば、本当にヤバい奴なのだろう。
「喜んで相手をしようとするルーミルを近くにあった置物で殴って気絶させて、その男に言ったの。『私が2人分相手をするから妹には手を出さないで』って。その男の狂気が、『必死に妹を守る姉を壊す』事と『姉の目の前で大事な妹を壊す』事のどちらを選ぶかは賭けだった。だけど私は賭けに勝ったわ。男は私の絶対服従を条件にルーミルには手を出さないと約束してくれたの」
(殴って気絶って……それもそれでヤバい気がするけど……)
それほどまでにヤバい相手だったという事だろう。そう思う事にした。
「その日は、普通に事を済ませて帰って行ったんだけど……それから毎週のようにそいつは私を買ったわ。わざわざルーミルの前で、ね。当然、私とルーミルの仲は悪くなっていったわ」
事情を知らないルーミルさんからすれば、姉が強引に奪った上客が、毎週のように姉を買っていくのだ。思う所があるのは仕方がないだろう。
「少しすると、その男は、私を普通に犯すだけじゃ物足りなくなったみたいで、色々な事をしだしたわ。最初は軽く殴る程度だったんだけど、だんだん、首を絞めたり鞭をつかったりするようになって……最後は拷問器具を使うようになっていったわ。まぁ、予想通りだけどね」
ミリアさんは笑っていたが、そういう行為に拷問器具を使うなんて聞いた事が無い。
「傷だらけの私を見て、ルーミルは『もう、男のもとに行くのはやめた方が良い』って言ってくれたわ。でも、私はやめなかった。私がやめたら、あの男はルーミルを狙うと分かっていたからね。『金払いの良い客を逃がすわけにはいかない』って言って、止めようとするルーミルを払いのけたわ。事の詳細をルーミルに話すことを禁じていたから、そう言うしかなかったのよ」
恨んでいた姉に、どんな気持ちでルーミルさんは声をかけたのだろうか。そして、声をかけた姉から払いのけられた時、どんな気持ちだったのだろうか。俺には想像することも出来ない。
「そのうち、男は自分の家にある拷問器具を使いたいからって、私を家に泊るようになったわ。その分のお金はちゃんともらったし、何よりそこなら、拷問された後、『回復』魔法をかけてもらえたからね。私としても都合が良かったんだ。数年間はその男の家でひっそりと暮らしてたんだよ。だけどある時、その男のお兄さんに私の存在がバレちゃってね。お兄さんも私で遊び出したんだ」
拷問器具がある家。そして兄。うすうす分かっていたが、そういう事なのだろう。
「そこからはひどい物よ。それまでその男は、非可逆的な事はしなかったんだけど、お兄さんはそんな事、全く気にしていなかった。どんどん私を壊していったわ。そしたら、その男も競うように私を壊していって……その結果がこの様よ。これが無ければ、私は発狂していたでしょうね」
ミリアさんは、自分の頭を眼で示した。『鑑定』魔法が使える俺に頭に埋め込まれた魔道具を見せたかったのだろう。
『名称:マゾヒズムの種 所有者:ミリア=オーティス 特性:痛覚を快感に変換する』
両腕両足を失うような苦痛も、快感に変換されれば、耐えられるだろう。それでも、そんな経験をしたいとは思わないが……。
「以上が、私がこの身体になった経緯よ。何か質問はあるかしら?」
「……その男というのがサーカイル王子、というわけですね」
「ふふふ。ご名答! だから私を壊したのはサーカイル王子とそのお兄さんのカミール王子なの。これで、聞きたかった事の答えになっているかしら?」
「ええ。ありがとうございます。そのうえで、もう1つだけお聞きしたいことがあるのですが……」
「あら? 何かしら? 今更隠すことはないし、なんでも聞いて」
「ありがとうございます。お聞きしたいのは――」
俺はミリアさんにある事を聞いた。
「ああ、そういう事! ふふ、なるほど。それで私の話を聞きたかったのね」
「ええ。どうでしょうか?」
「ふふふ。答えは『あったわ』よ。『噓発見』用の魔道具も反応していないでしょ? これでいい?」
「はい! ありがとうございます!」
思った通りだ。これで、最後の鍵も手に入った。これで、王子達に制裁を食らわせる事が出来る。
「ふふ。君達なら、その情報を使って、妹の敵を討ってくれそうね。期待しているわ」
「――!? ……気付いていたんですか?」
「いいえ? 今、君から聞いたのよ」
「あ……」
またしても、ミリアさんのカマかけに引っ掛かってしまったようだ。
「そっか……そうかもしれないとは思ってたけど、あの子、死んじゃったのか……」
「ミリアさん……その……」
「? ……ああ、気にしないで。あの子を実際に殺したのは別の人かもしれないけど、死に追いやったのはあのクソ王子よ。もし、私に申し訳なく思うのなら、その分も王子にぶつけて頂戴。私に出来る事なら何でもするから………………お願いよ」
ミリアさんの眼に涙が浮かんでいた。
「……分かりました。必ず、ミリアさんにも納得いく結果を出してみせます」
その後、ミリアさんにお礼を言ってから、予定通り、ガンジールさんのお見舞いをして、家に戻る。そして、おばあちゃんにミリアさんが見つかった事と、最後の鍵が手に入った事を伝えた。
「流石じゃの! アレン! これで、サーカイル王子も罪に問える。『立太子の儀式』が楽しみじゃの」
「そうだね。その日に全部終わらせるんだ。」
モーリス王子が王太子として正式に認められる、『立太子の儀式』。その日に行動を起こす事を俺達は前々から決めていた。
「よし! わしらは、その日に向けてもう少し情報を精査する。アレンは開発した魔道具が問題ない事を再度、確認しておくのじゃ。失敗は許されないぞ」
「了解!」
魔道具の確認はもう何度も行ったが、さらに完璧なものにするため、アナベーラ商会の尋問担当者やマークさんにもアドバイスをもらい、不確定要素を廃除していった。これで、仮に予想外の事が起きたとしても大丈夫だろう。
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