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第6章 裏側
179【もう一人の実行犯6 夢への誘い】
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「約束しましたよね? 兄には秘密にしてくださると」
返事が出来ずにいる俺達に、再度アンナさんが話しかけてきた。
「あ……はい。それはもちろんです」
内容が衝撃的過ぎたが、約束は約束だ。破るわけにはいかない。
「それで……本当にいいんですか?」
ユリが耐え切れない様子で聞いた。
「そんな……好きでもない人に無理やり……そんなのアンナさんもダームさんも……」
「ふふ。若いですね」
アンナさんは笑って答える。
「お嬢さん。世の中にはね、生きていくために好きでもない男性に身体を許している女性が、たくさんいるんですよ。私は最初が無理やりだっただけ。今はもう慣れてしまったわ」
アンナさんの答えに、ユリは何も言えなくなっている。
(嘘だ)
直感的にそう思った。慣れたのではない。心が耐え切れずに、壊れてしまったのだ。
俺にはアンナさんの苦しみは分からない。男の俺には、理解できないほど辛いという事しか、分からない。
(もう、今すぐ殺してやりたい……)
カミール王子を殺す準備は出来ている。身分の関係で、後1年待つ予定だったが、その間にも、アンナさんや罪のない女性は苦しんでいるのだ。彼女達を苦しめてまで、待つ必要があるのだろうか。
「アレン。ユリも。殺気が漏れておるぞ。少し落ち着くのじゃ」
「え? あ……」
「ご、ごめんなさい」
ユリも同じ気持ちだったようだ。深呼吸して、心を落ち着ける。
「ふふふ。2人とも、私達のためにありがとう。でもいいんです。私達は大丈夫ですから」
「――! で、でも……」
ユリは納得できないようだ。だが、アンナさんが覚悟を決めている以上、俺達がアンナさんに何かを言うのは、アンナさんの重荷にしかならないだろう。
「アンナさん。1つだけ教えてください。先ほどおっしゃっていた『ここの医者がダームさんの首に押し当てた』魔道具ってどこにあるんですか?」
「え? ああ、あの魔道具はお医者様が毎回もって帰っています。だから、どこにあるかは、私も知らないんです」
「……そうですか。分かりました。色々ありがとうございます。今日はこれで失礼しますね。約束は守りますので安心して下さい。」
「――ちょ!? お兄ちゃん!?」
「ふふ。ありがとうございます。私の事は良いので、兄をよろしくお願いします」
「ええ。必ず――」
俺は、一礼してから病室を後にした。無表情のおばあちゃんと、納得いっていないと言った様子のユリも、ついてくる。
「お兄ちゃん! なんであんな――」
「いいから。行くよ」
病室から十分離れた所で、声を落としておばあちゃんに聞いた。
「(ここの医者がいる場所って分かる?)」
「(おそらく、1階の中央の部屋じゃ。狙いは例の魔道具かの?)」
「(うん。盗むとバレるからその場で『鑑定』する。数秒見れればいいんだ。出来る?)」
「(任せるのじゃ!)」
おばあちゃんが胸を張って答えてくれる。俺の身内は本当に頼もしい人達ばかりだ。俺が何かするつもりだと理解したユリも黙ってついてきてくる。
「(まずは皆で1階に降りるぞ。1階について人目が無い場所に移動したら、ユリがアレンをおぶるのじゃ)」
「(了解!)」
「……え?」
ユリは即答したが俺は思わず聞き返した。
「(俺、ユリにをおぶってもらうの?)」
「(そうじゃ。病院の中央の部屋に入るのは、目視出来ぬ速さで音を立てずに潜入するしかない。じゃが、おぬしは『強化』魔法が使えんじゃろ? ならば、わしかユリがおぶって連れていくしかない。ユリにおぶられるのが嫌ならわしがおぶるが――)」
「(――だめ! お兄ちゃんは私がおんぶするの!)」
「(……と、いうわけじゃ。分かったか?)」
「(………………分かった)」
俺をおぶったまま、目視出来ない速さで動く。正直、ユリに出来ないとは全く思わないのだが、おぶわれた俺が無事でいる自信が無い。
(……任せるしかないよな)
俺は覚悟を決めた。
結果的に、俺の覚悟は必要なかった。というのも、ユリの背におぶわれた次の瞬間には、中央の部屋に侵入していたからだ。
「(……ユリ、『転移』魔法使った?)」
「(? ううん。普通に走ったよ。あ、お兄ちゃんの重心がぶれないように走ったから、揺れなかったんじゃない?)」
そういう問題なのだろうか。慣性の法則を無視している気がするのだが……。
「(細かい事を気にしている場合か! いつ医者が戻って来るか分からないのじゃぞ。早く魔道具を探すのじゃ!)」
「(あ、そうだね。分かった)」
細かい事ではないとは思うが、確かに、今すべき事は、魔道具の『鑑定』だ。俺は急いで部屋全体を『鑑定』する。部屋の中には、複数の魔道具が散乱していたが、壁際に目当ての魔道具を見つけたので、より細かく『鑑定』した。
『名称:夢への誘い 状態:良好 所有者:なし 特性:対象者に現実と区別がつかない夢を見させる。夢の内容は自由。ただし、対象者の首より上に接触させる必要がある』
(よし! 思った通りだ。これなら!)
魔道具の特性が予想通りの物だったので、この魔道具を複製できるように、さらに注意深く『鑑定』する。
(脳に干渉……『回復』と『属性』と『強化』の重ね掛けか……後は……よし、何とかなりそうだ!)
『付与』されている魔法の属性とイメージはだいたい理解できた。これなら、ユリの手を借りて、この魔道具の複製を作ることが出来るだろう。
「(お兄ちゃん! 誰か来る!)」
外を警戒していたユリが声を上げた。おばあちゃんが俺を見てきたので、『もう大丈夫』という意味を込めて頷く。
「(了解! 脱出しよう!)」
俺はユリにおぶってもらうため、ユリの後ろからおぶさった。
「キャッ!」
「ぐふっ!」
なぜかユリに肘打ちされてしまう。肘打ちは、綺麗に俺のみぞおちに入り、俺は膝から崩れ落ちた。
「な、なんで……」
「(お兄ちゃんこそ! 急に何!?)」
顔を真っ赤にしたユリが俺を睨みつける。
「え? い、いや……脱出って……」
「(いや、アレンよ。脱出は『転移』でいいのだから、おぶってもらう必要はないじゃろ)」
「……あ」
行きが強行突破だったため、帰りもそうだと思ったのだが、帰りはユリがマーキングしている場所に『転移』すればいいのだ。当然おぶってもらう必要はない。
意味もなく後ろからおぶさった俺に、ユリは反撃したのだというのは分かったのだが、もう少し手加減して欲しかった。
「誰かいるのか?」
部屋の外から声がする。俺達が……というより俺が馬鹿な事をやっている間に、先ほどユリが見つけた人がこっちに来てしまったようだ。
(やばっ!)
「(ユリよ!)」
「(うん!)」
おばあちゃんが俺達の側に来たのを確認して、ユリが『転移』を起動する。
間一髪、ガチャっと音がして扉が開く瞬間に、ユリの『転移』で脱出する事が出来た。
返事が出来ずにいる俺達に、再度アンナさんが話しかけてきた。
「あ……はい。それはもちろんです」
内容が衝撃的過ぎたが、約束は約束だ。破るわけにはいかない。
「それで……本当にいいんですか?」
ユリが耐え切れない様子で聞いた。
「そんな……好きでもない人に無理やり……そんなのアンナさんもダームさんも……」
「ふふ。若いですね」
アンナさんは笑って答える。
「お嬢さん。世の中にはね、生きていくために好きでもない男性に身体を許している女性が、たくさんいるんですよ。私は最初が無理やりだっただけ。今はもう慣れてしまったわ」
アンナさんの答えに、ユリは何も言えなくなっている。
(嘘だ)
直感的にそう思った。慣れたのではない。心が耐え切れずに、壊れてしまったのだ。
俺にはアンナさんの苦しみは分からない。男の俺には、理解できないほど辛いという事しか、分からない。
(もう、今すぐ殺してやりたい……)
カミール王子を殺す準備は出来ている。身分の関係で、後1年待つ予定だったが、その間にも、アンナさんや罪のない女性は苦しんでいるのだ。彼女達を苦しめてまで、待つ必要があるのだろうか。
「アレン。ユリも。殺気が漏れておるぞ。少し落ち着くのじゃ」
「え? あ……」
「ご、ごめんなさい」
ユリも同じ気持ちだったようだ。深呼吸して、心を落ち着ける。
「ふふふ。2人とも、私達のためにありがとう。でもいいんです。私達は大丈夫ですから」
「――! で、でも……」
ユリは納得できないようだ。だが、アンナさんが覚悟を決めている以上、俺達がアンナさんに何かを言うのは、アンナさんの重荷にしかならないだろう。
「アンナさん。1つだけ教えてください。先ほどおっしゃっていた『ここの医者がダームさんの首に押し当てた』魔道具ってどこにあるんですか?」
「え? ああ、あの魔道具はお医者様が毎回もって帰っています。だから、どこにあるかは、私も知らないんです」
「……そうですか。分かりました。色々ありがとうございます。今日はこれで失礼しますね。約束は守りますので安心して下さい。」
「――ちょ!? お兄ちゃん!?」
「ふふ。ありがとうございます。私の事は良いので、兄をよろしくお願いします」
「ええ。必ず――」
俺は、一礼してから病室を後にした。無表情のおばあちゃんと、納得いっていないと言った様子のユリも、ついてくる。
「お兄ちゃん! なんであんな――」
「いいから。行くよ」
病室から十分離れた所で、声を落としておばあちゃんに聞いた。
「(ここの医者がいる場所って分かる?)」
「(おそらく、1階の中央の部屋じゃ。狙いは例の魔道具かの?)」
「(うん。盗むとバレるからその場で『鑑定』する。数秒見れればいいんだ。出来る?)」
「(任せるのじゃ!)」
おばあちゃんが胸を張って答えてくれる。俺の身内は本当に頼もしい人達ばかりだ。俺が何かするつもりだと理解したユリも黙ってついてきてくる。
「(まずは皆で1階に降りるぞ。1階について人目が無い場所に移動したら、ユリがアレンをおぶるのじゃ)」
「(了解!)」
「……え?」
ユリは即答したが俺は思わず聞き返した。
「(俺、ユリにをおぶってもらうの?)」
「(そうじゃ。病院の中央の部屋に入るのは、目視出来ぬ速さで音を立てずに潜入するしかない。じゃが、おぬしは『強化』魔法が使えんじゃろ? ならば、わしかユリがおぶって連れていくしかない。ユリにおぶられるのが嫌ならわしがおぶるが――)」
「(――だめ! お兄ちゃんは私がおんぶするの!)」
「(……と、いうわけじゃ。分かったか?)」
「(………………分かった)」
俺をおぶったまま、目視出来ない速さで動く。正直、ユリに出来ないとは全く思わないのだが、おぶわれた俺が無事でいる自信が無い。
(……任せるしかないよな)
俺は覚悟を決めた。
結果的に、俺の覚悟は必要なかった。というのも、ユリの背におぶわれた次の瞬間には、中央の部屋に侵入していたからだ。
「(……ユリ、『転移』魔法使った?)」
「(? ううん。普通に走ったよ。あ、お兄ちゃんの重心がぶれないように走ったから、揺れなかったんじゃない?)」
そういう問題なのだろうか。慣性の法則を無視している気がするのだが……。
「(細かい事を気にしている場合か! いつ医者が戻って来るか分からないのじゃぞ。早く魔道具を探すのじゃ!)」
「(あ、そうだね。分かった)」
細かい事ではないとは思うが、確かに、今すべき事は、魔道具の『鑑定』だ。俺は急いで部屋全体を『鑑定』する。部屋の中には、複数の魔道具が散乱していたが、壁際に目当ての魔道具を見つけたので、より細かく『鑑定』した。
『名称:夢への誘い 状態:良好 所有者:なし 特性:対象者に現実と区別がつかない夢を見させる。夢の内容は自由。ただし、対象者の首より上に接触させる必要がある』
(よし! 思った通りだ。これなら!)
魔道具の特性が予想通りの物だったので、この魔道具を複製できるように、さらに注意深く『鑑定』する。
(脳に干渉……『回復』と『属性』と『強化』の重ね掛けか……後は……よし、何とかなりそうだ!)
『付与』されている魔法の属性とイメージはだいたい理解できた。これなら、ユリの手を借りて、この魔道具の複製を作ることが出来るだろう。
「(お兄ちゃん! 誰か来る!)」
外を警戒していたユリが声を上げた。おばあちゃんが俺を見てきたので、『もう大丈夫』という意味を込めて頷く。
「(了解! 脱出しよう!)」
俺はユリにおぶってもらうため、ユリの後ろからおぶさった。
「キャッ!」
「ぐふっ!」
なぜかユリに肘打ちされてしまう。肘打ちは、綺麗に俺のみぞおちに入り、俺は膝から崩れ落ちた。
「な、なんで……」
「(お兄ちゃんこそ! 急に何!?)」
顔を真っ赤にしたユリが俺を睨みつける。
「え? い、いや……脱出って……」
「(いや、アレンよ。脱出は『転移』でいいのだから、おぶってもらう必要はないじゃろ)」
「……あ」
行きが強行突破だったため、帰りもそうだと思ったのだが、帰りはユリがマーキングしている場所に『転移』すればいいのだ。当然おぶってもらう必要はない。
意味もなく後ろからおぶさった俺に、ユリは反撃したのだというのは分かったのだが、もう少し手加減して欲しかった。
「誰かいるのか?」
部屋の外から声がする。俺達が……というより俺が馬鹿な事をやっている間に、先ほどユリが見つけた人がこっちに来てしまったようだ。
(やばっ!)
「(ユリよ!)」
「(うん!)」
おばあちゃんが俺達の側に来たのを確認して、ユリが『転移』を起動する。
間一髪、ガチャっと音がして扉が開く瞬間に、ユリの『転移』で脱出する事が出来た。
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