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第5章 転換期

145【魔道具開発15 魔道具の名称】

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「すみません、マークさん。試し打ち用の魔道具を壊してしまって……」

 魔法銃の威力に茫然としてしまったが、まずは試し打ち用の魔道具を壊してしまった事を謝るべきだろう。そう思って、マークさんに謝罪したのだが、

「あぁ、いえ。気にしないでください。私にも予想外の事でしたから。むしろこんなに素晴らしい魔道具が作られるところに立ち会えた事に、感謝しているくらいです。ありがとうございます」

 まさかお礼を言われるとは思っていなかった。

「そう言って頂けると助かります。――それじゃユリ、保管庫にある他の魔法銃の弾にも同じ機能を付与しに行こうか」
「了解だよ! って、魔法銃?」
「あ、うん。機能を追加したから、名前も変えようかなって。性能的にただの銃じゃなくて、魔法銃の方がしっくりくるからね」

 実は、先ほど俺が心の中で魔法銃と命名した後、銃を『鑑定』してみたところ、『名称:魔法銃』となっていたのだ。

(名称の変え方についてマークさんに聞こうと思ってたんだけど勝手に変わってたんだよな。どういう理屈なんだろう)

「なるほど……いい名前ですね。魔法銃も気に入っているようです」

 マークさんも魔法銃を『鑑定』して名称が変わっていることに気付いたのだろう。

「魔法銃自身が気に入る?」
「ええ。魔道具が気に入らない名前を付けようとしても、『鑑定』の名称は変わりません。『銃』も『魔法銃』も魔道具に気に入られたから名称が変わったのですよ」

 まるで魔道具に意思があるような物言いだが、言いたいことは何となく分かる。魔道具に機能を付与する時に魔道具の意思のようなものを感じる時があるのだ。

「そうなんですね。気に入ってもらえたなら良かったです」

 俺は魔法銃を見て呟いた。

「良かったね、魔法銃。お兄ちゃんの命名センスが美的センス並みに壊滅的じゃなくて」
「……」

 何となく魔法銃が同意したような気がするのは、気のせいだと思っておこう。



 その後、俺の実験室に戻ってユリと一緒に残りの弾に付与を行った。1回の付与で、残りの弾全てに付与できるので、簡単な作業だ。

「さて、アレンさん、ユリさん。はれてお二人とも当初の目的を達成されたわけですが、この後はどうされますか?」

 俺は武器の作成、ユリは『創作』以外の全ての属性を修める事を目的としていたが、それは達成してしまった。

「そうですね……俺の誕生日には一度家に戻るつもりですので、それまではここで魔道具の改良をしていようかなと」

 お店の開店準備はほとんど終わっている。ミッシェルさんとカートンさんのおかげで従業員の目途も経ったし、流通もミッシェルさんの口利きで良い業者と契約が結べた。後は、誕生日の1か月後の開店日を迎えるだけ、という状態だ。

(貴族院から手紙をもらってすぐ王都に着ちゃったけど、手続きとかを考えると、誕生日を迎えて成人してから王都に来た方が色々楽だったんだよな。まぁ、そのおかげで魔法を修める時間が取れたんだから良かったけどね)

「私は……魔法の練習をしたいです! 魔導書は読み切りましたが、まだまだマークさんに遠く及ばないので」

 ユリはマークさんを新たな目標にしたらしい。

(それは……ちょっと無謀じゃないかな?)

「おや? 私を目指しますか。ふふふ、いいでしょう。ユリさんにはその素質があります。私がみっちり鍛えてあげますよ。アレンさんも実験室は好きに使ってください。もし私の実験室に必要な物がありましたらお貸ししますので言ってくださいね」
「「はい! ありがとうございます!」」

 こうして、家に戻るまでの間、俺は魔道具の改良、ユリは魔法の練習をする事になった。

 俺は順調にマークさんの失敗作を改良していったのだが、ユリはどうも理想が高すぎるようだ。夕食のたびに、『マークさんに勝てない』と愚痴っている。

(経験が違うんだから仕方ないと思うけどな。まぁ、目標を高く持つことは良い事か)

 マークさんの指示で週に一度は休息日を設けてユリと二人で王都を散策した。サーカイル王子の件があって以来、俺もユリも1人での外出は控えている。

 たまにモーリス王子と一緒にメン屋で昼食をとって、情勢について聞くのだが、どうやらサーカイル王子が色々あがいているようだ。あの件以来、大々的に反抗の姿勢を示しているらしいく、『おかげで大変だ』とモーリス王子が愚痴っていた。





 そんな風に日々を過ごしていたら、あっという間に3ヶ月が経過し、王都を離れる日がやってくる。

「マークさん、本当に色々お世話になりました!」
「1か月半後にまた戻ってきます! それまでにもっともっと魔法の練習をしておくので、戻ってきたら、また魔法を教えてください!」

 俺とユリは王都を離れる前にお世話になった人に挨拶して回った。まずは、一番お世話になったマークさんからだ。

「こちらこそ、とても楽しい時間を過ごさせて頂きました。気を付けて行って来てくださいね。特にユリさん。夜9時を超えたら魔法の練習は止める事、1週間に1度は休息日を取る事。約束ですよ」
「わ、分かってます!」
「……はぁ。アレンさん、ちゃんと監視してくださいね」

 ユリはよく魔法の練習に熱中しすぎてマークさんに怒られていた。マークさんがブレーキになっていたのだが、マークさんの元を離れているときは俺がブレーキにならないと、ユリは絶対に暴走するだろう。

「はい! やりすぎていたら無理やり休ませます」
「ちょ、お兄ちゃん!?」
「ふふふ。お願いしますね。さて、お二人に私から餞別です。まず、ユリさんにはこちらを」

 そう言ってマークさんはユリにエメラルドが付いた指輪を渡した。

「指輪……ですか?」
「ええ。正確にはアミュレットです」

 エメラルドの石言葉は『幸福』『幸運』『希望』で魔除けの効果もあると言われている。アミュレットにするにはぴったりの石だ。それに、エメラルドの綺麗な緑は、ユリの眼の色にもあっている。

「うわぁ……ありがとうございます! 大事にします!」

 ユリはその指輪を大事そうに右手の小指にはめた。

(ん? あれ? あの指輪……ただのアミュレットじゃなくて魔道具だ。マークさん、気付いていない……わけないよな? なら『鑑定』するのは無粋か)

 どのような機能が付与されているのかは分からないが、マークさんが変な機能が付与された指輪をユリに渡すことはないだろう。

「そして、アレンさんにはこれです」
「これ……プレート!?」

 マークさんが俺に差し出してくれたものは、魔導書貸出店で何度も見た、実験室に入る扉を出現させるプレートだった。プレートは特許の関係で自作できなかったので、戻ってくるまで実験室は使えないと思っていたのだが、これさえあればどこからでも実験室に入れる。

「ええ。これは私が持っているより、アレンさんが持っていた方が有効に使えるでしょう。どうぞ、持って行ってください」
「ありがとうございます! 嬉しいです!」

 俺はプレートを自分の荷物にしまった。

「さて、それではお二人ともお元気で。次会う時に元気な姿を見れる事を楽しみにしていますよ」
「「はい! 色々とありがとうございました!」」

 最高の餞別を貰った俺とユリは、マークさんに見送られて魔導書貸出店を後にする。

 その後、ピリムさんやカートンさんに挨拶をして、俺達は王都を後にした。
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