知識チートの正しい使い方 〜自由な商人として成り上ります! え、だめ? よろしい、ならば拷問だ〜

ノ木瀬 優

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第5章 転換期

137【魔道具開発7 魔法の付与】

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 マークさんも『強化』魔法を使えると分かったが、せっかくなので、『強化』の付与はユリに協力してもらう事にした。ユリが『強化』をかけた状態で俺が『創作』を使い、魔道具に魔法を付与するのだ。

「えっと……それじゃ、これに『強化』をかければいいの?」
「うん。魔道具の強度を『強化』してほしいんだ。出来そう?」
「強度の『強化』……うん! 出来そう!」

 ユリは少し考えると、確信をもって答えてくれる。

「よし、それじゃ『強化』をかけてみて」
「分かった! ――ふんっ!」

 力強い掛け声とともにユリが『強化』をかけてくれた。

「んぐ……ん……ぐう」

全身に力を入れているようで、歯を食いしばりながら魔法をかけ続けている。

(そんなに力む必要あるのかな?)

 魔道具は白い光を放っており、『強化』は問題なく発動しているようだ。俺も『創作』を発動し、ユリの魔法を魔道具に付与する。

(お! 魔道具に『強化』がかかってるのが、はっきり分かる! あれ、でもこれだと魔法と魔道具が……あ、なるほど! この二つをいいのか!)

 『創作』を発動した俺には、『強化』と魔道具の関係を理解することができた。『強化』は魔道具の周囲を覆ってはいるものの、その二つが反発しているように感じたのだ。今はユリの意思でこの二つがくっついているが、ユリが魔法を解除すれば、『強化』は魔道具から離れて行くだろう。

(この『強化』と魔道具を反発しないようにして……この二つをくっつければ……お、出来たぞ!)

 俺は唐突に理解した。

 魔法は、魔法使いの意思で対象物の周囲にいるが、その二つは反発しあっている。それらを『創作』で反発しないようにしてからくっつけることで、対象物の中に魔法が残り続ける。魔力が無ければ、その魔法は発動しないが、誰かが魔力を注げば、再び魔法が発動する。それが、魔道具なのだ。

(反発しないようにしてくっつける。これが魔道具の作り方か……あの反発は魔法や素材の相性で変わるのかな? 色々試してみたい!)

 俺が思考を巡らせていると、ユリの声が聞こえてくる。

「ぐ……ぐ、うう……お、兄ちゃん……ま、まだ?」

 ユリの声はとても苦しそうだった。おそらく、ずっと力んでいるせいだろう。

「ごめん! もう大丈夫! 成功したよ!」
「――っぷは! ……はぁ……はぁ……はぁ……お兄……ちゃん? ……はぁ……はぁ……終わった……なら……はぁ……はぁ……教えて、よ」

 疲労困憊のユリに怒られてしまった。

(……終わったのだいぶ前なんだけと……言わない方が良いかな?)

 決して保身のためではなく、ユリにショックを与えないためだ。断じて、ユリに怒られるのが怖いからではない。そんなことを考えていると、俺達を見守っていたマークさんが話しかけてきた。

「お二人ともお疲れさまでした。見事、『強化』の付与に成功したみたいですね。ですが、いくつか指摘する事があります。まず、ユリさん。『強化』魔法をかける際に、全身に力を入れる必要はありません。あれでは疲れてしまいますよ。それに、力んだところで、魔力は増えません。むしろ、心を穏やかにし、身体をリラックスさせた方が、強い魔力を発揮できるでしょう」
「う……はい。気を付けます」
「次にアレンさん。アレンさんは魔法の使用については特に問題ありません。魔道具の作り方についても、しっかりと理解されたようですね。アレンさんの問題点は協調性です」
「協調性……ですか?」
「ええ。魔道具への付与はとっくに終わっているのに、ユリさんに声をかけてあげないのは可哀想ですよ?」
「あ……」
「……え?」

 マークさんから指摘という名の爆弾が投げ込まれた。その意味を理解したユリがゆっくりとこちらを向く。

「……お兄ちゃん?」
「……はい」
「付与……とっくに終わってたの?」
「えっと……その……うん。……ごめん」
「………………」
「ゆ、ユリ?」
「……ケーキ」
「え?」
「キュリアス商会のケーキ3つで許してあげる」
「あ、はい! 後で買ってきます!」

 思わず敬語になってしまう。

「ふふふ、ユリさんは優しいですね」

 爆弾の行く末を見届けたマークさんはとても楽しそうだ。

「そんなことないですよー。付与が終わっている事に気づいていながら、私が魔法をかけ続けているのを黙って見ていたマークさんの明日のお昼ご飯を、どうしてやろうかなって考えていた所ですから」
「おや。では明日のお昼は、食べる前にアレンさんの分と『転移』で入れ替えておきましょう」
「え? それは……そんなことしたら……うぅ……」

 ユリの攻撃もどこ吹く風といった様子で受け流している。

(この人……いじわるっていうより、いたずら好きなんだな……)

「ふふふ。話が逸れてしまいましたが、指摘事項は以上です。アレンさん、魔道具を『鑑定』してみてください」
「……分かりました」

 マークさんに言われた通り、『鑑定』をすると、情報が頭に流れてきた。

『名称:なし 状態:安定 所有者:アレン=クランフォード 特性:2つの機能を有している。1つ目、爆発の力で弾を飛ばす。2つ目、強度を高める』

 以前書かれていた『強度が足りないため、暴発する危険性が高い』という特性はなく、『強度を高める』という特性が追加されている。

「成功しています。 強度も問題なさそうです」

 こうして俺は、初めての魔法付与を成功させたのだ。
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