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第5章 転換期
129.【王都出店11 秘密の昼食】
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「いらっしゃい! ……あ、これはこれは。今日も、ですか?」
ピリムさんが入店してきた俺達に気付いて声をかけてきた。
(これ……ピリムさん、モーリス王子だって気付いてるよな? そう言えば、『お忍びで来て下さる』って言ってたっけ)
周りにバレないレベルではあるが、ピリムさんの接客態度が変わったのが分かる。
「ああ、頼む。部屋は空いているか?」
「ええ、もちろん! あら? アレン君も一緒なの?」
「ええ、まぁ……」
「あぁ、そう言えばこのお店の事はそちらの方から伺ったって言ってたものね。それじゃ、アレン君も奥の部屋で良いのかな?」
「あ、えっと……」
「そうしてくれ」
「承知しました! 2名様ご案内です!」
俺が理解できないうちに話が決まってしまった。
(まあ、いっか……)
ピリムさんに案内されて奥の部屋へ向かう。
「こちらです。どうぞ、お入りください」
案内された個室には、過度な装飾品等は無いものの、置かれたテーブルや椅子等は店内に置かれている物より、明らかに高価な物が置かれていた。
(お偉いさん……というより、モーリス王子専用の個室かな?)
モーリス王子に続いて部屋に入り椅子に座る。
「ご注文はお決まりですか?」
「うむ。余はソバを貰おう。アレン、そちはどうする?」
「あ……俺はパスタをお願いします」
「ソバを1つにパスタを1つですね。少々お待ちください」
注文を聞き終えたピリムさんが部屋を出て行く。扉が完全に閉まった事を確認してからモーリス王子は息を吐き出して姿勢を崩した。
「ふー……ようやく一息つけるな。ああ、この部屋は防音仕様だ。盗聴対策もしてあるから気を楽にしてくれ」
姿勢を崩したモーリス王子からは、先ほどまでの気品は感じられない。
(休みの日に自宅でくつろいでる小学生にしか見えないな……)
王宮で何度か会話したが、ここまでくつろいだ姿を見たのは初めてだ。
「どうした? 楽にしていいんだぞ?」
「お言葉ですが、モーリス王子。王子の前で楽になんてできません」
「固いこと言うな。同じ転生者なんだ。ここは王宮と違って監視の目は無いし、楽にしてくれよ」
確かに王宮で会話した時は、防音の魔道具を使っていたものの、同じ部屋に執事がいた。口調を多少崩す事は出来ても、姿勢を崩す事は出来なかったのだろう。
「なぁ、頼むよ……王子っていつも気を張ってなきゃいけなくて辛いんだ。俺を助けると思って砕けた感じで話してくれ」
「……わかり……分かった。これで良い? ……不敬罪なんて言わないよね?」
「ああ、ありがとう。嬉しいよ。もちろん不敬罪なんか気にしなくていい」
モーリス王子は満面の笑みを見せた。本当に対等な関係に飢えていたようだ。
「なんていうか……本当に王子って大変なんだね」
「そうなんだよ! 親父から『未来の王太子』って言われてから本当に辛い……覚えることも増えたし、マナーの先生からの指摘も厳しくなるし……知ってる? ご飯の好き嫌いを言うと、『貴方が嫌いと言った食べ物を作っている領の者を殺すつもりですか!』って怒られるんだよ……アレンにはよく愚痴らせてもらってるけど、あれでも我慢してるんだ」
王宮でモーリス王子とあった時は、主にお兄さん達の事を愚痴られているが、生活の事を愚痴られたことはない。恐らく、姿勢を正して、気を張ったまま、生活の事を愚痴ることが出来ないのだろう。王宮内では常に気を張っているとなると、その苦労は計り知れない。
「お疲れ様……そう言えば、お兄さん達はあれからどうなの?」
「ああ。そっちは大分落ち着いたかな。もう諦めて俺のおこぼれにあやかる方にシフトしたのかも。カーミル兄さんは邪魔しなくなったし、サーカイル兄さんは協力的になった。これで色々はかどるだろうな」
「それは意外だね。モーリス王子が正式に王太子になるまでは色々妨害してくると思ったけど……」
「ま、協力していると見せかけて妨害してくるかもしれないから気は抜けないけどね。今のところ、その予兆は無いよ」
「そっか。なら良かった」
俺がそう言ったところでテーブルの上のランプが青く光った。
「お、料理が出来たようだ。悪いんだが今だけ気を引き締めて扉を開けてきてくれないか?」
どうやら青いランプが点灯する事が、料理が出来た合図のようだ。防音の聞いた部屋では、ノックよりランプの方が効果的なのだろう。とはいえ、こちらから返事は出来ないし、モーリス王子に扉を開けさせるわけにもいかないので、俺が扉を開けるのは必然だ。
「ふー……もちろんです。少々お待ち下さい」
俺は気を引き締めてから扉を開ける。そこにはソバとパスタを手にしたピリムさんがいた。
「お待たせしました。こちら、ご注文のソバとパスタです」
「ありがとうございます。机の上にお願いします」
「承知しました」
ピリムさんがソバをモーリス王子の前に、パスタをその向かいに置き、さらに食器を並べて行く。
「ご注文の品はお揃いでしょうか?」
「はい、大丈夫です」
「ありがとうございます。それでは、ごゆっくりどうぞ」
ピリムさんは一礼してから部屋を後にする。その間、モーリス王子は一言もしゃべらなかった。扉が完全に閉まった事を確認してからモーリス王子が口を開く。
「ありがとう、助かったよ。『王族は自分で扉を開けて人を出迎えてはならない』し、『王族は気軽にお礼を言ってはいけない』んだと……。ほんと、嫌になるよ」
「あはは……」
モーリス王子の言葉に、俺は曖昧に笑う事しか出来なかった。
ピリムさんが入店してきた俺達に気付いて声をかけてきた。
(これ……ピリムさん、モーリス王子だって気付いてるよな? そう言えば、『お忍びで来て下さる』って言ってたっけ)
周りにバレないレベルではあるが、ピリムさんの接客態度が変わったのが分かる。
「ああ、頼む。部屋は空いているか?」
「ええ、もちろん! あら? アレン君も一緒なの?」
「ええ、まぁ……」
「あぁ、そう言えばこのお店の事はそちらの方から伺ったって言ってたものね。それじゃ、アレン君も奥の部屋で良いのかな?」
「あ、えっと……」
「そうしてくれ」
「承知しました! 2名様ご案内です!」
俺が理解できないうちに話が決まってしまった。
(まあ、いっか……)
ピリムさんに案内されて奥の部屋へ向かう。
「こちらです。どうぞ、お入りください」
案内された個室には、過度な装飾品等は無いものの、置かれたテーブルや椅子等は店内に置かれている物より、明らかに高価な物が置かれていた。
(お偉いさん……というより、モーリス王子専用の個室かな?)
モーリス王子に続いて部屋に入り椅子に座る。
「ご注文はお決まりですか?」
「うむ。余はソバを貰おう。アレン、そちはどうする?」
「あ……俺はパスタをお願いします」
「ソバを1つにパスタを1つですね。少々お待ちください」
注文を聞き終えたピリムさんが部屋を出て行く。扉が完全に閉まった事を確認してからモーリス王子は息を吐き出して姿勢を崩した。
「ふー……ようやく一息つけるな。ああ、この部屋は防音仕様だ。盗聴対策もしてあるから気を楽にしてくれ」
姿勢を崩したモーリス王子からは、先ほどまでの気品は感じられない。
(休みの日に自宅でくつろいでる小学生にしか見えないな……)
王宮で何度か会話したが、ここまでくつろいだ姿を見たのは初めてだ。
「どうした? 楽にしていいんだぞ?」
「お言葉ですが、モーリス王子。王子の前で楽になんてできません」
「固いこと言うな。同じ転生者なんだ。ここは王宮と違って監視の目は無いし、楽にしてくれよ」
確かに王宮で会話した時は、防音の魔道具を使っていたものの、同じ部屋に執事がいた。口調を多少崩す事は出来ても、姿勢を崩す事は出来なかったのだろう。
「なぁ、頼むよ……王子っていつも気を張ってなきゃいけなくて辛いんだ。俺を助けると思って砕けた感じで話してくれ」
「……わかり……分かった。これで良い? ……不敬罪なんて言わないよね?」
「ああ、ありがとう。嬉しいよ。もちろん不敬罪なんか気にしなくていい」
モーリス王子は満面の笑みを見せた。本当に対等な関係に飢えていたようだ。
「なんていうか……本当に王子って大変なんだね」
「そうなんだよ! 親父から『未来の王太子』って言われてから本当に辛い……覚えることも増えたし、マナーの先生からの指摘も厳しくなるし……知ってる? ご飯の好き嫌いを言うと、『貴方が嫌いと言った食べ物を作っている領の者を殺すつもりですか!』って怒られるんだよ……アレンにはよく愚痴らせてもらってるけど、あれでも我慢してるんだ」
王宮でモーリス王子とあった時は、主にお兄さん達の事を愚痴られているが、生活の事を愚痴られたことはない。恐らく、姿勢を正して、気を張ったまま、生活の事を愚痴ることが出来ないのだろう。王宮内では常に気を張っているとなると、その苦労は計り知れない。
「お疲れ様……そう言えば、お兄さん達はあれからどうなの?」
「ああ。そっちは大分落ち着いたかな。もう諦めて俺のおこぼれにあやかる方にシフトしたのかも。カーミル兄さんは邪魔しなくなったし、サーカイル兄さんは協力的になった。これで色々はかどるだろうな」
「それは意外だね。モーリス王子が正式に王太子になるまでは色々妨害してくると思ったけど……」
「ま、協力していると見せかけて妨害してくるかもしれないから気は抜けないけどね。今のところ、その予兆は無いよ」
「そっか。なら良かった」
俺がそう言ったところでテーブルの上のランプが青く光った。
「お、料理が出来たようだ。悪いんだが今だけ気を引き締めて扉を開けてきてくれないか?」
どうやら青いランプが点灯する事が、料理が出来た合図のようだ。防音の聞いた部屋では、ノックよりランプの方が効果的なのだろう。とはいえ、こちらから返事は出来ないし、モーリス王子に扉を開けさせるわけにもいかないので、俺が扉を開けるのは必然だ。
「ふー……もちろんです。少々お待ち下さい」
俺は気を引き締めてから扉を開ける。そこにはソバとパスタを手にしたピリムさんがいた。
「お待たせしました。こちら、ご注文のソバとパスタです」
「ありがとうございます。机の上にお願いします」
「承知しました」
ピリムさんがソバをモーリス王子の前に、パスタをその向かいに置き、さらに食器を並べて行く。
「ご注文の品はお揃いでしょうか?」
「はい、大丈夫です」
「ありがとうございます。それでは、ごゆっくりどうぞ」
ピリムさんは一礼してから部屋を後にする。その間、モーリス王子は一言もしゃべらなかった。扉が完全に閉まった事を確認してからモーリス王子が口を開く。
「ありがとう、助かったよ。『王族は自分で扉を開けて人を出迎えてはならない』し、『王族は気軽にお礼を言ってはいけない』んだと……。ほんと、嫌になるよ」
「あはは……」
モーリス王子の言葉に、俺は曖昧に笑う事しか出来なかった。
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