知識チートの正しい使い方 〜自由な商人として成り上ります! え、だめ? よろしい、ならば拷問だ〜

ノ木瀬 優

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第5章 転換期

128.【王都出店10 予期せぬ会合】

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 翌日、ユリは魔導書貸出店へ向かった。『今日中に新しい属性を修めるの!』とやる気十分だ。

1人店に残った俺はミッシェルさんとカートンさんに『従業員を派遣して欲しい』という内容の手紙を書いた。予想以上にお店が広かったので、それぞれ10人程派遣して欲しいと書いたのだが、正直、5人来てくれればいい方だと思っている。

(どっちの商会も繁盛してるからな……)

アナベーラ商会は王国の西側に支店を拡大していっているので、人手が余っているとは思えない。

 キュリアス商会も、ロイヤルワラントを授与されて以来、王国の東側を中心にかなりの勢いで支店を増やしていった。俺達の支店がある町は王国の東側の外れにあるのだが、そんな町にすら支店を構えている。俺達の支店に挨拶に来た時は本当に驚いた。

 流通についてはミッシェルさんが使っている販路を使わせてもらえることになっているので、特に問題ない。

 従業員の寮も立派なものがすでに備わっていた。

(あれ? 意外とやることが無い?)

 王都で出店! と、意気込んでいたのだが、王都であるがゆえに必要な物はすでに揃っている。授業員と販路さえ確保できれば、他にやることが無かったのだ。

(……ユリの様子でも見に行こう)

 ちょうどお昼時だし、と自分に言い訳しながら、俺も魔導書貸出店へ向かった。



「あ、お兄ちゃん……」
「ユリ!? どうした? 大丈夫か?」

 俺が魔導書貸出店に入ると、ユリはテーブルに突っ伏していた。慌ててユリに駆け寄る。

「うぅ……疲れた……頭重い……」
「へ?」
「新しい魔導書にチャレンジしたんだけど……うぅ……まだ8ページしか進めてない」
「8ページ!?」

 魔導書は『魔道具の作り方』は200ページくらいあった。他の魔導書がどれくらいあるか分からないが、恐らく大差ないだろう。

(それなのにこの疲れ具合なのか……)

「それが普通です。昨日のお二人が異常なんですよ」

 マークさんに話しかけられて、ようやく彼が向かいに座っていたことに気付いた。

「異常……ですか?」
「はい。通常、魔導書を読み切るには数週間から1ヶ月程度かかります。長ければ年単位でかかる人だっているんですよ? 1日で読み切る方なんてまずいません。まぁ、ユリさんの場合、イリスさんのおかげで『強化』の属性への適性が高まっていたというのはありますが、1日で2冊読み切ったアレンさんは異常と言うほかないでしょう」

(まぁ、知識チートのおかげだから異常って言われてもしょうがないか……)

「それより、どうされたんですか? ユリさんからアレンさんはお店の準備をしていると聞いたのですが」
「実は準備がほとんど終わってしまって……ユリの様子を見に来ました」
「ああ、なるほど。王都のお店は色々揃ってますからね。ユリさんはご覧の通りです」
「はむはむはむはむ……」

 マークさんにつられてユリを見ると、ユリは大量のお菓子を頬張っていた。

(え? あれ? お菓子? いつの間に……)

先ほどまで何もなかったテーブルの上に、紅茶の他に大量のケーキやお菓子が置かれている。ユリはそれを片っ端から平らげていたのだ。

「ゆ、ユリ? どうしたの? そのケーキとお菓子は?」
「はむはむはむ……ごっくん! マークさんが出してくれたの! 休憩中は食べれるだけ食べていいって!」

(あ、やっぱり?)

「すみません、マークさん」
「お気になさらないでください。魔導書を読む事は脳みそを使いますので、しっかり糖分を補給することも魔法使いになるために必要な事です。当然、お代は国が出してくれますので、遠慮せずにどんどん召し上がってくださいね」
「はい! ありがとうございます! はむはむ……」

(魔道具貸出店から回ってくるケーキとお菓子の領収書か……決済する人、どんな気持ちなんだろうな)

 前世の会社で、経費で仕事中に食べるお菓子を購入しようとした女性陣を思い出してついそんなことを考えてしまう。

「はむはむ……ごっくん! っぷはー! 美味しかった! マークさんありがとうございます!」
「ふふふ。いい食べっぷりでしたね。たくさん買ってきたかいがありました。この後はどうされますか?」
「もちろん続きを読みます!」
「いい返事です。頑張ってくださいね」
「はい!」
 
 言うが早いか、ユリは魔導書と向き合う。

(これはお昼ご飯に誘う空気じゃないな……。ユリ、頑張れ!)

 俺は心の中でユリを応援し、マークさんにお礼を言ってから魔導書貸出店を後にした。



(さて、どうしようかな……まぁとりあえずお昼食べるか)

 魔導書貸出店を後にした俺は、メン屋に向かう。

(ソバ、ラーメンと来たから、今日はパスタにするか!)

 そんな事を考えていた俺に聞き覚えのある、しかしこんなところで聞くはずのない声に呼び止められた。

「おや? アレンじゃないか? 久しぶりだな! ん? あ! まさかお前、メン屋の隣に出店したのか!? なんて羨ましい……俺は王宮から週に1回来れればいい方だというのに……」

 聞き間違いだと思いたい。だが、王宮からわざわざメン屋にお昼を食べにくる人物など、1人ぐらいしかいないだろう。俺が振り向くと、そこには案の定、この国の第三王子である、モーリス王子がいた。

「こんなところで何をなさっているんですか!?」
「何って……昼ご飯を食べに来たに決まっているだろ? アレンもメン屋に行くところなんだろ? 一緒に行こう!」

 『そういう意味じゃない!』と突っ込みを入れたいが、王子相手に突っ込める度胸は無い。また、王子からの誘いを断る度胸もない俺は、モーリス王子と一緒にメン屋に向かったのだった。
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