知識チートの正しい使い方 〜自由な商人として成り上ります! え、だめ? よろしい、ならば拷問だ〜

ノ木瀬 優

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第5章 転換期

124.【王都出店6 魔法のリスク】

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「良い返事です。では、さっそく魔導書を手に取ってください」
 
 そういってマークさんは俺達に魔導書を差し出した。

「私から見て適性がありそうな魔導書です。特にユリさんは初めてですので、まずはそれから試してみましょう」
「「はい!」」
 
 俺が新しい魔導書を受け取ると、先ほどと同じように手に吸い付いてくる。そして、順番にページがめくられていく。

(『光には色がある』……まぁ、当たり前の事だな。『人間が見える光は赤から紫まで7種類の色に分類される』……光の波長の事かな? お、ページがめくられた。正しい理解だったみたいだ。『魔力はこの7種類とは異なる色に分類される』……紫外線とか赤外線か? ……あれ、ページがめくられない? 波長の長さじゃなくて種類が違うって事か? お! めくられた! なるほど……)

 そのページを理解すると次のページに進めるようだ。俺は魔導書を読む進めて行き、またしても最後のページまで読み切ることが出来た。2度目のためか、先ほどのようにくらくらするような事もない。。
 
(慣れたのかな。それにしてもまた読み切れた! やっぱりこれが俺のチートか!)
 
 魔導書の表紙を見ると、『魔眼の定め方』と書いてあった。

(定め方? いやそれより魔眼って……中二か! かっこいいけどね! 昔はあこがれたけどね……うおぉぉ、なんかくすぐったいぞ!)
 
 内心悶えている俺にアレンさんが声をかける。
 
「お疲れ様です、アレンさん。こちらの表紙は読めるようになりましたか?」
「はい! 『魔眼の定め方』と書いてありました」
「素晴らしい! 無事に『鑑定』の属性を修めたようですね。体調は大丈夫ですか?」
「大丈夫です! 慣れたのか、頭痛もしません」
「そうですか……1日で2冊読み切るというのは通常ありえないのですが……本当に素晴らしい才能をお持ちですね。ちなみに魔導書を読む事に『慣れる』という概念はありません。楽に読めたのは、アレンさんが、『創作』より『鑑定』に適性があるため事ですよ」
「なるほど……ってあれ? 『鑑定』? それってマークさんと同じ……」

(てっきり『魔眼』って属性なのかと思ってた……)

「そうですね。ですが、厳密にいえば『同じ』ではありません。魔法は個人差が大きいのです。同じ『鑑定』の属性でも私は人の鑑定が得意です。対して、アレンさんは……いえ、この先はご自分で試された方が楽しいですね。さて、ユリさんはそろそろ限界かな?」

 そう言ってマークさんはユリの方を見る。

「ユリ!」

 ユリは顔をこわばらせて魔導書を読んでいた。半分程ページがめくられているが、そのスピードはかなりゆっくりだ。
 
「ユリさんもやりますね。先ほども言いましたが、いきなり半分以上読める方はなかなかいません。ですが……」
 
 ページがめくられる毎にそのスピードはゆっくりとなり、ついには止まってしまう。

「うぅ……ううぅぅ……」

 ユリは苦しそうな表情を浮かべて魔導書を見つめているが、そのページが動くことはない。

「ユリ!」
「ユリさんに触れてはいけませんよ」

 思わずユリに駆け寄ろうとした俺をマークさんが止める。

「彼女は全神経を集中して魔導書を理解しようとしています。今、外部からの刺激は邪魔にしかなりません」

マークさんにそう言われては、俺は黙って見つめるしかできない。

「ユリ……頑張れ……」

ユリの顔はさらにこわばり、ついには頭を抱えてうずくまってしまった。その手から魔導書が抜け落ち、床に転がる。
 
「ユリ!」
「はぁーはぁーはぁー……、うぅぅ 頭が……、」
「頑張りましたね。こちらをどうぞ」
 
 マークさんがどこからかタオルと飲み物の入ったコップを取り出し、俺に差し出してくれた。受け取ったタオルをユリの頭にかけて、コップを口元に差し出す。
 
「ほら、飲めるか」
「はぁーはぁー……、うぐっ、うぐっ、うぐっ…………ふー」
 
 ユリは受けとったコップを一気に飲み干す。
 
「ふーふー……甘い……」
「魔導書を読むと、大量の情報が強制的に流れ込むため、頭が疲れてしまうんです。そういう時は甘いものが一番ですよ」
「ありがとうございます。落ち着きました。あっ! ごめんなさい! 魔導書を落としてしまって!」
 
 慌てて落としてしまった魔導書を探すが近くの床にはない。慌てたユリが立ち上がって周りを探そうとするが、足がふらついてしまい、立ち上がることができなかった。
 
「大丈夫ですよ。魔導書はあちらです」
 
 マークさんが壁を指さす。すると、そこには先ほどまでユリが手にしていた魔導書が置いてあった。
 
「一定時間、誰も触れなかった場合、元の場所に戻るようになっています。魔導書を読んだ後に元の場所に戻す体力が残っているかわかりませんからね」
「え?」
「魔導書を読むことは、それだけ大変ということです。1日で2冊読み切れるアレンさんが異常なんですよ。それに、ページが開かれると、そのページの情報は強制的に頭に入り続けます。入ってくる情報に耐え切れず、何とか本を手放そうと暴れまわり、そのまま発狂してしまう方もいるんですよ?」
「「――!?」」 

(後出しでなんてこと言うんだ!!)
 
 思わずマークさんを睨んでしまうが、睨まれたマークさんは楽しそうに笑っている。
 
「大丈夫です。魔導書をお渡しする前に、お二人の能力は『鑑定』しています。耐えられると思ったので、お渡ししたんですよ」
「……」 

 マークさんは優しい笑みを浮かべていた。人を安心させる優しい笑みだったが、俺は気付いてしまった。
 
(思い返してみると、この人、最初店にいなかったよな。俺達が店内に誰もいないことを確認した後に声をかけてきた。本が魔導書だって教えてくれた時といい、今といい、俺達がびっくりした時に楽しそうな笑みを浮かべてたような……あー、この人、どSだ……)
 
 ユリを見るとユリもこちらを見ていた。おそらく、ユリも気づいたのだろう。マークさんがとても親切で優しい、そして、いたずら好きなめんどくさい性格の持ち主だということに。
 
「……マークさん、優しいけどいじわるなんですね」
 
(直球だな!? いじわるされた事を根に持ってるのかな?)
 
「ええ、自覚しています。『人を驚かすこと』は『新たな魔法使いを誕生させる』に次ぐ、私の数少ない楽しみなので」
 
(あ、認めちゃうんだ……)

 ユリはむすっとしていたが、マークさんが気分を害した様子はない。
 
(……ま、いっか)

 俺は気にしないことにした。
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