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第4章 王都にて

105.【謁見2 頼み事】

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 モーリス王子に言われたので、俺達はソファーに座った。正面のソファーに俺とクリスと父さん。右隣のソファーに母さんとユリ、バミューダ君が座っている。

 俺達がソファーに座ると、壁際に控えていた男性が手早くお茶を淹れてくれた。

「これで話しやすくなったな。改めて余がモーリス=ルーヴァルデンだ」
「御尊顔を拝し、恐悦至極に存じ――」
「――あー、そこまで畏まらずともよい。この会合は公式の物ではあるが、記録係がいる物ではない。余は平民相手に会合することも多い。口調で不敬罪を適用することはないので安心せよ」

 父さんが王族に謁見する際の口上を述べるとモーリス王子は本当に嫌そうな顔をする。

「畏まりました。この度はアレンに謁見させて頂く機会を頂き、ありがとうございます。私はアレンの保護者を務めておりますルーク=クランフォードと申します。こちらが息子のアレンです」
「ふむ、そちがアレンか。して、他の者は?」 
「はっ! 隣がアレンの婚約者のクリス=ブリスタ子爵令嬢。あちらが私の妻のイリスと娘のユリ、息子のバミューダです」 
「おお! 貴女がイリス殿か! シャル姉様が憧れているという。そうか、アレンの母君であったか!」
「はっ! シャル王女からは過分なご評価を頂いております」

 父さんがモーリス王子と無難に会話を進めていく。

「さて、アレン。直答を許す。余の問いに答えよ」
「はっ!」

 モーリス王子に直答を許された以上、ここからは俺が答える必要がある。俺は気を引き締めた。

「リバーシやチェスだが……そちが開発したもので間違いないか?」
「はっ! 間違いございません」
「ふむ。では最近開発したという、メンコ等や『整形技術』もそちが開発した物か?」
「はっ! その通りです」
「なるほど。さて、どうした物か……」

 モーリス王子が何か迷っていると部屋の扉がノックされた。壁際に控えていた男性が扉を開けて外を確認する。

「モーリス王子、王妃様とシャル様がお見えになりました。いかがいたしましょうか」
「早すぎるだろ……。構わん。通してくれ」

 モーリス王子が許可すると、男性が扉を開けた。

「え、あ、待っ!」

 父さんが慌てて立ち上がってお辞儀をする。

(――やべ! 俺達座ったままじゃん!)

 俺達も慌てて立ち上がり、お辞儀をする。バミューダ君が出遅れていたが、ユリが上手くフォローしていた。ぎりぎりのタイミングで座ったまま王妃様たちを出迎えるという不敬を回避することが出来た。

(危なかった……)

 王妃とシャル様がソファーに移動するのを感じながら頭を下げ続ける。ソファーがあるため、片膝をつくことは出来ないが、礼を示す姿勢は見せれたはずだ。

「面を上げてお座りください」

 王妃様から許可が出たので、顔を上げる。立ったまま顔を上げてしまうと、王妃様を見下す形になってしまうためだ。

「初めまして、皆様。王妃のサイリアス=ルーヴァルデンです。なお、この場はモーリスと貴方達の会合の場です。公式にはわたくしはこの場にはいない。良いですね? ああ、口調も今までと同じでお願いします。その方が私も楽なので」
「はっ! 畏まりました」

 父さんが答える。

「結構です。さて……久しぶりですね、イリス」
「お久しぶりです、王妃様」
「あら、昔のようにリアとは呼んではくだらさらないの?」
「恐れながら、私はすでに平民となった身。王妃様とそのような口調で話すわけにはいきません」
「……そう。(つまらないの)ボソッ」

(……え? 母さん王妃様の事を『リア』って呼んでたの!?)

 衝撃の事実に頭がフリーズしかける。

「モーリスはアレンさんと話したいことは話せたの?」
「まだです、母上。話している途中で母上が乱入してきたのです」
「あら、それはごめんなさいね。なら、貴方とアレンさんは隣の部屋で話して来たら? 2人の方が話もはかどるでしょ?」
「そう……ですね。ルーク殿よいか?」

 モーリス王子が俺の保護者である父さんに聞いた。

「もちろんです。大丈夫だな? アレン?」
「コクッ」

 声を出していいか分からなかったので、黙って頷く。

「では、アレンはこちらへ」

 モーリス王子に連れられて隣の部屋に移動する。隣の部屋も前の部屋と同じつくりをしていた。壁際には別の男性が控えている。

「そちらにかけてくれ」
「はっ!」

 ソファーに座ったモーリス王子が俺にも座るよう勧めてきた。俺がソファーに座ると、男性がお茶を淹れてくれる。

「ご苦労、下がって良いぞ」
「はっ!」

 モーリス王子の指示に従い、男性が部屋の隅まで下がった。男性が下がった事を確認して、モーリス王子が机の上に手をかざす。すると、机の中心がわずかに光り出した。

「防音の魔道具だ。これで余らの声は誰にも聞こえん。あの者にもな」

 モーリス王子が部屋の隅にいる男性を見ながら言う。

「さて……単刀直入に聞くぞ。アレン、そちは『転生者』だな?」
「そうです。モーリス王子も……」
「ああ。転生者だ。生前、日本で暮らしてきた記憶がある。そちも日本人か?」
「その通りです」
「ふー。やはりそうか……なぁ、アレン。ぶっちゃけて聞くが、は何を目指している? ああ、今はに対して王子への敬意はいらない。素で答えて欲しい」

 モーリス王子は王子としての仮面を外したようだ。俺に素で答えて欲しいというのも本音だろう。ならば、こちらも本音で答えるべきだ。

「私の望みは商人として成功して、楽しく暮らすことです」
「……………………は? それだけ?」
「それだけ、とは?」
「立身出世して『貴族』になりたいとか、ムカつくやつに『ざまぁ』したいとか、美女を侍らせて『ハーレム』作りたいとか考えないのか?」
「そういうのは色々大変そうなので考えてないです」
「まじか……」
「モーリス王子はが望みなんですか?」
「……ああ、そうだ。転生したことを自覚してからを目指して頑張っている。……クズだと思うか?」
「いえ。ただ、大変そうだなとは思います」

 知識チートを持って転生した日本人がを望む気持ちは、分からなくはない。俺には無理だと思うが、だからと言って、モーリス王子をクズだとは思わない。

「そうか……アレン、貴方の目的は理解したつもりだ。そのうえで頼みがある。王子としてではなく、転生した同郷の仲間として頼みたいのだ」
「なんでしょうか?」

 相手は王子だが、俺とモーリス王子の関係は特別なものだ。同じ日本からの転生者として可能な限り協力したいと思っていたのだが……。

「私はこの国の王になろうと考えている。力を貸してもらえないだろうか?」

 予想以上のとんでもない頼みに今度こそ俺の頭はフリーズした。
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