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第3章 躍進の始まり

91.【サーシスの傷跡8 使い方】

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 食後にクリスに『属性』魔法について聞いてみる。

「『属性』魔法は物質の属性を変える魔法です」
「属性ってどういう意味?」
「一言でいうのは難しいんですが……物体の『重さ』を変えたり、『動く』はずの扉を『動かなく』したりすることが出来ますよ」
「え、めちゃくちゃ凄いじゃん!」

 話を聞く限りとても万能な魔法に聞こえた。そう思ったのだが、クリスは苦笑している。

「出来ることは術者のイメージに依存しますので、そんなに凄いことはできないんですよ。生物に使うことはできませんし、『属性』を変えている間ずっと魔力を消費します。魔法の中で、一番不人気な『大道芸もどき』と言われている魔法です」

 マリーナさんが『長続きしないし、量産なんて絶対無理』と言っていた意味が分かった。しかし……

「そんな卑下することないよ」

 俺はクリスを見た。

「アレン……ですが――」
「――どんな能力も大事なのは使い方さ。ちょうど思いついたことがあるんだ。『属性』魔法で物質の大きさって変えられる?」
「え、ええ。少しですが変えられます」
「だったらさ――」

 俺は紙に竹とんぼの羽根と持ち手の絵を書いてクリスに見せる。羽根には2か所に穴を、持ち手には羽根の穴に入る棒が書かれていて、棒には穴から抜けなくなる『返し』を書き加えた。

「こんな風にして、持ち手の方を『属性』魔法で小さくすれば――」
「――アレン、戦争でもする気ですか?」
「へ??」

 戦争などする気はないがどういう意味だろうか?

「それ、槍と盾ですよね? いえ、盾にしては細長いですが……」
「ち、違うよ!! これ、竹とんぼの羽根と持ち手!」
「ふぁい?」

 クリスから変な声が聞こえた。おそらく、思わず出てしまった声だろう。クリスが口を押えて身体を震わせている。

「そ、それが……竹とんぼの羽根と持ち手……ですか?」
「そうだけど……」
「ぷっ! ……な、なるほど。ぷぷっ! た、確かに……そう見えないことも……」

 必死に笑いをこらえているが、全くこらえられていない。

「別にいいさ……絵が下手なのは今に始まった事じゃないし……」
「あ、アレン。いじけないでください。これはこれで……その……親しみがある絵だと……ぷっ!」

 クリスが慰めようとしてくれたが、絵を見ると笑ってしまうようだ。

「はぁ……いいんだ! 俺の絵が下手でもそれでクリスを笑わせることが出来たんだから! そう、俺の絵もクリスを笑わせるって使い方があったという事さ!」
「ぷっ! あははは! そ、そうですね。なるほど。確かに大事なのは使い方ですね」
「その通り! ……だけどマリーナさん達に見せるにはこれじゃまずいから、ユリを呼んでくる」
「それがいいですね。ぷぷっ」
「……」

 その後、ユリに来てもらって設計図を描きなおしてもらった。俺の書いた設計図からとても分かりやすい設計図を作ってくれる。ただ、部屋の中にクリスがいることを訝しんでいた。

「お兄ちゃん……まさかと思うけど、この絵、クリス様に見せたの?」
「え? 見せたけど?」
「ちょっ! 何してるの!? 違うんです、クリス様! 兄は絵だけポンコツですが、他はまともなんです! あ、いえ、服のセンスとかも微妙というか壊滅的ですけど、でもそれ以外はまともなんです!」

 俺の絵をクリスが見たことを知ったユリが必死にフォローしだした。

(俺の絵と服のセンスってそこまでなのか!?)

 軽くないショックを受けていると、クリスが優しく微笑む。

「大丈夫ですよ、ユリ様。これしきの事でアレンを嫌ったりしませんから」
「……本当ですか?」
「ええ。それにアレン様曰く、『絵は下手だけどそれでクリスを笑わせることが出来る』そうなので、これも捨てたものじゃないですよ?」
「! 女神様ぁ……」

 ユリが拝むようにクリスを見つめている。

「お兄ちゃん凄いよ! こんなに優しくてお兄ちゃんの絵を受け入れてくれる人なんて他にいないよ! 絶対手放しちゃだめだからね!」
「言われなくても手放さないから!」

 ひと悶着あったが、何とか設計図を書くことができた。

(俺の絵ってそこまでひどいわけじゃないよね……多分……グスン)



 翌朝、俺とクリスは設計図をもってマリーナさんに会いに行く。

「なるほどねぇ。『属性』魔法で持ち手を小さくして羽根の穴の中に入れた後に魔法を解除することで抜けなくする……かぁ。よくもまぁこんなこと思いつくね」

 設計図を見たマリーナさんはすぐに俺のやりたいことを理解してくれた。

「強度不足に悩まれているかと思たのでちょうどいいかなと」
「そうなんだよ! 量産するなら持ち手と羽根は別々に作る必要があるんだけど、重さや細さの関係で、つなぎ目の強度がどうしても確保できなくてね。でもこの方法ならいけると思う! 助かったよ」

 竹とんぼのような薄い素材では、強度を上げるために、釘を打ったり、仕口をするために掘ったりすることが出来ないため、困っていると思ったのだ。

「『属性』魔法はクリス様がかけてくださるの?」
「ええ。アナベーラ会頭からこちらを手伝って欲しいと頼まれたので」

 昨日の様子から、被害者達の訪問はユリとバミューダ君に任せて大丈夫そうだから、俺とクリスはこっちに注力して欲しいとのことだった。

「申し訳ありません。急ぎ、魔道具仕を入れますので、それまでの間はよろしくお願い致します」
「大丈夫です! 頑張りますので、こちらこそよろしくお願いします」

 ミッシェルさんとミケーラさんがすぐに魔道具を探したが、もともと『属性』魔法が付与されている魔道具が少ないうえ、その中でも『物質の大きさを変える』魔道具となるとなかなか苦労しているようだ。

 魔道具が見つかるまではクリスの負担が大きくなってしまうが、本人は自分に出来ることがある事が嬉しいようでむしろ良かったのかもしれない。

 クリスがマリーナさんと竹とんぼの制作をしている間に、俺は『車椅子』の試作品を見せてもらう。馬車にないブレーキやタイヤの持ち手が上手く出来ているか不安だったが、杞憂だった。

「凄いですね。俺のイメージ通りに出来てますよ」
「ありがとうございます。『竹とんぼ』と違い、使い方が分かりやすかったので、ご要望通りに作れたかと」

 どういう風に使うかが分かれば、どのようなことに気を付けて作るべきかもわかるという事だろう。車椅子は機能面でも強度面でも問題ない出来だった。

「いいですね。車椅子はこれで問題ありません」
「承知しました。それでは、こちらで量産体制を整えます」

 車椅子はこれで問題ないだろう。竹とんぼも昼過ぎにはサンプル品が完成した。屋敷の庭で何度か飛ばしてみるが、昨日のように壊れたりしない。

「やっぱりこれ楽しいね! 思いっきり飛ばしても壊れないし強度も大丈夫そう!」
「姉さん! 次は私が!」
「わ、わたくしもやってみたいです!」

 3人とも、竹とんぼの魅力に取りつかれたようだ。結局、ミッシェルさん達が戻ってくるまでずっと竹とんぼで遊んでいた。
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