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第3章 躍進の始まり
82.【指輪】
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素敵な晩餐を終えた翌日、俺とクリス、マリーナさん、ミケーラさんは2台の馬車で漆塗りの工房に来ていた。婚約の契約は、ブリスタ子爵と父さんで済ませてくれるらしい。
「こちらは十分に乾かしていますか?」
「ええ。研いだ後に急速乾燥させました。割れ目もないはずです。ご確認ください」
「……そのようですね。素晴らしい腕だ。『ムロ』はこちらで用意したものを使います」
「ほほう。その『ムロ』に新しい漆の秘密があると見た! どう?」
「………………お目が高い。まさか、気付かれるとは」
「えっへん!」
マリーナさん達と工房の職員が何やら会話しているが、全くついていけない。
「大まかな素材は変えられないはずだから変えるとしたらムロだもんね。……でも、ムロに『乾燥』の魔法を持たせた? いや、それじゃ完成は早くなるけど、質が保てない。『乾燥』じゃなくて『高温』? ………………ダメだ。分からない! ちなみにムロの中身を見せて頂くわけには――」
「――申し訳ありませんが、企業秘密です」
「ですよねー」
「当たり前でしょ。馬鹿姉」
「ちょ!? 辛辣すぎない!? いつにも増して辛辣な気が――」
「――すみません。これは無視してください。今回、120個あるのですが、どれくらいで対応できますでしょうか?」
「え? あ、はい。ブリスタ子爵から『最優先で対応せよ』と命じられておりますので、すぐに作業に取り掛かります。明日の午後には完成するでしょう」
「そんなに早く!? やっぱり『乾燥』系の――」
「――ありがとうございます。お願いします。私達は邪魔にならないよう、これで失礼させて頂きますね」
「え? 待ってミケーラ! 私、漆塗りするところ見て――」
「――企業秘密に決まってるでしょ! 私達がいたら作業開始できないじゃない。とっとと行くわよ」
「い、痛い! 痛いってミケーラ! 分かった! 分かったから耳を引っ張らないで!」
ミケーラさんに引っ張られてマリーナさんが工房を出て行く。取り残されてしまった俺達も慌てて後を追った。
「痛ったいなぁ……耳引っ張らなくてもいいじゃない!」
「あそこで姉さんが時間を使えばそれだけ完成する時間が遅くなるの。手っ取り早く解決するにはあれが一番でしょ」
「そんなの口で言っても1分も変わらないでしょ!」
「1分も変わるじゃない。つまり子供達の手に駒とかが届くのが1分遅くなるって事よ。ミッシェル先生がすでに向かったとはいえ、私達も急ぐべきだわ」
「うぅぅ、わかったよ。………………あ、でも今から明日の午後までは何しててもいいわよね!?」
「えぇ、まぁ。明日の正午には工房に行きたいからで明日の午前中までだけど……」
「十分よ! クリス様!」
「あ、はい。何でしょう」
突然名前を呼ばれたクリスは、驚いた表情を浮かべている。
「ブリスタ子爵領の名産のお酒を教えてくだ……ぶはっ!」
ミケーラさんがマリーナさんをぶっ叩いた。
「痛ったー。なにするのさ! 何しててもいいって言ったじゃん!」
「お酒は別でしょ! 出発の時にあれだけの事をして、まだお酒を飲むつもりなの!?」
「いいじゃん! クリス子爵邸の中で飲むし! いいですよね? クリス様?」
「え、ええ、まぁ……」
「クリス子爵令嬢。この馬鹿姉はお酒を飲むと必ず脱ぎます。縛ろうが何しようが、絶対に脱ぎます。そして誰彼かまわず絡みます。馬鹿姉がアレン様に裸で絡んでもいいんですか?」
「――!? ……マリーナ様、お酒はお控えください」
「そ、そんな!?」
「当たり前でしょ。ほら、私達は戻りますよ」
「え? なんで? お酒はダメでも他の物を――」
「――いいから! ほら!」
ミケーラさんがマリーナさんを強引に馬車に乗せた。残されたのは俺とクリスの二人だけだ。
「なんか、気を使わせちゃったみたいだね」
「そうですね。アレンはどこか行きたいところありますか?」
「……実は行ってみたいお店があるんだ。いいかな?」
「もちろんです! 行きましょう」
俺達は御者さんに目的地を告げて馬車に乗り込む。クリスは俺が、何を買おうとしているのか気になったみたいだが、それはついてからのお楽しみだ。
しばらくすると馬車が目的地に着いた。
「ありがとうございました。さぁ行こっか!」
「ええ」
御者さんにお礼を言ってクリスに手を差し伸べる。2人で一緒に馬車を降りると、手を繋いだままお店に入った。
お店に入ると、高級感漂う装飾品が目に入ってくる。
「おぉぉ。さすが、ブリスタ子爵領の装飾品は質が良いですね」
「ありがとうございます。職人の皆さんが頑張ってくださっているおかげです」
そう、俺が行きたかったのは装飾品の販売店だ。ブリスタ子爵領ではいい鉱石が取れるため、装飾品の販売が盛んだと聞いていたのだ。
ラミールさんにおすすめのお店を聞いておいたのだが、ここまでの品が置いてあるとは思っていなかった。品ぞろえも申し分ない。
さっそく俺は指輪が置いてあるコーナーを見て回る。
(ルビー、サファイヤ、アメジスト……あった! ダイヤモンドだ!)
指輪のコーナーでは、ついている宝石ごとに商品が分けられていた。その中でも、ペアリングになっていて、ダイヤモンドがついているエリアを探していたのだ。
「クリス、この中でどの指輪が好き?」
「この中でですか? そうですね……これでしょうか?」
クリスが選んだ指輪はダイヤの周りにサファイヤが散りばめられていて、台座にはバラの彫刻が施されていた。
「いいね! これにしよう! クリスにプレゼントしたいんだけど受け取ってもらえるかな?」
「ありがとうございます。アレンから初めてのプレゼントですね。大切にします」
「どういたしまして。それで……この指輪は左手の薬指に付けて欲しいんだ」
「左手の薬指……ですか?」
この世界には、結婚指輪や婚約指輪と言った風習が無い。それゆえ、クリスは純粋に俺がプレゼントを贈ったと思っているのだろう。
「うん。遠い国ではね。結婚した男女は左手の薬指にペアの指輪を付けるんだ。結婚している証という意味もあるし、永遠の愛を誓うって意味もある。その風習にちなんで、俺もクリスとペアの指輪を左手の薬指に付けたいなって……」
「そんな風習があるんですね……知りませんでした。ぜひ付けましょう!」
クリスも乗り気のようで良かった。店員さんを呼んで、指のサイズを計ってもらう。運よくちょうどいいサイズの指輪の在庫があったため、すぐに購入することが出来た。
「すぐに買えてよかったですね」
「そうだね。さっそくつけようか。俺が付けてもいい?」
「お願いします。アレンの分は私が付けますね」
俺達は互いに指輪を付け合う。
「これが結婚の証で、永遠の愛の証なんですね……なんかいいですね! アレンとのつながりを感じます」
クリスが指輪を見つめながら言った。
「そうだね。そのための風習なのかも」
前世でペアリングなんて付けたことが無かったので、気が付かなかった。指輪の先にクリスがいる。そんな気がするのだ。
左手の薬指の指輪を感じながら、俺達は馬車でブリスタ子爵邸に戻った。
「こちらは十分に乾かしていますか?」
「ええ。研いだ後に急速乾燥させました。割れ目もないはずです。ご確認ください」
「……そのようですね。素晴らしい腕だ。『ムロ』はこちらで用意したものを使います」
「ほほう。その『ムロ』に新しい漆の秘密があると見た! どう?」
「………………お目が高い。まさか、気付かれるとは」
「えっへん!」
マリーナさん達と工房の職員が何やら会話しているが、全くついていけない。
「大まかな素材は変えられないはずだから変えるとしたらムロだもんね。……でも、ムロに『乾燥』の魔法を持たせた? いや、それじゃ完成は早くなるけど、質が保てない。『乾燥』じゃなくて『高温』? ………………ダメだ。分からない! ちなみにムロの中身を見せて頂くわけには――」
「――申し訳ありませんが、企業秘密です」
「ですよねー」
「当たり前でしょ。馬鹿姉」
「ちょ!? 辛辣すぎない!? いつにも増して辛辣な気が――」
「――すみません。これは無視してください。今回、120個あるのですが、どれくらいで対応できますでしょうか?」
「え? あ、はい。ブリスタ子爵から『最優先で対応せよ』と命じられておりますので、すぐに作業に取り掛かります。明日の午後には完成するでしょう」
「そんなに早く!? やっぱり『乾燥』系の――」
「――ありがとうございます。お願いします。私達は邪魔にならないよう、これで失礼させて頂きますね」
「え? 待ってミケーラ! 私、漆塗りするところ見て――」
「――企業秘密に決まってるでしょ! 私達がいたら作業開始できないじゃない。とっとと行くわよ」
「い、痛い! 痛いってミケーラ! 分かった! 分かったから耳を引っ張らないで!」
ミケーラさんに引っ張られてマリーナさんが工房を出て行く。取り残されてしまった俺達も慌てて後を追った。
「痛ったいなぁ……耳引っ張らなくてもいいじゃない!」
「あそこで姉さんが時間を使えばそれだけ完成する時間が遅くなるの。手っ取り早く解決するにはあれが一番でしょ」
「そんなの口で言っても1分も変わらないでしょ!」
「1分も変わるじゃない。つまり子供達の手に駒とかが届くのが1分遅くなるって事よ。ミッシェル先生がすでに向かったとはいえ、私達も急ぐべきだわ」
「うぅぅ、わかったよ。………………あ、でも今から明日の午後までは何しててもいいわよね!?」
「えぇ、まぁ。明日の正午には工房に行きたいからで明日の午前中までだけど……」
「十分よ! クリス様!」
「あ、はい。何でしょう」
突然名前を呼ばれたクリスは、驚いた表情を浮かべている。
「ブリスタ子爵領の名産のお酒を教えてくだ……ぶはっ!」
ミケーラさんがマリーナさんをぶっ叩いた。
「痛ったー。なにするのさ! 何しててもいいって言ったじゃん!」
「お酒は別でしょ! 出発の時にあれだけの事をして、まだお酒を飲むつもりなの!?」
「いいじゃん! クリス子爵邸の中で飲むし! いいですよね? クリス様?」
「え、ええ、まぁ……」
「クリス子爵令嬢。この馬鹿姉はお酒を飲むと必ず脱ぎます。縛ろうが何しようが、絶対に脱ぎます。そして誰彼かまわず絡みます。馬鹿姉がアレン様に裸で絡んでもいいんですか?」
「――!? ……マリーナ様、お酒はお控えください」
「そ、そんな!?」
「当たり前でしょ。ほら、私達は戻りますよ」
「え? なんで? お酒はダメでも他の物を――」
「――いいから! ほら!」
ミケーラさんがマリーナさんを強引に馬車に乗せた。残されたのは俺とクリスの二人だけだ。
「なんか、気を使わせちゃったみたいだね」
「そうですね。アレンはどこか行きたいところありますか?」
「……実は行ってみたいお店があるんだ。いいかな?」
「もちろんです! 行きましょう」
俺達は御者さんに目的地を告げて馬車に乗り込む。クリスは俺が、何を買おうとしているのか気になったみたいだが、それはついてからのお楽しみだ。
しばらくすると馬車が目的地に着いた。
「ありがとうございました。さぁ行こっか!」
「ええ」
御者さんにお礼を言ってクリスに手を差し伸べる。2人で一緒に馬車を降りると、手を繋いだままお店に入った。
お店に入ると、高級感漂う装飾品が目に入ってくる。
「おぉぉ。さすが、ブリスタ子爵領の装飾品は質が良いですね」
「ありがとうございます。職人の皆さんが頑張ってくださっているおかげです」
そう、俺が行きたかったのは装飾品の販売店だ。ブリスタ子爵領ではいい鉱石が取れるため、装飾品の販売が盛んだと聞いていたのだ。
ラミールさんにおすすめのお店を聞いておいたのだが、ここまでの品が置いてあるとは思っていなかった。品ぞろえも申し分ない。
さっそく俺は指輪が置いてあるコーナーを見て回る。
(ルビー、サファイヤ、アメジスト……あった! ダイヤモンドだ!)
指輪のコーナーでは、ついている宝石ごとに商品が分けられていた。その中でも、ペアリングになっていて、ダイヤモンドがついているエリアを探していたのだ。
「クリス、この中でどの指輪が好き?」
「この中でですか? そうですね……これでしょうか?」
クリスが選んだ指輪はダイヤの周りにサファイヤが散りばめられていて、台座にはバラの彫刻が施されていた。
「いいね! これにしよう! クリスにプレゼントしたいんだけど受け取ってもらえるかな?」
「ありがとうございます。アレンから初めてのプレゼントですね。大切にします」
「どういたしまして。それで……この指輪は左手の薬指に付けて欲しいんだ」
「左手の薬指……ですか?」
この世界には、結婚指輪や婚約指輪と言った風習が無い。それゆえ、クリスは純粋に俺がプレゼントを贈ったと思っているのだろう。
「うん。遠い国ではね。結婚した男女は左手の薬指にペアの指輪を付けるんだ。結婚している証という意味もあるし、永遠の愛を誓うって意味もある。その風習にちなんで、俺もクリスとペアの指輪を左手の薬指に付けたいなって……」
「そんな風習があるんですね……知りませんでした。ぜひ付けましょう!」
クリスも乗り気のようで良かった。店員さんを呼んで、指のサイズを計ってもらう。運よくちょうどいいサイズの指輪の在庫があったため、すぐに購入することが出来た。
「すぐに買えてよかったですね」
「そうだね。さっそくつけようか。俺が付けてもいい?」
「お願いします。アレンの分は私が付けますね」
俺達は互いに指輪を付け合う。
「これが結婚の証で、永遠の愛の証なんですね……なんかいいですね! アレンとのつながりを感じます」
クリスが指輪を見つめながら言った。
「そうだね。そのための風習なのかも」
前世でペアリングなんて付けたことが無かったので、気が付かなかった。指輪の先にクリスがいる。そんな気がするのだ。
左手の薬指の指輪を感じながら、俺達は馬車でブリスタ子爵邸に戻った。
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