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第3章 躍進の始まり
71.【伝言】
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3人が3枚の契約書にそれぞれ署名を行った。ザックさんが3枚の契約書を手に取り、サーシスとミルキアーナ男爵に1枚ずつ手渡す。
手渡した時に契約書が光を発していた。
「身元引受の契約は締結されました。ミルキアーナ男爵はサーシスの正式な身元引受人です。この契約内容を修正するためには当事者両名の他に、私の同意が必要になります」
当事者だけでなく、枢密顧問官の同意も必要となると、簡単には修正できないだろう。
「これにて、我々の調査は終了とします。ミルキアーナ男爵、後はお任せします」
「ああ、任された。それでは、サーシス元伯爵。行きましょうか」
「貴様! 我の事を元伯爵と呼ぶでない!」
「しかし、『サーシス伯爵』と呼ぶと身分詐称となってしまいます。時期をみてふさわしい地位を用意するつもりですが、今はまだ平民なのですから。かといって呼び捨てにするわけにもいきませんし……」
「ぐぬぬ…………仕方あるまい……」
「ご理解頂けて何よりです。それでは行きましょう。サーシス元伯爵」
「ぐぅぅうう……」
「ミルキアーナ男爵、ちょっとええですか?」
ミルキアーナ男爵に部屋の隅にいるミッシェルさんが声をかけた
「アナベーラ会頭……何か用か?」
「相変わらずつれないですなぁ。いや、サーシス元伯爵の事でちょっとな」
ミッシェルさんもあえて元伯爵と言っているようだ。サーシスが苦々しげにミッシェルさんを見つめている。
「ほう、何かな?」
「ちょっとこっちに来てもらってもええか? おおきに。実は――」
ミルキアーナ男爵がミッシェルさんの隣に近づく。そこから先はミッシェルさんが声を抑えたため、聞くことができなかった。
部屋の隅に行ったミルキアーナ男爵にだけ聞こえる声で話したようで、サーシスも赤い絨毯の上で耳を澄ませているがよく聞こえていないようだ。
(いや、お前は部屋の隅に行けば聞こえるだろ……なんで絨毯の上にいることに拘るんだ?)
「はっはっはっ! それはいい! では、私の馬車もそのようにしてもらえるかな? ああ、床部分だけで座席はそのままにしてくれ。支払いはいつものように」
「承知したで! 毎度、おおきに」
ミッシェルさんから何かを聞いたミルキアーナ男爵はとても上機嫌で笑った。
「さて、それでは屋敷まで馬車でご案内します。行きましょう、サーシス元伯爵」
「はっ! 我に命令するでない!」
ミルキアーナ男爵がサーシスを連れて取り調べ室を出て行く。結局最後までサーシスは不遜な態度のままだった。
2人を見送った後、控室にミッシェルさんが入ってきて俺達に声をかける。
「はばかりさんどした。えげつない話聞かせてもうたな。大丈夫か?」
「大丈夫です。正直、予想以上にひどい内容でしたが……」
「せやな。……クリス様も大丈夫か?」
「ええ。大丈夫です。わたくしが知らなければならないことですから」
「……あんまり背負い過ぎるんは良くないで? 人間、背負えるもんには限度があるんや。背負い過ぎたらつぶれてまうで?」
「ミッシェル様……ですが――」
ミッシェルさんに諭されるがクリスさんは納得できないようだ。
「――悔やんでも過去は変えられへん。それよりあんさんらには。あんさんらにしかできんことがある。そっちに集中して欲しいんよ」
「わたくし達にしかできないこと?」
「せや。今回被害にあった人らのフォローは、ミルキアーナ男爵と、わてらアナベーラ商会で行う。わてらは主に物資の支援やな。衣類や食料品等の生活必需品、それから弱った心を癒すための娯楽品を配給する予定や」
「娯楽品……」
「もちろん、クランフォード商会の娯楽品の事や。リバーシやチェスを持っていくつもりやけれど、『メンコ』に『独楽』、『蹴鞠』、『羽子板』も持っていけたら、皆の気も晴れるやろ。そっちの開発はどないなっとるん?」
ミッシェルさんは俺に向かって聞いてきた。
「フィリス工房からの連絡待ちです。急ぎではないつもりだったのですがそういう事でしたら――」
「――ああ。急いで開発するよう頼んでくれや。あの二人なら分かってくれるやろ、もし、追加費用が必要やったら、わてが払ったる。女児達には、一日でも早く笑顔になってもらわんとな」
「そうですね。――すぐにフィリス工房に向かいます!」
俺が作った娯楽品で、今回の被害者たちの気が晴れるならこんな嬉しいことはない。さっそく、フィリス工房に向かおうとしたが、ミッシェルさんに止められた。
「ちょい待ち! アレンはんにシャル様から伝言や」
「シャル様から?」
シャル様からの伝言と聞いて緊張してしまう。王族からの伝言を貰うのは産まれて初めてだ。
(むしろ、一生縁がないと思ってたんだけどな……)
「『弟の都合がつきました。3週間後に王都に来てください。王都入口でアレン様の名前を出して頂ければ、翌日には謁見できるようにしておきます』とのことや。それから、『王都に来る前に、正式にクリス様と婚約しておくことを強く勧めます』とも言うとったで」
「…………はい?」
シャル様の弟さんに会う件についてはあらかじめ聞いていたから問題ない。問題はクリスさんとの婚約だ。もちろん、婚約するつもりではいるが、シャル様が強く勧める理由が分からない。
「……あんさん、シャル様やわてら見慣れとるから忘れとるかもしれへんけど、クリス様、めっちゃ美少女やんか。側室や妾にって望む貴族は多いんよ。余計なトラブルを招かんためにも、王都に来る前にきっちりしとけっちゅう話や」
そういえば、クリスさんには侯爵家からも縁談が来ていたと聞いた。いつ、第2、第3のサーシスが現れてもおかしくはない。
「……分かりました。王都に行く前にブリスタ子爵にお会いします」
「その方がええやろな」
もともと王都に行くときにブリスタ子爵に挨拶する予定だったが、その未来が明確になったため、だんだん緊張してくる。
(早い、早いって! まだ行くことが決まっただけだ! 落ち着け!)
気持ちを落ち着けてからミッシェルさんにお礼を言って、俺達はフィリス工房に向かった。
手渡した時に契約書が光を発していた。
「身元引受の契約は締結されました。ミルキアーナ男爵はサーシスの正式な身元引受人です。この契約内容を修正するためには当事者両名の他に、私の同意が必要になります」
当事者だけでなく、枢密顧問官の同意も必要となると、簡単には修正できないだろう。
「これにて、我々の調査は終了とします。ミルキアーナ男爵、後はお任せします」
「ああ、任された。それでは、サーシス元伯爵。行きましょうか」
「貴様! 我の事を元伯爵と呼ぶでない!」
「しかし、『サーシス伯爵』と呼ぶと身分詐称となってしまいます。時期をみてふさわしい地位を用意するつもりですが、今はまだ平民なのですから。かといって呼び捨てにするわけにもいきませんし……」
「ぐぬぬ…………仕方あるまい……」
「ご理解頂けて何よりです。それでは行きましょう。サーシス元伯爵」
「ぐぅぅうう……」
「ミルキアーナ男爵、ちょっとええですか?」
ミルキアーナ男爵に部屋の隅にいるミッシェルさんが声をかけた
「アナベーラ会頭……何か用か?」
「相変わらずつれないですなぁ。いや、サーシス元伯爵の事でちょっとな」
ミッシェルさんもあえて元伯爵と言っているようだ。サーシスが苦々しげにミッシェルさんを見つめている。
「ほう、何かな?」
「ちょっとこっちに来てもらってもええか? おおきに。実は――」
ミルキアーナ男爵がミッシェルさんの隣に近づく。そこから先はミッシェルさんが声を抑えたため、聞くことができなかった。
部屋の隅に行ったミルキアーナ男爵にだけ聞こえる声で話したようで、サーシスも赤い絨毯の上で耳を澄ませているがよく聞こえていないようだ。
(いや、お前は部屋の隅に行けば聞こえるだろ……なんで絨毯の上にいることに拘るんだ?)
「はっはっはっ! それはいい! では、私の馬車もそのようにしてもらえるかな? ああ、床部分だけで座席はそのままにしてくれ。支払いはいつものように」
「承知したで! 毎度、おおきに」
ミッシェルさんから何かを聞いたミルキアーナ男爵はとても上機嫌で笑った。
「さて、それでは屋敷まで馬車でご案内します。行きましょう、サーシス元伯爵」
「はっ! 我に命令するでない!」
ミルキアーナ男爵がサーシスを連れて取り調べ室を出て行く。結局最後までサーシスは不遜な態度のままだった。
2人を見送った後、控室にミッシェルさんが入ってきて俺達に声をかける。
「はばかりさんどした。えげつない話聞かせてもうたな。大丈夫か?」
「大丈夫です。正直、予想以上にひどい内容でしたが……」
「せやな。……クリス様も大丈夫か?」
「ええ。大丈夫です。わたくしが知らなければならないことですから」
「……あんまり背負い過ぎるんは良くないで? 人間、背負えるもんには限度があるんや。背負い過ぎたらつぶれてまうで?」
「ミッシェル様……ですが――」
ミッシェルさんに諭されるがクリスさんは納得できないようだ。
「――悔やんでも過去は変えられへん。それよりあんさんらには。あんさんらにしかできんことがある。そっちに集中して欲しいんよ」
「わたくし達にしかできないこと?」
「せや。今回被害にあった人らのフォローは、ミルキアーナ男爵と、わてらアナベーラ商会で行う。わてらは主に物資の支援やな。衣類や食料品等の生活必需品、それから弱った心を癒すための娯楽品を配給する予定や」
「娯楽品……」
「もちろん、クランフォード商会の娯楽品の事や。リバーシやチェスを持っていくつもりやけれど、『メンコ』に『独楽』、『蹴鞠』、『羽子板』も持っていけたら、皆の気も晴れるやろ。そっちの開発はどないなっとるん?」
ミッシェルさんは俺に向かって聞いてきた。
「フィリス工房からの連絡待ちです。急ぎではないつもりだったのですがそういう事でしたら――」
「――ああ。急いで開発するよう頼んでくれや。あの二人なら分かってくれるやろ、もし、追加費用が必要やったら、わてが払ったる。女児達には、一日でも早く笑顔になってもらわんとな」
「そうですね。――すぐにフィリス工房に向かいます!」
俺が作った娯楽品で、今回の被害者たちの気が晴れるならこんな嬉しいことはない。さっそく、フィリス工房に向かおうとしたが、ミッシェルさんに止められた。
「ちょい待ち! アレンはんにシャル様から伝言や」
「シャル様から?」
シャル様からの伝言と聞いて緊張してしまう。王族からの伝言を貰うのは産まれて初めてだ。
(むしろ、一生縁がないと思ってたんだけどな……)
「『弟の都合がつきました。3週間後に王都に来てください。王都入口でアレン様の名前を出して頂ければ、翌日には謁見できるようにしておきます』とのことや。それから、『王都に来る前に、正式にクリス様と婚約しておくことを強く勧めます』とも言うとったで」
「…………はい?」
シャル様の弟さんに会う件についてはあらかじめ聞いていたから問題ない。問題はクリスさんとの婚約だ。もちろん、婚約するつもりではいるが、シャル様が強く勧める理由が分からない。
「……あんさん、シャル様やわてら見慣れとるから忘れとるかもしれへんけど、クリス様、めっちゃ美少女やんか。側室や妾にって望む貴族は多いんよ。余計なトラブルを招かんためにも、王都に来る前にきっちりしとけっちゅう話や」
そういえば、クリスさんには侯爵家からも縁談が来ていたと聞いた。いつ、第2、第3のサーシスが現れてもおかしくはない。
「……分かりました。王都に行く前にブリスタ子爵にお会いします」
「その方がええやろな」
もともと王都に行くときにブリスタ子爵に挨拶する予定だったが、その未来が明確になったため、だんだん緊張してくる。
(早い、早いって! まだ行くことが決まっただけだ! 落ち着け!)
気持ちを落ち着けてからミッシェルさんにお礼を言って、俺達はフィリス工房に向かった。
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