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第2章 商会の設立

39.【クリス様の事情1 ロリコン疑惑】

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 新メンバーでの業務を開始したが、お店の運用は順調だった。マグダンスさんがしっかりと仕切ってくれたおかげだ。意外と言っては失礼だが、マグダンスさんは、ニーニャさんやクリス様に対しても、遠慮なく指示を出していた。

「やるしかありませんから」

 マグダンスさんは自信なさげに言っていたが、その采配は完璧だ。

(自己評価は低いけど、この人凄い人だよな)

 ニーニャさんとナタリーさんは流石に慣れたもので、危なげなく業務をこなしている。クリス様も最初は順調だったが、長時間働くことに慣れていないのか、徐々に疲労の色が見えてきた。

 俺は昼休みにマグダンスさんと相談する。

「クリス様、ちょっと疲れが見えますね」
「そうですね。午後はバミューダ君と一緒に働いてもらおうと思います」

 クリス様が頭脳労働を担当し、バミューダ君が肉体労働を担当すれば双方の取り柄が生かせるだろう。さすがの采配である。



 午後は接客をクリス様が担当し、品出しをバミューダ君が担当していた。

「ありがとうございました。またお越しください。――バミューダ君、倉庫からリバーシ10セット持ってきてもらえますか?」
「わかった! ……です!」

 2人とも問題なさそうだ。特にバミューダ君は仕事を与えられたことで自信がついたのか、朝よりも元気そうにしている。午後も大きな問題もなく、その日の業務は終了した。

 業務終了後、皆はマーサさんに連れられて寮へ向かう。寮での暮らし方や注意事項などを教わるようだ。俺は店長室でクリス様が来るのを待った。



 どれくらい時間が経っただろうか。店長室のドアがノックされる。

「どうぞ」
「失礼します」

 予想通り、ノックをしたのはクリス様だった。

「お待ちしてました。どうぞ、そちらにお座りください」
「はい、ありがとうございます」

 ソファーに着席を勧め、俺は2人分のお茶を淹れた。クリス様がソファーに座られたので、淹れたお茶を置き、俺もソファーに座る。

「今日はお疲れさまでした。一日働いてみてどうでしたか?」
「お恥ずかしながら、わたくしは午前中だけで足がふらふらになってしまいました。バミューダ君に手伝ってもらわなければ、午後は働けなかったでしょう」

 クリス様が申し訳なさそうに答えた。

「少しずつ慣れて行きますよ。バミューダ君が勉強を頑張るように、クリス様は体力をつけていきましょう」
「そうですね。頑張ります!」

 クリス様がにこやかに答えてくれる。場の空気も暖かくなったので、俺は本題に入った。

「それで、お話とは何でしょうか?」

 俺の質問に、クリス様はとても言いにくそうに答える。

「……その、お願いがありまして……今晩、わたくしの初めてを貰って頂けないでしょうか」

貴女クリス様もですか!)

「えっと……ミーア様から『貴族令嬢が商家で働く場合、その家に嫁ぐ場合がほとんど』と聞いていたので、その話かと思っていたのですが……それとは別の理由でしょうか」
「……無関係ではないですが……主な理由は別にあります」

 だとするとなおさら理由がわからない。

「アレン様のお話はその件ですか?」
「そうです。申し訳ありませんが私はその件を知らなかったので……」
「……そうだったのですね。知らなかったのでしたら、仕方ありません」

 クリス様はあまり気にされていないようだった。

「……その……理由を説明していただけますでしょうか」
「………………何も聞かずに、というわけにはいかないでしょうか」

 クリス様が上目遣いで見つめてくる。脳裏に『据え膳食わぬは男の恥』という言葉が浮かんでくるが、それと同時に、家族の顔も浮かんだ。

(落ち着け! 俺はクランフォード商会の支店長だ。欲望に流されて軽率な行動をすれば、家族に迷惑が掛かるんだ。それだけはしちゃいけない!)

「…………正直、クリス様の事は好ましく思っております。だからこそ、軽い気持ちで事に及ぶわけにはいきません。何か理由があるのではと察します。まずは、理由をお話しいただけないでしょうか」

 ギリギリのところで、理性が勝ち、欲望のまま行動することだけは抑えられた。言わなくてもいい事まで言った気がするが、仕方ない。

「…………………………承知しました。お話させて頂きます」
 
 クリス様の頬が赤くなってる気がするが、気のせいだろう。俺が欲望に流されないと悟ったのか、理由を説明してくれる。

「アレン様は、プリスタ子爵家の財政状況をご存じでしょうか」

 俺は首を横に振る。各貴族の財政状況については知らなかった。

「現在、ブリスタ子爵家はひどい財政難に見舞われております」

 クリス様は悲しい顔をされた。

「隣接するサーシス伯爵が、3か月前から食料品に掛ける通行税を引き上げたためです。ブリスタ領は、サーシス領を通らないと王都に行くことが難しいため、財政は一気に悪化しました」

 生活必需品である食料品の通行税が引き上げられれば、商人の往来が減り、経済が回りにくくなる。財政が悪化するのも仕方がないだろう。

「サーシス伯爵はなぜ通行税の引き上げなど行ったのですか?」

 いくら、通行税を引き上げても、通行する人数が減ってしまえば、税収は下がるし、通行する人が利用するはずだった施設も打撃を受ける。サーシス領にとってもマイナスにしかならないはずだ。

「どうやら、狙いはわたくしのようです」
「――――は?」
「通行税が引き上げられた後、我が家にサーシス伯爵から手紙が届きました。手紙には、『クリス嬢をサーシス伯爵の第5夫人とすれば、家族のよしみ・・・・・・で通行税は今まで通りとする』と書かれていたそうです」

 つまり、『通行税を元通りにしてほしければ、クリス様を寄越せ』という意味だろう。

「サーシス伯爵は今年、45歳になられる方で……その……15歳以下の無垢な乙女にたいそうご執心だとか……」

(45歳!? それでクリス様を妻に欲しがるとか……完全にロリコン変態じゃないか………………い、いや俺は違うぞ! 俺の肉体年齢は12歳だ!)

 誰に向けての言い訳なのか分からないが、俺は心の中で『俺は大丈夫。断じてロリコンじゃない』と繰り返した。
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