知識チートの正しい使い方 〜自由な商人として成り上ります! え、だめ? よろしい、ならば拷問だ〜

ノ木瀬 優

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第2章 商会の設立

37.【再面接 誤解】

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 ニーニャさんの爆弾発言に、場の空気が凍り付いた。

「…………お兄ちゃん?」

 そんな中、ユリが蔑むような眼で俺を見ている。

「キャー! お兄義様、ついに童貞を卒業なさるのですね! おめでとうございます!」

 マナがからかうような眼で俺を見た。

「あら、あなたアレン様の子種を狙っていましたか」

 クリス様が意味深なことをおっしゃっている。

(『』ってまさかクリス様も!? って、今はそれどころじゃない!)

「ニーニャさん、セクハラですよ」
「ん? アレンはんが嫌やったら止めるけど嫌なんか?」
「…………遠慮します」
「ちょっと考えなさったな」

(余計な事言うな!)

 見た目だけならニーニャさんは絶世の美女である。考えない男がいるだろうか。しかし、そんなことは女性陣には理解してもらえなかった。

「……お兄ちゃん……サイテー」 
「ついにお兄義様にも春が!」
「あらあら」
 
 女性陣が様々な反応を見せる。そんな中、よくわかっていないのか、バミューダ君がぽかんとしていた。

「店長様、子供あげる? ……です?」
「あげないって! ニーニャさんの冗談だよ」

 バミューダ君にまで誤解させるわけにはいかない。

「ニーニャさんは冗談を言うのが好きなんだ。だから気にしないで」
「はい……です」
「本気なんやけどな」

(黙っててくれ!)

「もういいです! 次、マグダンス=カーミルさん!」
「は、はい!」

 女性陣はまだ何か言いたそうだったが、気付かないふりをした。急に話を振られたマグダンスには申し訳ないが、強引に話の流れを変えるため、マグダンスさんの紹介を始める。

「マグダンスさんは昨日まで、アナベーラ商会の従業員でしたが、臨時で、クランフォード商会で働いて頂いておりました。今日からは正式にクランフォード商会の従業員として働いて頂きます。なお、お店の運営は引き続きマグダンスさんに仕切って頂く予定です」

 マグダンスさんが目を見開いた。

「お言葉ですが、私よりニーニャ様の方がふさわしいのでは?」
「ニーニャさんより、マグダンスさんの方が信用できるので。申し訳ありませんがよろしくお願いします」

 元上司の娘が部下というのはやりにくいかもしれないが、ニーニャさんに仕切りを任せるのは、不安がある。

「…………承知しました。皆様、初めまして。マグダンス=カーミルと申します。仕切り役、誠心誠意勤めさせて頂きますので、よろしくお願いします。」

 マグダンスさんがちらりとニーニャさんを見てから頷いてくれた。ニーニャさんは特に不満はないようで、にこにことほほ笑んでいる。他の皆もマグダンスさんが仕切ることに反論は無いようで、しっかりと拍手をしてくれた。

(ニーニャさん的には問題ないようだし、マグダンスさんに頑張ってもらおう)

「次、ナタリー=ヴァイスさん」
「はい!」

 皆の視線がナタリーさんに集まる。

「ナタリーさんはマグダンスさんと同じく、昨日まで派遣されて働いてくれていました。今日からは正式にクランフォード商会の従業員として働いてもらいます」
「ナタリー=ヴァイスです。商人としての基本はアナベーラ商会で鍛えられています。皆様、よろしくお願いします!」

 久しぶりにまともに紹介を終えられた。――と思っていたら、ナタリーさんの後ろから、クリス様が話しかける。

「ナタリー様。ちょっとこちらへいらしてください」

 そう言って、ナタリーさんを連れて部屋の隅に移動する。他の女性陣も続き、男性陣だけが取り残されてしまう。

(何を話しているんだろう)

 女性同士の話し合いのようなので、盗み聞きするつもりはなかったが、ところどころ会話が聞こえてくる。

「……あなたも………………様の…………種……」
「いえ! 私は…………………………ですので…………全然…………ですが…………」

 少しすると、女性陣が戻ってくる。ナタリーさんは顔を赤く染めていたが、他の皆はそんなナタリーさんを優しい表情で見ていた。状況がわからず、戸惑っていると、クリス様が口を開く。

「失礼しました、アレン様続きをお願いします」
「え……あ、はい。承知しました」

 女性陣でどのような話し合いがされたのか気になるが、そこに触れるのは悪手だろう。

「最後にマーサ=ドリアスさん」
「はい」

 皆の視線が最後の一人であるマーサさんに集まる。

「マーサさんは従業員寮の管理者です。生活面などで困ったことがありましたら、マーサさんに相談してください」
「皆さん、初めまして。マーサ=ドリアスです。従業員さんに気持ちよく働いてもらうのが私の仕事です。困ったことがありましたら、何なりとお申し付けください」

 マーサさんがお辞儀をすると、皆が拍手をしれくれる。今度こそ、まともに紹介を終えられたようだ。

「以上で、本日の朝礼は終了です。マグダンスさんの指示に従って、開店準備を行ってください。なお、今日は私の方で最終チェック以外の開店準備は済ませてありますので、最終チェックのみお願いします。マグダンスさん、後は任せますね」
「承知しました!」
「それでは皆さん、本日からよろしくお願いします」
「「「「よろしくお願いします!」」」」「よろしゅう頼んます」「よろしく……です!」

 皆はマグダンスさんのもとに集まる。俺は、マグダンスさんに後を任せて、応接室に向かった。

(遅くなっちゃったな。ミルキアーナ男爵令嬢の機嫌が悪化してないといいけど)

 応接室についたので、ノックをすると、中から『どうぞ』という声が聞こえる。

(怒ってはいなさそうだな。というか、大分弱弱しい声だ。おびえているのか?)

「失礼します」

 応接室に入ると、ミルキアーナ男爵令嬢はおとなしくソファーに座っていた。俺は向かいのソファーに腰かける。

「お待たせしました。それでは再度面接をさせていただきます。よろしいですね」
「……かまいませんわ」

 その返事はやはり弱弱しかった。ミルキアーナ男爵令嬢の顔を見ると、何かをあきらめたような、絶望に満ちた表情を浮かべている。

「大丈夫ですか? 体調がすぐれないようなら後日でも――」
「結構ですわ。とっとと済ませてくださいまし」

 そう言ってミルキアーナ男爵令嬢は着ている服を脱ぎだす。俺は慌てて声をかける。

「ちょ! 何をする気ですか!」
「いいですの! もう覚悟はできてますわ!」

 そう言いながら、ミルキアーナ男爵令嬢は上着を脱いで、肌着姿になっている。その顔は羞恥で真っ赤だ。混乱する俺を置いて、ミルキアーナ男爵令嬢が話し続ける

「は、初めてが……こ、こんな応接室だとは……思っていなくて……でも、もういいですわ……」
「??? あの……何をおっしゃっているんですか? 本当に話が見えないのですが……」

 ようやく、俺の言葉が届いたらしい。肌着を脱ごうとしていた手を止めて俺を見る。

「わたくしを妾にするのでしょう?
「しませんよ! なんでそんな話になるんですか!」

(なんで結婚すらしていない俺の妾になる気なんだよ!)

「め、面接の日、待合室にクリス様がいらっしゃったので……クリス様を妻にして……私を妾にするつもりだと……リンダが」

(リンダって……あの侍女か!)

 面接の時、俺に侮蔑の視線を向けた侍女を思い出す。

「クリス様は従業員として働いてもらいますが、妻になってもらうわけではありません。もちろん、ミルキアーナ様に妾になってもらうつもりもありません」
「本当ですの!? ……で、でも、お父様やリンダが――」
「――何を聞いたのか知りませんが、私は何もしません。だから落ち着いて下さい」

 俺がそう言うと、ミルキアーナ男爵令嬢は憑き物が落ちたような顔をした。

「わ、わたくし……グスッ……お父様に言われて……でも、クリス様が……いらっしゃったから……グスッ……そうしたらリンダが……もう、やるしかなくて……うぅ……うぅぅああああ!!」

 ミルキアーナ男爵令嬢は安心したのか、大きな声で泣き出してしまった。

 状況は全く理解できないが、どうやら誤解は解けたようだ。

(何が何だか分からないけど……もう少し落ち着いたら事情を説明してもらおう)

 この時、俺はミルキアーナ男爵令嬢の行動に振り回されて、とても大切なことを忘れていた。ミルキアーナ男爵令嬢がまだ、肌着姿であるということを。そして、応接室に鍵はついていないということを。

 突然、応接室の扉が開き、ユリが飛び込んできた。

「お兄ちゃん! 泣き声が聞こえるけどだいじょう……ぶ?」

 いつもは必ずノックをするユリだが、ミルキアーナ男爵令嬢の鳴き声が聞こえたため、慌てて入ってきたのだろう。そしてこの光景を目撃してしまった。

 ユリの視線が『肌着姿のミルキアーナ男爵令嬢』、『ミルキアーナ男爵令嬢の上着』、『俺』の順番で回る。俺を見た時のユリの視線は極寒以下の冷たさだった。

「――お兄ちゃん?」
「誤解だ!!」

 俺はそう叫んで誤解を解こうとする。しかし、ミルキアーナ男爵令嬢が泣き止み、事情を説明できるようになるまで、俺の誤解が解けることはなかった。
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