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第2章 商会の設立
32.【面接4 アナベーラ商会からの応援】
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その後も面接を進めていき、大半の面接を終えたのだが、なかなか優秀な人は現れない。残りの応募者は3人となっていた。
(んー特別悪い人を除くと、後は似たり寄ったりでこれって人がいないんだよなぁ。次の人は………あれ?)
「コンコン」
「…………ど、どうぞー」
名簿を確認していた俺は次の人の名前に驚いて返事が遅れてしまった。
「失礼おしんやす」
ドアが開く。入ってきたのは、金髪金眼の美少女だった。この世界では珍しい着物姿がよく似合っている。そして、シャルさんに勝るとも劣らない胸をお持ちだった。
「はじめまして。わての名前はニーニャ=アナベーラ申します。今年で14歳になりんす。よろしゅう頼んます」
どこからどう見ても、そしてどう聞いてもミッシェルさんの娘さんだった。
「そちらにお座りください」
今まで通り、対面のソファーに着席を促し、自分も座る。
「えっと……失礼ですが、ミッシェル様の娘さんですよね?」
「その通りやす。母にここで働くよう言われて面接に申し込ませて頂きんした」
(ですよねー)
「そうでしたか。ミッシェル様にはいつもお世話になっております」
「こちらこそ、アレンはんには色々お世話になっていると聞いておりんす。母からも頑張って気に入られるよう言われとりますので、なにとぞ、よろしくお願いしんす」
そう言ってニーニャさんは頭を下げた。
「こちらこそ、よろしくお願いします。ニーニャさんはどのようなお仕事ができますか?」
俺の質問にニーニャさんは顔を上げて答える。
「計算や読み書きは問題ありんせん。口調はこんなんやけど接客もできんす。あと、夜伽も大丈夫やす」
(夜伽って…………は!?)
混乱する俺をよそに、ニーニャさんは和服の襟をずらし、肩を露出させる。
「――な、なにをやってるんですか!?」
「ん? アレンはんは男の子やさかい、色仕掛けに弱いて母に聞いとりました。嫌やったですか?」
(嫌じゃない。嫌じゃないけれど!!)
ニーニャさんは慌てる俺を楽しげに見つめた後、ぺろりと唇を舐めた。
「可愛いやね。母が気に入るんも分かりんすわ」
「い、いや……その……」
「けど、純粋すぎるなぁ。そんなんじゃ小賢しいのにいいように利用されるで」
いつの間にか、ニーニャさんにペースを握られていた。
「――まぁ、ええわ。アレンはん。面接は終了でいいんか?」
「え、ええ。そうですね。終了で大丈夫です。明日の9時にお店に来てください」
「承知しいした」
ニーニャさんが立ちあがったので、俺も立ち上がる。そのまま出て行くのかと思っていたが、ニーニャさんは俺の耳に顔を近づけてきた。
「夜伽のことは2人の秘密や。これからよろしゅうな」
耳元で囁かれた俺は、硬直してしまう。
「ほなまたな」
結局、ニーニャさんが退出するまで、俺は動くことができなかった。
扉が閉まったことで、俺はようやく硬直から解放される。
(人をからかって楽しむ感じ……間違いなくミッシェルさんの娘だな)
そう思いながら名簿のニーニャさんの横に丸印をつけた。何はともあれこれで4人目だ。
(応募者は後2人か。その2人が優秀だったらいいんだけどな…………ってあれ?)
名簿を見るとそこにはまたしても見覚えのある名前が書いてあった。
「コンコン」
「どうぞー」
「失礼します」
入ってきたのは見覚えのある男性だった。というより、今朝会った男性だ。
「マグダンスさん!」
そこにはアナベーラ商会から派遣されてきたマグダンスさんの姿があった。
「改めまして、マグダンス=カーミル 16歳です。正式に従業員として雇っていただきたく、面接に応募しました。よろしくお願いします」
「こちらこそ、よろしくお願いします。そちらにお座りください」
対面のソファーに着席を促し、自分も座る。
「いやぁ、まさかマグダンスさんが応募してくださっているなんて……アナベーラ商会の方は大丈夫なんですか?」
マグダンスさんの優秀さは知っている。うちで働いてもらえるなら大歓迎だ。しかし、彼はアナベーラ商会の従業員で、うちには派遣されてきてくれている状態だ。これでは、引き抜きになってしまう。そう思って聞いてみたのだが……。
「ご心配なく。ミッシェル会頭の許可はとってあります。むしろ、アレン様の力になってこいと言われました」
ミッシェルさんのお墨付きなら問題ないだろう。俺がそう思っていると、マグダンスさんが声を抑えて話し出す。
「ちなみに、ニーニャ様も面接を受けられたと思いますが、雇われますか?」
「あ、はい。そのつもりです」
俺も声を抑えて答えた。
「そうですか……アナベーラ会頭から、もしニーニャ様も一緒に働くなら、ニーニャ様が暴走しないように見張っておけと言われております。何かあった際は、私にお申し付けください」
マグダンスは、こちらに気を使って言ってくれたのだろうが、俺は、夜伽のことを言われたのかと思って、動揺してしまう。
(落ち着け! あのことは2人の秘密だとニーニャさんは言っていた。それに、俺は夜伽なんて受ける気はない! 大丈夫だ!)
「わ、分かりました。何かあった際はよろしくお願いします」
俺はそう言って名簿のマグダンスさんの横に丸印をつけた。
「面接は終了です。明日も朝9時にお店に来てください。そういえば今は休憩中ですか?」
「いえ、今はルーク様が私の代わりに働いてくださってます。私はこれから次の応募者と代わる予定です」
(次の応募者? もしかして……)
疑問に思ったが、ここはスルーしておく。
「そうですか。では、今後ともよろしくお願いします」
「はい。こちらこそ、よろしくお願いします」
そう言って、マグダンスさんは出て行った。俺は急いで名簿の一番下を見る。
(『ナタリー=ヴァイス』かぁ……名前は覚えてないけどあの人かな?)
名簿を眺めながら俺は以前裏口ですれ違った女性を思い浮かべる。
「コンコン」
「どうぞー」
「失礼します」
入ってきたのは、まさに思い浮かべていた女性だった。
「お疲れ様です、支店長。改めまして、ナタリー=ヴァイス 14歳です。よろしくお願いします」
「こちらこそ、よろしくお願いします。そちらにお座りください」
先ほどと全く同じセリフで着席を促し、自分も座る。
「先ほどマグダンスさんにもお伺いしましたが、ナタリーさんもアナベーラ商会の方は大丈夫なんですか?」
「はい! 大丈夫です! アナベーラ会頭の許可はとってます!」
ナタリーさんも大丈夫らしい。俺は名簿のナタリーさんの横に丸印をつけた。
「それでは明日も9時にお店に来てください」
「承知しました!」
時間が余ってしまったので、俺は気になっていたことを聞いてみる。
「ちなみになんですが、マグダンスさんもナタリーさんもなんでクランフォード商会の従業員に応募されたんですか?」
詳しくは知らないが、アナベーラ商会の方が雇用条件はいいはずだ。そもそもの商会の規模が違いすぎる。
「そうですね……いくつか理由はありますが、一番大きな理由は恩返しです」
「――恩返し?」
俺はきょとんとしてしまった。2人に恩を売った覚えがなかったのだ。
「はい。アレン様のおかげで、バルダの奴は失脚したと聞きました」
バルダ=オーウェン。以前、アナベーラ商会の支店長を務めていた男だ。
「ご存じの通り、バルダは店に出すべき商品を横流ししていました。そのせいで、店の収入は減り、物価は上がり、私達は生活に支障をきたしていたんです」
本来は店が得るべき収入をバルダ個人が受け取っていたのだ。従業員からしたらたまったものではないだろう。だが、バルダを捕まえたのはミッシェルさんだ。
「そうだったんですね……ミッシェル様に感謝しないといけませんね」
「もちろん、アナベーラ会頭にも感謝してます。でも、アレン様がいなければ、こんなにスムーズに事は運ばなかったと聞いてます。今更ですが、本当にありがとうございました」
そう言ってナタリーさんは頭を下げた。
「頭を上げてください。俺は感謝されるようなことはしてません……ただの偶然ですよ」
意図しないことで感謝されるのは、居心地が悪かった。そうとは知らないナタリーさんは頭を上げてから、続けて言う。
「その偶然に助けられた人もいるんです。それに、応募した理由はそれだけではないですから」
「……というと?」
「マグダンスは、『アレン様の発想は素晴らしい。ぜひ一緒に働きたい』と言っていました」
「――え!?」
俺は驚いて声をあげた。
「クランフォード商会の、従業員の休憩時間をしっかり確保した運営体制は、大変画期的で優れたものです。今アナベーラ商会でマネしようとしてるんですよ?」
知らなかった。特許権などと違い、勝手にマネしてもらって、一向にかまわないものだが、アナベーラ商会でマネしてもらえるほど優れたものだとは思わなかった。
「ですので、マグダンスも私も本心からクランフォード商会で働きたいと思っています。どうぞ、これからもよろしくお願いします」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
運用体制が褒められたことは素直に嬉しい。恩義ではなく、本心から働きたいと思ってくれているなら、こちらとしては、願ってもない事だ。
「これで面接は終了です。お疲れさまでした」
「お疲れ様でした!」
そう言って、ナタリーさんは出て行った。
俺は名簿を見返す。これで従業員は6人。最初のメンバーとしては十分な人数だ。
(どうなることかと思ったが何とかなったな)
時計を見ると、もうすぐお昼の時間だ。今日の午後はフィリス工房に行く予定なので、今のうちに昼食を済ませておく必要がある。隣の部屋にいるユリを迎えに行くと、ちょうど父さんも戻ってきた。
「アレン、お疲れ! なんとか午前中に終わったな。どうだった? いい人いたか?」
「お兄ちゃん、お疲れ様! マナちゃん来てたね! 応募者のふりしてたから話しかけられなかったけど。マナちゃん受かってるよね?」
父さんとユリが話しかけてくる。2人とも面接の結果を聞きたそうにしていた。
「お疲れー。まずはお昼ご飯を買ってこよう。面接の結果は食べながら話すよ」
そう言って、応接室の向かいの店長室に入る。店長室は、机と大きなテーブルが1つずつ置いてあり、お店の帳簿等の重要な書類を保管している部屋だ。
俺は、机の引き出しに名簿をしまい、外にいた2人と合流してベーカリー・バーバルに向かった。
(んー特別悪い人を除くと、後は似たり寄ったりでこれって人がいないんだよなぁ。次の人は………あれ?)
「コンコン」
「…………ど、どうぞー」
名簿を確認していた俺は次の人の名前に驚いて返事が遅れてしまった。
「失礼おしんやす」
ドアが開く。入ってきたのは、金髪金眼の美少女だった。この世界では珍しい着物姿がよく似合っている。そして、シャルさんに勝るとも劣らない胸をお持ちだった。
「はじめまして。わての名前はニーニャ=アナベーラ申します。今年で14歳になりんす。よろしゅう頼んます」
どこからどう見ても、そしてどう聞いてもミッシェルさんの娘さんだった。
「そちらにお座りください」
今まで通り、対面のソファーに着席を促し、自分も座る。
「えっと……失礼ですが、ミッシェル様の娘さんですよね?」
「その通りやす。母にここで働くよう言われて面接に申し込ませて頂きんした」
(ですよねー)
「そうでしたか。ミッシェル様にはいつもお世話になっております」
「こちらこそ、アレンはんには色々お世話になっていると聞いておりんす。母からも頑張って気に入られるよう言われとりますので、なにとぞ、よろしくお願いしんす」
そう言ってニーニャさんは頭を下げた。
「こちらこそ、よろしくお願いします。ニーニャさんはどのようなお仕事ができますか?」
俺の質問にニーニャさんは顔を上げて答える。
「計算や読み書きは問題ありんせん。口調はこんなんやけど接客もできんす。あと、夜伽も大丈夫やす」
(夜伽って…………は!?)
混乱する俺をよそに、ニーニャさんは和服の襟をずらし、肩を露出させる。
「――な、なにをやってるんですか!?」
「ん? アレンはんは男の子やさかい、色仕掛けに弱いて母に聞いとりました。嫌やったですか?」
(嫌じゃない。嫌じゃないけれど!!)
ニーニャさんは慌てる俺を楽しげに見つめた後、ぺろりと唇を舐めた。
「可愛いやね。母が気に入るんも分かりんすわ」
「い、いや……その……」
「けど、純粋すぎるなぁ。そんなんじゃ小賢しいのにいいように利用されるで」
いつの間にか、ニーニャさんにペースを握られていた。
「――まぁ、ええわ。アレンはん。面接は終了でいいんか?」
「え、ええ。そうですね。終了で大丈夫です。明日の9時にお店に来てください」
「承知しいした」
ニーニャさんが立ちあがったので、俺も立ち上がる。そのまま出て行くのかと思っていたが、ニーニャさんは俺の耳に顔を近づけてきた。
「夜伽のことは2人の秘密や。これからよろしゅうな」
耳元で囁かれた俺は、硬直してしまう。
「ほなまたな」
結局、ニーニャさんが退出するまで、俺は動くことができなかった。
扉が閉まったことで、俺はようやく硬直から解放される。
(人をからかって楽しむ感じ……間違いなくミッシェルさんの娘だな)
そう思いながら名簿のニーニャさんの横に丸印をつけた。何はともあれこれで4人目だ。
(応募者は後2人か。その2人が優秀だったらいいんだけどな…………ってあれ?)
名簿を見るとそこにはまたしても見覚えのある名前が書いてあった。
「コンコン」
「どうぞー」
「失礼します」
入ってきたのは見覚えのある男性だった。というより、今朝会った男性だ。
「マグダンスさん!」
そこにはアナベーラ商会から派遣されてきたマグダンスさんの姿があった。
「改めまして、マグダンス=カーミル 16歳です。正式に従業員として雇っていただきたく、面接に応募しました。よろしくお願いします」
「こちらこそ、よろしくお願いします。そちらにお座りください」
対面のソファーに着席を促し、自分も座る。
「いやぁ、まさかマグダンスさんが応募してくださっているなんて……アナベーラ商会の方は大丈夫なんですか?」
マグダンスさんの優秀さは知っている。うちで働いてもらえるなら大歓迎だ。しかし、彼はアナベーラ商会の従業員で、うちには派遣されてきてくれている状態だ。これでは、引き抜きになってしまう。そう思って聞いてみたのだが……。
「ご心配なく。ミッシェル会頭の許可はとってあります。むしろ、アレン様の力になってこいと言われました」
ミッシェルさんのお墨付きなら問題ないだろう。俺がそう思っていると、マグダンスさんが声を抑えて話し出す。
「ちなみに、ニーニャ様も面接を受けられたと思いますが、雇われますか?」
「あ、はい。そのつもりです」
俺も声を抑えて答えた。
「そうですか……アナベーラ会頭から、もしニーニャ様も一緒に働くなら、ニーニャ様が暴走しないように見張っておけと言われております。何かあった際は、私にお申し付けください」
マグダンスは、こちらに気を使って言ってくれたのだろうが、俺は、夜伽のことを言われたのかと思って、動揺してしまう。
(落ち着け! あのことは2人の秘密だとニーニャさんは言っていた。それに、俺は夜伽なんて受ける気はない! 大丈夫だ!)
「わ、分かりました。何かあった際はよろしくお願いします」
俺はそう言って名簿のマグダンスさんの横に丸印をつけた。
「面接は終了です。明日も朝9時にお店に来てください。そういえば今は休憩中ですか?」
「いえ、今はルーク様が私の代わりに働いてくださってます。私はこれから次の応募者と代わる予定です」
(次の応募者? もしかして……)
疑問に思ったが、ここはスルーしておく。
「そうですか。では、今後ともよろしくお願いします」
「はい。こちらこそ、よろしくお願いします」
そう言って、マグダンスさんは出て行った。俺は急いで名簿の一番下を見る。
(『ナタリー=ヴァイス』かぁ……名前は覚えてないけどあの人かな?)
名簿を眺めながら俺は以前裏口ですれ違った女性を思い浮かべる。
「コンコン」
「どうぞー」
「失礼します」
入ってきたのは、まさに思い浮かべていた女性だった。
「お疲れ様です、支店長。改めまして、ナタリー=ヴァイス 14歳です。よろしくお願いします」
「こちらこそ、よろしくお願いします。そちらにお座りください」
先ほどと全く同じセリフで着席を促し、自分も座る。
「先ほどマグダンスさんにもお伺いしましたが、ナタリーさんもアナベーラ商会の方は大丈夫なんですか?」
「はい! 大丈夫です! アナベーラ会頭の許可はとってます!」
ナタリーさんも大丈夫らしい。俺は名簿のナタリーさんの横に丸印をつけた。
「それでは明日も9時にお店に来てください」
「承知しました!」
時間が余ってしまったので、俺は気になっていたことを聞いてみる。
「ちなみになんですが、マグダンスさんもナタリーさんもなんでクランフォード商会の従業員に応募されたんですか?」
詳しくは知らないが、アナベーラ商会の方が雇用条件はいいはずだ。そもそもの商会の規模が違いすぎる。
「そうですね……いくつか理由はありますが、一番大きな理由は恩返しです」
「――恩返し?」
俺はきょとんとしてしまった。2人に恩を売った覚えがなかったのだ。
「はい。アレン様のおかげで、バルダの奴は失脚したと聞きました」
バルダ=オーウェン。以前、アナベーラ商会の支店長を務めていた男だ。
「ご存じの通り、バルダは店に出すべき商品を横流ししていました。そのせいで、店の収入は減り、物価は上がり、私達は生活に支障をきたしていたんです」
本来は店が得るべき収入をバルダ個人が受け取っていたのだ。従業員からしたらたまったものではないだろう。だが、バルダを捕まえたのはミッシェルさんだ。
「そうだったんですね……ミッシェル様に感謝しないといけませんね」
「もちろん、アナベーラ会頭にも感謝してます。でも、アレン様がいなければ、こんなにスムーズに事は運ばなかったと聞いてます。今更ですが、本当にありがとうございました」
そう言ってナタリーさんは頭を下げた。
「頭を上げてください。俺は感謝されるようなことはしてません……ただの偶然ですよ」
意図しないことで感謝されるのは、居心地が悪かった。そうとは知らないナタリーさんは頭を上げてから、続けて言う。
「その偶然に助けられた人もいるんです。それに、応募した理由はそれだけではないですから」
「……というと?」
「マグダンスは、『アレン様の発想は素晴らしい。ぜひ一緒に働きたい』と言っていました」
「――え!?」
俺は驚いて声をあげた。
「クランフォード商会の、従業員の休憩時間をしっかり確保した運営体制は、大変画期的で優れたものです。今アナベーラ商会でマネしようとしてるんですよ?」
知らなかった。特許権などと違い、勝手にマネしてもらって、一向にかまわないものだが、アナベーラ商会でマネしてもらえるほど優れたものだとは思わなかった。
「ですので、マグダンスも私も本心からクランフォード商会で働きたいと思っています。どうぞ、これからもよろしくお願いします」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
運用体制が褒められたことは素直に嬉しい。恩義ではなく、本心から働きたいと思ってくれているなら、こちらとしては、願ってもない事だ。
「これで面接は終了です。お疲れさまでした」
「お疲れ様でした!」
そう言って、ナタリーさんは出て行った。
俺は名簿を見返す。これで従業員は6人。最初のメンバーとしては十分な人数だ。
(どうなることかと思ったが何とかなったな)
時計を見ると、もうすぐお昼の時間だ。今日の午後はフィリス工房に行く予定なので、今のうちに昼食を済ませておく必要がある。隣の部屋にいるユリを迎えに行くと、ちょうど父さんも戻ってきた。
「アレン、お疲れ! なんとか午前中に終わったな。どうだった? いい人いたか?」
「お兄ちゃん、お疲れ様! マナちゃん来てたね! 応募者のふりしてたから話しかけられなかったけど。マナちゃん受かってるよね?」
父さんとユリが話しかけてくる。2人とも面接の結果を聞きたそうにしていた。
「お疲れー。まずはお昼ご飯を買ってこよう。面接の結果は食べながら話すよ」
そう言って、応接室の向かいの店長室に入る。店長室は、机と大きなテーブルが1つずつ置いてあり、お店の帳簿等の重要な書類を保管している部屋だ。
俺は、机の引き出しに名簿をしまい、外にいた2人と合流してベーカリー・バーバルに向かった。
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