知識チートの正しい使い方 〜自由な商人として成り上ります! え、だめ? よろしい、ならば拷問だ〜

ノ木瀬 優

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第0章 ある未来の話

2.【復讐の始まり2 蟻地獄(残酷な描写あり)】

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「このまま帰るか」 
「え??」

 そう言って『そいつ』は俺から離れていく。
 
 拷問される事を覚悟していた俺は『そいつ』の言っている事が理解できず、『そいつ』が離れていくのを呆然と見送る。

 しかし、すぐに異変に気付いた。『そいつ』がある程度離れた時、腹に鋭い痛みがはしったのだ。
 
「痛っ!」
 
 下を見ると、無数のアリが腹に噛みついている。
 
「な、なんだこれは!?」
 
 慌てて立ち上がろうとするも、両腕も両足も無いため、顔を上げることしかできない。
 
「『アーミーアント』。通称『軍隊アリ』。こいつらに狙われたら、たとえ象でも骨だけになっちまう。虫よけの魔道具なしにここにいるのは自殺行為だ。早く逃げたほうがいいぞ」

 『そいつ』が首から下げた魔道具を見せつけてきた。
 
「痛い! 痛い! やめろ!!」
 
 身体を動かし、何とか腹でアリをつぶすが、つぶした先から噛みつかれる。

 『そいつ』がさらに一歩離れるとアリは腹だけでなく、胸や肩にも噛みついてきた。慌てて頭を使って『そいつ』の方に進もうとするが、ほとんど進めない。

「ま、待て! この! くそ!! アリごときが!! あぁ、待ってくれ!!」

 『そいつ』がさらに一歩離れる。アリはさらに登ってくる。首にも噛みつかれた。どれだけ頭を使っても前に進むことができない。

 進むことを諦め、必死になって頭を振り回すが、アリは離れなかった。耐え切れなくなって懇願する。
 
「た、頼む! 助けてくれ!!」
 
 『そいつ』がさらに一歩離れる。あごや唇にも噛みついてきた。口や鼻の中にもアリが入ってくる。半狂乱で頭を振り回すが、アリが離れることはない。
 
「が! うえっ! 助けてくれ! 頼む!」
 
 鼻の中に噛みつかれる。歯茎や舌、頬にも噛みつかれる。慌てて目を閉じたが、まぶたに噛みつかれる。

 全身に嚙みつかれた。
 
「ん-ー!! んん! ん-ー!!!!」
 
(痛い痛い痛い!!!! いやだ! もう嫌だ! お願いだ! 誰か俺を殺してくれ!!!!)
 
 口を開くこともできない。開けばさらにアリが入ってくる。ただひたすら暴れた。しかし、どんなに暴れても痛みが引くことはない。全身が痛い。痛くて痛くて仕方ない。だが死ねるのはまだまだ先だろう。
 
 必死にのたうち回っていると、突然、痛みが引いた。

「人に頼む前に、質問に答えたらどうだ?」
 
 アリが身体からはなれて行くのを感じる。恐る恐る目を開けると、目の前に『そいつ』がいた。
 
「あ……あぁ……」
「最後にもう一度だけ聞いてやる。黒幕は誰だ?」
 
 一時的にアリから解放された。しかし、『そいつ』が離れればまたアリ達はやってくるのだろう。
 
 『そいつ』がゆっくりと離れていくと、再びアリが近づいてくる。『あの人』への恐怖など、頭から消え去っていた。

「ぁぁああ!! 話す! 話すから助けてくれ!」
「話してくれたら解放・・するよ。大丈夫。私もお兄ちゃんも約束は守るから」
 
 優しい笑みを浮かべながらも『その子』も『そいつ』と一緒に離れていく。もはやアリへの恐怖だけが俺を支配していた。
 
「第一王子だ! 第一王子のカミール王子だ! 王子の命令だったんだ!」
 
 2人はまだ離れ続けている。アリはもうすぐそこまで迫っていた。
 
「本当だ! 信じてくれ! 頼む! アリが!! アリが!!!! いやだぁぁああ!!!!!!」
 
 ドバン!
 
 銃声が鳴り響き、俺は恐怖から解放・・された。
 





【side アレン】

「よかったの?」 
「必要なことは聞けたからな。約束は守らないと」

 懐に忍ばせていた噓発見用の魔道具は、アイズの言葉に反応しなかった。アイズの言葉に嘘はなかったのだ。仮に少しでも嘘があれば、俺はアイズをあのまま放置しただろう。
 
「そっか。優しいね」 
「こいつらは下っ端さ。黒幕はこんなもんじゃすまさない」
「それは当然ね。……お兄ちゃん!?」 
「え?」
 
 ユリが俺の眼を凝視していた。不思議に思って顔に手を当てると、自分の眼から涙があふれていた。

「え!? ……あれ? え?」

 自分が泣いている事に気付いたものの、俺は涙を止める事ができなかった。判明した黒幕への怒り。最初の復讐を終えた高揚感と達成感。罪人とはいえ人を苦しめた事への罪悪感。その他いろいろな感情が渦巻いて気持ちのコントロールができなかった。

「お兄ちゃん」
 
 ユリが俺を優しく抱きしめてくれる。よく見るとユリも泣いていた。

「……ユリ」

 俺も抱きしめ返す。すると、ユリが俺の頭を撫でてくれる。



 しばらくしたら落ち着いてきたのか、ようやく涙が止まった。

「ごめん、ありがとう」 
「大丈夫だよ! もう大丈夫?」 
「ああ。これ以上情けない姿は見せられないしね」 
「そう? 泣いてるお兄ちゃん可愛かったよ?」 
「……忘れてくれ」
「えー、どうしよっかなぁ。クリスさんに、お兄ちゃんがクリスさん以外の胸で泣いたんだよって教えてあげよっかなぁ」
「それだけは勘弁してください! お願いします!」
「アリスちゃんやマナちゃんも、きっとなぐさめてく――」
「さぁ! 帰るぞ!」
「……」
 
 ユリの言葉を遮って、俺は『転移』の魔道具を起動する。
 
「ようやく尻尾をつかんだ。絶対に逃がさない」 
「いやいや。ごまかせてないって」 
「……あとでチョコ買ってあげるから。……皆には内緒だぞ?」
「――!? ……ふふふ。はーい!」
 


 俺達が転移した後、男の死体にはアリが群がっていた。
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