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6.マッチポンプ? 【馬鹿は予定がちょっとでも狂うと、パニックを起こす】
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【side クロ】
「――に応じて全ての敵を射殺せ。風弓!】」
俺は詠唱魔法によって、オークキングや配下のオーク達を狩っていく。
「ふふ。やっぱりクロちゃんも来てたね」
「ん? おお、マリアか。気付かなかった」
茂みの中から、気配を消していたマリアが現れた。マリアの後ろには、マリアが狩ったであろうオーク達が飛行で浮いた状態でついて来ている。
「凄い狩ったね! 大丈夫なの?」
「ああ。今日はこれのおかげでどれだけ狩っても無駄にならないからな」
俺は、マリアに腕に付けた魔道具を見せた。今回の演習の為に学校から支給された収納機能のある魔道具で、大容量で時間停止の機能ついている優れものだ。
「ああ! なるほど! それじゃ、私が狩ったのも収納してもらえる? 血抜きはしたんだけど、どうせなら新鮮な方が良いし」
「あいよ。んっ!」
俺は自分が狩ったオークとマリアが狩ったオークを対象に、収納魔法を起動した。
「これで全部かな。よし、そろそろ『指定区域』に戻ろう!」
「え? オークロードは?」
「ん? ここにいるよ」
俺は再び腕に付けた魔道具を見せる。
「オークロードが深部の主みたいだね。今は、狩り漏らしたオークキングを狩っていたところだよ」
「……絶対私よりクロちゃんの方が強いよね」
「状況によるだろ? それより、早く行こう。あの王子様達がオークキングに遭遇してたら面倒だ」
そう言って、俺は『指定区域』に向かって歩き出した。
「むー……」
「マリア」
「わかってるよ。でも、『むー』は『むー』なの!」
文句を言いつつも、マリアもすでに『指定区域』に向かって歩き出している。
「ふふ。ありがとう。そんなマリアが大好きだよ」
「――っ!! 『むー』『むー』『むー』!!」
そんな事をいいつつ、俺達は、『指定区域』へと向かった。
【side フィリップ王子】
結界を壊した俺は、索敵を行っていた取り巻き達と合流した。
「よし、索敵結果を報告せよ」
「はっ! この辺りに魔獣はおりませんでした」
「ふむ。ご苦労」
取り巻き達が心配そうに俺を見つめる。おそらく、演習の結果を心配しているのだろう。
(ふふ。心配しなくとも魔獣はもうすぐやって来るさ。俺達にふさわしい魔獣がね)
「よし、ではこれより、マリアと合流する。行くぞ」
「はっ!」
俺の計算では、マリアと合流する頃に深部の魔獣達が俺達の匂いにつられて、やって来るはずだ。そこで冷静な対応をすれば、マリアは俺に惚れるに違いない。
「くくく」
もうすぐ来る未来を想像した俺は、こらえきれず、笑みを漏らす。
「大変です! け、結界が!」
突然、取り巻きの1人が大きな声を出した。
「え? うわ、マジだ!」
「そんな! 結界が消えるなんて!」
「ま、まずいです、フィリップ王子! 今すぐ逃げないと!」
(ちっ、気付いたか。マリアと合流してから気付いてほしかったのだが)
『全員がパニックになる中、1人冷静な俺』という演出をしたかったのだが、気付いてしまったものは仕方がない。俺は、取り巻き達を一喝する。
「うろたえるな! 俺達は魔法使いだぞ! いついかなる時も冷静であるのだ!」
「し、しかし……」
「何も心配する事は無い。ここには俺がいるのだ! 仮に深部の魔獣が現れたとしても、俺達の敵ではない!」
「ふぃ、フィリップ王子……」
俺の言葉を聞いた取り巻き達が落ち着きを取り戻していく。
「そ、そうだ。我らにはフィリップ王子がついている!」
「深部の魔獣など、恐れるに足らず!」
「フィリップ王子万歳! フィリップ王子万歳!」
取り巻き達が俺を褒めたたえた。
(くくく、決まった! それにしても、この雄姿を、マリアに見せられなかったのが、残念でならないな……深部の魔獣と戦う時には、絶対にマリアにいてもらわないと)
「よし! では、はぐれているマリアと合流するぞ。その後、あいつと合流してから、ここを脱出するのだ!」
「「「はっ!」」」
(ま、その頃には、あいつは死んでいるだろうがな……そうだ! 幼馴染を無くして悲しむマリアを優しく抱きしめてやろう。そうすれば、マリアは……ぐふ、ぐふふふ)
そんな事を考えながら、マリアと合流すべく、俺達は先を急いだ。しかし……。
(………………おかしい。そろそろ合流してもいい頃だぞ?)
しばらく歩いたが、一向にマリアと合流できずにいる。
(なぜだ? 『指定区域』内を探索しているのだから、この辺にいるはずだ。なぜいない? …………ん?)
俺は、索敵の魔道具が魔獣を見つけたのを感じた。
(ちっ! マリアと合流する前に魔獣が現れてしまったか! 仕方ない。先に倒すか)
いくらマリアにかっこいい所を見せるためとはいえ、この魔獣を放置するのはまずい。この先も魔獣はやってくるのだ。マリアに見せるのが初戦でなくてもいいだろう。
「止まれ!」
俺は、取り巻き達に声をかけた。
「背後に魔獣がいる。深部の魔獣だ。警戒しろ」
「「「――!」」」
取り巻き達の間に緊張が走る。
「なに、心配するな。俺の風魔法できっちり倒してやるさ。お前達は万が一に備えてくれればいい」
「「「ふぃ、フィリップ王子……」」」
取り巻き達からが熱い視線を向けてきた。本当はその視線をマリアから貰いたかったのだが、仕方がない。
「よし、ここで魔獣を狩るぞ。俺はここから魔法を放つ。お前達はそことそこの茂みに隠れて、万が一俺が外したらお前達が魔法を放つのだ。いいな?」
「「「はっ!!」」」
取り巻き達が茂みに隠れ、俺は道の真ん中で深部の魔獣を待った。
そうしてしばらくすると、深部の魔獣がやって来る。
(あれは……オーク、だな)
オークジェネラルやオークキングでない事にがっかりしたが、それらと会うのはマリアと合流してからの方が良い事に気付いた。
(くくく。俗に言う、『ウォーミングアップにはちょうどいい』というやつだな。軽く倒してやるか!)
俺は、オークを見据える。すると、オークもこちらに気付いたのか、威嚇の声を張り上げた。
「ぶぅぉぉおおおんんんん!!」
「――ひっ……くっ!」
一瞬ひるんでしまったが、気を取り直して風魔法の準備を始める。人間が珍しいのか、オークは俺を観察していて、まだ、襲ってくる様子はない。だが、オークとの距離は30メートルほど。俺の魔法の射程範囲内だ。
(くそが! オークの分際で俺に威嚇するなど……身の程を知れ! 行くぞ【風弓!】)
俺の【風弓!】がオークの額に命中する。
(よしっ!)
オークの額に命中した【風弓!】はそのまま額を貫き、オークの脳を破壊する……事は無かった。
「ぶぉ?」
オークが痒そうに額をかく。
「………………え?」
オークの額には赤い跡がついていたものの、血すら流れていない。攻撃されたとすら、思っていないようだ。
「ぶぅぉぉおおおんんんん!!」
「――ひぃ!!」
再びオークが威嚇してきた。魔法が効かなかったことに動揺した俺は、情けない声を出して、後ろに転んでしまう。そんな俺を見て、オークが突っ込んでくる。
(やばい! やばいやばいやばい!!!)
「お前ら! 何をしている! 早く撃て!!!」
俺は茂みの中に隠れている取り巻き達を怒鳴りつけた。次の瞬間、複数の魔法がオークめがけて飛んでいく。
「ぶぅぉぉおおおんんんん!!」
だが、オークは意に介さず俺に向かって突っ込んできた。
「ひ、ひぃぃいいい!!」
俺は慌てて、一番得意な【火球】をオークに向けて連射する。先生から、『火事の危険があるから使うな』と言われていたが、今はそんな事気にしている場合じゃない。
【火球】の何発かがオークの服に着弾し、燃え広がる。
「ぶお! ぶおぉぉおおんんん!!」
オークが初めて悲鳴を上げた。俺に向かって突進していた足を止めて服に着いた火を消そうと転げまわる。
「お前ら、火だ! 【火球】を使え!!」
俺は転げまわるオークに【火球】を連発しながら取り巻き達に叫んだ。オークに襲われる恐怖を知った取り巻き達も、先生の言葉など無視して、【火球】を連発する。
「おらおらおら!!!」
「死ね死ね死ね死ね!!!!」
「燃えろ燃えろ燃えろぉ!!!」
暴れまわるオークを取り囲み、俺達は狂ったように【火球】を撃ち続けた。
どれだけ時間が経っただろうか。体感的には1時間近く撃ち続けていたが、自分の魔力量を考えると、1分も経っていないはずだ。俺達の魔力が尽きかけてきた頃、ようやく、オークが動かなくなった。
「や、やった……」
「やりました……ね」
「さすが……フィリップ王子、です」
取り巻き達が息も絶え絶えと言った様子で話しかけてくる。
「あ、ああ。お前達もよくやったぞ。は、はは」
俺は皆を鼓舞しようとしたが、いつものように上手く笑う事が出来ない。
(これが……これがオーク……深部の中で一番弱い魔獣……こいつが?)
こいつがオークではなく、オークジェネラルやオークキングだったら、俺達は間違いなく死んでいただろう。そして、それらの魔獣がもうすぐそこまで来ているはずなのだ。その恐怖が俺の心を蝕み、身体を上手く動かす事が出来ない。
しかし、そんなことはお構いなしに、危機はやって来る。
バキッ! バキバキバキバキ!!
「「「――っ!!!」」」
俺の背後から聞こえてきた音に全員で一斉に振り返った。
「あ、あああ……」
「森が……」
オークに夢中になって気付かなかったが、俺達の背後の木が大量に燃えていたのだ。先ほどの音は、火が付いた木が倒れた音で、倒れた木は、さらに多くの木を燃やしていく。
「ま、まずいぞ。一旦戻って別の道から――」
「「「ぶぅぉぉおおおんんんん!!」」」
「――っ!!!」
山火事とは反対から、オークの大群がやって来た。仲間の焼死体を見たからか、オークの大群は殺気に満ちた目で俺達を見ている。
「そ、そんな……」
「ど、どうしたら…………」
「ふぃ、フィリップ王子ぃ……」
取り巻き達が俺に縋りつくような視線を向けてくる。だが、前方を山火事に、後方をオーク達に塞がれた俺は、ただ、絶望するしかなかった。
「――に応じて全ての敵を射殺せ。風弓!】」
俺は詠唱魔法によって、オークキングや配下のオーク達を狩っていく。
「ふふ。やっぱりクロちゃんも来てたね」
「ん? おお、マリアか。気付かなかった」
茂みの中から、気配を消していたマリアが現れた。マリアの後ろには、マリアが狩ったであろうオーク達が飛行で浮いた状態でついて来ている。
「凄い狩ったね! 大丈夫なの?」
「ああ。今日はこれのおかげでどれだけ狩っても無駄にならないからな」
俺は、マリアに腕に付けた魔道具を見せた。今回の演習の為に学校から支給された収納機能のある魔道具で、大容量で時間停止の機能ついている優れものだ。
「ああ! なるほど! それじゃ、私が狩ったのも収納してもらえる? 血抜きはしたんだけど、どうせなら新鮮な方が良いし」
「あいよ。んっ!」
俺は自分が狩ったオークとマリアが狩ったオークを対象に、収納魔法を起動した。
「これで全部かな。よし、そろそろ『指定区域』に戻ろう!」
「え? オークロードは?」
「ん? ここにいるよ」
俺は再び腕に付けた魔道具を見せる。
「オークロードが深部の主みたいだね。今は、狩り漏らしたオークキングを狩っていたところだよ」
「……絶対私よりクロちゃんの方が強いよね」
「状況によるだろ? それより、早く行こう。あの王子様達がオークキングに遭遇してたら面倒だ」
そう言って、俺は『指定区域』に向かって歩き出した。
「むー……」
「マリア」
「わかってるよ。でも、『むー』は『むー』なの!」
文句を言いつつも、マリアもすでに『指定区域』に向かって歩き出している。
「ふふ。ありがとう。そんなマリアが大好きだよ」
「――っ!! 『むー』『むー』『むー』!!」
そんな事をいいつつ、俺達は、『指定区域』へと向かった。
【side フィリップ王子】
結界を壊した俺は、索敵を行っていた取り巻き達と合流した。
「よし、索敵結果を報告せよ」
「はっ! この辺りに魔獣はおりませんでした」
「ふむ。ご苦労」
取り巻き達が心配そうに俺を見つめる。おそらく、演習の結果を心配しているのだろう。
(ふふ。心配しなくとも魔獣はもうすぐやって来るさ。俺達にふさわしい魔獣がね)
「よし、ではこれより、マリアと合流する。行くぞ」
「はっ!」
俺の計算では、マリアと合流する頃に深部の魔獣達が俺達の匂いにつられて、やって来るはずだ。そこで冷静な対応をすれば、マリアは俺に惚れるに違いない。
「くくく」
もうすぐ来る未来を想像した俺は、こらえきれず、笑みを漏らす。
「大変です! け、結界が!」
突然、取り巻きの1人が大きな声を出した。
「え? うわ、マジだ!」
「そんな! 結界が消えるなんて!」
「ま、まずいです、フィリップ王子! 今すぐ逃げないと!」
(ちっ、気付いたか。マリアと合流してから気付いてほしかったのだが)
『全員がパニックになる中、1人冷静な俺』という演出をしたかったのだが、気付いてしまったものは仕方がない。俺は、取り巻き達を一喝する。
「うろたえるな! 俺達は魔法使いだぞ! いついかなる時も冷静であるのだ!」
「し、しかし……」
「何も心配する事は無い。ここには俺がいるのだ! 仮に深部の魔獣が現れたとしても、俺達の敵ではない!」
「ふぃ、フィリップ王子……」
俺の言葉を聞いた取り巻き達が落ち着きを取り戻していく。
「そ、そうだ。我らにはフィリップ王子がついている!」
「深部の魔獣など、恐れるに足らず!」
「フィリップ王子万歳! フィリップ王子万歳!」
取り巻き達が俺を褒めたたえた。
(くくく、決まった! それにしても、この雄姿を、マリアに見せられなかったのが、残念でならないな……深部の魔獣と戦う時には、絶対にマリアにいてもらわないと)
「よし! では、はぐれているマリアと合流するぞ。その後、あいつと合流してから、ここを脱出するのだ!」
「「「はっ!」」」
(ま、その頃には、あいつは死んでいるだろうがな……そうだ! 幼馴染を無くして悲しむマリアを優しく抱きしめてやろう。そうすれば、マリアは……ぐふ、ぐふふふ)
そんな事を考えながら、マリアと合流すべく、俺達は先を急いだ。しかし……。
(………………おかしい。そろそろ合流してもいい頃だぞ?)
しばらく歩いたが、一向にマリアと合流できずにいる。
(なぜだ? 『指定区域』内を探索しているのだから、この辺にいるはずだ。なぜいない? …………ん?)
俺は、索敵の魔道具が魔獣を見つけたのを感じた。
(ちっ! マリアと合流する前に魔獣が現れてしまったか! 仕方ない。先に倒すか)
いくらマリアにかっこいい所を見せるためとはいえ、この魔獣を放置するのはまずい。この先も魔獣はやってくるのだ。マリアに見せるのが初戦でなくてもいいだろう。
「止まれ!」
俺は、取り巻き達に声をかけた。
「背後に魔獣がいる。深部の魔獣だ。警戒しろ」
「「「――!」」」
取り巻き達の間に緊張が走る。
「なに、心配するな。俺の風魔法できっちり倒してやるさ。お前達は万が一に備えてくれればいい」
「「「ふぃ、フィリップ王子……」」」
取り巻き達からが熱い視線を向けてきた。本当はその視線をマリアから貰いたかったのだが、仕方がない。
「よし、ここで魔獣を狩るぞ。俺はここから魔法を放つ。お前達はそことそこの茂みに隠れて、万が一俺が外したらお前達が魔法を放つのだ。いいな?」
「「「はっ!!」」」
取り巻き達が茂みに隠れ、俺は道の真ん中で深部の魔獣を待った。
そうしてしばらくすると、深部の魔獣がやって来る。
(あれは……オーク、だな)
オークジェネラルやオークキングでない事にがっかりしたが、それらと会うのはマリアと合流してからの方が良い事に気付いた。
(くくく。俗に言う、『ウォーミングアップにはちょうどいい』というやつだな。軽く倒してやるか!)
俺は、オークを見据える。すると、オークもこちらに気付いたのか、威嚇の声を張り上げた。
「ぶぅぉぉおおおんんんん!!」
「――ひっ……くっ!」
一瞬ひるんでしまったが、気を取り直して風魔法の準備を始める。人間が珍しいのか、オークは俺を観察していて、まだ、襲ってくる様子はない。だが、オークとの距離は30メートルほど。俺の魔法の射程範囲内だ。
(くそが! オークの分際で俺に威嚇するなど……身の程を知れ! 行くぞ【風弓!】)
俺の【風弓!】がオークの額に命中する。
(よしっ!)
オークの額に命中した【風弓!】はそのまま額を貫き、オークの脳を破壊する……事は無かった。
「ぶぉ?」
オークが痒そうに額をかく。
「………………え?」
オークの額には赤い跡がついていたものの、血すら流れていない。攻撃されたとすら、思っていないようだ。
「ぶぅぉぉおおおんんんん!!」
「――ひぃ!!」
再びオークが威嚇してきた。魔法が効かなかったことに動揺した俺は、情けない声を出して、後ろに転んでしまう。そんな俺を見て、オークが突っ込んでくる。
(やばい! やばいやばいやばい!!!)
「お前ら! 何をしている! 早く撃て!!!」
俺は茂みの中に隠れている取り巻き達を怒鳴りつけた。次の瞬間、複数の魔法がオークめがけて飛んでいく。
「ぶぅぉぉおおおんんんん!!」
だが、オークは意に介さず俺に向かって突っ込んできた。
「ひ、ひぃぃいいい!!」
俺は慌てて、一番得意な【火球】をオークに向けて連射する。先生から、『火事の危険があるから使うな』と言われていたが、今はそんな事気にしている場合じゃない。
【火球】の何発かがオークの服に着弾し、燃え広がる。
「ぶお! ぶおぉぉおおんんん!!」
オークが初めて悲鳴を上げた。俺に向かって突進していた足を止めて服に着いた火を消そうと転げまわる。
「お前ら、火だ! 【火球】を使え!!」
俺は転げまわるオークに【火球】を連発しながら取り巻き達に叫んだ。オークに襲われる恐怖を知った取り巻き達も、先生の言葉など無視して、【火球】を連発する。
「おらおらおら!!!」
「死ね死ね死ね死ね!!!!」
「燃えろ燃えろ燃えろぉ!!!」
暴れまわるオークを取り囲み、俺達は狂ったように【火球】を撃ち続けた。
どれだけ時間が経っただろうか。体感的には1時間近く撃ち続けていたが、自分の魔力量を考えると、1分も経っていないはずだ。俺達の魔力が尽きかけてきた頃、ようやく、オークが動かなくなった。
「や、やった……」
「やりました……ね」
「さすが……フィリップ王子、です」
取り巻き達が息も絶え絶えと言った様子で話しかけてくる。
「あ、ああ。お前達もよくやったぞ。は、はは」
俺は皆を鼓舞しようとしたが、いつものように上手く笑う事が出来ない。
(これが……これがオーク……深部の中で一番弱い魔獣……こいつが?)
こいつがオークではなく、オークジェネラルやオークキングだったら、俺達は間違いなく死んでいただろう。そして、それらの魔獣がもうすぐそこまで来ているはずなのだ。その恐怖が俺の心を蝕み、身体を上手く動かす事が出来ない。
しかし、そんなことはお構いなしに、危機はやって来る。
バキッ! バキバキバキバキ!!
「「「――っ!!!」」」
俺の背後から聞こえてきた音に全員で一斉に振り返った。
「あ、あああ……」
「森が……」
オークに夢中になって気付かなかったが、俺達の背後の木が大量に燃えていたのだ。先ほどの音は、火が付いた木が倒れた音で、倒れた木は、さらに多くの木を燃やしていく。
「ま、まずいぞ。一旦戻って別の道から――」
「「「ぶぅぉぉおおおんんんん!!」」」
「――っ!!!」
山火事とは反対から、オークの大群がやって来た。仲間の焼死体を見たからか、オークの大群は殺気に満ちた目で俺達を見ている。
「そ、そんな……」
「ど、どうしたら…………」
「ふぃ、フィリップ王子ぃ……」
取り巻き達が俺に縋りつくような視線を向けてくる。だが、前方を山火事に、後方をオーク達に塞がれた俺は、ただ、絶望するしかなかった。
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