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5.大惨事?【被害者が認識していなければ、事件は事件でなくなる】
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【side クロ】
チリーン
「ん?」
妙な音と魔力の反応を感じて、俺は振り返る。
(何だこれ? 鈴の音? いや、ただの鈴じゃない。かなり強力な魔法だ……でも位置的に結界の中……って事は王子達の魔法か?…………って、あれ?)
俺は魔力を感じた方向を見て、ある事に気付いた。先ほどまで見えていた結界が無いのだ。
(結界が……ない? え、マジで? そんな事ってある?)
試験中に結界が消えてしまうなんて事は、少なくともここ数十年無かったはずだ。俺はまたとないチャンスに歓喜する。
(ラッキー! これで、深部の魔物を狩りに行ける! お、さっそくいっぱい来てるじゃん!)
俺は王子の姿が見えない事を確認してから、『指定区域』の外へと向かった。
【同時刻 side マリア】
(まったくもう! まったくもうだよ、まったくもう!)
私はこらえきれない怒りに身を任せながら、『指定区域』の中を進んで行く。
(あんな王子様にペコペコすることないのに。ちゃんと戦えば、クロちゃんの方が強いんだから! ………………まぁ、でも、クロちゃんが謝るべきって思ったんだから、それが正しいんだろうけどさ。うぅ……)
クロちゃんが私のためを思って止めてくれたのは分かっている。しかし……。
(私の事、悪く言ったり変な目で見るのはまだいいんけどさぁ……。クロちゃんを『雑魚』で『最弱』で『足手まとい』って……馬鹿なんじゃないのあのクソ馬鹿ゴミ王子様!!)
クロちゃんを悪く言うのは、我慢できなかったのだ。そんな時。
チリーン
「………………え?」
どこからか、鈴の音が聞こえて来た。
(え、何? 『結界を壊す』?)
鈴の音に込められた『願い』を精霊さん達が、私に教えてくれる。
(え? じゃあ、魔獣用の結界は……)
慌てて確認すると、先ほどまで背後に見えていた魔獣用の結界が見えなくなっていた。
(これって……もしかしてチャンス?)
怒りの感情を、喜びの感情が上書いていく。
というのも、『魔獣の森』の深部にオークロードなどの美味しい魔獣が生息しているという話を聞いて、私はすぐに『魔獣の森』の奥地に向かおうとした。しかし、ライス先生から、『卒業間近の一部の優秀な生徒が試験を受けるための場所で、入学してすぐの学生が言っていい場所じゃない』と言われてしまい、泣く泣く諦めたのだ。
(でも、この状況なら、仕方ないよね! なんかいっぱい来てるし!)
大量の魔獣達がこっちにやって来るのを感じ、私は嬉々として『指定区域』の外へと向かった。
【同時刻 side ライス先生】
演習中の生徒達のための救護テント。そこの空気は弛緩しきっていた。というのも、初回のこの演習で怪我をする生徒は、ほとんどいないのだ。あるとしても、森の木にひっかけて切り傷を作ったとか、コボルトを追っかけて転んだとかその程度だ。ゆえに、空気が弛緩してしまうのも仕方がない。
かくいう俺も、『昼食を何にするか』に頭を悩ませていたくらいだ。しかし……。
ファン! ファン! ファン! ファン!
突然鳴り響いたアラームに、弛緩した空気が吹き飛んだ。
「アラームを止めろ! 何が起きた!」
動揺する職員を一喝し、俺は状況の把握に努める。
「ま、待ってください。えっと。――っ! 報告します! 魔獣用の結界が、一部破損したようです!」
「なんだと! 破損した場所と範囲は!?」
「それが……ここから一番遠い、『魔獣の森』の深部に近い場所です。100メートルの穴が開いています」
「なんて事だ……くそっ」
想定した中でも最悪の事態だ。破損した場所が近ければどうとでもなった。最悪、穴の大きさが、数メートルならば、俺が行って穴に入ろうとする魔獣を狩れば、対処できる。だが、100メートルもの穴が開いていては、穴に入ろうとする魔獣を狩り切るなど不可能だ。必ず狩り漏らす。そして、俺が狩り漏らしたが最後、今の生徒達には魔獣から身を守る術がない。
「すぐに学校と国軍に連絡し、応援を要請しろ! 手の空いている者は『指定区域』内に入り、演習の中止を伝えるんだ! あまり奥まで行くなよ!」
ここにいるのは、観測係と救護係の者ばかりで、魔獣と戦える人間は俺しかいない。あまり奥まで行ってしまうと、2次被害が発生しかねないのだ。
「あ、あの、最大音量のアナウンスで呼びかけてみては?」
看護師の1人が恐る恐る言った。魔獣がいるかもしれない場所に行くのが怖いのだろう。戦闘員でない者に戦場に行けと言っているのだ。我ながら、ひどい事を言っているとは思う。しかし……。
「『指定区域』全域に聞こえるようにアナウンスする気か? そんなことをしてみろ。音に反応して、深部の魔獣達が『指定区域』に押し寄せてくるぞ。気持ちは分かるが、口頭で伝えていくしかないんだ。腹をくくってくれ」
可哀そうだが、他に手はない。俺の言葉に、看護師が泣きそうな顔で頷く。
「それから…………フィリップ王子の現在地を大至急調べろ。俺が護衛に向かう」
「え? フィリップ王子の……ですか?」
「ああ。あんな王子でも守らないわけにはいかんだろ!」
本来であれば、俺は、結界に空いた穴に向かい、少しでも魔獣が入って来るのを防ぐべきなのだろう。そうすれば、確実に被害者は減るのだから。だが、残念ながら命の重みは平等ではない。王家の血を引く王子は、それだけで、価値があるのだ。葛藤はあるが、王子の命を最優先にしないわけにはいかない。
その後、フィリップ王子の居場所を聞いた俺は、葛藤することなく、フィリップ王子の元に向かう事が出来たのだった。
チリーン
「ん?」
妙な音と魔力の反応を感じて、俺は振り返る。
(何だこれ? 鈴の音? いや、ただの鈴じゃない。かなり強力な魔法だ……でも位置的に結界の中……って事は王子達の魔法か?…………って、あれ?)
俺は魔力を感じた方向を見て、ある事に気付いた。先ほどまで見えていた結界が無いのだ。
(結界が……ない? え、マジで? そんな事ってある?)
試験中に結界が消えてしまうなんて事は、少なくともここ数十年無かったはずだ。俺はまたとないチャンスに歓喜する。
(ラッキー! これで、深部の魔物を狩りに行ける! お、さっそくいっぱい来てるじゃん!)
俺は王子の姿が見えない事を確認してから、『指定区域』の外へと向かった。
【同時刻 side マリア】
(まったくもう! まったくもうだよ、まったくもう!)
私はこらえきれない怒りに身を任せながら、『指定区域』の中を進んで行く。
(あんな王子様にペコペコすることないのに。ちゃんと戦えば、クロちゃんの方が強いんだから! ………………まぁ、でも、クロちゃんが謝るべきって思ったんだから、それが正しいんだろうけどさ。うぅ……)
クロちゃんが私のためを思って止めてくれたのは分かっている。しかし……。
(私の事、悪く言ったり変な目で見るのはまだいいんけどさぁ……。クロちゃんを『雑魚』で『最弱』で『足手まとい』って……馬鹿なんじゃないのあのクソ馬鹿ゴミ王子様!!)
クロちゃんを悪く言うのは、我慢できなかったのだ。そんな時。
チリーン
「………………え?」
どこからか、鈴の音が聞こえて来た。
(え、何? 『結界を壊す』?)
鈴の音に込められた『願い』を精霊さん達が、私に教えてくれる。
(え? じゃあ、魔獣用の結界は……)
慌てて確認すると、先ほどまで背後に見えていた魔獣用の結界が見えなくなっていた。
(これって……もしかしてチャンス?)
怒りの感情を、喜びの感情が上書いていく。
というのも、『魔獣の森』の深部にオークロードなどの美味しい魔獣が生息しているという話を聞いて、私はすぐに『魔獣の森』の奥地に向かおうとした。しかし、ライス先生から、『卒業間近の一部の優秀な生徒が試験を受けるための場所で、入学してすぐの学生が言っていい場所じゃない』と言われてしまい、泣く泣く諦めたのだ。
(でも、この状況なら、仕方ないよね! なんかいっぱい来てるし!)
大量の魔獣達がこっちにやって来るのを感じ、私は嬉々として『指定区域』の外へと向かった。
【同時刻 side ライス先生】
演習中の生徒達のための救護テント。そこの空気は弛緩しきっていた。というのも、初回のこの演習で怪我をする生徒は、ほとんどいないのだ。あるとしても、森の木にひっかけて切り傷を作ったとか、コボルトを追っかけて転んだとかその程度だ。ゆえに、空気が弛緩してしまうのも仕方がない。
かくいう俺も、『昼食を何にするか』に頭を悩ませていたくらいだ。しかし……。
ファン! ファン! ファン! ファン!
突然鳴り響いたアラームに、弛緩した空気が吹き飛んだ。
「アラームを止めろ! 何が起きた!」
動揺する職員を一喝し、俺は状況の把握に努める。
「ま、待ってください。えっと。――っ! 報告します! 魔獣用の結界が、一部破損したようです!」
「なんだと! 破損した場所と範囲は!?」
「それが……ここから一番遠い、『魔獣の森』の深部に近い場所です。100メートルの穴が開いています」
「なんて事だ……くそっ」
想定した中でも最悪の事態だ。破損した場所が近ければどうとでもなった。最悪、穴の大きさが、数メートルならば、俺が行って穴に入ろうとする魔獣を狩れば、対処できる。だが、100メートルもの穴が開いていては、穴に入ろうとする魔獣を狩り切るなど不可能だ。必ず狩り漏らす。そして、俺が狩り漏らしたが最後、今の生徒達には魔獣から身を守る術がない。
「すぐに学校と国軍に連絡し、応援を要請しろ! 手の空いている者は『指定区域』内に入り、演習の中止を伝えるんだ! あまり奥まで行くなよ!」
ここにいるのは、観測係と救護係の者ばかりで、魔獣と戦える人間は俺しかいない。あまり奥まで行ってしまうと、2次被害が発生しかねないのだ。
「あ、あの、最大音量のアナウンスで呼びかけてみては?」
看護師の1人が恐る恐る言った。魔獣がいるかもしれない場所に行くのが怖いのだろう。戦闘員でない者に戦場に行けと言っているのだ。我ながら、ひどい事を言っているとは思う。しかし……。
「『指定区域』全域に聞こえるようにアナウンスする気か? そんなことをしてみろ。音に反応して、深部の魔獣達が『指定区域』に押し寄せてくるぞ。気持ちは分かるが、口頭で伝えていくしかないんだ。腹をくくってくれ」
可哀そうだが、他に手はない。俺の言葉に、看護師が泣きそうな顔で頷く。
「それから…………フィリップ王子の現在地を大至急調べろ。俺が護衛に向かう」
「え? フィリップ王子の……ですか?」
「ああ。あんな王子でも守らないわけにはいかんだろ!」
本来であれば、俺は、結界に空いた穴に向かい、少しでも魔獣が入って来るのを防ぐべきなのだろう。そうすれば、確実に被害者は減るのだから。だが、残念ながら命の重みは平等ではない。王家の血を引く王子は、それだけで、価値があるのだ。葛藤はあるが、王子の命を最優先にしないわけにはいかない。
その後、フィリップ王子の居場所を聞いた俺は、葛藤することなく、フィリップ王子の元に向かう事が出来たのだった。
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