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第三章 クラス丸ごと異世界転生!? 追放された野獣が進む、復讐の道は怒りのデスロード!
3-295. 【ミッチ・イグニオのクトリアの歩き方:改訂25版】
しおりを挟む●はじめに
クトリア共和国へようこそ!
さて、王国の紳士淑女諸君、あるいはその他様々な場所から来られた皆様方。クトリアに訪れ、そこでの日々をより良くするのには何が必要かご存知だろうか?
大量のお金? 勿論そうだ! 心強い護衛? それも当然。
しかし何よりも大切なのは情報。つまりはこの『ミッチ・イグニオのクトリアの歩き方』が必要だ。
多くの観光、遊興目的の王国市民、叉は貴族の方々は、まず何よりも貴族街へと向かいたがるだろう。
あるいはこの地を新たなる生活の場として訪れた皆様においては、まずは糧を得る為の手段が必要となるかもしれない。
けれども、クトリアにはそれ以外にも多くのものがあり、また日々新たな変化や発展にも満ちている。
ただ通り過ぎるだけの旧商業地区にも見所はあるし、また当然危険な場所もあり、商取引を望む商人にも大いなるチャンスが見つけられる。
それらを適切に見極める為にも、この『ミッチ・イグニオのクトリアの歩き方』は必読の書であり、必ず手に取るべき一冊である。
さらには新生されたクトリア共和国となった今、かつてのクトリアとはまた違った様々な魅力や楽しみ、あるいは問題の種もある。以前の版は残念ながらほとんど役には立たないのだ。
この『クトリアの歩き方』は常に新しい情報へと刷新されているため、再びクトリアへと来られた際は、南門市場の売り子か、西地区の『ミッチとマキシモの何でもそろう店』他、何ヶ所かの販売所でお買い求めされたし。
【妖術師の小塔】
まず一番に触れておきたいのは、市街地含めて各地に建設されている妖術師の小塔についてだ。
これは特に古代ドワーフ遺跡でもたまに見られるものと同じだが、本来的には魔力中継点と呼ばれる、遠隔から魔力を中継する魔術建造物の事だ。
高さはおおよそ1パーカほど。外観はまさに貴族街の妖術師の塔を模したミニチュアだ。
クトリア共和国議会は、古代ドワーフ建造物である貴族街の妖術師の塔と各地とを魔術的に繋げる為にこれらを建設した。
これにより、まずは情報伝達が迅速になり、また緊急時の防衛にも役立つと言う。
だがそれとは別に、我々一般庶民に関係ある別の機能もある。
それが、クトリア共和国公共放送だ。
貴族街、市街地ではかつてよりお馴染みだった時報の鐘にはじまり、時事ニュースや警戒警報、音楽や漫談など、様々な音声が放送されるという画期的な建造物なのだ。
クトリア共和国公共放送が実施されて以降に初めて訪れた人々は、おそらくはまず最初にグンター牧場ガブガブ休息所で目にし、また放送を耳にする事になるだろう。
メインパーソナリティのルーズによるトークもだが、プレイゼスでも演奏している楽隊の演奏にアドリアーノの時事漫談や朗読劇と、これを聴いてるだけでも1日を有意義に過ごせてしまうとも言える。
王国からの旅行者の中には、この為ガブガブ休息所から半日以上動けなくなる者も居るのだとか。
当ガイドはガブガブ休息所でも委託販売されているので、まさに今これを読みつつ飲み物と串焼きを手にして公共放送へと耳を傾けて居る人も居るかもしれない。
【城壁外市街地近郊】
さて、これまでの『クトリアの歩き方』ではあまり重視されていなかった城壁外について先に述べるのには意味がある。
見所があるから、ではなく、クトリア共和国となってからの変化において最も分かり易い、国外から来た皆様には無視できない事があるからだ。
マクオラン遺跡野営地、またはカロド河を越えてこのクトリアの地へ訪れ、旧王都へと向かう場合、多くは南外城門へと着くだろう。
移動は徒歩でも比較的安全。王国軍の運用による有料乗り合い馬車ならさらに安全だ。
ここがまさにクトリア市街地への入り口で、かつての“王の守護者”、そして今はクトリア共和国衛兵隊が守る安全の要でもある。
そしてこの南外城門に向かって右手側、西方面へと進んで見えるのは、まずは高い壁に囲まれた交易組合宿舎。東方面へと向かえば東地区がある。
だが今はその東地区との中間地点には難民キャンプが立ち並んでいる。
主に西カロド河を越えて残り火砂漠、ボバーシオ方面からやってきた難民達の仮宿舎として造られたここは、もしあなたがまさに戦災などを逃れてやってきた難民であれば必ず立ち寄り、クトリア共和国衛兵隊の詰め所で難民登録をするべきだろう。
難民登録をすれば、“黎明の使徒”による日に二回の炊き出しで食を得られ、また天幕にて休む事が出来、あるいは新たな職を得る事も可能だろう。
もちろん、類縁や知り合いの伝手があるならば、難民登録せずに城内へと入り新たな生活を始めることも出来るし、また炊き出しなど無くとも暮らせる十分な財と能力のある人も居るだろう。だとしても、そうでないか、あるいはそうであっても、一旦はここで難民登録をしてクトリア共和国衛兵隊と繋がっておくのは損する選択ではないと言える。あらゆる場面でその方が融通が効くうえ、何らかのトラブルに見まわれたときにより迅速な対応が得られる可能性が高まるからだ。
それでは難民ではない来訪者の方々にとってはどうなのか……? と問われると、まあ正直なところ立ち寄る必要性はさして無い場所ではあると言える。
無闇なトラブルを招かない為にも、興味本位で訪れるのはお勧めをしない。
なお、難民含めた移住者達の為の新たな新生活ガイドは別子にてまとめてあるため、詳しくはそちらを参照されたし。
その他の城壁外の名所や居留地については、後の項目にてまとめてある。
【クトリア市街地の概要】
クトリア市街地は内側と外側の大きく二つの地区に別れ、かつてはクトリア王宮があり(以前はただの残骸の山だったが、現在少しずつ修復がなされつつある)、今は共和国の象徴として高くそびえる妖術師の塔のある、やや小高い丘の上の内城壁内を貴族街と呼び、その外側にあり、外城壁に囲まれた場所を旧商業地区、または市街地区と呼ぶ。
この外城壁内の旧商業地区は完全に貴族街をぐるりと囲んで居るわけではなく、北側を除くほぼ三方を囲う形になっている。
外から来るものの多くは南外城門、または西外城門から旧商業地区へと入り、大路を抜けて南内城門から貴族街へと向かうことになる。
それ以外の場所では、現在多くの区画で新たな改修建築が行われ、廃墟と化していた区画も整備され新しくなっており、以前訪れた事のある人でも迷うことは必至だ。ご注意召されよ。
●旧商業地区
【旧商業地区・南地区】
旧商業地区は外城門をくぐり、貴族街への内城門をくぐるより前の地区全体を指す。
その中でも大まかに、南門をくぐってすぐの市場、職人街を含む『南地区』、商店街と自警団本部を含む『西地区』、そして現在最も再開発の進んでいる『北地区』があり、また一般に『東地区』と呼ばれるのは、外城壁外にいささか離れて独立している地域にある。
まずは南地区だ。
南地区は城門前に様々な露天のある市場がある。
端の方にあるのはオオネズミの串焼きや牛糞団子、クズ物なんかを扱う地元貧民向けの露店ばかりなので立ち寄る必要はないが、中央近辺の露店には見所のあるものも多い。
特におすすめは狩人の出している串焼き屋で、南方人の二人組、ゲラッジオとコナルムの出す店だ。
ここはクトリア一の狩人である“腕長トムヨイ”の狩ってきた獲物をこだわりの料理人アティックが調理した肉を出しており、何せこの“腕長トムヨイ”のチームは、あのマヌサアルバ会へも獲物を卸して居るほどなのだ。
それにこだわりの料理人、猫獣人のアティックは、考案したレシピがなんとマヌサアルバ会での新メニューに採用される程の腕前だという。
ときにはそこで採用されたレシピや、使用された特製ソースなどを使った料理も、ここで味わうことも出来る。
たまに売り子で現れる女性たちもなかなかの美人揃いだが、変なちょっかいを出すことはお勧めしない。彼等はクトリアで猛獣魔獣を狩っている凄腕達だ。
また、この市場はかつての自警団、王の守護者改めクトリア共和国衛兵隊が取り仕切ってもいる。
城門の詰め所は入城の際のみならず、様々な窓口ともなる。
もしあなたが特定の物を求めている場合、ここを仕切っている衛兵隊の者に有料で依頼を出すことで、入手の代行をしてくれる者を見つけることもできる。
もしかしたらお望みのものが意外な安値で手に入るかもしれないが、勿論投資した分に必ず見当った見返りが得られる保証はないのでその点には覚悟が必要だ。
なお、衛兵隊の詰め所はこの南城門前以外にも何ヶ所かに設置されており、トラブルや問題が起きた場合迅速に対応してくれる。安全はただではない、と言われていたクトリアは過去のものだ。もちろん、完璧にとは言えないとしても、だ。
南地区ではまた、『黎明の使徒』のクトリア本部もある。
何かしらの不測の事態で治療や医薬品が必要になったときは訪れると良い。
ただし地元の貧民に対しては無償だが、王国市民や富裕層には有償、または寄付を求めるので、あまり無理な要求はしないように。
慈愛に満ちた団体ではあるが、ここの警備兵達も強者揃いだ。特に代表のグレイティアの護衛をしている半死人のターシャには要注意。また、もしあなたがクトリアで半死人を見るのが初めてだとしても、態度には気をつけられることをお願いする。彼等を敵に回すような振る舞いは致命的だとだけお伝えしよう。
狩人組合本部があるのもまた、この南地区だ。
あなたがクトリアで新たに狩人として生計を立てたいのであれば、必ずここで組合登録をする必要がある。(詳細を知りたければ、『クトリア共和国新生活ガイド』を参照されたし)
そうでない場合は、ここで依頼と取引をする事も可能だ。
依頼は個別に欲しい獲物や素材の発注をする事で、クトリアの凄腕狩人達があなたの求めるもの……例えば魔蠍の毒腺であるとか、岩蟹の卵であるとか……を取ってきてくれる。
取引はその時点で本部に置いてある食肉や素材などを買うことが出来る。
或いはそれらを売ることも、だ。
また野獣、魔獣の肉や皮に鱗、角など各種部位を買い取って貰えるのは、基本的には市街地ではこの狩人組合本部だけだ。他の店では闇取引扱いになるので、注意されたし。
そして何よりもこの南地区で一番の見ものは、『ミッチとマキシモの何でもそろう店』だ。
ここは地元の職人たちが作った様々な小物類の他、遺跡から発掘された古代ドワーフによる工芸品や雑貨にちょっとした自衛用の武器防具類等々、滞在中や帰路に必要となるものや、商取引に有益なもの、またはお土産等々、様々な王国市民のニーズに応えている。
さらには最近のお勧めは、様々な書籍冊子の類だ。
『ミッチ・イグニオのクトリアの歩き方』最新版はもとより、『クトリア共和国新生活ガイド』、そして新しい謎解き本や読み物など、様々な本が売られている。
謎解き本などは、付属の解答用紙に答えを書いて持ってくると、賞金を得ることも出来る。
最新版以外は抽選でのものになるが、これもちょっとした小遣い稼ぎと思えば、楽しみと実益の両方になる。
なお、最も評判がよく楽しいと言われているのは、『ちいころの冒険』と言う特別なドワーベン・ガーティアンの活躍を描いたものだとの話だ。
ためになる知識も得られて内容も楽しい、実に素晴らしい謎解き本だ。
また、治安の良くなったクトリア共和国ではあるが、まだ南地区には酒と薬品の密売人もうろついていることもある。特に観光客をカモにしようと狙っているが、彼らの売り物は出来損ないの粗悪品ばかりなので、購入はお勧めしない。ただ“悪酔い”するだけならまだマシで、時には命に関わる事もある。
【旧商業地区・西地区】
西地区は南地区を抜けて内城門前へと向かう大路と、そこから西方面の比較的損傷の少ない地区を指す。
ここでの見ものは主に三つだ。
シャロン・ファミリーの経営する居酒屋件宿屋の『牛追い酒場』及びその周辺の旧商業地区歓楽街。
そして旧王の守護者、現クトリア共和国衛兵隊の本部。
そして、新たに造られた公衆浴場だ。
貴族街での遊興や飲食、お楽しみはなかなか経費がかさむ。少しは節約が必要だ……というときには『牛追い酒場』やその周辺をお勧めする。特に『牛追い酒場』には上物の蒸留ヤシ酒が入荷されていて、やや割高だが絶品の味わいだ。
またちょっとした賭事や様々なお楽しみも得られる。
路上での闘鶏や、地下のラットレース等もあるが、慣れない王国市民には余りお勧めしない。
それと、路地裏や地下の病気持ちの花売りにも気をつけるように。怪しいと思ったら、『黎明の使徒』の本部へ行こう。割増料金で治療を受けられる。
そして何かしらトラブルにあったら、この西地区にあるクトリア共和国衛兵隊本部か詰め所へ行くと良い。
勿論あなたが何等かの不正や不法行為に手を染めていない限りにおいては、だが。
衛兵隊本部はその他様々な共和国の公的窓口ともなっている。手続きや商取引その他、分からない事や必要な事があればすぐ立ち寄るべきだ。
併設された図書室には、様々なガイドや冊子もあり、一部は購入も出来る。
また、衛兵隊本部の隣にある劇場では、かつての王の守護者で行われていたショーを見ることも出来る。
王の守護者のナンバー2であったパスクーレのチームによる情熱的で甘美な歌とダンスは、ある意味では貴族街のプレイゼスのものをもしのぐものかもしれない。
その劇場から数ブロックの位置にある公衆浴場もまた、新たなクトリア共和国の名所である。
帝国風の公衆浴場は、かつてのクトリア王朝期にも幾つか造られてはいたものの、長らく貴族街マヌサアルバ会の白亜殿以外でその公衆浴場文化が再興されては居なかった。しかしクトリア共和国では上下水道を再整備し、各所に新たな上水井戸を設置するとともに、比較的安価で誰もが利用出来る公衆浴場を再建した。共和国市民のみならず、王国他からの来訪者でも同様だ。
公衆浴場こそは文明の証し……との言葉もある。まさに新生クトリア共和国の素晴らしさもまた、湯の持つ力により齎されてもいるのだ。
【旧商業地区・北地区】
北地区は西地区から一旦東へ向かい、城壁沿いに北へと向かった辺り一帯を指す。
この近辺は「滅びの七日間」での損傷が最も激しく、かつては吐き溜まりのようになっていた区域だが、共和国として再編されたことで最も生まれ変わった場所でもある。
ただその多くは一般的な長屋区画でもあり、観光や商用で立ち寄る事は少ないだろう。
唯一、せっかく古代ドワーフ遺跡の迷宮都市へと来たのだから、何かしらの魔導具等が欲しいというのであれば、『ブルの驚嘆すべき秘法店』に行く事になる。クトリア旧商業地区で魔法用品を買うのならばやはりここだ。
(我が『ミッチとマキシモの何でもそろう店』が、その店の名前に反して魔法用品が買えないじゃないか、という苦情は受け付けない)
また、現在のクトリア共和国では、かつてのように好き勝手に地下遺跡へと出入りすることは原則禁止されている。
市内の地下遺跡探索を希望する場合、クトリア遺跡調査団へと申請し、規定料金を支払う必要があるので注意が必要だ。
●城壁外の各所
【城壁外市街地近郊・交易商組合詰め所兼宿舎】
南門から西側にやや進んだ辺りにある大きめの建物は交易商組合の詰め所であり宿舎だ。
クトリア共和国となってからは、以前より公益品の種類も増し、また取引も盛んになっている。
投資目的でも小口取引でも、来訪者にとっては比較的身近な場所と言えるだろう。
もしあなたが王国から、継続的かつ大きな取り引きの為にクトリアへ来たのであれば、この組合に加入するのは必須だと言える。
【城壁外市街地近郊・東地区】
東地区は外城壁外、交易商宿舎よりもさらに東へと向かった近辺にあり、邪術士達の専横時代から細々と生活を続けていた人々の住処だ。そして以前は北地区以上に余所からの来訪者が立ち寄るべき場所ではなかった。
それは決してこの地区の住人が悪質であるということではない。彼らは独立心に警戒心、そして結束力が強く、また野盗などの襲撃をたびたび受けており、周辺も含めて危険な地域でもあったからだ。
しかし共和国となり、議会が様々な居留地と交渉を重ね、議員の選出などを通じ交流が活発になったこともあり、現在はかつてほどには危険な場所ではないと言える。
一応この地区には『黎明の使徒』の支部があり、またここの地下には、南地区の狩人達とも異なる魔獣狩りのグループが居て、魔獣を利用した賭事等もしている。貴族街のギャンブルとはまた違ったスリルを味わう事が出来る名所であるのは間違いない。
【城壁外・王国駐屯軍共有耕作地、ガブガブ休憩所】
転送門のあるマクオラン遺跡駐屯基地とクトリア市街地の中間にある農場は、王国駐屯軍用の食糧作りの為に開拓された。転送門から来た王国市民は立ち寄って休息することもできる。
同様に“ガブガブ休憩所”は、王国駐屯軍とも取り引きをしている牧場主が経営しており、旅行者や交易商人などに飲み水と串焼きなどのちょっとしたつまみを提供してくれる。
新たに運用されるようになった乗り合い馬車の駅も兼ねており、また前述の妖術師の小塔が設置されている為、立ち寄り、利用する機会も多くなるだろう。
【城壁外・王国駐屯軍立避難所】
マクオラン遺跡駐屯基地の南にある避難所は、クトリアに来たものの諸々の理由で行き場を無くしてしまった王国市民向けに開かれている。もしあなたがギャンブルの散財や追い剥ぎにより全財産を失ってしまったら、まずはここを訪れよう。クトリア市街地、郊外での野宿に比べれば安全に夜を過ごせるはずだ。
●不毛の荒野の幾つかの居留地、危険地帯
あなたが観光や遊興を求めてきたのならば、マクオラン遺跡駐屯基地とクトリア市街地への途上にある各施設に立ち寄ることもあるかもしれないが、この項目はそれらとは異なる、クトリアの不毛の荒野にある幾つかの注目すべき場所について軽く触れておく。
もしあなたがクトリアで何かしら新たな事業に挑戦するつもりがあるのなら、これらの場所についてより深く知っておく必要があるだろう。
(その場合は、『ミッチ・イグニオのクトリア不毛の荒野生き残りガイド』 の御購入をお勧めする)
【ノルドバ】
ノルドバはクトリア市街地、マクオラン遺跡から南へと向かった先にある居留地で、近くに幾つかの古い遺跡やその廃虚がある。
ここの住人の多くは農作、畜産、狩り、そして遺跡やその周辺でのゴミ漁り等で生計を立てており、また王国駐屯軍の定期巡回の兵士達やグッドコーヴ(後述)やモロシタテム等とクトリア市街地との交易商隊向けの休息、宿泊所としても機能している。
特にこれと言った見所はないのだが、街の西側にある巨大な地竜の石像だけは圧巻だ。
尚、近くに火焔蟻の餌場があるとの報告もあるため、十分な注意が必要になる。
【グッドコーヴ】
西カロド河の河口東岸側付近にある漁港でありかつての交易港でもある。
現在は塩づくりと漁で生計を立てており、やはり王国からの旅行者にとっては取り立てて見るべきものの無い居留地ではあるが、マヌサアルバ会でも使われている魚醤の生産地でもあり、クトリアで素朴で新鮮な海の幸を食べられる町と言えばやはりここではある。
尚、クトリアの魔獣として有名な鰐男、岩蟹などは、河には多く棲むが海には少ないため、船で外洋へ行かない限りは比較的魔獣の危険の少ない地域でもある。
ただし季節にもよるが、近くの岩場に生息するオオヤモリには要注意。大きく成長した個体や魔獣化した個体は様々な能力を持ち、人間を頭から丸呑みにすることすらあるという。もっとも海岸沿いには幼生しか居ない事が多いそうだが、産卵期には成長した個体が現れることもある。
また、現在共和国議会主導で、グッドコーヴからさらに西へ向かったカロド河付近にある高魔力汚染地である廃墟の町レフレクトルとアルゴードの渡し場の復興事業が行われてる。元々魔力汚染と魔獣、動く死体などの危険な地域であったが、さらに今は近付かない事をお勧めする。
【モロシタテム】
東カロド河を渡る際の船着き場があり、またかつてクトリア北を塞ぐ大山脈“巨神の骨”を東に迂回して帝国領方面や、東方のディシドゥーラやシムルシュ藩国等との陸路交易路の出入り口としても機能していた宿場町。
しかしマクオラン遺跡の転送門が発見、活用されて以降はその存在価値を失い寂れて行った。
だが今は違う。
最近の魔人討伐戦の結果解放されたセンティドゥ廃城塞の奥に、なんと自然豊かな精霊の恵み多き盆地が発見されたとかで、その地域への中継地としてにわかに注目を集めている。
また、東カロド河を渡った赤壁渓谷では、後述するカーングースとの契約に基づく鉱山事業も開始され、様々な経済活動が活発化している。
【ボーマ城塞】
西カロド河北方付近をを越えてさらに進むところにある山岳城塞。
かつて邪術士の専横極まりし時期はこの地に多くの避難民が集まって居たと言うが、王国軍のクトリア解放後には殆どが市街地へと移住し、もはや人の住まなくなった廃城塞……と、思われていた。(前回までの拙著でもそのように記載していた)
しかし、狩人達からも“亡霊の住む城塞”と噂され、また残っているとしてもごく少数の山賊くらいであろうとみなされていたこの城塞に、実はかなりの人々が住んでいたことが最近になり判明する。
しかもそこを指揮しているのはクトリア王朝後期に海運業で知られていたヴォルタス家と、かつての王国闘技場で名を馳せた剣闘士、 金色の鬣ホルストだという!
彼らは何艘かの帆船、魔導船等を所有し、今でも海路交易を続けており、またなんと最近市内で流通し始めた極上のヤシ酒を生産しているとも!
ボーマ城塞にまで行くのはかなりの危険を伴うため筆者としては決してお勧めしないが、貴族街の各店、また西地区の『牛追い酒場』などでその酒を味わうことは是非にとお勧めする。
【東方、赤壁渓谷近辺】
東カロド河を超えて、“巨神のつま先”近辺にある赤土の渓谷には、シャーヴィー侵攻軍に随伴していたカーングンス遊牧騎兵の残党が居留している。
彼等は恐るべき騎乗技術と騎射の腕前でかつての帝国精強歩兵すら恐れさせたものだが、現在は共和国議会とは通商条約を結び鉱山事業などで協力関係にある。
とは言え、彼らの領域をむやみに荒らす事は決してするべきではないだろう。鉱山事業、またはそこでの一商売に絡みたいと言うのであれば、然るべき手続きを経て行おう。
【北方、巨神の骨盤】
北をぐるりと囲む大山脈“巨神の骨”の中でも一番の標高を誇る“巨神の骨盤”付近は、特に人食い鬼が多く生息しているという噂が絶えない。
オークと巨人の混血であると言われる人食い鬼は、その巨体と凶暴さで広く知られており、出くわして帰った者は居ないと言われる。
とにかく“巨神の骨”には決して近寄ってはならない。
●貴族街
さて、お待ちかねの貴族街についてだ。
貴族街では様々な娯楽、お楽しみが味わえるが、そこでのお遊びには注意が必要になる。
これは王国市民または貴族の方々全てに共通していることだ。
クトリア共和国はあらたに様々な法と治安維持に務めており、旧商業地区、市街地も、また貴族街でもかつてとは比べものにならないほど安全性は高まっている。とは言え貴族街の“三大ファミリー”が権力と武力に秀でた特権階級なのに違いはなく、王国貴族だからというだけで安全が保証されるとは限らない。
かつて貴族街を取りまとめていた謎多き“ジャックの息子”による古代ドワーフのガーディアンでの治安維持、警備兵利用は現在も議会主導で引き続き行われており、その点もまた他の地域よりも大きな危険は少ないとは言える。
また“三大ファミリー”と呼ばれるクランドロール、プレイゼス、そしてマヌサアルバ会もそれぞれに自前の兵力を持つが、彼らもまた王国市民を守り王国貴族に仕える存在ではなく、あくまで自己の利益のために動いている。
なので、基本的にクトリアでは「王国の法による守り」の庇護はなかなか得られないことは覚悟しておいた方が良いだろう。
【貴族街北区・王国大使館】
さて、まず先に紹介したいのは三大ファミリーの貴族街南区ではなく北区だ。
ここには王国駐屯軍も駐留している大使館がある。
先も述べたとおり、クトリアでは王国の法の庇護は万全ではないが、万が一のときにはこの大使館へ向かうことをお勧めする。
そのため、初めてクトリア貴族街を訪れた王国市民及び貴族の皆様方は、まず第一にこの大使館への道順を確認しておこう。
【貴族街北区・宿屋“死の罠の地下遺跡”】
とんでもなく不吉な名前の宿だが、実はここはクトリアで唯一クトリア共和国議会の直接の庇護下にある宿泊施設で、快適安全な地下遺跡でもある。
三大ファミリーの経営する施設に比べればややみすぼらしくも思えるが、宿賃もさほど高くはなく、また古代ドワーフ遺跡を改築した宿泊施設というのも趣があり、大使館がすぐ近くというのも安心感がある。
なおここでの名物お土産は、古代ドワーフのローブ。古代ドワーフ達が着ていたとされる小さめのローブであり、そのままローブとして着てしまえば横幅はぶかぶかで縦丈は短すぎるのだが、他の服と合わせて着てみるのも面白いだろう。
【貴族街南区・妖術師の塔】
以前は内城門から比較的近くに建っているこの高い塔について触れるのはこのガイドの最後であった。何故なら決して誰も立ち入るべきではない禁忌の塔であったからだ。
だが、かつて貴族街の支配者である“ジャックの息子”の居城であったこの塔は、現在は一部に対してであるが開かれており、議会の議場として、または議長との会談、面談の場所として、或いは様々な行政司法の実務の場所としても使われている。
もちろん、開かれた事によりかつてとは役割の変わった“妖術師の塔”ではあるが、ドワーベン・ガーディアン警備兵や、様々な防衛設備がなくなったワケではない。
かつてこの塔へと侵入を試み、その地位や謎めいた知識に財宝の類を掠めとろうと試みた者達の哀れな末路については、ここで改めて書き記す必要もないだろうが、現在でもそんな邪な試みをすれば、同様の悲劇に見舞われるだろう。
【貴族街南区・クランドロール“大神殿”】
重厚堅牢なこの建物は、貴族街三大ファミリーの最武闘派として知られるクランドロールの娼館である。
濃厚な夜のお楽しみを求めるのならばここしかない。娼婦、男娼はもとより、クトリア人帝国人のみならず、金髪碧眼の美しい北方人、 漆黒の肌も魅惑的な南方人、赤毛で小柄な西方人や、滑らかな黒髪の東方人も居るし、なんとエルフやドワーフ、ハーフリングに獣人、オークと、様々な需要にお応えできると言う。
ボスのサルグランデが右腕のネロスと共に引退をし、実務を請け負っていたクーロが団長の座を受け継いだのは既にかなり前のこと。
これにより曰わく「様々な改革」が行われ、サービスの向上が得られると宣言し、特に共和国となってからはかなりの変化があったと言う。少なくともかつてのサルグランデ時代を知って居る者からは、驚きと賞賛の声があがっているとの話だ。
【貴族街南区・プレイゼス“大劇場”】
クトリア王朝後期に盛んであった様々な芸術演芸活動を復活させたことで名を馳せているプレイゼスの劇場は、やはり必ず訪れるべき名所なのは間違いない。
会食や酒、サボテン煙草等を楽しみつつ、ゆったりとした優雅な演奏に身を委ねても良いし、軽業師や芸人の様々な芸を楽しんでも良い。
また副支配人のパコによれば、今後は演劇、歌劇等にも力を入れていくとのことで、あのニコラウス隊長による対魔人討伐戦を歌劇にして上演されたのは記憶に新しい。筆者もなんとかして観劇をしたが、見事な出来映えであったと言える。
【貴族街南区・マヌサアルバ会“白亜殿”】
美食で名高いマヌサアルバ会は、豪華な食事とゆったりとした浴場に、さらには美容に良いマッサージ等を提供する。
かつての帝国貴族でも味わえただろうか、と思えるそのサービスの数々は、わざわざクトリアまで来たことが大正解であったと真底思えるだろう。
彼らの“白亜殿”は他のファミリー以上に美しく手入れの行き届いた複合施設で、その建物、庭園の美しさだけでも眼福ものだが、やはり一番の売りは美食である。
料理人達の創意と技術に加え、クトリアで手に入る最高級の素材は、他の追随を許さない。
また、ボーマ城塞で作られていたという最高級の熟成蒸留酒を飲めるのもここだけだ。
彼らは多くが魔術の使い手であり、見た目の優美さに反して、決して侮ってはいけない相手でもある。
食にこだわる彼らに対して口さがない中傷も絶えないが、筆者としてはそれらの全ては根も葉もない噂であると思っている。
【最後に】
クトリア不毛の荒野の安全度は、王国駐屯軍対魔人部隊ニコラウス・コンティーニ隊長の指揮による対魔人討伐戦の結果かなり向上したと言える。
さらには共和国となってからの様々な改革、事業で、その安全度は格段に上がった。
魔人討伐は精強なる王国駐屯軍に、我々クトリアの狩人やボーマ城塞、またシャーイダールの探索者達までが参加したことでなし得た偉業であり、後世へと語り継ぐに足る一大転機であり、共和国の建国もまた大きな歴史の1ページだ。
しかしとは言えそれでもクトリア近郊の不毛の荒野が、どの王国領よりも危険な地であるという事には代わりはない。
そして同時にまた、様々な魅力に溢れた土地であることも。
クトリアを訪れる王国市民または貴族、そしてさらに多くの様々な地よりの来訪者方は、そのことを十分に心に留め置いて頂き、またこの拙著を熟読し、改訂版が出た際には必ず新しい情報を入手して頂きたい。
それでは、良い旅を!
───────────
約一年以上ぶりですが、今回これだけです。(ナニー!?)
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※教会、神父、などが出てきますが実在するものとは一切関係ありません。
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序章まで読み終わりました!
恐ろしいほどの気合と熱量がこもった重厚な文章だと思いました! 休みの日にコーヒー片手にじっくり読みたくなりますね
序章だけで「ウッドエルフ」や「ダークエルフ」、「トゥルーエルフ」「ドワーフ」などの種族の名前がたくさん出てきて、これからの物語の壮大さを予感させるような素晴らしい書き出しだと思います。
特に凄いと思ったのは単位の表し方です。このようなファンタジー小説では雰囲気を崩さない事が大切だと思っているのですが、遠くて近きルナプーレルでは「アクト」や「パーカ」といったこの世界独特の単位を使用していましたね。
分かりやすいよう安直にメートルやセンチを使用したくなるところですが、細部にも世界観を崩さぬよう配慮されている所にこだわりを感じました!
それに、序章の最後で「それは、噛み、砕き、咀嚼し、飲み込んだ。〜」という文章がありましたが、独特なリズムが生まれていて面白いなと思いました。
色々と書きたい事があり、脈絡の無い感想文となってしまい申し訳ございません。とても参考になりました、ありがとうございました!