遠くて近きルナプレール ~転生獣人と復讐ロードと~

ヘボラヤーナ・キョリンスキー

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第三章 クラス丸ごと異世界転生!? 追放された野獣が進む、復讐の道は怒りのデスロード!

3-290.J.B.(145)Darkness, Wind & Fire(闇と風と、ときどき炎)

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 城内に? 食屍鬼グール犬獣人リカート兵が?
 耳を疑うレイシルドからの伝心。

「マジか!? 食屍鬼グール犬獣人リカート兵の部隊は俺たちが今確認した。西小城門を睨んでる軍団の中に潜んでやがったんだ。そいつらはまだ攻勢に入ろうとして動きだしたばかりだぜ!?」
 
 ついさっき、俺と俺の背に乗るナナイとで、食屍鬼グール犬獣人リカート兵の部隊に航空爆撃をかましてきたばっかりだ。奴らがそこから城内に? そりゃあり得ねーぜ。
 
『いや、奴らは食屍鬼グール犬獣人リカート兵じゃない。人間……おそらくは、元シーリオ住人の食屍鬼グール兵だ』
「なんだって!?」
『迂闊だった……。恐らくは事前に城内に潜入させていたんだろう。食屍鬼グール兵に潜入させる手は警戒してたが、食屍鬼グール犬獣人リカート兵の潜入にばかり気を取られ、まさかシーリオ住人を食屍鬼グール兵化してたとまでは考えてなかった……!』
 
 確かにそこは予想してねぇ。
 
「糞ッ! どこに行きゃあいい!?」
『近い。西小城門の内側だ!』
 イベンダーのオッサンは東小城門方面に居る。西小城門ならまさに俺の目と鼻の先。
 
「なら、直行だな」
「だが、矢の補充がまだだろ?」
「必要なら城門で拾うわ。それに、矢が無くたッて山刀も魔法もある」
 
 そういや、と思い出す。エヴリンドもレイフも言ってたが、ナナイは剣も弓も魔術も、こと、戦闘においては2人よりはるかに長けている、ってな。基本スペックが全てエヴリンドの上位互換な上に、いわゆる戦闘センスがずば抜けているらしい。レイフは召喚術に関しちゃ今やかなりのモンだが、それでナナイと正面きって戦えるかとなりゃ、「絶対無理」なんだって言う話。
 
「よし、マックススピードで行くぜ!」
 
 そう言って即座に全速で西小城門へ向かう。
 だがその俺たちへと向けられたのは、歓迎の拍手でも援軍への歓声でもねぇ。
 襲い掛かるは闇夜のように暗く、それでいて赤黒く燃え盛る炎を纏う3本の矢。ナナイの山刀に俺のドワーフ合金兜がそれぞれを受けはねのけるが、一本は“シジュメルの翼”の防護膜を破り太ももを掠る。
 思わず悲鳴を上げる俺だが、矢傷だけじゃあ済まねぇ。どろりと粘つく闇が、焼け付く炎を広げてまとわりつかせ、さらに俺の脚を焼き焦がす。
 
「【獄炎の矢】だ……!!」
 ダークエルフの秘法、闇と炎の魔力を混ぜ合わせたその矢は、ただ熱でダメージを与えるだけじゃなく、粘液質の闇がへばりついてさらに燃焼していく。
 
「……っしゃ、先に降りるぜ!」
 叫ぶナナイはまだ小城門手前の上空から勢いよく飛び上がって俺から離れる。痛みとダメージでふらついた俺は反動でさらに安定感を失うが、それでもなんとか立て直す。人1人の重量が減った事で、飛行の制御はよりやりやすくはなったが、にしてもありゃ……、
 
「お見事ッ!」
 聞こえる叫びは、低く陰鬱だが、奇妙な喜びを感じさせる。
 
「ご尊名は存じてますぞ、“神弓の射手”よ!」
 
 どこだ? と見回すとすでに城門の上には黒衣を纏った長身。顔の半分は革の兜に隠れてハッキリとは見えない。ここから見て取れるのは、兜の頭頂部からまるで飾りのように棚引いてる長い白髪と、隙間から覗く青黒い肌。
 ああ、こりゃバッチリとかみ合うぜ。【獄炎の矢】を使うダークエルフ。カーングンスの反リカトリジオス派だった“若巫女様”ジャミー一行を襲った刺客。つまりは……“災厄の美妃”の使い手のお仲間だ。
 
 俺は体勢を立て直したと同時に、素早くそいつに向けて【風の刃根】を叩きつけようとする。
 だがその直前に立ちはだかったのはそう大きくはない渦巻く竜巻。人間大ほどのそいつは【風の刃根】を受けてややよろめくかに揺れるがそれだけだ。風と風、相性的にゃ良くもないが悪くもない、と言えるはず。いや……。
 
「申し訳ないが死の芸術デス・オブ・アートの担い手たる私とて、“神弓の射手”のお相手は荷が重い。貴殿は我が灰砂の落とし子アッシュサンド・スポーンと戯れていたまえ!」
 
 渦巻く砂嵐は膨れ上がって伸び上がると、そのまま俺の周りを囲むように取り憑いて来た。
 
「はぐれ……いや、アンタ、三大老家の縁者だな?」
「そのような忌まわしき名はとうに捨てております」
 
 砂嵐に紛れてよく聞こえないが、ナナイが再び呪文を唱えると【紅蓮の外套】が燃え盛って、ナナイの周りを渦巻き取り囲む熱気が広がる。まさしく炎のマントだが、攻守一体のその炎に易々と近付ける者は居ない。
 
 わずかに見えるのは、弓を背に戻し両手には白銀に閃く山刀二対。業物と名高い、闇の森ダークエルフのミスリル刀か。
 
 応じる白髪のダークエルフもまた、左手に【魔法の盾】を展開させつつ、右手には湾曲した細い刀。長さはナナイのそれよりあるが、厚みはそれほどでもない。だがその刀身にまとわりつくのはまたもや【獄炎】。炎対闇の炎。お互い決め手になりにくい相性だが、それぞれ熟練の術者でもあるから油断はならねぇ。
 加えて使い魔なのかなんなのか、このまとわりつく砂嵐の方は風と土の魔力。幅広く適性がありつつ、搦め手も正面突破もお得意なようだ。
 
 俺はと言えば、まとわりつき渦巻くこの砂嵐のお陰で、二人の戦いに介入すら出来ない。それどころか、視界も悪く音もうるさく周りの様子もよく分からない上、防護膜含めて“シジュメルの翼”の制御もままならずに空中で右往左往。
 リカトリジオスの潜入食屍鬼グール兵をどうこうするどころじゃねぇ。
 
 払いのけはねのけようと両腕を振り回すもまるで無理。それどころかあちらの圧がどんどん増えてきてるのを感じる。
 
 風と風。だがこの魔物、どうやら俺の風の魔力を吸収してより力を増してきてるようだ。
 
 マズい。つまりは“シジュメルの翼”を使い続ける限り、俺はコイツを倒すどころかただの「美味しい餌」、敵さんをパワーアップさせ続けるだけってワケかよ?
 ぐらつきながらもなんとか慎重にコントロールし、俺は西小城門の内側へと墜落同然に不時着する。
 
 とにかく一旦、“シジュメルの翼”を畳み込み、また入れ墨魔法での魔力循環を止める。
 止めると同時に、今度は大量の砂粒と小石が猛烈な勢いで俺の身体中の皮膚に叩きつけられ打ちのめす。
 
 コレはコレでマズい!
 
 一つ一つの砂粒に小石は大してデカくないしダメージもたかが知れてる。だがそれが何百、何千と猛烈な勢いで叩きつけられる。既に細かい傷に血が吹き出し、目に入った砂でさらに視界が塞がれる。
 
 再び“シジュメルの翼”へと魔力を回し、風の防護膜を展開。
 
 魔力を使わなきゃ砂粒と小石を全身に叩きつけられ、魔力を回せば回したでそいつを吸収される。こりゃまるで俺に打つ手はない。
 出来ることはせいぜいが地面をのた打ち両手足をばたつかせながら、なんとかして払いのけられないか足掻くだけ。ダメージは少なくとも体力気力に魔力がどんどん奪われる。無力化する、って意味じゃとんでもなく有能な使い魔だぜ。
 
 だが俺は、そうやられっぱなしでいてやるほど人はよくねぇぜ。
 
 轟々と渦巻く砂嵐に妨げられつつも耳を澄まし、視界もほとんど閉ざされながらも目を凝らす。
 西小城門の内側は確かに既に戦場。目が血走り狂気に突き動かされた不死者アンデッド、恐らくはシーリオ住人だっただろう食屍鬼グールが暴れに暴れてる。
 槍を奪い猫獣人バルーティ傭兵へとそれを振るう食屍鬼グールに身体ごと当たり、その向こうで数人がかりで城門、跳ね橋の巻き上げ機を動かそうと集まっている食屍鬼グールの集団へとさらに突っ込む。
 この砂嵐、俺へと完全にまとわり付いて居ることで、その俺がぶつかった敵への攻撃にもなる。
 そう、いわば俺自体が動く砂嵐と化しているのと同じ状態だ。
 もちろんそんなに自由に動き回れるワケでもねぇ。足元ふらつき、右へ行こうにも後ろへ下がり、前へ踏み出しゃ左によろける。だが、忘れんなよ。俺はリカトリジオスの奴隷時代に、手枷足枷のままでも戦えるくらいには身体コントロールを鍛えてる。あるいは常人ならただ転げ回りのた打つしか出来ない状態かもしれねぇが、酔っ払いの千鳥足よかマトモに行けるぜ?
 
 このわずかばかりの援護で西小城門前の兵が立て直せるか、てな無理筋だろう。だがさらなる援軍が来るまで、あるいは外側に居るリカトリジオス部隊が押し寄せるまでの時間稼ぎ。それなら可能かもしれねぇぜ。
 
「はっ! やはり使えぬうらなりだ!」
 
 だがその可能性を裏切るような新たな乱入者が現れ、さらに状況は変わる。
 馬鹿でかい声に笑い声。ありゃ……何だ? ゴリラか……?
 
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