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第二章 迷宮都市の救世主たち ~ドキ!? 転生者だらけの迷宮都市では、奴隷ハーレムも最強チート無双も何でもアリの大運動会!? ~
2-25. ダンジョンキーパー、レイフィアス・ケラー(5)「何か……妙にスムーズに進みすぎちゃいないか? 」
しおりを挟む【六日目】
向こうの世界で言う所謂デンキウナギというのは、筋肉細胞が発電板と呼ばれる電気を発生させる器官へと進化した、ウナギによく似た外見をした魚類だそうな。
筋肉そのものが発電能力に特化されているため、実は物凄く力が弱いらしい。
まあ他の魚が、「敵からは泳いで逃げる」という進化を選択したのに対して、「敵が触れたら痺れさせて追い払う(ビリビリさせてビビらせる)」を選択したのだから、当然「逃げるための筋力」というのはハナから捨ててるワケだ。
で、問題は今この、僕のダンジョンを襲撃して来ているキーパーの従属魔獣である巨大デンキウナギは果たしてどうなのか? だ。
電撃アタックに特化した「貧弱な坊や」なのか? それとも……?
◆ ◇ ◆
痺れと痛みで起き上がれずにいるガンボン。
なんとか上半身だけは起こしているが、ガクガクと痙攣するように震えている。
水路から首を上げ睨みを効かせる巨大デンキウナギは、どこを見てるか分からないつぶらな目で辺りを睥睨している。
ほんの数秒。
緊張が空気の中に溢れて飽和した瞬間に、巨大デンキウナギが膨れ上がったかに見え……白熱した。
カッ、と光が目を刺し貫く。
放電だ。間違い無く、魔力による放電。
最初の感電は尾による一撃、つまり接触攻撃だったが、今のは周囲への放電で、無差別に攻撃している。
指向性の無い放電攻撃が、敵味方問わずに感電ダメージを与えていた。
「あ、あ、あ、あぶっ、ぶっ、ぶなっ……」
痺れの残るガンボンが、震える口でわななく。
ガンボンとタカギのお二人様は、今ここ、魔力中継点のすぐ近くでへたり込んで居る。
周囲はぐるり白い壁……いや、蜘蛛糸による応急の防壁だ。
【憑依】で大蜘蛛を操っていた僕は、感電のダメージに倒れて震えていたガンボンとタカギを蜘蛛糸でキャッチし、思いっ切り力を込めてこちらへと引っ張った。
すんでのところで第二波の無差別放電攻撃の範囲を逃れはしたが、未だダメージ抜けきれず、立ち上がるのもままならない。
で、この周囲を囲む蜘蛛糸防壁。
正直本当に間に合わせも間に合わせ。
魔力のこもる糸だけにそれなりに強靭ではあるが、とは言え所詮は糸でしか無い。
束ねて重ねて編み上げて。単純な打撃であればはねのけられるが、斬撃にはそうそう耐えられないし、さらには電撃? うーん……無理だよね。
で、それを魔力中継点の周りに建ててあった四本の飾り柱を支柱にして、とにかくぐるぐる巻きにして囲んでいる。
外側には倒した、叉は倒された魔獣達の死体を、これまたぐるんぐるん巻きにして貼り付けてある。
いやもうまさに、文字通りの肉の盾だ。
岩蟹の殻は、その意味では結構役に立つ。
まだ生きてる岩蟹の従属獣も居るので、巨大デンキウナギを「倒す」のは不可能でも、「時間稼ぎ」は出来るだろう。
その間に、まずはガンボンとタカギの回復と、……そして撤退、だ。
『アレは今ここに居る僕らの戦力じゃ倒せないよ。
多分普通の打撃はあんまり効かない。近寄れば放電。触ってもダメ。
魔力による放電だろうから魔力が尽きるのを待つか、遠距離からの攻撃が有効だろうけど、それが今の僕らには無い』
厳密には全く無い……てワケでもないけども、コストの割に効果は期待できない。
『有利なのは、あれは完全に水棲の魔獣だから、陸上には多分上がってこれないだろう……ってところくらいか。
とは言えあちらさんも何かしらの召喚獣を使って水路を広げてるっぽいから、もうじきここも放電の範囲に入るだろうけどもね……。
大蜻蛉は全部逃げたし、大蜘蛛も残りはこれ一体。
岩蟹は……5体かな? けどまあ、もうじき全滅だろうね』
岩蟹の物理防御の高さも、電撃攻撃には全く用をなさない。
性格上、大蜻蛉と違い猪突猛進でそう易々とは逃げ出さない岩蟹は、指示せずともねばるだろうけど、それでもせいぜい後一回……んーー、二回? さっきの放電をやられれば動けなくなるだろう。
糸の防壁を前脚でちょいと開き、隙間から外を見る。
巨大デンキウナギにはまだ大きな動きは無い。
放電を受けて動きの鈍ったこちらの岩蟹を、敵方の残りが攻撃している。
敵の方も何気に先程の無差別放電でダメージを受けていて弱っている者も居るが、数体は一応退避していたらしく、やはり数の上でも状態の上でもけっこう不利になっているようだ。
「レイ、フ」
不意に、未だダメージが抜けきれずにいるガンボンが、やや震える声でそう話しかけてくる。
フゥー、フゥー、と大きく呼吸。
それから、ふん! と息を吐いてから、棍棒を持った右手を差し出して、
「これ、糸で、縛って」
握力が弱まっているのか、僕が見ても明らかに握りが弱い。
だからこそ、取り落としたりすっぽ抜けたりするのを防ごう、という事だろう。
『分かった。けど、無理しないでよ。
ここはもう落とされても構わないんだから。
おかげで十分に時間は稼げたし……何より多分、大蜻蛉の偵察情報に見落としが無いならば、あの巨大デンキウナギが敵方の最大兵力だ。
それをここまで出張らせただけで、かなりの成果だからね。
後は君がここから安全に逃げること。それだけに集中して』
そう。予定通りに、もうここは放棄して構わない。
ここどころか、既にこの巨大地下洞窟の入り口にあたる最初の島まで防衛線は引いて居るのだ。
ぶちまけて言えば、ここに残された従属獣は言わば死兵。他の兵力が撤退するまでの捨て石扱いだ。
ダンジョンキーパーという役回りで、こうして従属獣やら召喚獣やらを大量に使役する様になったものの、とは言え別に彼等への愛着があるかというとそうでもない。
何せ基本的にはそこら辺の野生の獣や魔獣を、 知性ある魔術工芸品 である“生ける石イアン”の力で召喚したり従属化したりして使ってるだけに過ぎない。
手塩にかけて育てた家畜や、長年の契約に基づく使い魔とはまるで違う。
なんというか、一時的な利害による関係でしかない。
しかしだからと言って、使い捨て見殺し前提の策というのはあまり気分の良いものではないのも確か。
それだけ気分の良くないことをさせられた分……きっちりとカタぁつけてやらんとのぅ~~~!!
おどりゃわしゃ許さんぞ! しごうしたるけんのう!
◆ ◇ ◆
水路が長くぐねぐねと続いている。
罠らしき罠も特に無く、繋がり方にも規則性や法則も全く無い。
その分内部は入り組み複雑怪奇で、“生ける石イアン”による自動マッピング機能が無ければ、完全に迷っていた。
正に「迷路」。
水棲魔獣を主な従属獣としているからか、内部構造は水路とその脇に少しばかりの陸地で、区画の設備も完全に水棲魔獣向け。
例の家畜小屋区画の魔造チキンの木が、水の中で水草のようになっていたのはちょっと面白かった。
何にせよ、全く人の住めるような構造をしていない。
では、敵のキーパーって何者なの? という疑問が湧く。
少なくとも、人間やそれに類するヒューマノイドでは無さそうだ。
まあ、可能性としては水魔法特化されて海の中で暮らしているシーエルフ、という可能性もゼロじゃないけどね。
こっそりと、さほど残ってない防衛兵力の目を盗んで進むのは、僕がここに来て一番最初に自分の術で召喚した使い魔のインプ。見た目は猫熊。超可愛い。
元々の僕の契約使い魔だから、“生ける石イアン”による召喚獣ではない唯一の使役獣、という位置付けになるんだけども、こいつにも“付与スキル”の効果が上乗せされている。
なので、せっせと建築作業をさせ続けていた結果、その「経験を積んだ者は、より多くの強い付与スキルを得られる」というシステム上、実はこの初代召喚インプは、僕の味方の中で最も高レベルの存在になっている。
勿論、戦闘能力は相変わらず子犬並。
変わったのはその隠密能力と索敵能力の高さ、だ。
まず音がしない。匂いや気配もほとんどしない。その上少しの間なら姿も消せる。
【消音】【隠密】【覗き見】【逃げ足】そして、【透明化】……。
これで女湯ものぞき放題だ! ゲギャギャ!
いや、しないけどさ。
ていうか僕は現世では女だけどさ。
敵方がきちんと警戒をしてれば、あるいは見つかったかもしれない。
けれども今、あちらさんはガンボンによる反撃を受けたことで、そこへ最大兵力の巨大デンキウナギを送り込むほどにヒートアップしている。
いや、それはちょっと相手を人格化しすぎかな?
何にせよ、あちらが既存の魔力中継点奪取に意識も兵力も割いているからこそ、こうして召喚インプでの偵察も巧く行っているし、この後の手もどうにかいけそうだと思えるのだ。
召喚 白骨兵 と召喚 大蜘蛛 の部隊が水路脇をぞろりぞろりと進軍する。
白骨兵は現状20体程、大蜘蛛は10体程。
白骨兵は召喚コストがインプの次に低い低コスト兵力で、ぶっちゃけ弱い。
利点は恐怖心が無いことと、“武器”を持っていること。
敵の主力は水棲魔獣の双頭オオサンショウウオと岩蟹で、双頭オオサンショウウオには斬撃が、岩蟹には打撃が効果的だ。
大蜘蛛が糸を使い絡め捕ることで相手の動きを阻害して、その間に剣を持った白骨兵は双頭オオサンショウウオを、メイスや戦鎚を持った白骨兵は岩蟹を。斧など斬撃と打撃の両方の特性を兼ねた武器を持った白骨兵は適宜どちらかを。
とにかく数の力でバチボコにしまくる。
数こそ力を地で行く作戦で、敵ダンジョン内を目的地まで突っ込んで行く。
白骨兵は弱い。とにかく脆い。岩蟹でも双頭オオサンショウウオでも、一撃を耐えられれば御の字で、二撃加えられればバラバラになる。
だから最前線の魔力中継点から召喚して、次々と送り込み補充していく。
いや、確かに最前線の魔力中継点は、真っ先に奪われた。
しかし敵がその次の魔力中継点を奪おうと躍起になり、そこをガンボンとタカギに撹乱され時間をとられている間に、僕は「奪われた魔力中継点を奪い返す」のではなく、そこからは離れた、それでいて支配領域ギリギリの目立たない場所に、別の魔力中継点をインプ達に建設させておいた。
厳密には建設途中だった魔力中継点を、超突貫工事で完成させた。
そして今は、そここそが最前線の魔力中継点。
魔力中継点さえあれば、そこから召喚して兵力を増やせるのが、所謂人間同士の戦争における領土の奪い合いとは異なるところ。
敵に気づかれずに拠点の建設さえ出来れば、その時点で兵力増強の最前線基地として機能するのだ。
ガショガショと召喚されては、5体一組を基準にして突っ込んで行く白骨兵たち。
白骨兵より召喚コストの高い大蜘蛛は、必要になるまで追加召喚はしない。
大蜻蛉はもはや使い道が無いので最初から戦力外。
最前線の魔力中継点には一応大蜘蛛の3体を残し、例のやり方で糸の防壁を張らせている。岩蟹の死体が近くにないので、たいした補強は出来てないけど。
敵もこちらの攻勢にはもう気づいている。まあ当然だ。
だから内部で新たに防衛の為の兵力を次々召喚しているし、また外にある僕から奪った魔力中継点からは、僕が新しく作った最前線の魔力中継点へとも兵力を送って来ている。
近場に召喚出来る場所が二ヶ所あるという点では相手の方が手数が多く有利になる。
しかし現状、相手は三面作戦を取っていることになり、その分兵力は分散されている。
そしてついでに、相手方の外部からの増援を遅らせるために、インプ達を使って外部に作られた移動用水路を何ヶ所か埋め立ててもいる。
水棲魔獣メインの敵さんにとっては、これは地味に厄介だろう。
こちらは本拠地の防衛にはやはり糸の防壁と数体の大蜘蛛の他はたいした兵力は残しておらず、撤退させていた途中の岩蟹、白オオサンショウウオ等の従属化出来ている分は、現在この最前線へと移動中。
そして何よりも追加の兵力で大きいのは……こいつだ。
地底湖の中を猛スピードで泳ぎ進む。
表示されている地図上、敵拠点に突入させるのは難しいかと思っていたが、幸運なことに敵が巨大デンキウナギを僕の魔力中継点奪取に送り込もうとして水路を作ってくれたおかげでスムーズに行ける。
攻撃されていた魔力中継点の脇を通り抜け、水流ジェットで突き進むのは、我らが触手獣。
タコともヒトデともつかぬ触手魔獣。
北斎漫画にて海女さんねぶり尽くしていそうなその巨体は、巨大デンキウナギには及ばないが、双頭オオサンショウウオならば良い勝負か。
こちらのカギは、第一にこいつ。
僕の支配下にある兵力の中で一番の戦力だが、その特性故かなりの偏りがある触手獣を、いつ、どうやって運用するか。
そしてその為に、ガンボンとタカギによる目眩ましの遊撃であちらの注意を逸らしておき、敵拠点の近くに別の魔力中継点を作れるか。
その二つにあった。
ガンボンとタカギの目眩ましは大成功だ。
巨大デンキウナギを引きつけてる間、魔力中継点も触手獣も準備を整えられた。
そして今まさに、敵拠点のど真ん中へと突入している。
ここからは、【憑依】を使う。
パネルを通じて【憑依】の術を使うと、自分の意識が肉体からすぅっと離れ、拡散したかと思うと次の瞬間には水の中にいた。
息が出来ない! と反射的に思ってしまうが、触手獣は水棲魔獣なので当然問題はない。
のみならず、水魔法を使える触手獣は強力な水流を放ち推進力に変えて居る。
事前にインプの偵察で調べていた敵拠点のダンジョンハートは完全に円形のプールで、その中央にある島に魔力溜まりがある。
この魔力溜まり周辺から、全ての敵兵力を排除し、一旦敵との魔力接続を解除させた上で、その後こちらの兵力で場を一定時間以上支配し、またはキーパーである僕自身が魔力を注ぎ込んで支配権を奪う。
それが、“生ける石イアン”曰わく、ダンジョンキーパー戦争の決着だ。
触手獣に【憑依】して突入したときには、既にダンジョンハート内での趨勢はこちらに傾きつつあった。
水中ではこちらの兵力は行動出来ないが、大蜘蛛に四方から中央の島へ向けて糸の橋をかけさせ足場にしている。
蜘蛛糸は炎の魔法や強力な斬撃には脆いが、敵は水棲魔獣で炎の使い手は居ないし、唯一それに近いのは岩蟹のハサミ。
けどこれも糸で束縛して動けなくしている隙に白骨兵の打撃でなんとかなる。
体格、尻尾の攻撃力、そして生命力に優れた双頭オオサンショウウオは、白骨兵ではなかなか対処の難しい難敵だが、こいつには大蜘蛛の毒牙がそこそこ効くため、隙をついて噛みつき攻撃をさせているとじわじわと弱っていく。
それに何より召喚コストの問題なのか、或いは召喚ではなく自生の魔獣を集めて従属化させていた為なのか、敵の召喚による補充では双頭オオサンショウウオは現れない。
低コスト兵力の数押しと、相性、策。その三点でこの場での優位をなんとかもぎ取っている。
さあ、ここで決着だ。
一体、また一体と敵兵力を無力化させていく。
僕が【憑依】している触手獣は、その触手を縦横無尽に振るい、掴んでは投げ掴んでは投げの大暴れだ。
自分の意識で自分の身体と全く構造の違う身体を操作することの違和感は相変わらず抜けないけど、まあなんとか我慢しよう。
ちょっと乗り物酔いみたいに気持ち悪くなるくらいだし。
遂に双頭オオサンショウウオが全て動かなくなり、外からの敵増援は新たな魔力中継点の兵力で迎撃しつつ、このダンジョンの入り口も蜘蛛糸で塞いでいる。敵拠点内部での籠城策だ。
僕は触手獣の身体を操り、その触手を伸ばして魔力溜まりへと魔力を注ぎ込んで支配権を奪いにかかる。
抵抗を感じつつもそれをねじ伏せ、徐々にその中へと入り込みながら……何かを忘れてるような違和感。
何か……妙にスムーズに進みすぎちゃいないか?
そして僕はその危惧の正体が何かを、“生ける石イアン”による警告メッセージで知ることになる。
『キーパーよ、ダンジョンが攻撃を受けているぞ!』
何を忘れていたのか。
今ここに敵のキーパーが居ないということを、だ。
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