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第二章 迷宮都市の救世主たち ~ドキ!? 転生者だらけの迷宮都市では、奴隷ハーレムも最強チート無双も何でもアリの大運動会!? ~
2-24. 追放者オークのガンボン(34)「やっぱ、俺、強くなってるわ! 」
しおりを挟む【五日目】
双頭オオサンショウウオだ。
魔獣。
しかも超デカい。
口を開けば、俺なんか丸飲みに出来るくらいデカい。
陸上では鈍いが、水中では結構素早い。
そんで身体はぶよぶよグニグニで、殴ってもあんまへこたれない感強い。
そして何より、生命力がハンパない。
日本でもオオサンショウウオは別名ハンザキと呼ばれてて、「半分に裂いてもしばらく生きている程生命力が強い」と言われてるらしい。
あと、英名ではサラマンダー。ファンタジー的には火の精霊、炎のトカゲとして知られる名前だけど、その由来も元々はオオサンショウウオの生命力の強さから名付けられたらしい。
……と、レイフが言ってた。
んでまあ、そのオオサンショウウオにそっくりな外見と生命力を持った魔獣の双頭オオサンショウウオに襲われた俺は、聖獣タカギさんとのナイスコンビネーションでもって返り討ちにしたのである。
やべー、俺、強くなってね!?
ていうか元々強かったのに、甦ってからの諸々で記憶が混乱してたりなんだりで発揮しきれてなかった実力が、今になって解放されてきた、みたいな感じ?
これはもはや、異世界俺tueee! チーレム伝説の幕開けじゃね!?
オークが強くて何が悪い!
てかオークを豚肉扱いしてる奴や、ただの変態性犯罪種族扱いしている奴らは今すぐここに並べ! アランディーズ・ブートキャンプ方式でその性根を叩き直してやるぜ! ッてな気分だわ!
……実際にやったら、俺が即へばるけど。
まあ、そんなことよりも、だ。
この巨大な双頭オオサンショウウオの死体だ。
これは伝聞なので経験としては知らないが、何でもオオサンショウウオの肉というのは、かーなりの美味らしいのだ。
淡白で脂っこくはないが、白身魚やフグに近い味だとかで、天然記念物指定の日本産は当然無理だけど、たしか中国では食用に養殖がされてるとかで、結構な高級珍味らしい。
問題はこれ、一応は魔獣肉であるということくらいだけど、俺もレイフも生来的に魔力を持つ種族なので、魔獣肉にも耐性がある。
生来的に魔力を持って生まれていない人間種だと、強い魔力を持った魔獣肉を食べると食中りを起こしたり病気になったりすることもあるらしい。
また魔獣肉を長い間食べ続けていると、濁った魔力が身体の中に溜まっていって、酷い障害を引き起こしたりもするとも言う。
けどその辺の心配は俺らにはない。
あとは魔力由来ではない毒素の有無だけど、レイフが持っている検査キットを使えば害のある水や食物を判定できるので、その辺りもまあ多分大丈夫。
つまり、だ。
後は実食あるのみ! ということだ!
とは言え流石に、この環境で「フグ刺し改め、オオサンショウウオ刺し」をやれるほどには無謀じゃない。
火は通す。火は通すが、どうするべえか?
白身魚やフグに似てるというのなら、料理法もそれに合わせるか?
考えられるのは唐揚げ、鍋、焼き物……?
唐揚げは、粉が少ないしナッツ油も貴重。
んー、と考え、比較的薄切り一口大にしたオオサンショウウオ肉を卵もどきを繋ぎにして、塩胡椒他スパイスと芋の粉にまぶした後、薄めに引いた油で両面しっかりと揚げる。
芋の粉は小麦粉よりは片栗粉に近いので、竜田揚げ風、といったところか。
油も少な目、ヘルシーな節約調理法であるよ?
焼き物は、オオサンショウウオの骨を削り竹串変わりにして三本刺す。
それを軽く塩してから竈の火に炙っていく。
焼き物は加減が大事。何回か試してみて、ちょうど良い炙り具合も確かめる。
で、鍋。
食材バリエーションが少ないので工夫をしにくいが、例の家畜小屋に生えてる丸鶏モドキの新芽と一緒に土鍋で煮る。
出汁もポン酢も醤油もないので鍋料理とは言い難いけど、器に盛って、これも軽く塩をふる。
全体的にあまりパッとしない調理だけど、さてお味は……。
……うん、確かにオオサンショウウオ肉は旨い!
淡白だけども滋味溢れる味というか、あっさりしつつもかみしめる毎に味わい深いというか。
だけに、惜しいッ!!
特に鍋! ポン酢か……せめてスダチがあればっ……!
やや惜しいモノの、これはかなりのグルメっぷりです。
そろそろレイフも起きてる頃。
さっそく、ダンジョンハートへと持って行くと、既に机に向かってお仕事中。
さーて、ガンボン特製モーニング。朝食にしては多すぎかもだけど、召し上がってチョウダイ!
部屋に入ると何故かガッツポーズのレイフ。
「え、何?」
朝ご飯を持って来たのがそんなに嬉しかったの?
「ふふん、これこれ。見てよ」
そう言って机のパネルを指し示す。
はにゃ? 何ですかこの……何かのリストは?
「地底湖周辺の生物が、僕らのダンジョンの支配下に入ったのさ」
それから、それらによる今後の探索の広がりと展望、その戦略を語りだし、思い出したかのように「それはそうと、昨日は本当に心配したんだからね? 全く、変に一人で敵に突っ込むような真似は止めてよ?」 と、小一時間のお説教……。
あのー……冷めちゃいますよ? 朝ご飯。
【六日目】
あの巨大地下洞窟側へと通じる広間周りがごっそりと改築されて、その向こう側の地底湖に大きめの人工島が作られていた。
その人工島の真ん中には、例の丸鶏モドキの実がなる家畜小屋エリアがあり、その周辺に色んな魔物、生物がゴロゴロとしている。
観ていると定期的にそれらの魔物は、さらにその周辺エリアとの間を巡回していて、まるで見張りをしているかのようだった。
これが多分、昨日レイフが言ってた、「従属化がドーノコーノ」の、「ドーノコーノ」部分なんだろうなー、と、ぼんやりんぐ。
この間の双頭オオサンショウウオと違い、全く敵意は感じられない。
てかむしろまったりしてる感じ?
そう思ってのへーっと眺めて居ると、馬鹿でかいヒトデかタコみたいなやつが、その触手でもって新たにやってきた岩みたいなやつを締め上げて、ベキベキメキョッと絞め殺した。
怖ェーーーーーー!?
何このモンスターアイランド、超怖ェーーーーーー!!!
ジャンボヒトデは絞め殺した岩みたいなやつをボリボリ貪ったあと、ぺいっと投げ捨てる。
水上を流れてきたその破片を見ると、ラグビーボール大の蟹のハサミみたいな部位。
あ、コレが昨日レイフの言ってた岩蟹とかいうやつ?
蟹? 蟹なの?
そっか、蟹かーーーー…………。
とりあえず炊事場の横の貯蔵庫へと運んで、色々お試してみることにする。
炙り。……ンまい!
塩茹で。……ンまい!
蟹スープ。……ンまい!
茹でてほぐした蟹の身を、水で溶かした芋の粉と混ぜて器に入れて、削ったヤギチーズをわさっと乗せてオーブンにかけた蟹グラタンモドキ。……ンまい!
解した蟹の身と戻した干し肉と丸鶏モドキ肉及びシャキシャキの茎を刻んで肉団子状にしてから、芋の粉でくるんで蒸した、蟹シュウマイ風の何か。……ンまい!
やっぱ、蟹ンまい!
一通り蟹料理を作り置きして一段落。
何だろう。ここ数日で「魔獣料理スキル」がどんどん上がってきてしまってる気がする。
良いのか悪いのか。
何かしらで「貯まってる魔力を抜く方法」みたいなのが分かれば、普通の人間にも問題無く食べられる魔獣グルメが完成するかもしれない。
アレか。これは魔獣グルメで料理無双する展開の布石か!
……この地下迷宮から外に出られたらだけどもな!
で、そんなことをしていると、例の伝心の耳飾りホットラインでレイフからの緊急通信。
え? 何? また襲われてる?
……大軍に?
◆ ◇ ◆
「ほごわぁぁぁぁぁぁぁぁ~~~~~~!!!」
全速前進で駆けるタカギさんは、想像以上に速い。
速い、速すぎる。サラマンダーより速い。いやオオサンショウウオより速いのは当たり前か。
どーにも混乱するくらいに速いし、巨大地下洞窟の明かりに乏しい中走るタカギさんの背に乗っているのは、さらに想像以上に怖い!
闇の森でダークエルフの呪術師、レイフの年の近い伯母にあたるガヤンさんの召喚幻獣、闇の馬の背にタンデムで乗って、夜の森を跳んだことはあるけれど、そのときと同じかそれ以上の怖さだ。
舌を噛まないようにと歯を食いしばり口を閉じているが、それでも涎とともに声が……悲鳴漏れる。
目指す先は当然、今襲われているという魔力中継点 のある場所。
併走しているのは5体の大蜻蛉。全長30センチ前後のトンボに見えるが、一応これも魔獣、召喚獣らしい。
召喚獣ってしかし何なんだろうね。どっから召喚してるん?
ぼんやりと光る魔力中継点 の塔が見えてくる。
魔力中継点 はダンジョンハートを通じて魔力を中継するオブジェクトらしい。
で、ここを中心とした半径1キロ半四方くらい……こちらの単位で1ミーレくらいを新たな「支配領域」……つまり、ダンジョンキーパーとしてのレイフが魔力を使って影響を与えられる領域にすることが出来る、のだという。
で、当然逆に、この魔力中継点 を敵に奪われてしまうと、それまでレイフの支配領域だった範囲は全て敵の支配領域と化してしまう。
そうなると、敵はそこに召喚獣を呼び出して戦わせたり、新しい区画を造りだしたり、また増やした支配区画の分だけ、より多くの魔力を、自分の 魔力溜まりへと送ることが出来るのだという。
その辺の話を聞きつつも、おそらくポカーンとしてたっぽい俺に、
「支配領域は国の領土で、支配区画は開拓済みの領地。領地が多ければ多いほど得られる税金、つまり魔力が上がる。
で、その税金で兵士を雇ったり、新たに開拓を進めて、領地を増やしていくことができる。
大まかにはそんな感じ」
と、例えを交えて説明してくれた。
つまり今起きてるのは、それぞれが「我が国の領土である」と主張している支配領域が重なったことをキッカケに、その領地の奪い合いが起きた、ということらしい。
奪い合いというか、現状一方的に侵略をされている状況みたいだけど。
で、魔力中継点 も区画も、魔力保護というので護られていて、自軍の戦力がそこを守り続けて居られれば、その区画への支配権を維持できるらしいけど、逆に言うとその区画内に戦力が居なくなり、敵戦力が居座り続けていると、敵のキーパーからの支配力が強まり、魔力保護が削られていく。
で、それが壊されると一旦「誰にも支配されていない状態」になり、その後に魔力を注ぎ込まれる───つまり、自軍戦力に確保させ続けていると、支配権を得ることが出来るのだ、という。
陣取りゲームみたいだなー、と、そう思った。
単純化すれば、
「敵の支配区画へ自軍戦力を送り込む」
「敵戦力を区画から排除する」
「暫く自軍戦力を常駐させ、支配権を奪う」
という三段階で敵陣地を奪う。
そしてその中でも魔力中継点 の支配権を奪われるというのがとても拙くて、そうなると周辺の「支配領域」も相手のものになり、その領域内では魔術や召喚の行使や新たな区画の整備なんかも、こちらからは出来なくなる。
そして逆に、相手方にはそれが出来るようになるのだそうな。
で。
レイフは既に一つの魔力中継点 を奪われた。
今、もう一つの魔力中継点 が狙われ、もはや風前の灯火らしい。
しかも攻撃を受けている最中の魔力中継点 では召喚が疎外されるため、援軍は別の場所から送り込まねばならない。
俺がタカギさんに乗り駆けつけているのはその為だ。
暗闇にのっそりと、敵の姿が見えてくる。
うそ、あのデカいの……この間の双頭オオサンショウウオじゃん!?
しかも、三頭居る!
頭の数は倍だから六つ!
つまり一度に六回食べられてしまう!
途中の魔力中継点 からの増援も引き連れつつ、反撃に向かう。
今現在攻撃されている魔力中継点 とその周辺区画に残っているレイフの戦力は少ない。
餌目当てにやってきて、その後従属化された岩蟹、白オオサンショウウオ数頭のみ。
白オオサンショウウオは双頭オオサンショウウオの完全下位互換で、ほぼほぼ双頭オオサンショウウオに喰われるだけの役回り。
岩蟹は殻が固いこともありなかなか防衛には貢献してるっぽいけど、ハサミだけでは巨体の双頭オオサンショウウオへの攻撃力に乏しい。
つまり、「持ちこたえてはいるが、撃退は出来ない」状況だ。
増援は俺達の他、時間稼ぎ用の新たな岩蟹に、糸と毒牙を使える大蜘蛛だそうだ。
正直、全体的にあまり期待できない。
期待できないが……まー、やるしかない。
大蜻蛉は牽制と索敵担当。
元々強い敵には立ち向かわないという性質らしいので、進んで双頭オオサンショウウオの相手などするわけがない。
岩蟹部隊は当然盾兼足留め。それと支配区画を奪われないよう固守する役割。
大蜘蛛はそれら岩蟹に守られつつ、糸による牽制と補助、そして隙あらば毒牙攻撃。
で、俺とタカギさんが、主力であり遊撃。
機動力があるのは俺とタカギさんの他は大蜻蛉で、その大蜻蛉はさして戦力にならない。
俺の横で編隊を組んで、酸性の唾を吐きかけるくらい。
完全に俺の補助オプション程度だ。
タカタカタカ! と、蹄の音が軽快に響く。
攻勢に気付いた敵側の岩蟹がこちらを見るも、そのままの勢いで右手の棍棒でバカーン! と一撃。
ひび割れ穴の開いた殻の中に、後続の大蜻蛉が唾を吐きかける……と言うと、何かすげい汚らしいなあ。
酸性の唾はそれ自体の威力は弱い。けど俺の打撃の追加ダメージとしてはアリかもしれん。
食べられる蟹肉が減るのは痛し痒し。
そのまま敵の集団の中を突っ切り、岩蟹や大きめの白オオサンショウウオ、そして双頭オオサンショウウオへとも打撃を加える。
走り抜けて旋回し、一時停止。
殴られた魔獣達が怒りモードでこちらを睨む……ような気がする。
ブヒッ! と鼻をすするような声が漏れ、手汗が滲む。棍棒の柄はしっかり握っておこう。
タカギさんはまだまだやる気だ。ちょっと度胸付きすぎじゃないですか?
襲撃してきた魔獣達を一睨み。カッカと蹄を打ちつけて悠然と歩く。
2頭の双頭オオサンショウウオと、5~6体の岩蟹が攻撃目標をこちらに定めたようだ。
岩蟹は直線で殺到してくる。
速い! タカギさんも加速をし旋回するように走り出す。
岩蟹は蟹のくせに、横歩きではなく真っ直ぐ歩く。いや、走る。
突進力はあるが、小回りが効かない。
タカギさんが右回りにかわしつつ、俺は右手の棍棒を振り回して攻撃を加える。
付かず離れず、適度な距離をとって奴らを引きつけ、同時に急接近からの攻撃……かーらーのー即座の離脱。
俗に言う、ヒットアンドウェーイ……ヒットアンドアウェイ戦法だ。
陸上では動きの遅い双頭オオサンショウウオ。
速度はあるが直線的で小回りの利かない岩蟹。
対してこちらは、聖獣タカギさんの機動力に、俺の持つ棍棒の打撃力。
とにかく捕まらないで走り回り、ガンガンゴンゴン殴りまくる、という持久戦だ。
「のわ!」
ぶおん、と風切り音を感じて身を竦めて思わず声が出る。
タカギさんの素早いステップでかわしたのは、双頭オオサンショウウオの尻尾。
ヤバい、ちょっと忘れてた。
前回はこいつにしてやられた。
別のもう一体、再びの尻尾を危うくかわすが、俺に併走していた大蜻蛉の二体が打ち落とされた。
「のわのわ!」
取り立てて大きな活躍はしてないが、ある種の煙幕みたいな役割りの大蜻蛉が減るのは結構痛い。
双頭オオサンショウウオの尻尾は、力も強いし動きも素早い。
しかしその反動で体勢が崩れることもあり、連続して攻撃出来ない上、隙が出来る。
前回の戦いでそこを見抜いていたレイフは、尻尾攻撃の直後を狙うように言って来ていた。
ボゴン、と骨の砕ける嫌な感触が手に伝わる。
大きな双頭オオサンショウウオの頭の、首の後ろあたりの頭蓋骨が、他と比べてやや薄いことは解体したときに分かっていた。
そこに力一杯に棍棒を振り下ろすと、頭がびくりと痙攣するように震えて動かなくなる。
飲み込まれてから腹を裂く、なんていうむちゃくちゃなやり方以外では、生命力のハンパ無い双頭オオサンショウウオを倒すには二つの頭を潰さなきゃならない。
しかも、なるべく間を置かずに、だ。
何でもこいつの生命力の強さには、魔力による自己再生能力も含まれているとかで、一つの頭を潰しても暫くすると再生してしまうのだという。
タカギさんは華麗な跳躍で、今し方頭の一つを潰した双頭オオサンショウウオを飛び越える。
もう一体がこちらへと頭を向けようとするが、頭一つを失い動きの悪いもう一体が邪魔をして、俺達の動きを追いきれずに身体が重なり合う。
走り回って引きつけ続けた甲斐があった。
タカギさんが着地し素早いターン。
もたついている二体をさらに殴りつけ叩き潰した。
思いのほか。
思いのほか上手く行った!
やっぱ、俺、強くなってるわ!
別に敵を倒したら不思議エネルギー吸収してゲームみたいにレベルアップとかはしないけど、経験や立ち回りが明らかに上手くなっている。
勿論、タカギさんの力もある。
レイフの敵への考察や作戦もある。
けど、それらを上手く使い実行出来るのは、間違い無く俺の力だ。
アランディ隊長のブートキャンプでしこたましごかれ、ゴブリン達の捕虜生活ではさんざんだったが、ここに来て俺ちゃん、急成長してます!
ドヤァ! とばかりに、タカギさんの上で胸を反らす。
反らして、その姿勢のままゴロンと落ちて倒れた。
俺も、タカギさんも。
一瞬。一瞬だが、激しい衝撃に打ちのめされ、地面に倒れ転がったままビクビクと痙攣する。
痺れがのこり、頭も身体もふらふらする。
何だ? 見回す。ぎこちない首の動きで、視界に入る影は、巨大で長い、大きな蛇か……いや、ウナギだった。
レイフの話を思い出す。
この区域は現状、レイフによる支配領域と、敵キーパーの支配領域が重なり合った状態。
そしてだから、お互いに「相手の支配区画になっていない、敵戦力の妨害が無い場所」では、建設建築作業をさせることも出来る。
俺は敵の大物である双頭オオサンショウウオを引きつけ、防衛の為の時間稼ぎをしているつもりでいた。
しかし、本当は逆だったんだ。
相手のキーパーは、双頭オオサンショウウオで俺の注意を引きつけ、その隙に素早く建設作業をさせて、道を作っていた。
陸上の道、じゃない。
水路。
敵の持つ最大の戦力。およそ5メートルを越す体長を誇る、巨大電気ウナギ。ジャイアントイールをこの戦場へと連れてくる為の、水路を。
ガクガクとふるえて力の入らない足腰と両腕。
それになんとか力を入れようとしながら、奴を睨む……いや、睨まれる。
水路からぬっと顔を出し、鎌首をもたげる蛇のように俺達を見下ろすその威容には、まるで王者のような自信に満ちて見える。
蛇に睨まれた蛙、ならぬ、ウナギに睨まれた豚二頭。
辺りには敵戦力の岩蟹数体、と双頭オオサンショウウオがまだ一体残っている。
やっぱ、これ、ヤバい。
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