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第三章 クラス丸ごと異世界転生!? 追放された野獣が進む、復讐の道は怒りのデスロード!
3-267. マジュヌーン(113)闇の月の夜に - 鉄屑鉄男
しおりを挟む闇の森から戻って以降、何やら諸々調子が悪い。
何が原因とも分からないし、具体的にどう調子が悪いのかってのも言葉にし難い。
あの“預言の柩”のことが気になってる、というのも確かにある。だがそれが直接的な原因かッてぇとそうも思えねぇ。
やたらと妙な悪夢も見るし、何かの弾みで観たこともない、知らない場所や光景の事が頭に浮かぶようなこともある。
例の闇の森でのダークエルフとゴブリンの戦闘の話が気になっているのか、実際その場に居たかのような夢、または光景が頭に浮かんで来たりもする。それも、ダークエルフと戦う側として、だ。
何だか分からずイライラとしてはくるが、だからと言ってどうにかなるでもねぇ。アルアジルは例の“預言の柩”とやらに付きっきりで何やら調べているし、ムスタやフォルトナも居たり居なかったりだ。
居るときは地下闘技場で試合なんぞをして身体を痛めつけたりもするが、居ないときは他にやることもねぇ。“門”を使ってどこかへ行ったりもするが、かといって特段やることもない。せいぜいが、苛立ち紛れに「“災厄の美妃”への祈り」として死を願われてる連中を“贄”としていくぐらいだ。
あまりに夢見が悪く寝付けないときは、カエル野郎に眠り薬を処方して貰う。奴はキャラに反して薬師としては有能で、奇妙でアホみてぇな薬だけじゃなく、マトモな薬もなかなか高品質。
使う頻度が徐々に増えてるのは、我ながら良くない傾向だとは思う。
▽ ▲ ▽
“三悪”の動きがまた活発化してきた、てのは冬になり始めての時期。もちろん冬っつってもクトリアじゃあたいして寒くもねぇ。
“腐れ頭”曰わく、恐らくはまたボーマ城塞攻めを狙っているんじゃねぇかって話で、その辺を睨みつつ細かい情報を頼んで何度目かのことだ。
「───だがよ、クーク1人じゃ炎は使えねぇし、手勢も減ってるだろ?」
「だからよ。今度はありゃ、連合軍だ」
ネフィル、ヴィオレトに、アウレウム……勿論“偽者の”だが、とにかくアルゴードのときと同じく、総力戦になるだろう……ってな予測だ。
ボーマ城塞を落とされるのは後々に困る。その理由で奴らの争いに手出しをしたのはまあ一年近く前か。結果、アニチェト・ヴォルタスとペデルナが共倒れし、無二の友を失って敗走したクークは暫く身を隠していたが、最近になりまた王国軍を襲ったりと色々と動きだしている。
また、前と同じように影から手出しをするべきか? そう考えていると“腐れ頭”は、
「だがな、恐らく十中八九、総力戦でも今回は魔人軍の勝ち目は薄いぜ」
と言う。
「そりゃ、何でだ?」
「ボーマ城塞側も総力戦、連合になったからよ」
と、言う事らしい。
「今までだったら組むはずの無かったクトリア市街地の狩人に探索者、さらには王国駐屯軍までの連合だ。仕切るニコラウス・コンティーニが余程の間抜けでもなきゃ負けはない」
「アウグストとは違う、ってか?」
「ああ、役者が違うね。ニコラウスは若いが辺境で歴戦を重ねた叩き上げだ。本来なら英雄リッカルド・コンティーニの息子としてちやほやされててもおかしかねぇ生まれなのにな。そこがボンボンのアウグストとは違う」
と、そう聞くと、王国側が本格的なクトリアでの治安維持に乗り出したのかと思っちまいそうだが、実際は、
「その上、本国でやらかしちまった結果クトリアに飛ばされたから、手柄を立てて凱旋したいって考えてもいるし、そのための準備もしてる」
ってな事らしい。
「んで、そりゃいつ動く?」
「今、だよ」
「今、の、いつだよ?」
「だから今だって。今現在、すでに動いてる。
ちょうどさっきモロシタテムを“鉄塊”が襲ったらしくてな、その討伐隊を編成して行軍の準備を始めてんだよ」
▽ ▲ ▽
まめな情報収集を怠った、とも言えるが、こりゃそれ以上の急展開だ。
なんでも夕方前にモロシタテムからのラクダが来て、クルス家の連中と王の守護者に居るイシドロ・クルスってのに襲撃が知らされる。クルス家ってのはモロシタテムの有力者の家で、まあ町長の一族みてぇなもんだ。イシドロは数人で救援に向かったが、いくら凄腕でもそりゃ勝ち目はねぇ。
で、王国駐屯軍にも連絡をし、その襲撃前から連合して魔人への討伐隊の編成が計画されてた狩人や探索者達とも連携して進軍を準備してる……てな話。
だがそこに、何故だか貴族街の三大ファミリーの一つ、マヌサアルバ会ってのが絡んでるらしい。
理由は不明。いや、一応、最近そいつらはボーマ城塞と酒の取引をしてるらしく、その関係もあるらしいが……だが、実際それだけの理由で魔人との戦いにかむもんか? とも疑問に思う。
何にせよ、その疑問も結末もこれからだ。
人間の足なら歩いて半日以上かける距離。だが猫獣人であり様々な魔力や装具の補助がある俺なら、全力で行けば数時間だ。
とは言えきっつい道のりだ。その上たどり着いてもすでに決着してる可能性の方が高い。
なら、何故走る?
その答えはまだ無い。
闇の月が夜空に高く上がる夜の不毛の荒野をただ走り続ける。
時間も忘れてたどり着いたときには、街中には至る所に死体が転がる凄惨な有り様だった。
まだ戦闘は終わってない。その中でも最も強い魔力の動きを追う。
街の東側のはずれに、もつれ合う2つ……いや、3つの影。1人は当然、“鉄塊の”ネフィル。そして対峙して居るのは……あの、“シジュメルの加護の入れ墨”をした南方人だった。
どういう経緯か分かりゃしねぇが、なんだか因縁めいたもんを感じるぜ。
だがそれより気になるのは、ネフィルを背後から抱えるようにしている1人の女。間違いなく今いる中でもずば抜けて魔力が高く、ずば抜けて“強い”。
「て、てめェ……!? 今更……何しに来やがッた……!!??」
怒りをはらんだ声でネフィルが叫ぶ。今更、って言うからにゃ、2人は旧知、知り合いって事になる。
だが好意的な関係じゃねぇ。それでも、以前よりさらに太くなった鍛え上げられた腕でも、その女を振りほどく事は出来ねぇでいる。
少し離れた建物の影、奴らからは死角の位置で耳と鼻と“災厄の美妃”による魔力探知をフル活用して様子を窺う。
そのネフィルの叫びに女は応じる。
「本当……今更だよね。
もっと早くに来れれば良かった。
言い訳するつもりは無いけど、まともに起きて動けるようになったのもここ最近で……何より、躊躇してたから」
その声の調子は驚くほど平易で、あらゆる感情の揺らぎが伺えない。
だが……そうじゃねぇ。この匂いは、普通の人間のものとはやや異なるが、それでも分かる。
「ふざ……けんな!
今更何が出来るってんだよ、てめェによ!?
昔に戻せンのか? やり直し出来るッてのか!? 出来るワケねえだろがよ!!??」
対するネフィルは、今まで聞いた事もないくれぇに怒り、高ぶっている。
この二人に何があった? どんな関係だったのか?
知らねぇ話だが、間違いない。この女は、前世で繋がりのある誰かだ。
でなきゃ、ネフィルを魔人にした邪術士か誰かか。
「───終わらせるよ」
女はそう小さく、囁くかのように言葉にし、同時にとてつもなく強い魔力を迸らせる。
その闇の奔流を受け、ネフィルが悲鳴を上げた。
「わたしが与えてしまったもの───わたしが見捨ててしまったもの───。
それを、返してもらう───」
女の使ってる術は、俺の“災厄の美妃”が魔力、生命力を奪うときのそれと似ている。多分闇属性魔法の一つ、【魔力吸収】。
だが───。
バシン! と、まるで電気に弾かれたかのような勢いで、女は後ろへと飛ばされた。
そして膨れ上がっていた闇の魔力の殆どは───。
「糞っ……たれが……ッ!
ここ……で、俺の“とっておき”を……使うハメになる……とは……よォ~~……!」
立ち上がってそう酔ったように喚くネフィル。
その周りには先程の魔力の残滓がまとわりつき、しかしそれもまた徐々にネフィルの中へと吸収されていった。
ドワーフ合金の鎧を着た南方人が、弾き飛ばされた女の方へ駆け寄り……いや、飛んで行って抱きかかえる。
この反応は知っている。以前、ボーマ城塞でクークとペデルナがアニチェト・ヴォルタスにぶつけた巨大な火炎の竜。その一つが反射されたときと同じだ。
自らの受けた致命的な魔力による攻撃を、術者へと跳ね返すという“反射の守り”。クークがしてやられたそれを知ってか、ネフィルは用心のため手に入れて持っていた……そう言う事だろう。
ふらつくように、揺れるようにして立ち尽くすネフィル。ぶつぶつと何事かを呟きながら、その揺れが大きくなり、また見違えるほどに鍛えられた身体もさらに大きくなりだす。
魔力飽和だ。
急激に、本人の許容量を超えた扱いきれない魔力を吸収してしまった時に起こりうる現象。
女はネフィルの魔力を根こそぎ吸い取ろうと術を使い、その効果が反射されたことで逆に自分の魔力を根こそぎネフィルに奪われることになった。
だが、そいつはネフィルにとってはあまりに多すぎる魔力だった。
このまま行けばネフィルは自滅する。扱いきれねぇ魔力にぶっ倒れちまうか、最悪、それこそ狂える半死人のように、自我も理性もなくなった化け物になっちまうかもしれねぇ。
───だが、“災厄の美妃”でその魔力を半分でも奪ってしまえば……?
廃都アンディルで食屍鬼となって狂気に飲まれそうになってたボルデマフと同じように、飽和した魔力が減れば、化け物にもならず、正気で居られる可能性はある。
俺は気配を出さないでゆっくりとネフィルの方へ向かう。ネフィルも、女もまだ態勢は整えられてない。まだなんとかなるかもしれねぇが……。
「───悩ましい再会ですな」
振り下ろされ、また横薙ぎの細い刃を受け、避ける。
装飾のある仕込み杖を構えた黒ずくめが2人、そしてその2人を従えてるだろう、やはり黒ずくめで口髭の男が1人……。
「ですがこれ以上は……一歩たりとも進ませません」
そう言うその声に、覚えがあった。
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