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第三章 クラス丸ごと異世界転生!? 追放された野獣が進む、復讐の道は怒りのデスロード!
3-266. マジュヌーン(112)黒金の塔 - 虚無の声
しおりを挟む「はーい、と言うワケで、今回の“最も活躍したで賞”は……当然、オレ様ちゃん!」
闇の森の外に作っておいた野営地へと戻って一休みの後、得意気にそうエリクサールが宣言する。
まあムカつくが異論を挟める奴は居ない。実際、アルアジルが求めていたと言う“星詠みの天球儀”とかってシロモノを始め、宝……とまではいかなくとも、歴代の“闇の主”がため込んでた余り物の秘宝を幾つも手に入れて来たからな。
「2番目は~……まあそのオレ様ちゃんの補佐をしてくれたマジュヌーン。その次は、禿爺のお相手してくれてたアルアジルかな?」
「恐縮です」
からからと乾いた笑い声を上げるアルアジルは、本気かどうかも分からない。
「さぁ~~て、それで、“最も活躍してなかったで賞”はと、言う……とぉ~~?」
ニヤニヤと薄ら笑いを浮かべながら、ムスタとフォルトナの2人を交互に見るエリクサール。
2人ともそれぞれむっつりと不機嫌な顔だが、これもまあ、反論は出来ねぇ。
「え~、我々選考委員会も、今回は非常ォ~~……に、悩みました。どちらも実に全く活躍の無さにおいて比較するのも難しくゥ~……」
おっと、ムスタの手にしていた木製マグが割れたぞ。
「今回は同票で、2人とも同時受賞となりました~~~! オメデトゥ~~~ス!」
けらけら笑うエリクサールに、あと数秒でムスタの鉄拳制裁が下されるかってなタイミングで、俺は話を変える。
「で、アルアジル。その、“星詠みの天球儀”ってのは、何に使うんだ?」
問われたアルアジルは、ふぅ、と深く呼吸をし、それからゆっくりと話し始める。
「この“星詠みの天球儀”は、文字通りに天の動きから世の運命を導き出します」
簡単に言や、占いの道具、って事になるのか。
「ですが……」
と、さらに続けて、
「一番大きいのは、運命を司る混沌の神、蜘蛛の女王ウィドナの糸の流れを見つけ出す事にあります」
蜘蛛の女王……。
「そりゃ、例の門番とか言う、竜脈を取り仕切ってる奴らの親玉か?」
「はい」
俺の持つ“災厄の美妃”は、“辺土の老人”グィビ・ルフオグとか言う邪神が作り出し、この世界へともたらされたと言う。そしてこの世界にはあの干からびた爺の他にもまだまだ邪神、“まつろわぬ混沌の神々”ってのがウロチョロと様々なやり方で信者だの信奉者だのを集め、操り、何かしらを企んでいる。
その中で、蜘蛛の女王の使徒、そして子、というのは、アルアジルに言わせれば「敵に回したくない、厄介な相手」と言う事らしい。
そもそもがこの“災厄の美妃”を作ったグィビ・ルフオグってのと、蜘蛛の女王ウィドナと他、ダークエルフが信奉する三美神とかってのはめちゃ仲が悪い。だからこっちから関わろうとしなくても、あちらさんからすれば“災厄の美妃”の持ち手ってだけでも敵対視されちまうらしい。
「つまり……それを使えば連中の動きを先詠みして、追求をかわせるってことか?」
そう聞くとアルアジルはやや斜めに首を傾げ、
「半分は正解ですが……まあ、それだけではありません」
と、また分かり難い返しをする。
「いずれにせよ、これを手に入れたことで、またさらに新たな段階へと進むことが出来ます。恐らくはそう遠くないうちに、でしょうが」
思わせ振りに言うアルアジルの言葉に、とりあえずはそう言う事にしておくか、と頷いておく。
△ ▼ △
帰路はまた、来たときと同じ道程を戻っていく。今度はエリクサールだけはそのまま王国領へと向かうとかで、奴抜きの4人旅だ。奴が抜けると変装術に加えての幻惑術でのカモフラージュの精度がやや落ちるが、アルアジルのそれでもよほどの相手でもなきゃ見破られはしないだろう、との事。
さして面白くもない道中、黒金の塔の地下、泉の部屋でネムリノキの香りにやられていたときに感じた違和感のことがやや気になったが、あの時実際に何が気になったのかがどうにも思い出せない。頭の中にはもやっとした引っかかりが残っている。いるが、結局はそれが晴れることなくレフレクトルにまで到着する。
そのまま今回は“門”をくぐり抜けて聖域へと戻る。聖域の中はまだ俺ですら全部を把握してないくらいに広くて複雑だ。俺は幾らか採ってきたネムリノキの樹液を蛙人の薬師へと渡してから、アルアジルの案内のまま2人で奥のさらに奥へと進む。
かなり深い位置にあるだろうそこは、聖域の他の場所よりもひんやりと寒い。ほぼ自然洞のままの道をさらに進むと、地下水道の滝をくぐり抜け、湖の中の小島のような場所が、一転、明らかに細工のされた祭壇みてぇになっている。
飾り柱に囲まれた祭壇の中央にある台座の上には、なんというか寺にある鐘みてぇなものが置かれてる。
「何だ、こりゃあよ?」
高さは2メートルくらいで横幅は1メートル半。くすんだ暗緑色は確かオークのオーカリコス銅とかって硬いがめちゃ重い金属だったか。
幾何学的な紋様が描かれていて、ある種の工芸品とも言えなくもないが、かといって芸術品とも思えない。端的に言えば、禍々しい呪いの道具のようだ。
「我ら“闇の手”は、預言により様々な事を知ります」
これはまあ、以前から度々聞いていた話だ。
そして、“災厄の美妃”からの言葉を聞けるのがアルアジルだけで、なので奴は“災厄の美妃の声の聞き手”ってな呼ばれ方もしている。
「そしてこれ───」
寺の鐘みてぇなその物体の前……どこが前でどこが後ろかはハッキリしねぇが、とにかく俺らの方を向いている側の目の高さほどの場所、膨らんだ突起のあるちょうど良い窪みに手をかけると、ズズっと横にズラして小窓を開く。
「その預言を発するのが、コレです」
目が、合った。
いや。目が、あった。
その小さな引き戸みてぇな所の奥に、ギョロリと血走り、ぬめって淀んだ目があった。
開いた小窓はだいたい30センチ四方。その全てが埋まるくらいに肉がみっちり詰まっている。
いや、つまりこの寺の鐘みてぇなものの中全部に、肉色の何かがみっしりと詰まっていて、小窓の位置に顔があるんだ。
顔……、目と、口と、鼻……。目らしきものと、口らしきものと、鼻らしきものが、その位置にある。
「……何だ、こりゃ……?」
「“預言の柩”……鐘のように音を鳴らすのではなく、預言の言葉を発する魔導具……と言ったところでしょうか」
そう言ってアルアジルは耳を近づけるように小窓のところへ顔を寄せ、コンコンと叩く。
すると、その小窓から覗く口らしきものがゆるゆると動いて、呻き声とも嗚咽とも言えない声を発しだした。
言葉なのかそうでないのが、唸りのようなその音が何を意味しているかは俺には分からねぇ。
だがそれを確認してからアルアジルはまた鐘の横にある梯子状の出っ張りで上へと登り、それから台座みてぇな先端部分に例の“星詠みの天球儀”を据え付ける。
何やらまた唱えながらそこへと魔力を注ぎ込むアルアジル。その魔力はうっすらと“預言の柩”全体を包み込み、それから大きく膨らんでまた、一気に凝縮されて中へと吸い込まれる。
魔力が包み込むと同時に、最初は小さく、それから徐々に徐々に、内側で反響し増幅させたかのような音の響きが大きく鳴りだしていた。それそのものズバリ鐘の音のようにこの空間に響く音は、空気や耳だけでなく、俺の体の芯にまで振動をもたらす。
それが、さらに俺の身体の中で反響し合い増幅して乱反射した。
「おい、待て、なんだよこりゃ……!? 止め……」
止められねぇのか? そう叫ぶが、叫んでいるのか呟いているのかすら自分じゃ分からねぇ。
まるで身体の中から殴られてるかのようなその響きに打ちのめされ、膝をつき、地面へと倒れのた打ち続けること暫く。
次第にその響きはまた小さくなり収まりだす。そしてその最後には、聞いたことのある言葉へと収束していく。
「───何だと?」
思わず漏れ出た呻きに、俺を助け起こすアルアジルが小首を傾げるかにして、
「何か、聞こえましたか?」
と尋ねてくる。
聞こえたか? いや、聞こえたのか?
「いや……よく分からねぇ……」
「それは、残念」
さほど残念そうでもなく言うアルアジルだが、俺はさっきの残響をまさぐりほじくり返してその意味を考えてる。
───飛行機……爆発……墜ちる……見た……精霊憑き……。
俺たちが墜落した飛行機の中、「夢でこの飛行機が墜落するのを見た」と主張し、それを予言……いや、預言? なのか? ……とにかく、そう予知したと言っていたアラブ人。そして、真嶋と言う俺の名前を聞き、精霊憑きと最初に呼んだ男。
まさにそのときその声、その内容が、鐘の音の残響の最後に、俺の中へと残されてた。
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