遠くて近きルナプレール ~転生獣人と復讐ロードと~

ヘボラヤーナ・キョリンスキー

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第三章 クラス丸ごと異世界転生!? 追放された野獣が進む、復讐の道は怒りのデスロード!

3-255. マジュヌーン(101)魔法使いの弟子 - ホテルくちびる

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 クークらしき魔人ディモニウムの集団を追うのにはそこそこ手間取った。なにせクトリアはほとんどが不毛の荒野。王国駐屯軍や交易商、狩人たちの往き来するのは街道沿いとその周辺の一部ばかりで、山賊野盗の隠れ潜むのに向いた、遺跡だ廃墟だ洞窟だなんてのがそこら中にありやがる。実際、ここより日射しがキツくて砂ばかりの“残り火砂漠”よりもヤバい場所ばかりだしな。
 俺だけではなくエリクサールやフォルトナの灰砂の落とし子アッシュサンド・スポーンやら総動員での大捜索。ただエリクサールは今回はかなりサボってやがった。曰わく、「俺は潜入工作向きで、広域探査は専門外だっつーの」だとさ。
 
 で、怪しげな場所に目星をつけたとフォルトナが連絡してきたのが、位置的には旧王都市街地から街道沿いに南下したノルドバと言う宿場町の周辺。だいたい大山脈の“巨神の骨”にぐるりと囲まれたクトリアの中央よりちょい南の位置だ。この辺はやや高い山を中心にごちゃごちゃした岩場が入り組んでいて、さらに巨大蟻やら魔蠍やら、変異したオオヤモリやらも生息してる。なのでそっちの方には地元の連中も王国駐屯軍巡回部隊もあまり近寄ろうとはしない。噂じゃ真ん中にある山のてっぺんには、“巨神の骨”から追い出されたはぐれ者の巨人だか食人鬼オーガだかが住んでいる……てな話だが、それはかなり眉唾もの、だそうだ。
 
 旅の交易商に変装したフォルトナが、妙に愛想の良いババァの経営する宿屋に部屋を取って待ち合わせ。頭にはターバン、口元にも布。目元以外ほとんと露出のない全身青っぽいゆったりした砂漠の民の服装に、認識阻害の効果のある首飾りをしている。ダークエルフ故の青黒い肌は、露出のほとんど無い砂漠の民の重ね着でも全部は隠しきれない。だがその認識阻害効果のある魔装具を着けていれば、ダークエルフ故の違和感を感じさせなく出来る。エリクサールの使う“なんとなく目立たなくさせる”と言う幻惑術ともちと似てるが、これはフォルトナ用に完全にカスタマイズされてるやつで、「なんとなくダークエルフではないように思わせる」と言うモンになってて、だいたいはウッドエルフに見られるそうだ。当然こっちも、まじまじと見られたり勘の鋭い相手には気付かれたりもするが、特に会話もせず近くにいる程度の相手にはまずバレない。
 
「ここの哀れでみすぼらしい連中の半分は、主に探鉱者スカベンジャー稼業で食いつないでいるようですな」
 あまり小綺麗でもない、というか正直かなり小汚い小さめの個室に入ると、フォルトナがそう話を切り出す。
ゴミ漁りスカベンジャーかよ。けど、この辺にそんなに拾えるもんなんかあるのか?」
 ゴミ漁りスカベンジャー、つまり、遺跡だの古い野営地だの廃墟、廃村に残ってる様々なものを拾って来て売る、という生業。遺跡の探索者と似てるようで違うのは、基本的にゴミ漁りスカベンジャーは戦わないし、既に誰かが遺物を漁って、危険な敵や罠を無効にした場所やら廃鉱山なんかへと行くこと。コソコソ隠れて出来るだけ危険を避けて、まさに「残りモノ」を拾って来るワケだ。
 勿論それでも、獣や魔獣、山賊野盗と偶然に遭遇ランダムエンカウントをするリスクはゼロじゃあねぇが、いわゆる遺跡探索者が初めからそういう危険と対峙する、そして可能なら打ち倒してより多くのお宝を獲得する前提なのに対して、ゴミ漁りスカベンジャーはあくまでローリスクローリターン狙い。だから、危険の兆候には敏感だ。
 
「他はマチャド牧場の牧童か、この宿屋の下働きをしている南方人ラハイシュの女の兄、トリストとか言う男の小さな交易商集団の仲間か、その元締めでもあるクリマコの商店……他は数人の警備兵とかですな」
「そんなデカい町でもねぇのに、警備兵雇える金はあるのか?」
「クトリア交易の中継点ですので、規模のわりにはそれなりにあるようですね。そのトリストのディエス商会が主にこことグッドコーヴ、モロシタテムの三カ所を回っているのですが、ここの遺物や食肉、乳製品、グッドコーヴの塩や干し魚、モロシタテムの農産品や小物類、東方からの輸入品……と、それぞれに物流が機能し、ときおりそれらを王国駐屯軍などにも卸す、といった具合で。
 そういう流れは邪術士専横時代からも細々とは続いていたようですな」
 まあ、人が生きるところ金と物の動きあり、か。
 
「んで、その社会科の授業から何が分かる?」
「シャカ……イカ……?」
「いい、そこはつっこむな」
「はい。まあ、何にせよ交易商と探鉱者スカベンジャーは共に山賊野盗や魔獣の危険性には敏感です。そこで連中からそれとなく聞き出したところ、二カ所ほど怪しい場所がありまして」
「続けろ」
「一つは“黄金の穴”と呼ばれてる幾つもの穴の開いた岩の多い荒れ地で、ノルドバから街道沿いに北へ進むとあります。ただその穴と言うのは古い巨大蟻の巣穴でして、そこに連れ込まれた者達の残したお宝が奥に残っていると言うある種の皮肉と、そここら派生した、かつてザルコディナス三世の隠し財産を運んでた者達がこの巣穴に引き込まれ全滅し、そのお宝だけ中に残っている……という噂でそう呼ばれ出したようですな。
 既に蟻どもは全滅させられておりますが、その穴を利用する魔獣や獣が居るため、あまり近寄られない。
 もう一つは“髭小人の実験場”と呼ばれる古代ドワーフ遺跡で、これは西の山間の奥にあり、なかなかに危険な場所です。“黄金の穴”と違って本格的な古代ドワーフ遺跡なので、奥へ行けば未だに稼働しているからくりドワーフ合金ゴーレムや罠などもあるようですが、とは言えめぼしいものは既に邪術士や探索者達に持って行かれ、今はゴミ漁りスカベンジャーか山賊野盗がたまに利用するくらいだそうで」
「つまり、今がまさにその“山賊野盗の利用してる”時期、ってか」
「ええ。両方とも既に簡単な調査は終えております。“黄金の穴”には恐らく女王なしのはぐれ火焔蟻が巣くってますな」
「なら、そっちはねぇって事か」
「普通ならそうですが、“猛獣”ヴィオレトの存在を踏まえれば、可能性は無くもないかと」
 なるほどな。ヴィオレトが今、どのくらいまでの魔獣を操れるかは分からねぇが、火焔蟻まで操れるとなりゃあ隠れ家には持ってこい、か。
「もう一つはどうだった?」
「“髭小人の実験場”には、“狂える半死人”がうろついておりました」
「そっちもダメじゃねぇか」
「いえ、それが“狂える半死人”は、希に魔人ディモニウムを仲間と認識する事があるとの話で」
「マジか。初耳だぞ」
「まあ、その辺はアルアジルや“腐れ頭”が詳しいのでしょうが、そもそも“半死人”も魔人ディモニウムも、かつてのザルコディナス三世、またその後の邪術士支配下での実験にて生み出された“生ける魔導具”です。
 それでまあ、その作り方にも幾つかの方法があるのですが、その系統が近い者たちは、元となる魔力の波長が近い。なので、思考力も理性も失った“狂える半死人”達も、近い波長の者は仲間、と判断することがあるようなのです」
「ふ~ん……そんなもんか」
 この辺、自分自身に魔力のあまりない俺には実感としちゃ分かりづらい話だ。
 
「……まあどっちにしろ、その2か所のどちらにも可能性はあるって事か」
 そう返すと大仰に頷くフォルトナ。で、結局俺自身でどちらにも出向かなきゃならなくなる。
 
 △ ▼ △
 
 とりあえずは“黄金の穴”はハズレで、遠目に確認したというフォルトナの事前調査通りに、何十匹かのはぐれ火焔蟻が巣くっていただけだった。何匹かは倒しはしたが無駄手間で、“災厄の美妃”へと与える供物としても質、量ともにたいした事はない。面倒なので適当にあしらい調査を終える。
 ついでにそこからさらに北上すると、例のクークに襲われたという王国駐屯軍と取り引きのある牧場とやらがあるとのことで様子を見に行くが、既に戦いの痕跡は修復されていた。
 街道沿いの旅人、王国駐屯軍相手の休息所も経営していて、まさにその巡回兵が数人休んでいる所だった。交易商とその護衛に偽装しているフォルトナと俺はそう訝しがられることもなく、簡単な天幕の日陰で串焼き肉と水を買い店の男へそれとなく話を聞いてはみるが、当然そんな細かいことは話さない。変にしつこくして怪しまれるのもなんだからほどほどにて切り上げたちょうどそのとき、休息所の東の向かい側にある王国駐屯軍が拠点としている遺跡から、手かせ首かせに腰紐で繋がれた集団がぞろぞろと現れた。
「何だありゃ、囚人か?」
「あー、ありゃあ王国の囚人労働者ですわ。このマクオラン遺跡から市街地、それとノルドバ辺りまでを繋ぐ街道を再整備するそうで」
 王国駐屯軍の基地のほぼ真ん前にある牧場が襲撃されたのも、夜中とは言え対応に手抜かりがありすぎるってんで、諸々再編されるらしい。
 例のアウグストの後任も、もともとまるでやる気のないボンクラだったそうだが、今回の襲撃のこともあり責任をとらされ罷免された。
 で、まだそのさらに後任も決まってないんだが、それにはどうやら本国での別の大規模な討伐計画があることとも関係があるとかで、なかなか動きが鈍い。
 アルアジルに言わせると、それもあってクトリアでのリカトリジオス軍の“工作”が活発化しているのではないか……との話でもある。
 
「あれはまた……ずいぶんと図体のでかい……」
 遠目に見えるその集団を眺めなが、フォルトナが誰に言うとでもなくそう呟くと、横に居た巡回兵が、
「あれは“狂乱の”グイド・フォルクスだ」
 と言う。
「なんだい、そりゃあ?」
 俺がそう聞き返すと、
「かつて闘技場で魔獣相手に大活躍していた剣闘奴隷だ。だが主を殺して囚人となった」
 と、なかなか不穏な事を言う。
「ひぇっ、そりゃあおっかねぇ話じゃあねぇですかい」
 休息所の男がそう小さく悲鳴をあげると、別の巡回兵が、
「とはいえその主人が実は裏で邪悪な実験をする邪術士だったということが判明してな。本来なら主殺しは大罪だ。処刑されて当然のところセイビア王の寛大な処置で罪を減じられ、強制労働をする犯罪奴隷となった」
 王国にも邪術士がいるのか、はたまたクトリアから逃げて王国に潜んでいたのか。アルアジルもエリクサールも大嫌いな魔術師協会の本拠地でもある王国で邪術士稼業をしてたってのは、なかなか豪胆な奴ではある。まあ、それでテメーの奴隷に殺されてちゃ世話無いがな。
 
「何にせよ、あの首枷をしてれば危険な事もない。何度か見てるが、あの犯罪奴隷どもの中じゃむしろ一番の模範囚だ」
 その言葉からすれば、あの首枷もただの首枷でなく、何らかの術が施されてるんだろう。
 遠目に見ても、またその過去のプロフィールからしても強いだろうあのデカブツがこの辺に居たなら、クークの牧場襲撃も失敗していたかもしれねぇな。
 
 北へと去ってゆくそいつらの後ろ姿を眺めつつ、日差し除けを兼ねた休息を終えてから、俺たちは再びノルドバへと戻る。
 
 翌日は“髭小人の実験場”の方だ。
 フォルトナとしてもこちらが本命。坂道を登りつつ進むと山間のぐねぐねした山道からさらに奥まった谷間に、山肌から削りだしたような遺跡が見えて来る。
 思ってたよりも結構な僻地だ。そりゃなかなか人も寄り付かねぇだろうし、山賊野盗が根城にするのにもピッタリだ。
 “狂える半死人”の徘徊を用心してそろりそろりと近付くが、少なくとも遺跡の表側には“狂える半死人”の気配はない。
 とうとう正面の入り口が見える位置まで来たが、それでも影も形もありゃしねぇ。
 
「……ちぃ~っと、話が違うようだな」
 フォルトナへと確認するも、
「いやはや……、こんなはずは……。主どの、しばしお待ちを……」
 と畏まりながら例の灰砂の落とし子アッシュサンド・スポーンと言う使い魔を呼び出し偵察へ。砂漠の砂や火山島の火山灰を媒介とするこの使い魔は、それらの多い砂漠やなんかではときとして大竜巻にまで成長するくらいだが、逆にそれらの無い、少ない場所では弱くなる。クトリアは“残り火砂漠”ほど砂は多くないが、それでも乾いて砂っぽく、強大ではないがめちゃくちゃ弱体化もしていない。
 そこそこの砂を媒介として出現した灰砂の落とし子アッシュサンド・スポーンはゆらゆら揺れながらさらに奥へ進んで行く。
 しばらくして戻って来たそいつを拾い上げてフォルトナがニンマリ。陰鬱でいやらしい笑みを浮かべながら、
「地下階の小部屋には一人の魔力のある者が残っているそうですぞ」
 と告げる。
 
 途中、何体かの“半死人”らしき死体がある他はまるで障害もなく進んで行く。そして地下深くの小部屋に魔力のある者は確かに居たが、そいつの他はまるで姿もない。
 しかも、だ。
 
「こりゃ、どーゆープレイだかな」
 
 そう言う俺の前には内側から光り輝く身体の一人。
 顔のみならず、全身まるで焼け爛れたかのようだが、その皮膚の隙間隙間から青白い光が滲んでる。
 そいつが、分かり易く椅子に縛り付けられうなだれていた。
 
「何なんだコイツ?」
「……恐らくは半死人の一種でしょうが……光り輝いて見えるのは、魔力飽和状態だから……でしょうかね?」
 そう話す俺たちに、
 
「お……お前たち、は、クーク、の、手下、では……ない、のか?」
 と聞いてくる。
「そりゃコッチの質問だ」
「ふむ、拷問にでもかけましょうか? 我が殺しの芸術アートオブキルは拷問にも秀でております」
「なんでそうなるよ。しかも半死人は痛みとかもあんま感じねぇんだろ? 拷問の意味がねぇぜ」
「ふぅむ、それはしたり」
 
「わけの、分からぬ事ばかり……言うな。クークの、手下でない……の、なら、この戒めを解いてくれんか……?」
 
 言われた通り、ワケの分からん間抜けなやりとりを止めて、フォルトナが短剣で輝く半死人を縛っていた革紐を切って解放する。
 
「で、テメーは何者で、クークとはどんな関係だ?」
 へたり込むようにして椅子へと座り直す輝く半死人へと、2人して囲むようにしながら問いつめる。
 
「私は……ハシントと言う者だ。見ての通りにかつて邪術士によって魔人ディモニウム化実験の犠牲となり、半死人となった」
 “マトモな”半死人と会うのは“腐れ頭”以来だが、話しぶりからしてもかなり違う。当たり前っちゃ当たり前の話だ。実験のせいで正気を失ったのでもなきゃ、ほとんど元々の気質性格のままだからな。
 
「アンタ、いわゆる“狂える”半死人じゃねぇ、ってだけの話じゃなく、元々ココの出来は良さそうだな。しかもそれなりの上流階級か」
 ココ、てのはもちろん指差した頭の出来、の話。多くの魔人ディモニウム実験は奴隷を使って行われたって話だから、その辺やや違和感はある。
 
「……まあ、私は元々はザルコディナス三世の治世の頃には、王宮のお抱え魔導士の助手をしていたからな」
 と言う。
 
「へぇ……例えば王の影シャーイダールとかの、か?」
 
 何の気なしのかまかけだが、その言葉にビクリと反応する。
 
「い、いや、違う、わ、私はそのような……」
「ふむ、怪しい反応ですな。やはり拷問を……」
「お前、暇かよ」
「別に暇つぶしをしたくて言っているワケでは……」
 
「……で、本当のところどうなんだ?」
 睨みを効かせつつ改まってそう聞くと、
「お前たちがどのようにしてその名を知り、どう思っているかは分からぬが、とにかく私は王の影シャーイダールと深い関わりはない。ただ……」
「ただ?」
魔人ディモニウム実験の中で、本来失敗作であった半死人、そして“狂える”半死人の“有効活用”について研究をしようとしていた者が居て……私と……仲間の者達が、その実験台とされとしまったのだ」
 “有効活用”、ねぇ……。
 
「あの忌々しいデジモ・カナーリオは、本来は巨人族の隷属化を研究していた王の影シャーイダールの一派にいた。だがその中でも主流の研究には関われず、冷遇されていたことに不満をもち、その隷属化の研究を応用して“狂える”半死人となった奴隷達を、ひとつの軍隊として操れるようにすると提案し、その許可を得た。
 そしてその研究は一部成功し、正式な王の影シャーイダールとして取り立てられたのだ。
 私や仲間たちの犠牲の上で……な」
 
 聞いた事もねぇ名前を出されたが、まあそれはこの際どうでも良い。
 問題は、「“狂える”半死人を軍隊として支配する術」と言う話だ。
 
「その、成功した支配の術、ってのは何だ?」
動く死体アンデッドを操る“血晶髑髏の杖”の応用だ。
 高貴なる王族の髑髏に、吸血鬼から得た血晶玉の魔力溢れる血を使って作り上げる死霊術の秘宝……。
 その原料とする王族の髑髏を、特定の一族の長のものにした。
 そしてその長に連なる全ての者達を、同じく血晶玉の血により半死人へと変える。
 すると、“狂える”状態となってもなお、その一族の長への忠誠心が残る。だから……」
 
「その“血晶髑髏の杖”を持つ者の命令を聞くようになる……ってか?」
 
 半死人の軍勢を作る為だけに、特定の一族の長を殺して魔導具へと作り替え、さらには連なる者達全てを半死人へと生まれ変える……。
 この世界へと生まれ変わり、色んな糞みてぇなおぞましい話は見聞きしてきたが、これは中でもとびきりの糞だ。
 
「だが、その話はクークとどう関係するのだ?」
 俺の横で話を聞いていたフォルトナが、そう話を軌道修正する。
 
「クーク……あの者も私も同じ一族だ。
 ブランコ家は元々このノルドバ周辺の管理をしていた大貴族で、クークも私もそこに連なる一族の出だ。その中で同様に魔人ディモニウム実験台とされた中で、私は偶然にもあった高い魔力適性の為、“光りし者”たる高魔力の半死人となり、クークとペデルナの兄弟は、火属性の適正があったため半死人ではなく特殊な炎の魔力を持つ魔人ディモニウムとなった……。
 デジモの誤算は、“狂える”半死人を操れる“血晶髑髏”の力を十全に発揮させられるのが、やはり同じ血族の者だけだった、と言うところだ」
 
 つまり、それぞれこうなる前は同じ一族同士だったのか。
 
「いや、お前はザルコディナス三世の治世の頃に半死人となったのだろう? それではクーク達とは時代が合わない。奴らは邪術士専横時代に魔人ディモニウム化されたはずだ」
 そこにそう突っ込むのはやはりフォルトナ。それにはこのハシントと言う“光りし者”の半死人は、
「クークもペデルナも、私が半死人へと変えられたザルコディナス三世時代末期にはまだ赤子だった。
 赤子から実験台とされながらも、王の崩御後にそれを引き続き続けた邪術士により、最終的に魔人ディモニウム化させられたのだ」
 
 なんだか頭の中がこんがらがりそうな話だが、そう言われるとクーク達が「この世界で前世の記憶に目覚める前」の記憶を殆ど持ってないことにも納得がいく。
 俺たち“家畜小屋”育ちの邪術士の実験動物扱いだった獣人たち同様に、クークもまた、生まれた頃から“実験動物”扱いだったワケだ。
 
「……そうだとして、ここでお前たちは“偶然”出会った……と?」
「作り話と思うならそう思えばよい。だが事実だ。
 邪術士専横時代、最も魔力をもち、また正気を保っていた私は“狂える”半死人とさせられてしまった一族……ブランコ家とそこに連なる者達を“束ねる”役割を与えられた。もちろん、邪術士に逆らえぬような呪いの支配下に置かれてだ。
 彼らにとってこれは楽なやり方だった。私1人を支配していれば、残りの一族全てが“軍勢”となる。その中で、消耗品として使いつぶされ、一族の数は邪術士専横時代に減り続けた。
 だがティフツデイル王国の討伐軍が、幸いにも私に支配の術をかけていた邪術士を早いうちに殺してくれたため、その支配を逃れられた。
 しかし王国軍からすれば我らも討伐対象。地下遺跡を通って外部へ逃れ、様々な場所を転々としながら流浪の生活を送っていた。出来るだけ人々に見つからぬようにしながら……な」
 となると、コイツらも当時、俺たちと同じような経緯を辿って行動していたようだ。
 
「我々半死人は、飢えでも乾きでも死なない。ただ“狂える”状態となった者は、本来存在しない飢餓感に突き動かされ、特に人間を見ると襲い掛かり喰らわねばならない衝動に支配されてしまう。
 だが、私が彼らを制御出来ていた事で、それらの衝動とは無縁のまま居られた」
 それを受け、ややおどけた調子に、
「そうして、世にも珍しき“人を襲わぬ半死人の群れ”の完成……と言うワケですな?」
 と言うフォルトナ。
「……そういう事だ」
 
 そこに、別の半死人グループが入って来た……と、ハシントは続ける。
 “腐れ頭”をはじめ、確かに市街地に住む“イカれてない”半死人は居なくはない。だが当然それは少数派。半死人は見た目からして俺ら獣人以上に“化け物”で、見た目だけじゃ“イカれてる”かどうかは分かりゃしねぇ。だからよほど腕が立つか、擬態が上手いか口が上手いか……なんにせよ、偏見や迫害をはねのけられる、かいくぐれる何かを持ってなきゃ街中で生きていくのは厳しい。
 なので、“イカれてない”半死人だが、人の多く住む居留地に馴染めずはぐれている流浪の、または山野や遺跡に住む半死人は多いと言う。もちろん、下手すりゃ出会い頭に即殺される危険はあるが、普通の人間と違って飲食がなくても飢えず乾かず、また実際、“狂える”半死人以外の魔獣にも襲われにくい……餌として認識されにくいと言う利点もある。
 そういう半死人の別のグループもまた、次第に合流して来た。
 
 その結果、約100人越える半死人の混成グループ、“ブランコ団”が出来上がっていたと言う。
 
「……待てよ、そいつら今、どこに居る? まさかその“ブランコ団”は……」
「……ああ。クークに全て、乗っ取られた……」
 
 様々な能力を持つ魔人ディモニウムと、不死者アンデッドのごとき頑強タフネスな肉体を持つ半死人の“ブランコ団”の混成部隊……。
 それが、ボーマ城塞を狙うクークの今の兵力だ。
 
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