遠くて近きルナプレール ~転生獣人と復讐ロードと~

ヘボラヤーナ・キョリンスキー

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第二章 迷宮都市の救世主たち ~ドキ!? 転生者だらけの迷宮都市では、奴隷ハーレムも最強チート無双も何でもアリの大運動会!? ~

2-17.J.B.(10)FAIRYTALE.(妖精譚)

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 ボーマ城塞。
 かつてクトリア王朝華やかりし頃、王都北の山岳地帯に住む巨人族への守りとして建設された砦の一つ。
 “滅びの七日間”により王都が崩壊し、混乱と破壊の末に新たな都の支配者となった邪術士達に追われた貴族や有力者等が逃げ込み、内紛裏切り集合離反を繰り返しながら血で血を洗う勢力争いのあった場所。
 そして、遺跡にあった転送門により繋がった正統ティフツデイル王国軍により旧王都が解放された後は───人住まぬ亡霊さ迷う呪われた地と噂され、誰も寄り付かなくなった場所。
 
 ざっくりと言っちまうとそーゆー所らしい。
 俺は行ったことも見たこともないし、全部聞いただけの話なんで、まあ実際どうなのかは分からねェ。
 そういえば、と思い出すに、半死人ハーフデッドの情報屋“腐れ頭”に聞いた話の中にも、その辺りの噂はあったような気がする。
 
 そのボーマ城塞から来たというアデリアとアルヴァーロの二人は、俺の“シジュメルの翼”や、オッサンの使っていた魔法の篭手を修理改造したのが誰あろうオッサンその人であり、また奴らの乗っていたボートの直し方を教えた事から、「師匠」と呼びつきまとってきた。
 
「ほわーー、思ってたより人おるなー。
 何これ、何これ? 食えるん? 食ってええのん?」
「それ、お前が気持ち悪ィっつってた大ネズミ肉の串焼きだぞ。食うならあっちのオオトカゲ肉の串焼きにしとけ。あと金は持ってンのか?」
「…………」
「…………」
「二人揃って文無しかよ!?」
 クトリア旧商業地区の南門前市に戻り、トムヨイ達と獲物の分配整理を終え、“王の守護者”のヤレッドへと報告に貸し出し品の返却を済ませて……さてどうしたものか、というところ。
 ボートを直すにはそれなりの材料も道具も必要。イベンダーのオッサンに何とかしてもらいたい二人はそのままついては来たが、かと言ってすぐにどうにでもなる訳じゃない。
 最低でも一晩は待って貰わないとならない。
 
「……てかオッサン、マジで引き受けるのか?」
「ん? まあな。面白そうだ」
「ちょ、今ンなって、やっぱ無しー、とかやめてよー!?」
「はー……僕らかて本当は今日中に戻らないと拙いんやからねぇ……」
 当たり前に引き受けると言うオッサンに、口々に勝手な都合を喚くアデリアとアルヴァーロ。
 
「あのな。お前らの事情なんか知ったこっちゃねえんだよ、こちとらは。
 それにボートを直すだけならまだ良いが、何でその後お前らのとこまでついてかなきゃならねェのよ?」
 二人がイベンダーにした“お願い”というのは二つ。
 一つは壊れたボートの修理。
 もう一つはボーマ城塞付近で起きている異変の調査と解決。
 
 ボートの修理には魔晶石が必要だ。
 あいつらが乗ってたのはただのボートではなく、イベンダー曰わく「お前の“シジュメルの翼”に似てるもの」らしい。
 原理を聞いた感じだと、湿地帯とかでよく使われるエアボートっぽい。船底に付けられたスクリューで進むのではなく、後部に付けられた巨大なプロペラで風を吹き出して進むヤツだ。
 俺の“シジュメルの翼”と似ている、というのは、その風を吹き出す仕組みというのが巨大なプロペラではなく風魔法の術式を組み込んだ魔晶石によるものだということ。で、それが壊れてしまったのを直して欲しいンだと。
 
 もう一つの方はというと、さらに厄介。
 そもそもコイツ等の説明がどこまで信用出来るかだッて怪しいもんだ。
 
「ま、何にせよ明日だな。
 俺達ゃアジトに戻って準備をする。
 お前らは明日朝、飯の後辺りにでも此処で待ち合わせだな」
 イベンダーにそう言われて、再びアデリアがきょとんとした顔。
「へ? ちょっ、アタシ等どこで寝ればええんよ?」
「君らの所に泊めてくれないの?」
「知るかよ。どっか人の居ない廃屋に行くか、『牛追い酒場』の二階でも借りろ」
「ええー、そんなお金持ってへんて! お腹も空いてるしー!」
「岩蟹喰わせてやったろうが」
「お昼やんそれ! 夕飯これから! ポンポンもうぐーぐーなっとるもん!」
 
 全くグダグダと煩い奴らだ。
 結局、俺達のアジトのすぐ近くのところで勝手に寝かせておくことにした。
 地下だから屋根もあるし、「シャーイダールのアジトの前」で、悪さをしようなんて奴は滅多にいないので安全と言えば安全。まあそもそもシャーイダールのアジトの近くに不用意に来る奴自体めったに居ないんだけどもな。
 勿論、アジトの中に入れるなんてのは有り得ない選択肢。
 何かの偶然とかで「シャーイダールの仮面を被ったコボルト」なんてモノを見られでもしたら一大事だ。それだけは絶対に拙い。
 
 ◆ ◇ ◆ 
 
 翌日。
 アジト前の脇にある壊れた小部屋でグースカ寝てる姉弟をたたき起こすと、腹減ったの何のとやかましいもんだから、昨日の残りの大ネズミスープをくれてやる。
「うーわ、臭ッ!? 何これ、ホンマ臭ッ!!」
「何かもう、どろどろのヘドロ食べてるみたい……」
 ……そこまで言うか。
 いや、俺も何だかんだ言ってその臭い飯に慣れすぎてたのかもしれん。慣れってすげえ。
 
 ドワーフ遺跡を住居にする利点の一つは、何気に上下水道が生きてる場所が少なくないこと。
 まあ特に下水道は、王朝期のクトリア自体が、元々のドワーフ遺跡の下水道を再利用して使っていたらしい。
 俺たちは当然クトリア地下のドワーフ遺跡の中では最も生活環境の整った区画を使っている。
 ま、元々は衛兵か何かの詰め所だったっぽい場所で、オッサンやピクシーを閉じこめていた部屋に、外側からの落とし格子があったのはその為っぽい。つまり牢があった場所だ。
 二人にはアジトの外の区画でそれら上下水道等の使える場所を教えて身支度を整えさせてから、南門前市場へと向かう。
 
 今回はニキ、アダンの他に、ブルと数名を伴っていた。
 トムヨイ達との取引が残っていたからだ。
 手に入れた獲物の半分は彼らの取り分とする、というのは昨日の取り決めに入っていた。
 その上で別途手数料を払うことで、処理加工と、その中の一部を換金することも含めて預けておいてある。
 ブル達が来ているのは、それらの取り引きとブツの引き取りの為。
「何勝手に取引条件決めてんだよ、ッたく……!」
 と愚痴られるが……まあねえ。俺は悪くねーぞー。オッサンだぞー。
 
 南門前市場に行くと、トムヨイ達が既に来ていた。
 ま、細かいやり取りはブルに丸投げ。というより、ここで俺が口を挟むとブルを余計に怒らせそうだ。
 そしてニキ、トムヨイ等と昨日の打ち合わせの再確認をしてから、俺とオッサンはアデリア達と共にまたボートの所にまで移動する。
 そこに行くのが俺とオッサンの二人だけなのは、この二人ならいざという時飛んで逃げられるからだ。文字通りにな。
 ニキ達にはバックアップとして、北の狩猟小屋近辺での待機を頼んでいる。これもちょっとした保険みたいなもん。
 
 
 
「まー、特にコレだな。
 魔晶石の“濁り”がひどいと安定性も低くなる。
 この先頭の奴が特に濁ってるから、舟全体を覆う空気の防護膜がきちんと機能してない。
 だから鰐男の衝撃波で簡単によれてコントロールを失った」
 
 結構強めな日差しの中数時間は歩いて、再びやってきた例のボートが乗り上げた河の中州へと来て、改めて状態を見たオッサンが言う。
 
 魔晶石は、主に 魔力溜まりマナプール等に蓄積した魔力の一部が結晶化して出来るもの、だという。
 魔導具にはほぼ必ずといって良いほど使われていて、例えば太古から未だに動き続けている遺跡のドワーベン・ガーディアンの核もそうだ。
 なので俺達シャーイダールのアジトには、常に幾つか魔晶石のストックが備蓄してある。
 今回はその中から純度の高い奴を選んで持ってきて、このボートのそれと取り替えようというのだ。
 
 濁り、というのは何か……というと、イマイチ俺にも分かり難いンだが、結晶の中の不純物のよーなものらしい。
 何が不純物となるのか? というと……
「イチバーン分かり易いのは、オンネンよ、オンネン!」
 と、俺が腰に巻いてるポーチから顔を出しながら言うのは、例のピクシーのピート。ちなみにこのポーチには朝にもらっておいた蟹肉の薫製が入っているのだが、既に半分くらいコイツに食われてた。
 
「死んだり殺されたりとかしてさー。クツウとかキョウフとかゾウオとか?
 とにかくその手の感情の残りが溜まってる所は魔力溜まりマナプールをオセンしてくのよ!」
動く死体アンデッドとかが生まれやすい場所、と同じことか」
「そーよ! そんでアンデッドが生まれて、いろんな生き物を殺して、さらにアンデッドもオセンも増えるの!
 バイバイゲームのバイバインよ!」
 卵が先か鶏が先か、みてーな話だな。
「あと、一度術士の支配下に入って利用された後に、中途半端にホーチされてると、ゆ~っくりジョジョにオセンされたりもするわよ。
 フフン、一度手をつけておいてホーチとか、チョー許されないのよ! 赦されざる者よ!」
「何の話だよ!」
 
 中洲に放置して居たエアボートをこちらの岸にまで移動させてから、二人組とともに修理をしているオッサンを岸辺から眺めつつ、俺はピクシーのピートから魔法の講義を受けている。
 
 いや、まあそれは良いよ。それは。
 問題は、「何でお前、ずっと残ってンの?」というやつだ。
 そもそもコイツは、地下遺跡の中で倒れているのを見つけられ連れてこられた……と言う話だ。
 ピクシーの羽について居る鱗粉、つまり「魔法の粉」に回復薬効果があり、また貴重な錬金術の素材でもあるということから、シャーイダールは特製の籠に閉じこめて利用することにした。
 捕らえられた当初は、自分はナントカと言う高名な魔術師の使い魔で重大な指命を帯びているのだ、なーんてなことを言ってやんや騒がしかった癖に、いざ籠から出られたら逃げ出す素振りも見せやしねえ。
 で、それを聞いてみたところ何だかごにょごにょと言葉を濁す。
「……迷子か」
「はァ!? 何々? 何言ってくれちゃってんの?
 誰が? 誰が迷子? チョーありえないンですけど?」
 
 ……迷子かよ。迷子になる使い魔って何だよ。いやまあ、使い魔ってもの自体俺にゃよく分かンねえけどよ。
 
「あと、もしかしてその使命だか任務だかの内容も忘れてる……とかじゃねーの?」
「はァ~~~!!?? チョーーーありえなーーーい!!! 何それ、そんな使い魔居るワケないじゃん!?
 ぜーんぜん、そんなこと、ア・リ・エ・マ・セ・ン!!!!」
 ……確定だな。
 
「ま、行く宛がねえってんなら、俺らとしちゃおまえに居てもらう方が助かるけどな。
 他の連中に連れてかれたくねーから、あまり知られたかねェけど」
 そう言うと急に得意気になり、
「ふっふーん、そーよそーよ。チョー愛らしいピートちゃんは、愛らしいだけでなくチョーーー有能なのよ?
 チリチリポン助もよーやく分かってきたじゃない! チリポンがそんなアタシを独り占めしたくなるのも、ムリカラヌ? イタシカタナシ? なことよね?」
 何だよその、チリポンってのはよ。
 
 で、言動があんなだからにわかには信じ難いが、俺達がずっと恐ろしい邪術士のシャーイダールだと思っていたナップルとかいうコボルトが、奴自身の言うとおりに「賢いコボルト」であるというのは間違い無いらしく、俺達の中で錬金術を使い上質の魔法薬を作れるのは事実としてあいつだけだ。
 厳密には初歩的で効果の弱いモノなら俺やオッサンも作れなくはない。いやまあオッサンの方が俺よりは上か。俺のは本当に見よう見まね。
 ただ、地下遺跡の探索をする上での実用性や売りに出す商品としての価値で言えば、仮面を被ったナップルにゃとうてい適わない。
 何気にコボルトのナップルとピクシーのピートの組み合わせが、俺達にとって貴重なバックアップ戦力になっている。
 ……まあ、そういうとピートの方は「こんーな愛らしくて素晴らしいピクシーと、あんなぬめぬめぼんやりなコボルトを一緒にするなんて、チョーーー信じられないんですけど!?」とか喧しいので言わないが、言動のアホさ加減で言えばどっこいどっこいの同レベルだ。
 
 それで今回、このピクシーのピートが俺らに同行しているのは何故かというと、さっきから話になっている“濁り”とかに関係している。
 オッサン曰わく、こいつの力が必要になるかもしれない、という話だ。
 理屈としても実感としても、魔法の粉なり含めたコイツの能力が有益なのは分かってはいるンだが、実際にこの喧しいピクシーを目の前にしていると、「こいつの力が必要になる」というのがまーーーったくピンとこない。てーか頼りたくない。
 そう思いつつちらりと視線を向けると、
「あらー、そんなに熱い視線を向けられても? ピートちゃんは皆のアイドルだし? 独り占めには出来ないのよー?」
 ……やっぱ頼りたくない。
 
「おーい、JB! 我等が妖精のお姫様を連れて来てくれ」
 と、言ってるそばからお呼びがかかる。
 オッサンはそのピクシーの扱いのコツを既に掴んでる。
 持ち上げすぎれば増長するが、ないがしろにするとすぐ拗ねるので、要所に軽くおだてる言葉を入れ込むようにしてるらしい。
 「向こうの世界」の前世のことも、「こちらの世界」での「一度死にかける前」のことも含め、かなり胡散臭く得体の知れないところの多いオッサンだが、こういう所では妙に人あしらいが巧い。商人というより詐欺師だったンじゃねェか?
 
 ピクシーのピートを伴いボートまで行くと、ここで初めてその姿を見たアデリアとアルヴァーロがまた喧しく騒ぎだす。
「うっそ、うっそ!? ホンモノ!? ホンマモンの妖精ちゃんやー!?
 可愛い~~~!!! 思てたよりはるかに可愛い~~!!!」
「はーーー……。シャーイダールってのは本当に凄いんだな……。
 ピクシーを使い魔に出来るなんて……」
 
「ンフフ~~ン。
 どっかのオバカポン達と違って、このピートちゃんの愛らしさと素晴らしさをちゃ~んと分かってるなんて、アンタ達中々見所あるじゃあないの~~~」
 ご満悦に胸を反らすチビ妖精。こりゃ、ちょっと調子に乗り始める流れだぞ。
「えーなー、えーなー、超羨ましーわー。
 こんなんおったら、もう毎日一緒にお風呂入って、身体の隅々までキレイキレイして、一緒にお休みして、可愛い服とか沢山着せて、毎日可愛がるのに……」
 アデリアの方がだんだんおかしなテンションになり始める。
「せや、ちっちゃい蜂蜜のプール作って入って貰うとかええかも~。
 蜂蜜の甘ァ~い匂いと妖精ちゃんの可愛らしい姿とで、もう見てるだけでお腹いっぱいになりそう……」
 とうていついてけないその発想に、俺は元より横にいたアルヴァーロに、当のピートまで引きつった顔。
 いや、何を妄想してるのかアデリアだけはうっとりと陶然とした表情なんだが、大丈夫かコイツ?
 
「おいおい、それより早くこっちに来てくれよ」
 呼ばれてこれ幸いにと、ピートと俺はオッサンの居るボート前方へ。
「ピート、今出来る分だけでいいから、この魔晶石の“濁り”を浄化してくれんか?」
 指し示されたのはこのボートの先端に設置された船首像。
 まるで大型の外洋船みたいで大袈裟だが、隼の頭部を模したそれの後頭部に埋め込まれた基盤と魔晶石が、曰わくボート全体を風の保護膜で覆い、安定性を支えている部分らしい。
「とりあえずこれの“濁り”さえ減らせれば、まあ走れるようになるだろ。
 後部の奴は“濁り”もそれほどじゃねえから後回しでも良い。
 どっちにせよここじゃあ全部直すってワケにゃいかねえしな」
 あくまで間に合わせ、ということらしい。
 
「はいは~い。ピートちゃんにおっまかせ~~~」
 妙にノリ気のチビ妖精。多分、“魔法の粉”以外で自分の力が求められるのが嬉しいらしい。なんてチョロい奴だ。
 しかしそんなお軽いノリから、急に小さく歌を歌い始め、次第に声量をあげながら空中でひらひらと踊り出すと、空気は一変し始める。
 歌の内容はよく分からない。少なくとも帝国語では無いだろう。
 神官や巫女の歌う神聖歌にも似た雰囲気もあるが、それよりはもっと素朴で木訥としたもの。前の世界の知識で言えばアイルランドやスコットランドの民謡とかに似ている気がした。
 
 羽根の鱗粉……つまりは魔法の粉がゆるやかに軌跡を描き舞い上がる。
 ひらりゆらり、魔晶石を中心に円を描くようにしながらくるくると回るピクシーの姿は、次第に内側から光り輝き、その輝きが柔らかく辺りを包み込む。
 気がつけば、俺もオッサンも、そして始終喧しく騒ぐばかりのあの二人の姉弟も、その輪の中で静かにそれを見続けていた。
 きらめく光のカーテンがさらさらと川のように流れ、幾重にも折り重なり螺旋となって空へと昇っていく。
 そして最後に、スタンとピートが脚をそろえて歌と踊りを終わらせると、その光の帯がサァーっと空へと飛び去って弾け飛んだ。
 
 呆然と。まさに呆然と上を見て、馬鹿みたいに口を開けていたと思う。
 それこそ時間感覚が麻痺したように、ただ見上げてその光の尾を見つめていた。昼の晴天の空なのに、何故かくっきりと見えるその光を。
 
「ンッン~~?」
 そのわざとらしい咳払いに意識が引き戻される。
 戻った意識が最初に認識したのは、まさに得意満面に胸を反らすピートの姿。
 そして耳には誰よりも先に騒ぎだすアデリアの声。
「すぅっっっっご! すぅぅぅっっっっっごいわ! 何々、何なん今の?
 アレ? これがあの、 妖精の輪舞フェアリー・ロンドってヤツなん!?
 うれしーーー! 超うれしーーー! ホンモノやん! ホンモノ見れた~~~! 超うれしーーー!!!」
 
 どちらも、余韻を台無しにしてくれる。
 アルヴァーロの方は姉より落ち着いている、というか、まだ感覚が戻って来ていないのか呆然としているし、当のピクシーは調子に乗ってひらひらと辺りを飛び回りながら、毎度のごとくに「むふふー、そーよそーよ、この愛らしく素晴らしいピートちゃんを存分に崇めウヤマウと良いのよーーーん」等と騒いでる。
 で、何だか気が抜けてアホらしくなった俺がふと船首像の後頭部を見ると、確かに先程見たときの魔晶石の“濁り”は幾分抜けて、日の光にきらきらと輝いているようにも見える。
 これが、ピクシーの浄化の力なのか、と、そこは正直に感心。
 ただ、本人を見ると、その気持ちがスーンと萎えてしまう。
 
「おっし、まあこれくらいなら大丈夫だろうよ」
 と、俺と同じく船首像の魔晶石の状態を確認したオッサンは、操舵室へ向かい舵を手にしてそのままエアボートを起動。
 急に魔法の空気膜に覆われたかと思うと、一気に加速して川面を走り出した。
 その動きを見ていた俺は危ういところで船縁を掴んでて踏みとどまるが、アデリア達はそうもいかずにゴロンゴロンと転がる。
「アホーーーー! 動かす前にちゃんと知らせーーーー!!!」
「おう、スマンスマン。想像以上に浄化されたもんで、加速速度にまで影響出ちまったわ」
 
 気を取り直して河を北上し、途中鰐男や岩蟹を数体はね飛ばしつつも、昼前には目的の場所に着く。
 血にまみれた経緯と亡霊の住まう地、ボーマ城塞へと。
 
 
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