遠くて近きルナプレール ~転生獣人と復讐ロードと~

ヘボラヤーナ・キョリンスキー

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第二章 迷宮都市の救世主たち ~ドキ!? 転生者だらけの迷宮都市では、奴隷ハーレムも最強チート無双も何でもアリの大運動会!? ~

2-10.コボルトのナップル

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 ナップルはそのとき、物凄く慌ててたのね。
 何故って、いつも外さないで居たお面が外れていたから。
 あのお面は、すっごく凄いの。
 あれを被っていると、ナップルはすごく頭がスッキリして、錬金術とかも上手になるし、周りのおっきい奴らとかがナップルのことをすごく怖がって、平伏してくれる。
 だからナップルは、ずっとずぅーっと、あのお面を着けてたの。
 
 でも今、哀れなナップルはお面を着けてないの。
 だから、物凄く慌ててるの。
 ナップルはとても賢いコボルトなのね。けど、お面をしているときは、もっともっと賢いの。
 それに……ナップルはお面をしているときは、ナップルではないの。ナップルはナップルじゃなくて、シャーイダールになってるの。
 
 ◆ ◇ ◆
 
「何だ、そいつは……?」
 少し離れたところに居るちっちゃいのがそう言ったの。
 それはブルとかいう呼ばれ方をしている、ナップルより少し小さいくらいの奴で、お金のやりとりが巧い奴なのね。
 ナップルはとても頭の良いコボルトだけど、コボルトはたいてい、お金のやりとりは巧くないの。
 お金は沢山欲しいけど、それをモノに代えて、モノをお金に代えて、とかしていると、お金が増えたり減ったりする、というのがよく分からないの。
 だからナップル……じゃなくて、シャーイダールは、そういうよく分からないことはこのブルとかいう奴にやらせていたのね。
 
犬獣人リカート……か?」
 肌が黒くて頭の毛がチリチリしている奴が、ナップルのことを覗き込んで言うの。
 全然違うもの。このチリチリはあんまり頭が良くないけど、とてもシャーイダールを怖がってるから、便利に使ってあげてたのね。
 そしてやっぱり頭が良くないから、ナップルのことを犬獣人リカートと間違えてるのね。おバカなのね、チリチリは。
 
「バカねー、違うわよ、チリチリ!
 これは、コボルト!
 のめーっ、とした鼻面で、むめーっとしたぶよぶよの肌してるでしょ?
 コボルトは地下の穴ぐらに住んでて、コソコソ隠れて盗みを働くセコい奴らよ! セコセコのセコビッチなのよ!」
 
 むむ、籠に閉じ込めてたピクシーが、凄く失礼なことを言うの!
 
「ナップルは確かにコボルトだけど、盗みなんてしないの!
 このピクシーはとっても失礼でおバカなのね!」
 とうとうナップルは、我慢できなくてそう言ってやったの。
「ナップルはとても賢いコボルトなの! おバカなピクシーなんか比べものにならないの!
 だってナップルは、ずっとシャーイダールの“相棒”をしてたの!
 おバカなピクシーには絶対に出来ないことなの!」
 ふふん、みんな目を丸くして驚いてるの。ナップルは凄いんだからね!
 
 少しの間、こいつらはしんとしてたのね。驚いて声も出ないでいたの。
 だからナップルは、落ちているお面を手にとって、シャーイダールの“相棒”としてきちんとこいつらを指揮してやらないといけないなー、と思ったの。
 けど、チリチリの後ろに居たひげおとこがナップルより先にお面を拾い上げてしまったの。
「あーん! 返して! それはナップルのお面なの!
 ナップルはそれを被らないと、シャーイダールの“相棒”になれないの!
 シャーイダールが居ないと、みんな困るでしょ?
 みんなの為にも、ナップルはそのお面を被る必要があるの!」
 
 ナップルはぴょんぴょん飛び跳ねてお面を取り返そうとするけど、チリチリがそれを邪魔して、お面に全然届かないの。
 ひげおとこは「ふーーんむ」とか唸りながら、シャーイダールのお面を裏にしたり表にしたりしながら観ていて、最後にそれを勝手に被ったの!
 
 ナップルは「だめ!」と大声で言ったの。
 でも誰も聞いてくれないの。まるで昔のコボルトの洞窟に居たときのようで、ナップルは凄く嫌な気持ちになるの。
 
「おおわっ!?」
 ひげおとこは突然そう叫んで、お面を慌てて外したの。
「おい、オッサン、何だ?」
 チリチリがひげおとこに聞いてるの。ふふん、おバカなのね、チリチリもひげおとこも。
 きっとひげおとこはシャーイダールに怒られてるの。シャーイダールは怒りんぼだからね。ナップルだってよく怒られてたもの。
 
「……いやー、コイツはヤバい」
「何が?」
「んー……こりゃあちょっとしたのろいの仮面だわ」
 そうだよ! あのお面は、スッゴく強いまじないのお面なの!
 
「はァ? 呪いィ!?」
「うむ……。
 意図的に作り出された呪い……じゃあねえな。
 多分、元々これを使って居たシャーイダールの念が強く籠もってしまい、結果的にそうなっちまったンだろう……」
「マジか。
 リアルに呪いの仮面じゃねェかよ」
 そう言いながら、チリチリと他の奴らは、ナップルを見つめてくるの。
 ナップル、そんなに注目されるとちょっと照れてしまうのね。
 
「こいつを被ると、シャーイダールの残留思念みてーなもんに意識を少し持ってかれるようだな。
 その分、錬金術や闇魔法の能力が高まるが……使い続けてると……多分、いずれその残留思念に全てが乗っ取られる」
「……ドーピングと引き替えに、残りの人生を棄てるワケだ」
「お、おい、ちょっとよく分からんぞ。どーゆー事だ?」
「んー……。
 コレを被ってると頭は良くなるがシャーイダールにとりつかれる。
 ずーっと被り続けてると、シャーイダール本人になっちまう」
『……ツマリ、コイツは……?』
 おっきな犬頭がナップルを指さすと、ひげおとこがナップルを見てこう言うの。
「本物のシャーイダールじゃあない」
 
 何だか変な話をしているの。
 シャーイダールはシャーイダールだし、ナップルはナップルだよ?
 ナップルがシャーイダールなわけないのにね。本当、みんなおバカだね。
 
「くそ、じゃあアタシら全員、コイツに騙されてたッてことか!?」
 ブルとか呼ばれてるのが、何故か怒ってナップルにつかみかかるの。
 ナップルは驚いて、「キャン!」って悲鳴を上げちゃった。へへ、ちょっと恥ずかしいね。
 大きい犬頭の奴と、チリチリが二人してそのブルとか言うのを止めて、ナップルは一安心。
「ナップルは何も騙して無いよ! それよりお面を早く返すの!」
 ああ、やっぱりお面が無いと、誰も言うこと聞いてくれないの。
 
「いや、そいつの言ってる通りだ。
 別にそいつはシャーイダールのふりをして俺たちを騙してたワケじゃなかろう。
 まあむしろ……仮面に操られていた、という方が適切だろうな」
 ひけおとこがそんなことを言うの。
 ナップルの言うことを認めてるようだけど、でもちょっと間違ってるの。
「違うの! ナップルは操られてなんかないの!
 ナップルはシャーイダールの“相棒”なんだからね!」
 えへん、と威張ってやったのに、こいつらは何かむにゃむにゃした変な顔をするばかりなの。
 
 ◆ ◇ ◆
 
 しばらくの間、ナップルはひげおとこの部屋で居ることになったの。
 ナップルはシャーイダールと一緒じゃないから、ちょっとばかしは不安だったの。
 周りに居るのは、昔ナップルが居た洞窟のコボルト達じゃないから、ナップルのことを貧弱なへろへろ坊や、なんて言っていじめてきたりはしないかもしれない。
 けど、ナップルはシャーイダールが居ない状態で他の手下達と接したことが殆ど無いから、奴らがナップルに酷いことをするかもしれないと思って居たの。
 けど、小さな羽虫はいつもうるさいし、チリチリは何だか態度が悪いしで、時々嫌な気持ちにもなるけれど、全体としてはそんなにひどいことも無かったの。
 特にひげおとこはナップルの話を色々と聞きたがるから、ナップルはたくさんシャーイダールのことや昔のことを話してあげたの。
 
 それから、ひげおとことチリチリと、ブルとかいうちびとうるさい羽虫に、ひょろひょろのっぽの犬頭の奴とが、改めて集まってきてナップルにお面を渡して来たの。
 それは黒くて怖くて格好良い、シャーイダールのお面……に、良く似たお面だったの。
 ナップルはひげおとこたちがなんでそんなものを持ってきたのか分からなくて、そしてやっぱりナップルにあのステキなシャーイダールのお面を返す気がないんだと思って、むぅっと睨み付けてやったの。
「これはニセモノ! シャーイダールのお面じゃないの!」
 そう言うと、こいつらは驚いたみたいな顔してくるの。ふふん、おバカなのね。ナップルは賢いコボルトだから、そんなものには騙されないもの!

「さすがだな、ナップル。
 シャーイダールの言った通り、この大事な役はお前にしか任せられない」
 ひげおとこが突然、そんなことを言うの。
 ナップルがむむう? と顔をしかめると、ひげおとこは真面目くさった顔でこう言うの。
「シャーイダールは理由があって、暫く此処を離れなきゃいけないことになってな。
 だが留守の間が心配だろ?
 それでシャーイダールはこの偽の仮面を用意させたんだ。
 つまり、シャーイダールが居ない間、その代役を出来る唯一の相手に被って貰うためにな」
 
 ナップルは驚いて、そしてちょっと悲しくなったの。
 シャーイダールがナップルを置いて居なくなる事も、そんな大事なことを、“相棒”であるナップルを差し置いて、こんなひげおとこに話していることも。
 少しうつむいてうじうじとしていると、チリチリの奴がその偽のお面を乱暴に手にとって、ナップルの顔に押し付けてこう言ったの。
「あーー、もう、面倒くせえな!
 良いか? よーーーーするに、お前は今まで通り……じゃねえか?
 いや、何にせよ、この偽の仮面を被って、シャーイダールのふりをしてりゃ良いんだよ!」
 ナップルは首を傾げるの。ナップルは今までシャーイダールのふり、なんてしたことないもの。
 
「あー、つまりな。
 シャーイダールが、“相棒”であるナップルこそ、シャーイダールの代役を務めるのに相応しい、と判断したんだよ」
 
 ひげおとこがそう言ったので、しばらくしてからだんだん意味が分かって来たの。
 ナップルは少し……ウーン、けっこう、だいぶ? 喜んで、こう聞いたの。
 
「それじゃあナップルは、シャーイダールと居るときみたいに、たくさんオオネズミのスープを食べても良いの?」
 
 これはとっても大切なことだよ。オオネズミのスープはすごくおいしいからね!
 
 それを聞いたチリチリは、何かすごーく嫌そうな顔をしてたのね。ふふん、おまえにはちょっとしかあげないよ?
 新しいお面を被ると、前ほどではないけど、頭がすっきりしてきたの。
 でも、やっぱりシャーイダールの声は聞こえてこない。
 ナップルは、ちょっと寂しいなって、そう思ったの。
 
 
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