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第三章 クラス丸ごと異世界転生!? 追放された野獣が進む、復讐の道は怒りのデスロード!
3-227.クトリア議会議長、レイフィアス・ケラー(82)「───暗転」
しおりを挟む『あー、反対側の方、ちょっと、増えてます、はい。後方からさらに……五体ほど、こちらの騒ぎに誘われてるみたいで……』
遠くからの監視役、ルーズ氏と視力に優れた狩人ヘリ・ムト氏からの報告は、ちょっとばかし良くない内容。
「撤退しましょう。幸い、前方の寄生岩蟹を倒せたので、退路は確保出来ました。カリーナさん、進行方向に妖を飛ばして索敵を」
「あいりょー、飛ばすよ~!」
「隊列はミカさんを中心に、慌てず来た道を戻ります」
「はぁい」
「殿、白骨兵一班を残して時間稼ぎをしますが、ティーシェさんはカリーナさんと前方を警戒、後方はエヴリンド……いけますよね?」
「あいよ!」
「……問題ない」
再び、大蜘蛛アラリンの召喚を解除して、水馬ケルッピさんを召喚して騎乗。
慌てず騒がず悶えずに、押さない引かない慌てない。落ち着いた速度で転進後退。
ティーシェさんが矢の先に例の腐肉袋を括り付けて放ち、追ってきてた岩蟹達の注意を剃らす。数体がそちらに気を取られるが、まだ追って来るのも居る。
『進行方向、半アクト(約15メートル程)右手側、別の岩蟹の群れが四体!』
おおっと、またですかい。
「あの角、左手側に曲がるよ!」
妖での斥候をしているカリーナさんがそう先導する。まだ距離的にも余裕はある。先手先手で移動すれば、挟み撃ちになることも無いだろう。
にしても、ここはなかなか、想像以上に厄介な場所だ。浄化、復興と言う道筋にしても、かなりの人員に手間、時間がとられそうだ。
曲がって進むのはかなり壊れた建物の隙間の路地。こういう場所だと敵やら魔物やらのみならず、建物の瓦礫残骸自体も邪魔になる。
今まで以上に慎重に進むが、その瓦礫残骸の下、空間から、突然悲鳴のような呻きのような声が聞こえて来る。
ぐらりと動く幾つかの瓦礫。不穏な気配と重なる呻きは、そこから這い出てくる動く死体……いや、
「狂える半死人です!」
普段ののんびりした調子と打って変わり、鋭く叫ぶのは“黎明の使徒”の女司祭ミカさん。
半死人……かつてザルコディナス三世の魔人人体実験により生まれた、不死者と良く似た特性を与えられた者達。その中で、特に理性と知性を失わさせられてしまい、あたかもB級ホラー映画のゾンビのような人を襲い貪り喰らう者へと変えられてしまった者達のことを、“狂える半死人”と呼ぶ。
このクトリア近郊にはまだそういった哀れな犠牲者たちが各所に隠れ潜み、ときおり旅人や行商人、狩人たちを襲っては問題を起こしている。
このレフレクトルにも彼らが隠れ潜んでいるとは話に聞いている。僕自身は直接相対するのは初めてながら、ガンボンからもJBからも、彼らの危険性はよく聞いている。
猛烈な勢いで動き出したかと思うと、周囲全方向から襲い掛かって来る不死者たち。
素早く祈りの言葉を唱えて、ミカさんは【聖域の円陣】を発動させる。【聖なる結界】よりも高度な光属性魔法だが、単純な上位互換と言うよりも、複数の魔法の効果を重層的に発動させる複合魔法で、対動く死体の浄化、結界の効果に、わずかずつながら味方への治癒、回復させる効果など、とにかくこういう風に動く死体や半死人などに囲まれた時に必要な補助効果が全て補える。
ただ、残念なことに僕とエヴリンドには、やや効果が薄い。そこは闇属性と光属性の相克関係なので仕方がない。
円陣の中に入り込んだ狂える半死人達は焼けるようなダメージを受けつつも、それでも突撃を続ける。
僕の白骨兵は円陣の範囲には入れない。入れば多分、ソッコーで灰になる。
だから外側の半死人を牽制しつつ足止めをするしかないが、あちらの勢いにはまるで歯が立たずだ。
ティーシェさんは狩人の山刀を振るい、ミレイラさんは巧みに二股の剣で突き続ける。
エヴリンドはこれまたダークエルフの山刀に炎の加護を与えて、即席の火炎刀へ。狂える半死人には効き目のある補助効果だ。
それぞれにそれぞれの技で対応するが、円陣の中には僕を含め近接戦闘に不向きなデジリーさんにカリーナさん、そして術の発動中には歩く以外他の行動がほとんど出来ないミカさんが居る。
まだ数的にはきっちり対応出来ては居るが、円陣の外の白骨兵がやられれば圧倒的に不利になる。
半ば乱戦状態になった円陣の中、その間合いをすり抜けた“狂える半死人”は、汚い乱杭歯の口を大きく開けてこちらへ飛びかかってくる。
それを下から突き上げるようにして弾き飛ばすのは、先ほどカリーナさんが方術で呼び出していた、無数の小さな木の符で出来た盾兵。
あの盾兵、普段は小さい体格だが、戦いになると蛇腹みたいに伸びて自在に動く。力はあまりないようだけど、敵を攪乱し続けるのにはピッタリだ。どちらかというと、守りの為の符呪か。
それらも含め、今のところはなんとか狂える半死人の攻撃をいなし、撃退出来てはいる。
けど、生者にしか襲い掛からないと言う狂える半死人は、周りを守る白骨兵には見向きもしない。カリーナの盾符呪兵にも同様だ。
狂える半死人は、その隙間をすり抜けるようにして、僕ら“生者”へと襲い掛かる。
「場所が悪い! この足場の悪さは奴らに利がある!」
エヴリンドの言う通り、この場所で囲まれ続けるのはかなり不利だ。
「前方、道を開きます!」
僕は路の先へとケルッピさんの【水の奔流】を放って、進路上の狂える半死人を打ち倒し押し流す。
呼び名の通りに“狂ったように”突撃を繰り返す半死人達は、【水の奔流】に対して避けるとか身構えて耐えるとかの行動はしない。だからモロに直撃を食らって見事に流される。
包囲の一部が解け、進路が出来る。焦らず、【聖域の円陣】の範囲から出ないよう移動。素早く勢いのある半死人だが、こちらにはその天敵とも言える光属性魔法の使い手が居て、また岩蟹と違って硬さ、装甲があるワケでもないので攻撃自体は通り易い。
痛みも恐れもなく耐久力は高いが、装甲の硬さでなかなか攻撃も通らず、戦える者が限定されていた岩蟹戦よりはそこが救いだ。
横合いからの攻撃をかわしながら、蹴りで態勢を崩して山刀の一撃を見舞うティーシェさんに、気配を消しつつ背後から二股の剣で貫くミレイラさん。二人ともなかなかの腕前に対応力。
「次を……右ね。そうしたら回り込んで最初の門のところの大通りに出るから」
カリーナさんの妖ナビで進路確認。
その進行予定の右手側へ、再びケルッピさんの【水の奔流】で進路を確保。倒れている“狂える半死人”数体に、ティーシェさん、ミレイラさんが脇をすり抜けつつ止めを刺したり、脚を斬って機動力を奪う。
ある程度の数を倒し、また引き離して進んでいくと、再びやや離れた位置から別の“狂える半死人”の群れが動き出したとルーズ氏からの通信。
『あ~、でも、そんなに近くはないから、そのまま進んでも問題ないかと……』
「そだね~、左後方でのたのたしてる。このまま進んで大通りに出れば、また右で門の前……」
この、さほど近くないので問題はなさそうだ……との予測が、ただの楽観論だと言うのを直後に思い知る。
『待って、その右手の建物……瓦礫の下、何か……』
狩人の人は視力が良くとも遠目で正確な情報は拾いきれない。まして今は瓦礫と化してはいても建物の隙間を縫うような移動。死角が多く、遠目からの観測でカバー仕切れてない。
カリーナさんがすかさず妖をそちらへ差し向けると、やはりわらわらと狂える半死人が瓦礫の隙間から溢れ出て来てる。
「左手側に寄って通り抜けます」
全員で左へと寄りつつ、速度を落とさず進もうとすると、ぐらり足元が揺らぐ。
何か? 瓦礫と土埃にまぎれてよく見えて無かったが、この左手側の建物の地下階が一部露出して居たらしい。
危うく避けるも、そこへさらに先ほどの狂える半死人が突進してくる。足元のバランスを崩しているところへさらなる追撃。
再び揺り戻しのように左へ。そして、脆くなっていただろう床面がさらに崩れて───暗転。
まるで暗闇に吸い込まれるかにして身体がふわり宙を浮き、意識が揺らいだ。
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