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第三章 クラス丸ごと異世界転生!? 追放された野獣が進む、復讐の道は怒りのデスロード!
3-225.クトリア議会議長、レイフィアス・ケラー(80)「あ~……」
しおりを挟む「無理なの?」
「いや、無理っつーかさ~。一応、ね、一応、こう……少しはさ」
「少し?」
少し?
「5回……10回……? そんくらいに1回は、まあ、成功するかな~……ぐれーの?」
「出来るじゃん?」
「いやいやいや、出来るじゃん? じゃねぇーって、そんなん! こんなの出来るウチ入んねーって! お前さ、『俺、楽器弾けるぜ!』って言ってた奴が、10回弾いて一曲くらいは最後まで弾き終われます、なんて状態だったら、そりゃ『弾けてねーよ!』って、なるじゃん?」
「……まぁ、兄貴なら堂々と『俺、楽器上手いぜ』って言うな~」
うん、ヤマー君なら言いそう。
「あいつスゲーよな、そういうとこ。マジで。尊敬するわ。なりたくないけど。
けどさ、まあ、俺からすっとそれは無いわ。無理。それで、『俺、浄化魔法使えまーす』とか、言えねーよ。絶対無理だわ~!」
「かもね~」
「それもさ。別に俺だけの問題なら、いいよ、別にさ。
けど、まかり間違ってよ? まかり間違ってそのせいで、誰かに迷惑かけたりさ? 下手したら、俺のしくじりせいで誰かがさ、こう……ひどいことンなったりとかしたら、それ、超嫌じゃん?」
「あ~……」
あ~……、と、ヤーン君の反応とシンクロしてしまう僕。
いや、まあ、その気持ちはよく分かる。よく分かると言うか、今、現在進行形で僕が感じ続けてた、感じ続けてる事だもの。
闇の森でのユリウスとの戦いのときもそうだったし、今現在、特にリカトリジオスの脅威が迫りつつあるクトリア共和国の現状にも常にそれを感じている。
僕の判断、僕の失敗で誰かの……それは、親しくなった、よく知っている誰かでも、一面識もない、またはただクトリアと言う地でたまたま同じ時期に同じようにそこに居たという程度の縁しかない誰かであってもそう。
たまたま、成り行きで“王の試練”を達成し、結果的にクトリアの王権を得て、そこから、クトリア共和国の評議会議長と言う立場になって。正直に言えば、始めた当初はここまで問題山積みで、ここまで重い責任、多くの人たちの命運を背負うことになるとは覚悟してなかった。
エヴリンドは僕のこの決断を「軽はずみだ」と言う。そしてそれは、全く反論の余地なく正しい。
そんな軽はずみな決断の結果、当初の想像を超えた責任を背負っている僕からすれば、傍目にはどれだけ臆病で無責任に……責任からただ逃げてるだけに見えたとしても、自分の背負う責任についてそうやって考えているルーズ氏の事を、軽々に非難することは出来ない。
「う~わ、あいつ本当マジ糞面倒臭ぇな~!」
「だね~」
と、そんなことを懊悩している僕の横で、ひそひそ話にド直球でそうディスるのは、ティーシェさんとカリーナさん。オー、ノー!
「おめーにそこまで責任ある事やらすワケねーだろっつーの、バーカ」
「あれだよね、なんか、やらないで済む理由考えてるうちに、どんどん拗らせてった感じ?」
うへぇ、手厳しいっ……!
「あの子はね~、真面目すぎるのよねぇ」
指導員としてそこそこ付き合いのある“黎明の使徒”の女司祭、ミカさんが言う。あの子、とは言ってるけど、年齢的にはルーズ氏とそう大差ない。ついでに言えば、ルーズ氏がめっちゃ愚痴ってた相手のヤーン君は、けっこう年下。
「想像力もあるから、悪い方に悪い方に考え始めるとどんどんそっちの方にひっぱられちゃう癖があるしねぇ~」
う~む、やっぱちょっと親近感わくな。
「それは……まあ、ウチの弟のヤマーみたいに、考えがなさすぎるのよりはマシとは思いますけどね……」
ヤーン君が引き合いに出したこともあってか、色々聞いてる話含めて、考えなさすぎなヤマー君の尻拭いでかなり面倒な経験をしてるらしいダグマさんが言う。
「程度問題っしょ。怠け者でも考え過ぎでも、結局やることやんないなら同じだもん」
ティーシェさんもそうだけど、クトリアで邪術士専横時代からの狩人達の多くは、まさに不毛の荒野の生き残りの中でも生え抜きだ。魔獣、猛獣に山賊野盗の跋扈する郊外山野を放浪しつつ狩りを続けていた。やらねば死ぬ、生きられない。その彼女らの持つ経験から来る説得力は、これまた軽々には否定出来ない。
「拙速に結果だけ求めるのは良くないですよ~。何のためにそれを成すのか、それらを自分の中で確固たるモノへとしなければ、後々にまた過ちを犯しますから~」
対するミカさんは、相変わらずののんびりした口調、雰囲気ながら、これまたしっかりとしたお言葉。
その流れで、中からやや大きな声でヤーン君が、
「そろそろ夕方だし、飯の支度終わってるかもね~」
などと言いながら、立ち上がり歩いてくる。
彼が天幕を開けるときには再び僕ら全員が反射的に身を潜めるようにするが、現れたヤーン君はミカさん、そして僕らにジェスチャーで「あっちで話そう」と合図。
僕もカリーナさんたちも、いまいち状況が分からぬままついて行く。
作られた野営地の柵の外、もう作業する者もなく夕暮れの赤い日差しに照らされたちょっとした岩場で、車座になって話す僕たち。
「まあ、あれだね。誉めて煽てて、周りから固めてやらせようとか、そーゆーの、むしろ意固地になって出来なくなる。そーゆータイプだね、うん」
との総評。
どうやらヤーン君、ミカさんに相談されて、ボーマ城塞での地獄の猛訓練で一緒になってた事もあって、ルーズ氏の心の内を探っていたらしい。
「かと言って、追い詰めてやらせよう……ってのもダメ。ボーマのときもそうだったけど、あいつ、追い詰めるとフツーにパニクるから」
見た目、気質ともに、最も父であるヤレッド氏に似ている、との評判のヤーン君だが、なかなかどうして、実務だけでなく人間観察にも長けているようだ。
「じゃ、どーすんのよ?」
ティーシェさんのその言葉に、
「まぁ、待つしかないんじゃない?」
とヤーン君。
「いつまでよ?」
「さあ?」
ヤーン君はそこで他人事みたいに被りをふる。
「それ、決めるの、俺じゃないし」
もちろん視線の先は僕。はい、そーですね、ええ。僕が責任者ですからね、ええ。僕が決めることになりますわ、ええ、ええ、ええ。
そして、そこで一区切りのついたそのやりとりの最後、ヤーン君はやや小さな声で、
「それにまあ……、出来ることと向いてることが、必ずしも同じとは限らないしね」
と、そう付け加えた。
◇ ◆ ◇
初日に引き続き……とはいかないまでも、そこそこ豪華な夕飯と酒を振る舞い、警備担当を残しお休みタイム。魔獣に動く死体のうろつく汚染地域の復興なんて言うなかなかの危険な仕事なので、英気を養う為にも福利厚生は手厚くしなければならない。
僕はとりあえず寝る前に魔力中継点の根元のドームで諸々情報の整理。
レフレクトルは一応町を囲んでいた城壁が半壊だが残ってはいて、ある意味ではそれらが中にいる動く死体や魔獣を閉じこめているとも言える。
アルゴードの渡し場は、幾つかの大きな建物がなんとか形を保ってるだけで、損傷の度合いはレフレクトルよりも激しい。
位置関係的にも難易度としても、また、内部の危険度や汚染度からしても、レフレクトルよりアルゴードの渡し場の方が復興しやすい。
外洋に向けて開かれた港としては既にグッドコーヴが機能しているし、今一番の懸案事項は、アルゴードの渡し場が敵対勢力、リカトリジオス軍の拠点にされてしまう可能性。
やはり当初の予定、想定通りに、今まだ仮拠点であるこの野営地を砦とし、そこから……というところか。
図面や資料を整理しつつ、その中でガエル氏の図面確認がまだだったことに気付く。外からはまだ酒宴をする声。明日でも良いと言えば良いのだけど、ちょっと今見せてもらえるかもと外へと出る。
野営地の真ん中、たき火の辺りで輪になって話しているのは数人の男達。中にはガエル氏も居たが、その輪の中心はルーズ氏だ。
「───で、マルコはしつこくそこで聞く。
『この大角羊は新しいのかい?』
全くもってごちゃごちゃうるさいってんで、イライラした狩人は手にしていた投げ槍の石突きで倒れていた大角羊をコツン。
気絶していた大角羊はそれで目覚めてばっと立ち上がり、そのままだだだっと走り去る。
『ほれ見ろ、走り出すくらい新鮮だろ?』」
最後のサゲの部分しか聞いてないけれども、どうやら何らかの小噺をしていたようで、周りの男達はどっと大笑い。
「そりゃいい。全く馬鹿な野郎だな」
「しょうもねぇことばっか気にしてっからそうなんだな」
わいわい感想を言い合う男達に、大きな体で大きな顔をしたルーズ氏は、焚き火に照らされ火照った顔で満足げ。
「おめぇ、もっと色んな噺、知ってるんだって?」
「まあ、色々覚えちゃいるけどさ」
「あれ、どう? あの、怖いやつ」
「怖いやつぅ?」
「あぁ……、死の精霊?」
「それ」
ボーマ城塞からの付き合いでか、前にも聞いただろう噺をリクエストするのはヤーン君。
コホン、と軽く咳払いしてから、ジョッキの酒で軽く唇を湿らせて、しばしの間。
「───これはね、帝国時代にいたある男の話だ」
調子良く話し始めるルーズ氏。何をやってもうまくいかない、運の悪い男がいた……というところから始まり、その男がもう生きているのも面倒だと川に身投げをしようとする。すると黒ずくめの不気味な男が声をかけてくる。お前さん、何やってんだい。何、死のうとしてるんだって? そいつはいけねえ、まだまだ若いんだ。死ぬ前にやれることはあらだろうよ、と一悶着。そして黒ずくめの男は、身投げをしようとしてた男にある魔導具を渡す。
「こいつはね、死の精霊の姿が見えるっていうシロモンだ。病気で寝込んでる患者のところに行って、この眼鏡で様子を見ると、どのくらい死の精霊が取り憑いているかが分かる。数が多けりゃ多いほど死に近い。特に枕元にいるのは確実に死ぬ。だが、足元やらに居る死の精霊なら、呪文で追い払える。
その呪文も教えてやる。病人の所へ行って死の精霊を追い払えりゃ、お前さんもいっぱしの治癒術師だ───」
これ、そこそこ有名なモルグロゾーラ逸話集の一編だ。
まつろわぬ混沌の邪神、“悪戯の神”モルグロゾーラが、特別な力や魔導具を与えて幸運を齎すが、たいていの場合、増長し調子に乗ってしくじったり、約束を破って罰を受ける。
この噺の中でも、男はこの後に、「頭の方に取り憑いてる死の精霊を、無理やり追い払おうとしちゃいけませんよ」……と念押しで釘を刺されるのだが、ある貴族の依頼で高額報酬に目がくらみ、一考を案じて頭の上の死の精霊を追い払う。
高額報酬にいい気になってる帰り道、再び現れた黒ずくめの男に、無数のろうそくのある洞窟へと連れていかれ、「頭の上の死の精霊を追い払ったことで、お前さんは自分の運命とあの死ぬべきだった貴族の運命を入れ替えちまった。だから運命の力を失ったお前さんは、あと数日で死んじまう」と告げられる。
泣きわめきながら足元に縋り何とかしてくれと助けを乞う男に、「あの貴族の運命のろうそくと、このすぐに消えそうなお前の運命のろうそくとを、うまく入れ替えることができればまた元に戻せるだろう」と。
今にも消えそうな自分の短いろうそくをそっと手に取り、貴族のろうそくと入れ替えようとするが、緊張で手元は疎か、呼吸は荒く、吐く息で火も揺らぎ……。
「ほうら、気をつけな……でないと、消えるよ……消えるよ……」
───沈黙。
ふは、と荒く息をするのは、聞き入っていた全員か。
「……おいおいおい、やめてくれよ、寝る前にこんなおっかねぇ噺はよぅ」
「今、真っ暗になっちまったら、俺の方が死んじまうぜ」
この噺、前世の世界にも似たようなものがいくつかある。グリム童話の『名付け親の死神』や、それを元にしたイタリアの歌劇、『クリスピーノと死神』、そして日本では落語になった、そのものズバリの『死神』。
ただこちらの世界には前世で言うところのいわゆる死神、つまり個々の人々の運命、寿命を管理をし、魂を死の世界へと連れて行く存在としての“死神”に類するものが居ない。
死を司る神は何柱かは居るけど、それも“いわゆる死神”とはちょっと違う。なので……と言うのも変な話だが……、“悪戯の神”モルグロゾーラが死神役をする。
この手の巷説にある不幸話、転落話は、事実としてそれらが起きたことなのかどうかは別として、人々の口に上るときは、大抵モルグロゾーラの仕業となってる。多分、実際にはモルグロゾーラの仕業ではないことまで、彼の仕業として広まってるパターンは多いのだろう。
それはそれとして、だ。
やや離れたところからちょっと盗み聞きみたいな感じでルーズ氏の話を聞いていた僕だけど、いやまた、彼、上手い。
話術、と言っても色々な意味合いがある。確かに彼は、例えばイベンダーのような交渉術、または詐欺師として相手を騙し、そそのかし、操るような話術に関しては、てんで駄目だろう。
けどこの、お話を聞かせる、と言う意味での話術に関しては、なかなかかなりたいしたものだ。
間の取り方、緩急、声の大きさ等々のテクニックに、また細々と聞く側の反応をみながらそれらを適宜調整しているだろう流れの作り方に、彼自身のアイデアか、彼の知ってる噺が元からそうだったのか分からないけれど、説話集にあったものと微妙に変えてあるアレンジも上手い。
話術と言うより、これは話芸、だなぁ。
ううむ、としばし考える。確かにヤーン君の言った通り。出来ることとやりたいこと、そして得意なことは、必ずしも一致はしないのだ。
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