遠くて近きルナプレール ~転生獣人と復讐ロードと~

ヘボラヤーナ・キョリンスキー

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第三章 クラス丸ごと異世界転生!? 追放された野獣が進む、復讐の道は怒りのデスロード!

3-221.クトリア議会議長、レイフィアス・ケラー(76)「どーしたもんかしらねぇ」

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「ふうむ、なる程な。確かに術式そのものはそう複雑なもんでもない。基本は俺がマルクレイに作ってやったやつとそう変わらん……が。うぅ~む」
 ルチアこと“漆黒の竜巻”さんの身に付けていた鎧……厳密には闘技装束を調べながら、イベンダーが唸る。
「なんか難しいのか?」
 JBがそう聞くと、
「い~や、逆だ。と言うか、そもそも出来があまり良くない。
 これならこいつを手直しするより、一から新しく作った方が出来もいいし手っ取り早い」
 あらま、そうなの?
「具体的には、何が良くない?」
 岩石にそのまま切れ目を入れたような渋い面差しのポロ・ガロ氏がそう聞くと、
「元々こいつは、そのデジモとかいう奴が支配の術式を使うことを前提に作られてるだろう? つまり、着用者の身体能力を補助したり、自立した運動を促すものとしての機能があまり作り込まれていない。
 多分……今まではあまり長時間動き回ったりできなかったんじゃないのか? それは、魔力の多くが支配の術式を維持する方に使われてたからだ。だから、使用後の疲労度も高かったはずだ。
 まずはそいつを全部取っ払い、それから……そうだな、元々の入れ墨魔法の魔力循環を矯正、上手く補助するように組み直せば、もっと良くなるだろうな。
 だが……そうだな、ポロ・ガロ。俺にも入れ墨魔法の原理を詳しく教えてくれ。そうすれば、ルチアにより最適な形で作り直す事が出来るぞ」
 
 ここ最近、どちらかといえば外交交渉の腕の方ばかり奮っていたイベンダーだが、今回はマニアックな魔導技師の面を丸出しにしてまくし立てる。
 
「けどよ、オッサン。入れ墨魔法の技術は本来南方人ラハイシュ呪術師の秘伝……だよな? そんな簡単には教えられねぇんじゃねぇか?」
 JBがやや悩ましげにそう言うが、
「俺などとうの昔に破門されたはみ出しものだ。流石に奥義の全てを明かすことはないが、ルチアのためになることなら、いくらでも教えてやれる」
 と、やはり岩石を削ったような顔でそう言うポロ・ガロ氏。
 
「ようし、なら決まりだな! 素材は基本的に革ベースがいいんだろう? 革細工なら俺よりマルクレイの方が上だ。それにせっかくだ、東地区のリディアに紹介してもらった、魔獣素材鍛冶の上手い鍛冶師にも頼んで、かなりのモンに仕上げてみよう!」
 立ち上がり、ルチアの背中を軽く叩きながらそう請け負うイベンダー。
「……感謝する」
 言葉少なくそう言うルチア。
 しかしイベンダーはそこにさらに続けて、
「特に……新しいクトリア共和国の“守護者”に相応しいものをな!」
 なんて事を言う。
 
 そう。ルチアさんには、議長直属の防衛治安組織、“人民の守護者ガーディアン・オブ・ソサエティ”の一員となって貰う事にしたのだ。
 
 実力者であり、既存の諸勢力のどことも利害関係がない。人格的にも大きな問題はなさそうだし、JBからの推薦もある。
 議会でキチンと詰めていかないとハッキリしたことは決められないので、まだ現時点では僕預かりの個人的な私兵という立場になるが、いずれこの“人民の守護者ガーディアン・オブ・ソサエティ”はFBI的な、または火盗改め的な広域治安、防衛、また密偵組織としたい。
 クトリア共和国内のどこでも、さらにはクトリア共和国外でまで活動出来るように。まあそうなると、CIAも兼任するようになるけどね。
 
 ◇ ◆ ◇
 
 プント・アテジオ陥落の経緯や、それら含めた様々なあちらの情報は、JBのみならずルチアさんにポロ・ガロ氏等々からも聞き取った。
 そしてこの件が王国の対クトリア政策に何故影響を与えたのかの考察も、デュアン、イベンダー等との話し合いでだいたいのところは把握する。
 
「ガチガチの帝国復興主義からすれば、クトリアよりも辺境四卿領の方こそ“奪還”しなければならない優先すべき領土だからな。その一角に穴が開いたなら、そこから攻めようとの主張が強くなる」
 そう、つまりは「クトリア共和国なんかのことは後回しだ!」状態なわけだ。
 言い換えれば先延ばし。
 であると同時に、これは同盟とは言え軍事的にはクトリアに駐留させる兵力を増やしにくくなる、と言うことでもある。
 つまり、対リカトリジオス軍への軍事支援は薄くなる。
 
 主権国家として再編された以上、いつまでも他国の軍を堂々と駐留させ続けているのもそれはそれで問題なんだけど、とは言え今はまさに「背に腹変えられぬ」から、その辺は痛い。
 
「ま、その辺りはそうだな……、いずれ“悪たれ部隊”のニコラウス辺りをつついてみるか」
 ニコラウス・コンティーニ隊長は、元々は本国での“やらかし”からクトリアへと飛ばされ、しばらくは腐っていたものの、父、リッカルド・コンティーニが“闇の主討伐戦”で大敗し失脚したことから一念発起、部隊編成を一新して対魔人ディモニウム討伐に専念。成り行きからJB達探索者、ティエジ、トムヨイ等クトリアの狩人達、そして“金色の鬣こんじきのたてがみ”ホルスト等ボーマ城塞勢との共闘でセンティドゥ廃城塞の戦いにおいて大戦果を上げた。
 本人はそこに、さらにはこれまた棚ぼたで彼の手柄と言う事になっているザルコディナス三世の亡霊怨霊との戦いまで引っさげて本国へと凱旋……と、目論んでいたようなのだけども、それが中々、思うようにはなっていないらしい。
 なもんで、最近はまた赴任直後のお腐りモードに戻りつつあり、貴族街の三大ファミリーでも悪い噂がちらほら……だ。
 
「まあ彼の処遇も、恐らく復興主義派閥からの横槍もあるとは思うんですよね~」
 と、その状況に関して補足するのはデュアン。
「まあな。一時の勢いは無いとは言え、“英雄”リッカルド・コンティーニの息子の中では今一番勢いがあるのがニコラウスだ。だから復興主義派閥としては自陣に取り込みたいが、いまいち靡いてはもらえん。ならば、本国から離れたクトリアでしばらくはくすぶっててもらいたい……てところか」
 あらまあ、いやあねぇ、派閥争いって。
 
「まあ、何にせよ王国との同盟関係は継続……てのは、執行猶予が得られたようなもんだよね。その時間を有効に使わないと」
 その一つが、まさに人民の守護者ガーディアン・オブ・ソサエティの編成。将来的なこととは別に、リカトリジオス軍等外勢力の動向を探る斥候、密偵としての役割も持たせたいのだ。
 
 ◇ ◆ ◇
 
 人材に関しては、実は他にも着実に充実しつつある。
 例えば先だってボバーシオからイスマエルと共にやってきた避難民。南方人ラハイシュの呪術師なんかも居たけど、その人たちの類縁の中にボバーシオの法律家、なんてのも居た。
 元々は先代のボバーシオ王に仕えていた人物なのだそうだけど、法に忠実で潔癖すぎるため、現王やその側近に疎まれ、地位を追われて貧民暮らしをしていた。なんとも気骨のある人ではあるけど、法に詳しい事に加えて、秘密裏にボバーシオの歴史書なんてのも書いていて、それら含めてかなりの資料になる。
 ボバーシオ及びボバーシオ王家の歴史的経緯というのは、かなりクトリアと密接な関係があるからだ。
 周知のようにクトリアは、西、北、東を全てぐるりと大山脈の“巨神の骨”に囲まれ、南はウェスカトリ湾に面している。攻め込まれにくいという意味ではかなりの天然の要害。
 けどそれは逆説的に、クトリアから他に攻め込みにくい、と言う面もあった。
 その結果第1期クトリア王朝が取った政策の一つが、ボバーシオ王家を作り出す、という事だ。
 その当時、ボバーシオ近郊の南方人ラハイシュ達には、いわゆる国と呼べるほど大きなまとまりはなく、いくつかの部族連合のようなものが対立しあっていた。
 その中の一つの部族をクトリア王朝が「この地の正当な支配者である」とお墨付きを与えて支援をし、クトリアにとって都合のいい傀儡王家として、支配、被支配の構造作ったのだという。
 最初からクトリアの属国、傀儡として成立したボバーシオ王家は、その後残り火砂漠の他の敵対的な南方人ラハイシュ部族達を攻めて版図を広げたりもしたが、広げた先でも内乱や反乱が起こり、まあなんだかんだでグズグズになって行く。
 そこにクトリアと東方シャヴィー人との戦争も起こり、双方それぞれに衰退して行くワケだけど、何にせよそう言う歴史的経緯からも、ボバーシオの文化、法体系なんかはかなりクトリアの影響が強い。
 クトリアは邪術士支配の失われた30年ほどの間に、連続的な歴史を失い、また様々な行政、司法などの記録も残されず、散逸し無くなってしまったものも多いのだけども、ボバーシオでのそれは、その“失われた30年”を補完する貴重な資料となる。
 似たような法律がどれだけあり、それらがどのように運用され、どんな問題点があったか……。それらを生きたデータとして知れるのだ。
 
 彼らの他にも、現在のボバーシオ王家や有力者からは冷遇されていた知識人や行政官など、まさに今のクトリア共和国に必要な人材が居る。さらに幸いな事に、実際に彼らと交渉をしてみると、個々にそれぞれ複雑な心境、事情などもあるにはあるが、皆クトリアでの新たな国づくりに協力してくれると言う。そしてさらに、彼らからの提案、というか、取り引きとして、「もし我々を登用するのであればまだボバーシオに残っている一族類縁も受け入れてほしい」と言う条件が出る。
 これ、つまりは彼ら、ハナから亡命目的だったようだ。
 
 要するに、今のボバーシオの王家、貴族、有力者達では、リカトリジオス軍の猛攻をはねのける力はない。腐敗し、権力争いにばかりに興じていた王族、貴族に殉ずる気はないし、もちろん人間種への憎悪があからさまなリカトリジオス軍へ恭順するのはさらに有り得ない。その状況下で、邪術士専横から解放され、しかし長らく無法地帯と化していたクトリアが、新たに共和国として再生したと言うニュース。
 ならば……と、賭に出た。
 とは言え、貧民流民、財産もあまりないような者たちならば、着の身着のまま逃げ出しても来れるが、それなりに財産も地縁もあり有用な人物であれば、そうそう簡単に逃げ出す事は出来ない。下手すれば敵前逃亡、戦時特例法で極刑もあり得る。まして、行く先のクトリア共和国とやらがどれほどのものかも分からないと言うのに……だ。
 
 で、JBが船大工のイスマエルを迎えに行った事で、これに何人かが便乗して先にクトリア入りをし、地位や生活の保証が得られると分かったならば、そこで初めて、「命懸けのボバーシオ脱出」を試みよう……と、そう言う事らしい。
 
 う~む、と考える。
 なかなかに……というか、いや、かなり難しい話だ。
 人材は確かに欲しい。特に、内政のできる行政官、知識人はかなり欲しい。
 ただ……どーなんだろう。まあ話によれば彼らの多くは現在、ボバーシオではあまり重用されず、進言も受け入れられずにくすぶってはいるのだと言うのだけど、とは言えあまりにあからさまに人材引き抜き、みたいな真似は心苦しいし、恨みも買いかねない。
 実際、つい先日までその包囲戦の現場にいた彼らが言うのだから間違いはないのだろうとは思うけれども、一様にボバーシオ陥落は時間の問題だと捉えてはいるが、そうならない可能性だってないわけではない。
 彼らを受け入れること自体に異論はないが、それによってボバーシオ敗北をより早めてしまうのではないかという不安もある。
 何より───。
 
「んあ~、どーしたもんかしらねぇ~……」
 彼らとの会見を経て、頭を抱える僕に、
「何をそんなに悩んでるんです? もう答えなんて決まってるでしょうに」
 と、気楽に言うデュアン。
「いやいや、そりゃ、最終的な答えは決まってますけど~」
「ぐずぐずしてたら陥落しちゃいますよ?」
 そう、その可能性だってある。決断を先延ばしになんてしてられないのだ。
 
「ま、こういう時に即断即決できんのは為政者としては短所でもあるが、それがお前さんということなんだろう」
 横からあまりフォローになってない事を言うイベンダー。
 
「段階的な条件付けで考えてみろ。まあフローチャートだな。
 Aが10以下ならば、B。11から99ならC……、みたいにな」
 そして突然また、初歩のプログラミング講座みたいな事を言い始める。
「つまり……受け入れの条件付けを細分化してく……?」
「条件と、その場合に何をどう受け入れていくか……だな」
 何を、どう……、か。うぅ~んむ。
 
「いや待て、そうか……」
「どうしました?」
 逆だ、逆。
 JBからの報告にもあった、“砂漠の咆哮”の生き残りや、イスマエル等船大工の魔導船。
 有能、有用だが重用はされてない、また、今の防衛戦ではあまり使われていない者やモノ。
 ボバーシオ陥落が目前と言うなら、それを前提にすれば良いのだ。
 
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