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第三章 クラス丸ごと異世界転生!? 追放された野獣が進む、復讐の道は怒りのデスロード!
3-219. J.B.(136)Sympathy For The Devil(悪魔を憐れむ歌)
しおりを挟む「沼鬼? 何だそりゃ?」
俺とルチアが降り立ったバルコニーには、ベアルザッティを含む射手、投石兵が数人。それぞれに館へ殺到する“狂える半死人”へと攻撃を仕掛けている。
「何って~、見ての通りじゃんか~」
元々は猟師の娘だったと言うベアルザッティは、ボーノや“悪たれ部隊”のアモーロに比べれば精密性にはやや欠けるが、手早く大量に矢を撃ち込みながら、またものんびりした口調でそう返す。
「俺もよ、何だか噛み合わねぇなと思ってたんだがよ」
横合いから投石しながらそう付け加えるのはアリック。
「ここら辺じゃ、“半死人”の事を、“沼鬼”って呼んでるらしいンだけどな……」
そこで、やや声を小さくし、
「ここの連中、“沼鬼”ってのはゴブリンの一種だと思ってやがんだよ」
と続ける。
なんともこう……複雑な話だ。
“狂える半死人”は元々は人間で、ザルコディナス三世とその配下の邪術士達によって「凶暴化し、理性を無くして人を襲ってむさぼり食う」化け物にされてしまった。だから、こうやって襲われたら反撃するしかねぇし、和解や譲歩なんてのは有り得ねぇ。一度こうなりゃ、こっちが死ぬか相手を殺すか、その二択しかない。相手のことをゴブリンの変種だと思っていようが、元人間の哀れな犠牲者だと思っていようが、やること自体は変わりゃあしねぇが、それでもやっぱり……複雑なツラにはなっちまうぜ。
そのとき、階段を大慌てで上がって来たセロンが、
「射手何人かを残して下に来いとのことだ。地下からも奴らが溢れて来た」
と伝えてくる。
「おいおいおい、どーなってやがんだこの館はよ……」
うんざりとでも言うかにアリックかボヤくが、その気持ちは恐らく全員同じ。
外からも中からも突如として敵だらけだ。
アリックとベアルザッティ、伝達に来たセロン含め5人ほどを残して階下へと降りる。
降りると、ラシード、ガンボン達と元奴隷闘士、そしてマシェライオス等闇エルフ団とその追随者たちが、玄関ホールにバリケードを作りつつ防衛線を張らながら応戦していた。
その中心に居るのは……まあ、今更だが例の【聖なる結界】を輝かす聖獣巨大豚。
「どっから出てきやがったのか……とにかく今はここを死守するしかないな!」
「まさか、こいつがヤコポの奥の手だったのか?」
ラシードに俺がそう返すと、先ほど裏手門の防衛へ向かってた東方人系の元奴隷闘士が、
「分からんが、コイツ等は倒れてたタロッツィ奴隷闘士をもむさぼり食ってた。敵味方関係なしだ」
と証言。
「……出所に、心当たりはある」
乱戦になるとほぼ役には立たないマシェライオスが、苦々しげにそう切り出す。
「何だ?」
「地下階に、恐らくデジモの秘密の区画がある。魔術の守りで保護、隠蔽されてたが、その中には様々な魔導具や、何かしらの研究の成果を書き留めたノート、メモがあった。後で細かく確認するつもりで簡単な封鎖だけしておいたが……この状況に何か関係しているとしたら、あの部屋の奥だろう」
「そりゃ、別棟の地下牢の奥か?」
間抜けな俺が、初日にとっつかまって拷問されかけた場所。
それに対しマシェライオスは、
「いや、方向的には南側……デジモの居室のある棟からだ。ただ、恐らくは地下はかなり複雑で広い。その別棟の地下牢にも繋がる秘密の通路はあるだろうし……そうだな、その繋がった地下通路の中のどこかに、“沼鬼”が居たのかもしれん……」
だろう、かもしれんばかりで何の確証もない話だが、だとすりゃ俺にしか出来ない仕事になる。
「分かった、取り敢えずひとっ飛びして確認して来るぜ」
「1人で大丈夫か?」
「……そうだな、もう1人連れて行こう」
勿論、この流れで誰にするかは決まっている。
□ ■ □
代官の館だけあって天井も高い。だから天井すれすれを無理に飛ばなくても、通路に蠢く“狂える半死人”の攻撃を避けられるだけの高さで滑空するのはたいして苦じゃない。
そう時間もかからず到着した先は館の書庫。その書棚の一つがまさに「隠し部屋への入り口」と言う風に開かれ、地下階への階段が見えている。
「このまま行くぜ」
「ああ」
抱えたルチアにそう告げて、壁を蹴りつつ細かく移動、地下へと向かう。
俺の動きにも器用に合わせて態勢を変えるルチアは、何やらちょっとばかし微笑んだような顔をする。
「何だよ、こんなときによ」
「……いや、私の古い知り合いに、空人が居てな」
「空人? そりゃ、確か……」
「ああ、翼の生えた者だ。まあ風説、風聞にあるような、神秘的で高貴な存在とはとても言い難い、ヘラヘラとつかみどころのない奴だったがな。
あいつに抱えられて空を飛ぶような経験はなかったが、もしあったとしたら……こんな感じだったのだろうかと、ふと思ったんだ」
そりゃ、なかなか希有な知り合いが居たもんだ。
「気に入ったンなら、また何度でも飛んでやるぜ?」
俺のその軽口に、またルチアは小さく笑う。
地下通路を進んで行くと、マシェライオスの予想通りこの“狂える半死人”の群れがこの地下階から溢れ出て来たのは間違いないと分かる。数は目にしただけでも3、40くらいか? 外から来てるのも合わせりゃさらに倍。まだ見てないのを入れりゃあそれをさらに上回るだろう。
階段を降りてすぐのところに、まずはマシェライオスも言っていた研究室のような部屋があった。魔晶石や薬品、薬草類の他、謎の生き物の標本だの骨だのと色々だ。
その先にも通路は続き、“狂える半死人”達はそちらから来ているようだ。
定間隔に魔法の灯りが灯された、石造りでじめついて薄ら寒い地下通路の方は、地上階と違って天井もやや低く、あまり低い位置を飛ぶと奴らの手に捕まりそうになる。時折ルチアがつま先の隠し刀で反撃したりもしたが、この体勢ではあまり威力もないし、捕まって引きずり降ろされるのが一番ヤバい。
さらに進んで行くと、この地下通路の途中にこれまたいかにもと言う仕掛けの隠し扉が開け放たれていて、どうやらそこから“狂える半死人”たちが出てきていたようだ。
「どうする?」
「知れたこと」
当然、中へと入って“狂える半死人”の溢れ出てきた原因を確かめ、場合によってはそれを止める。
すでにこの周りには“狂える半死人”達は居なくなっている。俺たちはゆっくりと通路へと着地し、それぞれ開きっ放しの隠し扉の両側へ。
中には通路同様に魔法の灯り。お互いに目で合図をしつつ、顔を半分出して中の様子を伺うが、“狂える半死人”はすでに居ないのか、目に入る範囲に動くものはない。
ルチアの目を見て、お互いに頷く。ルチアは指を立てて耳を指し、続けて中の床へ向ける。何のジェスチャーだ? とちょっともたつくが、カウントを始めて、3、2、1、で中へ突入。
構えた先、床の上に伏せて横たわる何者かの姿。それは───、
「デジモ……?」
この町の代官、デジモ・カナーリオその人だ。
豪華な布地をふんだんに使った服は乱れて血に染まり、呼吸も浅くて息も絶え絶え。
その周りにも、何体かの半死人の死体もある。だが、何がどうしてそうなってるのかはサッパリだ。
何よりデジモ自身も、もはや既に死に体。どうあれ助かりそうには無い様子だ。
だが……。
「……お前も、“半死人”だったのか……」
常に布で覆いヴェールで隠していたと言うその素顔。そこにあったのは、俺がよく知る“腐れ頭”や“黎明の使徒”の護衛、ターシャ同様の、死者のごとき顔だ。
俺たちの姿を確認したらしいデジモは、引きつったような、痙攣するような乾いた笑いを上げ、震える指で俺を指し示し、
「……や、はり……お前、は、信用出来ぬ……奴だっ……たっ……!」
と吐き捨てるように言う。
「あ……の、“持ち手”と……“闇エルフ団”の有象無象……諸共……、食い殺……され……るが……よい!」
どういう経緯でこの地下まで逃げて来たのか? 明確なことは分からねぇが、この地下通路があるいは闘技場のどこかと繋がっていた……と考えれば、まあしっくりとはくる。となりゃ、闘技場の方にも“狂える半死人”は行ってるんだろうし、また、ネミーラ達シーエルフは負けたのか逃げられたのか、いずれにしても“毒蛇”ヴェーナ共々あの場を離れて逃げ出した……とも考えられる。
「……ま、どうでも良いだろうが、あの“持ち手”とは俺は全然連んじゃあ居ねぇぜ。何であの野郎が居るのかも分からねぇ」
最期の最期、今まさに命尽きようと言うデジモには、どうでも良い話だろうがな。
だがその時、俺とデジモのその無意味な会話にルチアは全く取り合わず、風の動きと僅かな灯りで、薄暗い部屋の奥を見ていた。
この部屋自体はやや質の良い応接室のようだ。部屋の左側の一画にはテーブルとソファー、質の良い絨毯があり、棚には幾つかの食器類にワイン棚。
真ん中にある衝立の右側には重厚なデスクと椅子、幾つかの本や書き留めたメモにノート類に書棚。その右側の壁には、やはり仕掛けのある扉……いや、頑丈な鉄格子。
鉄格子はそちらだけじゃなく、隠し扉から入って左右の両サイドにある。その向かって右手側は開け放たれていて、“狂える半死人”が溢れ出て来たのはそちら側だろうと言うのが分かる。
だが、その反対側は?
反対側の壁にあるのは、同じ鉄格子でも全然違う造り。
飾りのある、きれいに磨かれた鉄格子の向こう側に、やはりちり一つ無くきれいに整えられた部屋……寝室だ。
何より目を引くのは、例えば木馬。小さな子供が乗るような、膝までくらいの高さで木製のゆらゆらと揺れるそれに、積み木やらお人形やら。つまり、子供のおもちゃが山ほどある。
異様、そして、不穏。
何とも言えないゾクゾクとした薄気味の悪さが、腰から首筋にかけて背中を這い回る。
何だ? 何だこの不似合いな空間は?
ふらりと、意識せずに俺は足を踏み出し、その綺麗な飾り付きの鉄格子……牢屋へと近付いていた。
そして意識するよりも早く───、
「待て」
ルチアに後ろから引っ張られて倒れそうになる。
視界の端に映るのは、子供用だが飾りの付いた質の良い服を着た、小さな……“狂える半死人”。
「な……んだ、こりゃ……?」
呆然としながら鉄格子の向こうの小さな姿を見る。こちらも、まだ動いてはいる。動いては居るが、やはりデジモ同様にもはや死の間際。
「フロ……レン……シ……ア……」
小さく、掠れた声で呟くデジモ。その声だけで……俺は全てを察する。
「……お前の、娘か……?」
答えは無い。もはや声を出すだけの体力もないのだろうか。あたりに漂う鉄臭い匂いに、服を染める血の量からしても、普通の人間なら既に死んでるだろう出血に怪我。まだ意識があったのは、一重に“半死人”ならではの不死者のごとき生命力。
手を、鉄格子の方へと伸ばす。伸ばすが、その手が何かに触れることも、何かを掴むこともない。伸ばされたデジモの手は、ただ虚しく空をかくだけだ。
そして程なく、その伸ばされた手もまた、力無くぱたりと下ろされた。
思いがけずにデジモの最期を看取り、またその娘の“狂える半死人”の存在を知ってしまう。
“狂える半死人”の群れを放したのは恐らくデジモだろう。シーエルフ達との戦いによってか、瀕死のダメージを受けたデジモは危うくも逃げ出して、“毒蛇”ヴェーナと共に地下の隠し通路を通って館へと戻る。ヴェーナはまた、何かしらの手段で逃げ出したのだろう。奴に悪運が残っていればの話……だがな。
だがデジモは……助からぬと自覚出来るだけのダメージを負い、最期の抵抗として地下に捕らえていた“狂える半死人”を解き放った。恐らくは……そんな所だろう。
そのやり切れない空気の中、まだ僅かに動いては、口を開いて俺かルチアの新鮮な肉を咬み千切ろうとしている小さな“狂える半死人”を、俺は腰に差したドワーフ合金製の短刀で、頭を抑えながら首を切る。
この小さな“半死人”が、デジモや“腐れ頭”、ターシャ等とは違う、既に人としての理性も人格も……かつての記憶もない、“狂える”状態だったのは一目で分かる。目の濁り、反射的行動など、いずれも“腐れ頭”や“ターシャ”、そしてデジモ等とは異なっていた。デジモの最期の望みがどうだったかは分からねぇ。死の間際にただ娘の近くに居たかっただけなのか、或いは……共に逝きたかったのか。
分からないし、分かったとしてそれを叶えてやるつもりも義理もねぇ。だが、それでも───。
「───お前がやらねば、私がやっていた」
特に感情も見せずに、ルチアがそう言う。
俺はそれに答えはせず、ただ、
「ここに何か使えるもんがあるかもしれねぇ。探してみよう」
と、そう言った。
□ ■ □
使えるものは確かにあった。デジモ自身、恐らく“半死人”の研究を───それがどういう方向の研究かは分からねぇが───していた事もあってか、有用な道具は幾つも揃えてあったようだ。
先が曲がって二股になった長い棒は、殺傷能力のない武器だが、押さえつけて魔力を発動すると“半死人”を無力化し拘束できる。“月光花の香箱”とか言うものもあり、これはルチアによると元々は残り火砂漠方面に生える特別な魔力を持った花の香で、本来なら不死者の嫌う匂いを発し、ある種の結界として使えるものなんだそうだ。それが、不死者の特性を持つ“狂える半死人”にも効果があった。
気味の悪い赤い髑髏の飾りがつけられた杖もあり、マシェライオス曰わく“血晶髑髏の杖のレプリカ”だと言う。本来なら王族や皇族等の“高貴な血筋”のモノが利用され、いわゆる“血の髑髏事件”と呼ばれるクトリアの邪術士の起こしたそれも、ティフツデイル王族の髑髏、つまり死体を手に入れるために起こされたんだそうだが、何にせよこれはまがい物なのでそんなに高い効果はない。だがそれでも、“狂える半死人”の攻撃性をある程度は抑える効果があった。
それらのほとんどは、直接的に不死者……“狂える半死人”を消滅させたりダメージを与えたりするものではなかった。だから俺たちはそれらを使って奴らの動きを抑えつつ、各個撃破していく。
□ ■ □
日の暮れる頃には、プント・アテジオは完全に“闇エルフ団”とネミーラ率いるシーエルフ軍の占領下になった。
突然の急襲、あっという間の占領で、「単純な戦力としてはさほどの存在ではない」と甘く見られていた(そしてそれは事実でもあった)“闇エルフ団”の存在を、周辺勢力に強く印象づける事になる。
予想通り、“毒蛇”ヴェーナはまんまと逃げおおせていたらしい。地下通路から館に戻り、隠されていた高速魔導船を使って水路から海、そして川を遡上しての脱出劇。当然、水上で本領を発揮するシーエルフ達の激しい追撃を受けたようだが、どうやってかそれを見事に退けたらしい。詳しい経緯についてはネミーラも他のシーエルフ達も話したがらねぇから、全く詳細は分からない。
闘技場の奴隷闘士の大半は、そのまま“闇エルフ団”へと加わった。奴隷商や闘技会の観戦に来ていたヴェーナ領の富裕層は、討ち取られた者も居れば捕虜になった者も居て、その内の多くは身の代金と交換されることになるだろう。
貧民層や奴隷達には事前にまことしやかな風聞として根回しがされていて、蜂起のタイミングで多くが“闇エルフ団”と行動を共にし、すくなからぬ不心得者……どさくさ紛れに略奪や暴行、虐殺を行った者達には、それぞれに相応の処罰も与えられた。
この辺は、かつてマーヴ・ラウル領で小勢の山賊団だった頃、無軌道な乱暴者達に主導権を握られていた事からの反省、経験もあるんだろう。仲間は欲しいし勢力は増したいが、主導権だけはきちっと握っておかなきゃならない、と。
俺の方は、ともあれ当初の目的を想像より遥かに短い期間で達成出来て、充分以上の成果だと言える。
ポロ・ガロも死に損なっていて、ルチアと共に王国領の転送門経由でクトリア入りをする事になる。さすがに“シジュメルの翼”で2人を運ぶのには無理がありすぎるからな。
サッド達は、まずはプント・アテジオの統治で大わらわだが、ここでマシェライオスと副頭目レナータの過去の経験が生きてくる。この2人の古参はかつてラウル領で先代ピエトロ・ラウルに仕えていた一族の出。ある程度以上には統治、領地運営の知識がある。経験に関しちゃ数百人の山賊団しかねぇが、その辺はおいおいやってくだろう。
で、だ。
ガンボンとラシード、つまりは疾風戦団の目的、行方不明になっている仲間を探す……と言う件についてだ。
探していたはずの1人は“闇エルフ団”の頭になってたって言うなんともとんでもない話だが、もう1人、戦乙女のクリスティナとかって言う奴の件。
イベンダーのオッサンのおぼろげな記憶と、その後の調査でも分かったクーク達“三悪”の魔人たちがヴェーナ領と奴隷売買をしていたと言う話しと合わせ、クリスティナもまたこちらに売られてたのではないかとの予想は、実際まさに的中してたのだと言う。
デジモの、また、ポロ・ガロの持っていた情報、また特別な奴隷の売買リスト。その中に、恐らくはクリスティナであろうと言う人物の記載があった。
クリスティナは光属性の魔力がある。その点で言えば「貴重な奴隷」と言えるのだが、デジモは表沙汰にはしてなかったが自分自身、そしてその娘もまた、闇属性の魔力を持った“半死人”。その点で、デジモにとってクリスティナの能力は「価値はあるが天敵」のものになる。だから、手元に置いておきたい奴隷じゃあ無かった。
「なので、デジモはそのまま転売したらしい」
自分にとっては厄介だが、売れば高値がつく。
「どこ、に?」
食いつくガンボンに、片手を上げてまあ待て、と制するラシード。
「ヴェーナ自身があまりクリスティナに興味を示さなかった理由は分からんが、売られた先は別の辺境四卿の1人だ」
ヴェーナは自領の東にいるマーヴ・ラウルを支援していると言う。そしてそのマーヴ・ラウルは、無能だが女好きとしても知られてる。
ならばそのマーヴ・ラウルか……と思うが、そうでは無かった。
「記録によれば、クリスティナが売られたのは西、“暴食”ヨシュア・ミュンヒハウゼン……あのクソ野郎のところだそうだ」
俺にとっちゃあまり耳馴染みもない辺境四卿の1人。ただ、ラシードの今の言葉の中に、ちょっとばかし感情的な響きが含まれてたように思えるのは気のせいじゃあない気がするぜ。
──────────────
これにて、プント・アテジオ編、ひとまず終了の巻。
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