遠くて近きルナプレール ~転生獣人と復讐ロードと~

ヘボラヤーナ・キョリンスキー

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第三章 クラス丸ごと異世界転生!? 追放された野獣が進む、復讐の道は怒りのデスロード!

3-211 J.B.(133)Rebel Without A Pause(絶え間なき反抗)

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「ヴェーナ卿、まずは避難を……!」
 慌てながらそう促す代官のデジモ・カナーリオ。小柄で痩せた身体を、大仰でやたら布と刺繍の多い暗い色合いの大きな赤紫色のトーガで飾り付けているため、明らかに動きにくそうだ。
 
「わ、我々も……」
 まるで転びそうにしながらその後を追おうとするのは、タロッツィ商会のバルトロスとその護衛、使用人たち。
 デジモに促され、“漆黒の竜巻”と衛兵達に周りを囲まれつつ退室しようとするヴェーナの後ろに張り付くかのバルトロスが、脚をもつれさせ転ぶかに見えたが、いや、そうじゃない。
 バルトロスが躓いたのは、別の影がその足元へと転がって来たからだ。
 
「な、何だ!?」

 その影とは、アバッティーノ商会のレナート……つまりはラシードだ。
 転がったラシードは、そのまま半回転して仰向けに尻餅をついた状態になる。
 
「何を取り乱しておる……!?」
 デジモの叱責が言葉半ばで立ち消えるのは、ラシードが口から吐き出した赤黒い血反吐を見たからだ。
「……わ、私の、護衛では……無い……!!」
 左手で、やはり血が滲じみ溢れ出る脇腹を押さえつつ右手で指し示すのは、先ほどまでラシードの後ろに立ち、控えて居たはずの頭巾姿の護衛。
 その頭巾姿の護衛は手にした血まみれの曲刀をくるり翻すと、跳ね飛ぶように周りの衛兵、護衛達を斬り伏せ無力化する。
 
 何だ!? 頭がついてこねぇ。確か聞いた話じゃあラシードの……つまりアバッティーノ商会の護衛役を演じているのは、闇の森ダークエルフの若手戦士だか何だかっ、てやつだ。その護衛が何でこんな真似を?
 そう混乱する頭に、鋭く叫ぶヴェーナの声が響く。
「“竜巻”!」
 
 それを受け、黒革の闘技用装束に兜……いや、顔を覆うマスクを身に付けた“漆黒の竜巻”が、ヴェーナを庇うように立ちふさがる。
 流れるような動きで衛兵たちを蹴散らした頭巾姿の戦士が、そのまま“漆黒の竜巻”へと向かって行くのを、俺は間に割って入るようにし、その刃をドワーフ合金製の篭手で受ける。
「でかした!」
 そう叫ぶデジモが素早く呪文の詠唱を終えると、両手から黒い靄の塊のようなものを吹き出させる。決して早くはないその黒い塊は、のたうつ蛇のようにぐるぐると部屋の中を渦巻き頭巾姿の戦士を取り囲むと、槍のように変化して一気に襲いかかり……瞬時に消え去った。
 
「……なっ!?」
 
 驚愕の声はデジモのものだが、それは俺も含めた全ての目撃者の代弁だ。
 まるで食われたかのように消えた黒いもやの塊。そして頭巾姿の戦士の手には、黒く……闇よりも黒く光るねじくれ曲がった刃。
 
「まさか……!?」
「“災厄の美妃”……!?」
 
 まさか、というデジモの声に続けて叫んだのは俺だ。
 “災厄の美妃”の持ち手。南の獣人王国に居たらしい猫獣人バルーティ戦士。マヌサアルバ会の会頭、アルバから聞かされていた暗躍するその存在。そして、つい先日……いや、もう一月、二月は前か? カーングンスの野営地へと向かう道中、反リカトリジオス派の若巫女様ジャミーとその連れを襲った刺客らしき奴。
 その“災厄の美妃”の持ち手が、何故ここに……!?
 
 全く理解が追いつかねーが、その思考の空白は俺だけじゃねえ。
 周りの誰もが一瞬反応できなくなったその最中に、くるりと舞い踊るかに黒く歪な刃を縦一閃に振り抜く。
 その刃が切り裂いたのは“漆黒の竜巻”……その身体に纏っていた黒革の兜に装束、そして首輪だ。
 
 その瞬間、ぶつりと何かが断ち切られた。何が? はっきりとは分からねぇ。分からないがそれでも感じられるのは、それまでまるで意志のない人形のようであった“漆黒の竜巻”の気配が一変したと言う事だ。
 
「───見つけたぞ、“毒蛇”め!」
 
 そこへ、不意にこの貴賓席のバルコニーへと響くのは、シーエルフの第七王女、ネミーラの声だ。
 
「ハハハハ! 我らシーエルフへの様々な悪行もこれまでだ……が……待て、お前ら何をやっておる?」
 
 ネミーラとしては満を持しての登場と行きたいとこだったのだろうが、あいにくとこっちはそれどころじゃない。
 頭巾姿の戦士は、装束を切り裂いた“漆黒の竜巻”に、その間に割り込んだ形の俺とを纏めてひっつかむと、そのまま後ろへ跳ぶ。その後ろってのは勿論、今し方ネミーラが現れたバルコニー側。そこから一般観客席へと飛び降りるかたちだ。
 
「なにしやが……!」
「ニブい奴だなテメーは。飛べよ、そいつで」
 言われて気付く俺は、確かにニブくてマヌケだ。素早く“シジュメルの翼”へ魔力を通し、“漆黒の竜巻”を抱えて飛び上がる。
 頭巾姿の戦士は俺たちから手を離して離脱、くるりと回転するように身体をひねると、壁を蹴りつけてから観客席へと見事に着地。そのまま、闘技場内に溢れる水と、逃げ惑う観客達にまぎれ見えなくなる。
 
「うぅ……」
 眉根をしかめて小さく呻く“漆黒の竜巻”。
 俺は階段状に設置された闘技場観客席の比較的上階、すでに観客の居なくなった水の及んでない場所へと降り立ち、彼女を座らせる。

「……おい、大丈夫か? 状況は分かるか?」
 顔の前で手をひらひらとさせ意識の有無を確認。
「……別に意識を失っては……いない……。ただ、少しばかり……混濁してるだけだ」
「そりゃ問題だ。
 なあ、俺はアンタのことを覚えてねぇ。村がリカトリジオスに襲われた時はまだガキだったからな。
 俺の幼名……その頃の名前は“ジャブハ”だ。覚えてるか?」
 まだぼんやりしているかの表情だが、それを聞いてやや目を細め、
「……“牛糞小僧”か……」
 とボソリ。まさに俺の幼名の意味だ。
「スナフスリーってブチ模様の猫獣人バルーティは覚えてるか? アイツからアンタの存在は聞いていた。同じ“シジュメルの加護の入れ墨”を持った生き残りが居るってよ」
 軽く目を見開いたようにしてからそれを細め、
「───ルチアだ。父はボバーシオの旅商人と懇意にしていてな。それでクトリア風の名を付けた」
 ルチア……。確かに記憶にある名前だが、やっぱり曖昧ではある。
「フフ……べそかきの“牛糞小僧”が……こんなに大きくなっていたとはな」
 だが、ルチアには俺のガキの頃の記憶があるようだ。一方的に知られてるってのはちょっとしたむず痒いような居心地の悪さもあるが、何にせよ今が好機。
 
「今はJBと呼んでくれ。とりあえず、行くぜ」
「どこにだ?」
「まあ、とりあえずは……ここじゃないどこかに、だな」
 “シジュメルの翼”へ再び魔力を流して浮き上がる。
 まずは空高く、闘技場の遙か上へ。それからそう離れてない、以前見つけておいた使われていない港の廃倉庫の屋上へと降り立ち、レイフから借り受けていた【気配隠し】の効果のある“身隠しの外套”を渡して着せる。
 
「はっきりとしたことは分からねぇが、あの“災厄の美妃”の持ち手が断ち切ったのは、多分あんたを縛っていた支配の術だ。それが今のアンタにどんな影響を与えてるか、俺には分からない。だが、少なくとも今すぐ戦ったりなんだりするッてのはちょっと難儀だろう? 俺は闘技場にまだ気になる奴らがいるからもう一度確認してすぐに戻ってくる。ここで隠れて待っててくれ」
 “身隠しの外套”だけでなく、荷物の中から水袋や保存食、薬なんかもまとめて渡しておく。
「……分かった」
 小さく頷くルチア。
 
 俺は再び飛び上がり闘技場へと向かう。
 町中は、水路から溢れた水で至る所が濡れ混乱も広がり始めていた。各所にシーエルフの戦士が陣取って衛兵と戦闘している。そこに、何やら貧民なのか奴隷なのか、みすぼらしい格好の奴らも加わって衛兵を攻撃し始めてもいる。
 
 海から引かれた水路に、豊富な水のあるプント・アテジオは、水堀と高い城壁もあって陸地側への守りは完璧だが、高波に乗って城壁を越え、水路を使い縦横無尽に動き回れるシーエルフにとってはむしろ独壇場。さらには水魔法の【水弾】や【水の奔流】などでの攻撃もある。おそらく数ではシーエルフ達の方が少ないだろう。だがこの場所この状況での戦力は圧倒的。そこに、弱くてもシーエルフ側に加勢する集団まで出て来ているとなりゃ、準備も出来ていない衛兵たちが後手後手になる。
 だが、たしかこの町には守りの結界とやらもあったはず……と、それを思い出して、そうか、と分かる。いや、今更の話っちゃあ今更な話だが、俺がマシェライオスに頼まれた代官の館の尖塔のてっぺんにある魔術具の再設置。ありゃこの計画の為にやらせたワケだ。
 守りの結界を無効化し、多分シーエルフ、闇エルフ団の連中が有利になるような結界へと変えている。或いは、奴隷達に反乱を起こさせるような根回しをしつつ、タロッツィ商会がやってたような、奴隷に主への畏怖心を与え、従順になるよう仕向けてた術をも無効化してるのかもしれねぇ。
 タロッツィ商会の奴隷闘士のように、奴隷身分ではあるがうまくやれば成り上がりも可能で、そういう野心を持ってた連中は別なんだろうが、そうじゃない奴隷達には一か八かのチャンス。フォンタナスもそうだが、解放奴隷や闇エルフ団が、奴隷闘士として、またラシード扮するアバッティーノ商会の人間として、そして朝方会ったマシェライオス達みたいに衛兵やその他の偽装で町中に潜入しているんだろう。そいつらが貧民や奴隷を煽り、誘導しての流れってことか。
 
 だが……。
 
 ぐるり旋回するようにして再び闘技場の上空へ。
 貴賓席のバルコニーでは、ネミーラと側近のシーエルフ達がヴェーナと代官のデジモを相手取り戦っているようだ。
 その騒がしい喧騒の中、風魔法の力でなんとか貴賓席周りの音だけを集めて聞き取ろうとすると、護衛の兵がほとんど倒されたにも関わらず、デジモとヴェーナはシーエルフ達相手になかなか持ちこたえている。
 タロッツィ商会のバルトロスは床にうずくまり這いつくばっているだけなのでどうでも良い。
 問題は、ラシードだ。
 この騒動が闇エルフ団とシーエルフ達が協力しての計画だと言うなら、ラシードも問題無く逃げ出せるようにしていたはず。
 だが、血反吐を吐き脇腹を斬られていた姿に、何よりそれをやったのが“災厄の美妃”の持ち手の猫獣人バルーティだと言う事実。あの猫獣人バルーティが裏でラシード達と通じる協力者だったのか? それは考えにくい。
 なら、ラシードは今どうなってるのか……?
 
 と、そう考えている俺の視界に、見慣れた丸っこい姿。貴賓席のバルコニー側に、毛の長い牛みたいなもん……もしかしてあの豚か? とにかくそいつに騎乗したガンボンが観客席を駆け上がり移動している。
 だがバルコニー側は数本の石柱で支えられた高所に設置してあるから、観客席側からそのまま入ることは出来ない。
 そのバルコニー部分へと、ゆらりと手すりにしがみつくように姿を現わすラシード。明らかにダメージを受けてよろけながら逃げ出そうとしているかの様子で、下手をすればそのまま手すりを乗り越え落下しかねない……と、そう危なっかしく思っていたら、まさに想像通りの事が起きる。
 慌てて急行、落下するラシードを受け止めようとする俺の眼前を横切るのは、勢いよく水流に乗って現れる一人のシーエルフ戦士。うお、ネミーラの側近の一人だぜ。
 
「おおう、JB何やってんのよ?」
 ネミーラの側近に抱えられ、危なげなく着地したラシードが軽薄な調子でそう言う。
「何やってんだじゃねーよ、お前! マジで刺されたのかと思ったし、マジで落下したんかと思ったぞ!」
「わははは、そうかそうか、悪い悪い」
 全然悪びれてる感じねーわ。
 
「ラシ……て、JB……?」
 毛長に乗って来たガンボンも、ラシードと俺を交互に見て両方に驚きつつも、どっちを優先的に驚くべきか迷ってるかのような反応。
「おう、試合観てたぜ。スゲーなお前。
 ま、それよりラシードよ。とりあえず刺されてバルコニーから落下、までは、計画通りの演技……ってことでいいんだよな?」
 
「もちもちロンロン、もちろんよ~。その辺俺ちゃんには抜かりはねーって」
「じゃあお前の護衛のふりをしてた猫獣人バルーティ戦士も、計画のウチか?」
 そう、本来ならセロンとかいうダークエルフ戦士がいるはずだったのが、あの場では猫獣人バルーティ戦士……いや、“災厄の美妃”の持ち手になっていた。

「そうだ、あいつ何者だ? あの野郎、俺を思いっきり蹴り飛ばしやがって!
 予定通りなら、俺が血のりを使って刺されたふりをして倒れ、ネミーラ達が来るまでの時間稼ぎをする計画だったのに……いつの間にセロンと入れ替わったんだ? ってか、セロンはどこだ?」
 俺に聞かれてもそんなこと知るか、だし、ガンボンは相変わらずぽかんと大口開けたまま、まだ状況も把握出来てなさそうだ。
 
「何にせよ、ここは離れよう。ネミーラ様にはよろしく伝えてくれ、助かった」
 ネミーラの側近へそう手を振ると、側近は頷き返して再び激しい水流に波乗りのように乗ってバルコニー席の戦線へ戻る。
 
「よし、とりあえずズラかるぞ」
「ズラ……って、おま……」
「言ったろ? ここで戦うのは俺の仕事じゃねぇのよ。闇エルフ団とネミーラ達シーエルフの役目だ」
 まあ、確かにそうだ。俺もだしな。
 階段状の観客席を降りて、さっきまでガンボンが戦っていた試合場にまで進む。膝辺りまでざばざばと水に浸かりながら、闘士の入場口まで行くと奴隷闘士達。
 
「ガンターの兄ィ!」
「こりゃ、どうなっちまってんで……!?」
 そう口々に喚きながらガンボンへと詰め寄り、そのなかの何人かがラシードに気付く。
 
「……レナート様!?」
「血、血が!?」
 刺されたのも血反吐を吐いたのも全部嘘の演技だそうだが、まあぱっと見には分からんよな。
 
 ラシードはそこで急に力が抜けたかのようによろめいて、闘士たちの中から進み出てきた、さっきの猫獣人バルーティ戦士とよく似た服装のやつにもたれかかる。多分例のダークエルフ戦士だ。それからゴホンゴホンと大げさに咳き込みむと、口元に手を当てて再び少しばかりの血を吐き出した。
 
「アバッティーノ商会の、奴隷闘士諸君……!」
 
 観客席の下に位置する奴隷闘士達のいる区画は、床も壁も石と煉瓦とモルタル塗りで洞窟のようだ。だから大声でなくてもよく響く。
 
「見ての通り私はもうじき死ぬ。だがその前に、君たちに遺言を残そう」
「ゆ……いご……ん?」
「そうだ。まず、ただ今をもって、諸君らは完全に自由だ。
 すでに話は通してあるから、この後フォンタナスあたりを見つけて、解放印を押してもらうと良い」
 突然の死の予告に解放宣言。奴隷闘士たちは驚きざわめく。
「その先、諸君らにはいくつかの選択肢がある。まずはフォンタナスから幾ばくかの支度金をもらい、自由市民としてここを出て行くと言う選択。
 ……まあ、先の状況は分からんので、出て行けたら……の話ではあるかな」
 奴隷から解放され自由市民となり、この忌まわしい町から出ていける。その言葉にざわめきはさらに強く、大きくなる。
「もう一つは、今この町を攻撃しているシーエルフと闇エルフ団の連合軍に加わり、共に戦うか……」
 続くその言葉に、さらに奴隷闘士たちはどよめく。
 
「……そ、そりゃ……一体、どういうことなんですかい!?」
 ひげの厳つい大男が泡を食ってそう聞いてくる。
「どうもこうも聞いての通りだ。闇エルフ団は元奴隷の連中ばかりだし、今味方につくと言えば即戦力扱いだろ。おまえらあんま強くないけど、闘い方は心得てるしな」
 
「その通りだ」
 ラシードの言葉にそう続けるのは、別の奴隷闘士。
「な、何だ、新入り!?」
「俺は闇エルフ団から間者として闘技場に送り込まれてきた。俺みたいな奴は今この町にたくさん居る。そして各箇所で衛兵どもを倒し、奴隷商をぶちのめし、代官の館まで迫っている。
 シーエルフの協力もあり、もはや数刻後にはこの町は我らのモノとなるだろう」
 フォンタナス同様この決起に向けて入り込んでいた一人、てなところだろう。
 
「おい、そいつは本当か!?」
 離れた位置から鋭く叫んで聞いてくるのは、おそらくアバッティーノ商会とは別の商会所属の奴隷闘士。
 
「ああ。だが、加わるのならば我らの指示に従ってもらう。勝手な略奪や殺戮を行った者は、後で生きたままシーエルフ達の飼ってる海竜のエサだ」
 驚きと歓声と悲鳴、様々な反応。
 その中から一人、また一人と声を上げて、
「お、俺はやるぞ!」
「そうだ、やってやる!」
 と湧き上がる。
 
「すでに我らの仲間の術士が、この町の結界の上書きをしている。もうお前たちはむやみにデジモやこの町の衛兵、奴隷商達を恐れ、従おうという気持ちがなくなっているはずだ」
 さっき想像してはいたが、やはりその辺は済ませてあるらしい。
 言われてざわめく奴隷闘士達が、次第に歓声のような声をあげる。
「そうだ、あいつらなんざもう怖くねぇ!」
「反乱だ!」
「俺たちの自由を勝ち取るんだ!」
 フォンタナスたちの魔術印を解呪したときを思い出す。こういうのは最初は開放感もあって意気も上がるが、まあいざとなればどうなるか分からねぇもんだ。実際にタロッツィ商会のヤコポ司令官の部隊とやり合う段階になったら、最初は良くてもすぐに瓦解した。まあ闇エルフ団の連中も、その辺は折り込み済みだろう。
 
 意気上がった奴隷闘士たちは、闇エルフ団の男を中心に移動を始める。武器庫を襲い、反乱を実行するようだ。
 しかしまあ、今回俺は実行する側で無いとは言え、人生で二回も奴隷の反乱に立ち会う事になるとはな。どうにも俺の新しい人生は、つくづく反乱に縁があるらしい。
 
 残されたのは俺とラシード、ガンボンと長い毛をかぶった豚に、その横にいる布で顔を隠したダークエルフ戦士。そして、何人かの奴隷闘士たちだ。
 
「お、どうした、お前ら? 反乱には加わらんのか?」
 と、ラシードの問い掛けに、
「あ、いやぁ……」
「だって、なぁ?」
「俺らは……」
 ちらりとガンボンを見やる男達。
「どっちにせよ、俺達ゃガンターの兄ぃと一緒に闘いやすよ」
 なんだよ、臆病風に吹かれたとかじゃないのかよ。こりゃガンボンも、随分と慕われたもんだなあ。
 最初はきょとんとして、それからその状況に気付いてあわあわとするガンボン。
 まあ何にせよガンボンもラシードも無事。となりゃ俺としてはもうここに残る必要は無いが、とは言えコイツら結局どーすんのか。
 
「なあおい、取り敢えずお前らは無事みてーだし、この先の計画とかにゃ俺もノータッチだが、結局お前らどうすんだ? いや、闇エルフ団がどうこうじゃなくて、ガンボン、あとラシード、お前らが、だ」
 まあガンボンからは回答はないのは予想済み。で、ラシードの方はと言うと、
「ま~なぁ~。
 この混乱に乗じて、デジモの館と、この闘技場それぞれから、奴隷取引の帳簿なり明細なり手に入れておきたいんだが、闇エルフ団が町の占拠に成功すりゃあそのまま何もしないでも手に入る。だが……それがヤバそうなら~……サッド次第か~?」
 しかし、改めて考えるとこいつらの目的って確か行方不明の仲間を探すってことだよな? で、そのためにこの町にある奴隷取引の記録が欲しかった。言っちゃ何だがその程度の目的のために、奴隷の反乱から占領までの片棒を担ぐってのは、随分と無茶苦茶な話だ。いやまあ、ほぼ似たような目的でやってきて、その成り行きで同じように反乱の片棒を担いぐ事になってる俺が言えた義理でもねぇがよ。いやいや、俺のは本当に本当、ほんのちょっと関わってるだけだ、とは言い訳しとくぜ。
 
「───全く、何がどうして、お前らどういう組み合わせなんだかな……」
 そこへ、低く響く声が割り込んで来る。
 全員がそれぞれに警戒し身構えるが、現れたのは全身入れ墨の南方人ラハイシュ。この闘技場の管理人でもある大男のポロ・ガロだ。
 ポロ・ガロはラシードと違って本当に腹を刺されたのか、壁に寄りかかるようにしながら歩き、押さえた手の隙間から血を滲ませている。
「うぉ、て、め、やろうッてのか!?」
 アバッティーノ商会の奴隷闘士……いや、“元”奴隷闘士のひとりがそう叫ぶと、
「退いてろ。お前らなんぞ、片手で十分だ」
 と切って捨てる。確かに、その言葉は虚勢やハッタリとは思えない、有無を言わせぬ迫力がある。
 そのポロ・ガロを止められる者の居ないまま、俺とガンボンの前、お互いあと一歩の間合いまで来ると足を止め、
「お前と───」
 まずは俺。
「コイツらが」
 そしてガンボン、ラシード達。
「何故連んでいるのかは……知らんし、興味も無い。
 だが……“砂漠の砂嵐シジュメル”の名に賭けて……お前に伝えておくことがある」
 
 
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