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第三章 クラス丸ごと異世界転生!? 追放された野獣が進む、復讐の道は怒りのデスロード!
3-204 J.B.(127)Boss Bitch(ボスビッチ)
しおりを挟む長らく乾燥しまくった砂漠や荒野で生活していたもんで、この大湿地帯のじめっとした空気はなんとも居心地が悪い。
全体としちゃあ上空から見てもまさに「果てがない」と思えるくらいに広大な湿原地帯で、海に近いあたりになるとこれまた広大な干潟が現れる。脚の長い海鳥の群が泥の中の貝や魚を啄み、それらを狙う大きな魔虫が飛び回り、巨大な岩と牛糞の中間みたいな不細工な蛙が舌を伸ばしたりもする。
そこからさらに上流へと向かうと、葦や巨大な蓮の葉の水面が広がる中に木々の生える中州が点在してて、巨大な蛇やナマズやら何やら。
ま、とにかくじめじめして不愉快で、不便な上に危険な魔物や猛獣、魔獣もわさわさ居る、クトリア以上に人が住むのに適して居ない場所に思える。
その不便で危険な中洲の一つに、木の柵に見張り櫓に諸々に、と、空から見てもなかなかの陣容の砦がある。
そこが、“闇エルフ団”の拠点だ。
「なんつーかまぁ……こんなところにたいしたモンを作ったなァ、おめえら」
感心してそうアリックに言うと、
「いや、一から作ったワケじゃねーらしいぜ。俺も詳しいことは知らねーが、元々この辺にゃあ、各地から逃れてきた豪族だの山賊だの犯罪者にあぶれ者がいろいろやって来ててな。この砦もそーゆー誰かが昔作ってたのを、色んな奴らに改良されー改築されーで、今に至ってンだとよ」
なる程な、と納得すんのは、確かにパッと見だけでも分かるくらいに、場所によって出来映えや古さ、また様式なんかがバラバラで違いがあるからだ。
その“闇エルフ団”の隠し砦にて、ラシード、サッド、アリックにネミーラとその副官他数名を交えた“協議”が行われる。
中洲の中程にあるやや小高い丘のような場所に基礎を作り、一部は高床式になっている木造の館が、言わばこの砦の中心、頭目の館であり王城だ。
まあ、シーエルフの海底王国の珊瑚や真珠の散りばめられた絢爛豪華な宮殿から戻った後じゃあ、見事なまでにみすぼらしくはあるが、登り口となるやや緩い坂のカーブに対し三方から弓矢を射掛けられるような構造になっていたりと、砦の最終決戦場としちゃあなかなかよくできてはいる。
「まずは───」
最初にそう切り出すのは、妙ちきりんな山高帽をかぶり、鮮やかな刺繍の入った黒革の眼帯をしたラシード。
「偉大なるシーエルフの王女、ネミーラ殿下に再びお越し頂き感謝します」
「まあ、貴様等に水底にまで来いと言うても不可能じゃからのう」
鷹揚に、とでも言うか、なかなか機嫌良さげなネミーラ。
「貴殿等が我らが主、ネミーラ殿下をお救いしていただけたことに感謝する。まずはこの品を受け取って下され」
副官から渡されるのは、これまた珊瑚や真珠で飾られた豪華な箱で、開けると三振りの短刀。
「海竜の牙刀だ」
クトリアだと東地区の連中なんかがそうだが、魔獣素材を利用した武具ってのは結構ある。
そのまんま組み合わせても使えるものもあるが、多くは魔力を定着させる処理をしないとさほど強靭なものにならないし、モノによっちゃすぐ壊れる。つまり、イベンダーのオッサンがドワーフ合金を扱う秘術を心得て居る魔鍛冶師であるのと同じ様に、魔獣素材は魔獣素材専門の魔鍛冶師でなければ、なかなか有用には扱えねぇ。
そして間違いなく、地上の人間、エルフ、ドワーフらの中には、シーエルフ以上に海の魔獣、魔物の素材を扱う魔鍛冶師がいるということはまずありえない。つまり、性能も含めその存在全てがとてつもなく貴重なものだ。
引きつり気味に表情が変わるラシードたち。地上の貨幣経済に疎いシーエルフ達がどこまで意識しているかといえば疑問だが、こりゃ下手すると家一軒ぐらい……いや、町の一つぐらいは買える金になる可能性もある。
「……これはこれは、なんとも素晴らしいものを……」
ま、3本あると言え俺がもらえるわけはないので関係ないが、こりゃあ奴らの中での取り合いがひどいことになるんじゃねえのか? ある意味厄介なモンを渡されちまったな。
「さ、それよりもじゃ。お前達の企てとやらを聞かせるのじゃ。気に入れば、手助けしてやらんでもないぞ」
ネミーラはそう相変わらずの調子だが、なんつーか新しいおもちゃをおねだりする子供みたいでもある。
「そうですな、王女殿下。
まず、改めて最初に確認しておかなければならいことがありますが、今ここには、四つの別の目的を持った集団……存在が一堂に会しているということです」
と、ラシードが切り出す。
「ふむ?」
「まずはサッドを頭とする“闇エルフ団”。
彼らの目的は……まあ大局的に言えば現在の“毒蛇”ヴェーナによる体制の打破。その過程として、より多くの奴隷たちを解放することです」
現体制の打倒とはかなり大上段に吹いたもんだが、確かに現状はちまちまと奴隷商を潰したりその奴隷を解放したりしてるだけとは言え、突き詰めてきゃ確かにそうなる話じゃある。
「そして私は、行方不明になり、恐らくはこの地で奴隷とされているだろう仲間を探し出し救出したい。
その点で、“闇エルフ団”とは利害が一致し、協力関係にあります。そして私同様、こちらのJBもまた、別の相手を探し出したく、“闇エルフ団”へと協力しております」
それぞれお互いにややこしい経緯ではあるが、まぁ大筋そういう話だ。
「それで?」
そう続きを促してはいるが、最初に比べると確実にトーンダウンし、こっちの事情については興味無いのがあからさまな反応のネミーラ。
「そこに、さらに王女殿下にとっての望むべく成果……、そこなのですが───」
四つの思惑、この最後一つネミーラのそれ、だ。だが……、
「わしの望むべく成果、とは何じゃ?」
と、ネミーラはそうとぼけた返事。
いや、それをそっちが聞くのかよ。これが、「王族の内心を勝手に忖度するな」と言う牽制なら、まあ分かる。だがどーやらそう言うもんでも無いらしく、
「あ、いえ、先日話された……プント・アテジオの……」
と、ラシードがまた少し言いよどむ。
「ふむ? 何の話じゃったかのう?」
対するネミーラも、そらっとぼけていると言うでもなく、こりゃナチュラルに忘れている臭い。
そこに、横合いから副官が耳打ち。シーエルフ語でごにょごにょとやりとりをしてから、
「情勢は変わった。今も以前と同じとは限らんが、まずはお主らの話を聞くとしよう」
と、まあ堂々と言い放った。絶対忘れてたろ?
「……それでは、以前お話ししたときの内容を元に話しますと、まず最上はヴェロニカ・ヴェーナの首級」
「うげ」
うげ?
「なんじゃ、地上人の首なんぞわしは要らんぞ、気持ち悪い」
「あ~……この場合の首、とは、必ずしも実際の首ではなく、戦にて討ち果たす……という比喩でもあり……」
「おー、そうかそうか」
とりあえずシーエルフ達の文化には、敵の首を倒した証拠として持ち帰る、というものは無いようだ。うむ、良いことだ。
「或いは、プント・アテジオの占領」
「地上人の町なぞあっても意味が無いのう」
「ええ。ですのでその場合にはネミーラ様の名の下に“闇エルフ団”が代理として統治をし、ネミーラ様には貢ぎ物をさせていただく形に」
「そうか」
うげ、てのは今度は俺の内心の悲鳴。
いやいや、これまた随分とでかくブチ上げたもんだぜ、ラシードの奴。本気か?
ヴェロニカ・ヴェーナの首……までは、ハナから実現性には乏しい大言壮語と笑っていられる。だが、それを先に出してからの次善の計画がプント・アテジオの占領となると、ちょっと本気度が高く聞こえるぜ?
それを受け、再び副官がネミーラへの耳打ち。
「我が名を冠する戦いとは、もっと崇高なものだ。お主ら地上人の内輪もめに名を貸すことはない」
と返し、だがそこから、
「ただし、我等が威光を改めて示し、愚昧な“毒蛇”に思い知らせるのは……悪くはないのう」
ここでまた、ニヤリ。
ネミーラのすっとぼけぶりは計算外でも、ラシード達はその前の話し合いとやらで、ネミーラの根っ子が戦闘馬鹿なところは見抜いていたらしい。
「なあ、おい。この話、どのくらいまでマジなんだ?」
俺は後ろの方で不貞腐れているようなアリックに、こっそり小声で聞く。
アリックはやはり不機嫌な小声で、
「……けっこう、マジだぜ。
ここのアジトも最近手狭だし、見つかりにくいし攻められにくい拠点じゃあるが、本気で攻められりゃ逃げ場がねぇし、何より発展性もない。
団内でも最近色々上手く行ってる事もあってイケイケな連中の声がでけぇし、攻める、落とすとなりゃ奴隷売買の最大拠点、プント・アテジオだ……ってな」
マジかよ。
心情的にゃあ奴隷解放、圧政への反乱、抵抗……ってのには共感もするし、上手く行くならそれに越した事ァねぇとは思う。
だが、居るか居ないか分からねぇ「同じ村出身の女」を、薄い可能性ながらも探し出す……てな用件で来てみれば、あれよと言う間に武装蜂起からの都市攻め話。ハッキリ言ってそりゃ俺の手に余るぜ。
ラシードの奴は何やら細かい話をネミーラに……と言うよりか、ネミーラを通じてネミーラの副官に説明している。堂々とした風でどっしり構えているネミーラが、どこまで理解しているのか分からねぇが、とにかく話はまとまったようだ。……しかし、どうしたもんだかな。
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