遠くて近きルナプレール ~転生獣人と復讐ロードと~

ヘボラヤーナ・キョリンスキー

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第三章 クラス丸ごと異世界転生!? 追放された野獣が進む、復讐の道は怒りのデスロード!

3-184.追放者のオーク、ガンボン(72)「良かった」

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「よーし、まとめるぞ?
 サッドは闇エルフ団の頭。
 その闇エルフ団はほとんどが逃亡奴隷や流民の集まりでしかない。
 だがその奴隷狩りの連中が、その名を冠して山賊野盗働きならぬ奴隷狩りを始めていた。
 で、アイツ等が……」
 チラリと視線をやるのは、先ほど縛り上げた商隊主や護衛兵達を突っ込んで閉じ込めておいた馬車の方。
「その、“偽”闇エルフ団でもあった……と」
 
 サッド他数名からの聞き取りから分かった真相は、まあなんとも……ヤヤコシイ!
 
「……ま、そう言うこった」
 やや遠巻きながらも、ガタイの良い“闇エルフ団”のコワモテに囲まれつつ、そう言ってのけるのはサッド。
 
 “闇の森”での闇の主討伐戦以降ずっと行方不明になっていた“疾風戦団”のチーフスカウト、ハーフエルフのサッドは、クリスティナ、タルボットと共に捜索対象になっていた。
 タルボットはクトリアで見つかり、また今はイベンダーと名を変えて、クトリア共和国評議会名誉顧問、なーんて役職をやっている。
 クリスティナの消息は未だ不明ながら、もしかしたらクトリアの魔人ディモニウムたちに捕まり、その後この辺境四卿の一人、“毒蛇”ヴェロニカ・ヴェーナ領に売られたかもしれない……との情報で、こうやって密かに領内へと潜入し探っている。
 
 サッドは……というと、その2人と違って、さっぱりその消息に関する情報が得られていなかった。
 一説では……というか、少なくともイベンダーの証言によると、サッドは例の怪物の攻撃と、闇の主による大規模儀式魔法による隕石雨が起きた時に、「一緒に穴の底に落ちた」中には居なかった……となっている。いた。
 
 で、そのサッドがこの半年以上もの間、どこで何をしていたのか……?
 
「あ~……まあ、そりゃ……色々と、な?」
 何やら言葉を濁してうにゃうにゃとするサッド。
「ほほぉ~う? 俺はてっきり、いきなり現れた怪物にビビリあがって、仲間を見捨てて自分だけ逃げ出したのが恥ずかしいもんだから、戻るに戻れずどこかの安酒場にでもしけ込んでンのかと思ってたけどなー?」
「……ばっ! バカやろう、そんな……おま、そんなこと、あ、あるワケねェだろッ!?」
「おう、そうだ! 昔馴染みかどうか知らねぇが、頭のことをあんま舐めてンじゃあねぇぞ!?」
「そうだそうだ、糞眼帯!」
 遠巻きながらも聞き耳立ててたらしい闇エルフ団団員たちから非難の声。
 オオゥ。意外と、と言ってはなんだけども、サッドはこの闇エルフ団の面々からの人望がけっこう厚いようだ。
 
 うるせぇ、もっと離れてろ、とどやしつけてから、サッドは再び気を取り直し、
「……例の、あの件以降しばらくの記憶がねぇんだよ」
 と、そうポソリと言う。
 それに対してラシードは、
「ま、とりあえずソーユー事にしとくけどよ。
 で、どんな経緯でこんな事になってンだ?」
 と、軽く流す。
 
 まあそれも謎よね。イベンダーの経緯もけっこう紆余曲折だけど、サッドの経緯はさらに謎。
「俺だって、こんな事になるたぁ思って無かったぜ」
 そう小声で語るサッドの話は、やはりなんともまあ……良く分からん話だ。
 
 ◆ ◆ ◆
 
 兎にも角にも、闇の森でのあの大惨事があって数週間、サッドは“巨神の骨”北側の高地山林近辺で過ごしていたらしい。
 もちろん野営による野宿。狩りや採取で食料を得て、木の上や洞窟に寝床を作ってのサバイバルライフ。
 
 一体全体なんだってそんなことを……と聞くと、
「まあ……色々疲れちまったんだよ」 
 と、まるでハードなブラック社畜ライフに疲れて田舎暮らしを始めたがる脱サラリーマンみたいなことを言う。
 とにかくそうして孤高の野人ライフをしている中で、まずはちょいとした山賊連中と関わり合う。
 この辺俺は、元々のサッドの人となり性格というものをそんなに詳しくは知らない。けれども俺よりは交流のあったラシードに言わせると、サッドというのはとにかく争い事や暴力沙汰が大の苦手なのだそうだ。“疾風戦団”という戦士の集まりにいながら争いが苦手というのも妙な話だが、それでもサッドの二つ名、“チーフスカウト”に恥じぬ索敵や鍵開け、罠解除といった能力はとても高かった。それ故に、戦闘は一切しないにも関わらず、特例的に入団が許されたのだという。
 と同時に、普段は慇懃無礼で嫌味ったらしく、何かと人の神経を逆撫でしたがる悪趣味な性格だが、必要とあらば口八丁手八丁、縦のものを横にしてみせるような口先三寸脅しすかしなだめそそのかし、おべっかも使って他人を操る。
 だもんで、最初は結構舐められ、けれどもスカウトとしての高い能力から次第に重宝され、それからある程度立場が安定してから、その山賊団の内部対立に目を付ける。
 元々粗暴で暴力的、恐怖で手下を押さえつけていた山賊頭に不満を持っていた若手連中をうまく抱き込み、クーデターを起こさせた。
 で、「次の頭は、力はあるが粗暴な野蛮人よりも、サッドみたいな頭のいいやつがいい」という話になり、あれよあれよという間に祭り上げられたのだとか。
 
「まあ、その辺はガキの頃からお手の物でな」
「へぇ~、そりゃ意外な特技だ。いや、意外って程でもねぇか?」
 ラシードは感心してるのかしてないのか分からない調子でそう返す。
 
「……で、なぜ“闇エルフ団”などという名前を名乗った?」
 セロンがそこにそう突っ込むと、
「俺が名乗ったワケじゃねーのよ。元々あの辺りには、4、50年だかそんぐらい前に、そう名乗ってた凶暴凶悪な山賊団が居たンだとよ。で、その話を知っていた前の頭が、勝手にその名前を継いだ。
 俺の代になって変えたってよかったンだが、まあ別にこんなチンケな山賊団の名前なンざあどうだって誰も気にしねえだろ? 普通はよ」
 まあ、確かに。
 
「それがこの辺に移動して来て、そうじゃなくなったワケだ」

 以前の拠点はここよりももっと東、場所としては同じ辺境四卿の一人、マーヴ・ラウル卿のブコルデ・ウマウス領あたりだった。
 ラウル領はかつての帝国時代には対東方シャヴィー人の最前線で、先代は武人として知られ、精強な兵士の居る辺境の守る立派な砦もあったが、土地柄としてはあまり豊かではない。
 まるでネズミのかじった穴あきチーズのようにゴツゴツした岩場がたくさんあり、耕作や牧畜のできる土地も少ない。特産品と呼べるのは、せいぜいがねずみりんごと呼ばれる、痩せた土地でも育つ小さくて酸味の強い果樹くらい。
 ただその分、確かに守るには有利な場所ではあった。
 
 元々帝国時代における辺境伯というのは、あくまで帝国の外敵に備える軍事司令官のような存在だ。
 だから最前線の砦を守ることが第一優先で、食料にせよ資金にせよ、それらは中央から送られてくる。これは言い換えると中央から離れた場所に独立して採算の取れる領地を持つような有力者が現れないようにするための政治的な処置でもあったらしい。と、この辺の話はラシード他の受け売り。
 
 なもんで、帝国が崩壊し、辺境四卿を中心とした同盟が組まれても、やはりそれぞれに独立した採算の取れる土地は少なかった。
 その中で、例えば“毒蛇”ヴェーナはマレイラ海を通じた貿易や、今まで聞いたように狩り集めた奴隷を使い潰すかのような圧政で財を蓄え、“暴食”ヨシュア・ミュンヒハウゼン卿は新たに獲ただだっ広い丘陵地帯で、牧畜やらを盛んにさせる事で食料増産に勤めた。 
 当代のマーヴ・ラウルはその辺りのセンスがまるで無く、帝国崩壊後も領地運営が全く出来てなかったのだそうだ。
 
 東方シャヴィー人の脅威が消え、岩場ばかりで旨味が無く、接しているのは敵対的ではないが友好的とも言えない闇の森ダークエルフとウッドエルフの森。
 マーヴ・ラウルが辺境四卿として同盟に入れたのも、「自らの領地とするには旨味がなく、かといって敵対勢力に奪われるのは厄介な領地」を管理させる為だけ……、と言うのがラシードはじめ疾風戦団での見解。
 
 何にせよ、マーヴ・ラウル領は山賊をするにしても同様で、荒地ばかりで隠れ潜むにはもってこいだが、やはり奪える獲物も少ない。
 
 そんな状況に変化が訪れたのは年の暮れ辺り。
 “巨神の骨”北側山林近辺に、山の上の方からやたらと魔獣が降りて来て、衝突するようになったのだ。
 
 ここ、「心当たり」があるのは俺だけらしい。ま、そうだよね。
 頭の中で地図を思い描き、位置関係を再確認。
 恐らくその時期は、“巨神の骨盤”の風の迷宮が活発化し、その結果、試練の最後の魔力溜まりマナプールと融合していたザルコディナス三世の怨霊も再活動を開始。その余波で、“巨神の骨”の魔獣達が活発になり始めた時期だ。
 俺たちが戦っていた“狼の口”の遺跡は、“巨神の骨盤”の山頂部に近い南側。その反対側では、魔獣が下の方にまで降りて来て、サッドの居た闇エルフ団の縄張り近くを荒らし始めた……と、そう言うことなのだろう。
 
 何にせよ、ある意味では狩りの獲物が増えたことにもなるが、とは言えあまりに数が多いし、何より立て続けに襲ってくるので休む間もない。
 考えあぐねてサッド達は、護民兵団により魔獣の害が減ってると噂されるヴェーナ領へと向かうことを決めた。
 
 で、
「そこで、人数が増えた?」
「て事だ」
 
 噂に聞いてたヴェーナ領の有様は、確かにラウル領よりも栄えてはいるが、その内実は極端な格差社会。税が払えない農民は奴隷になるか逃げ出すか。逃げてから捕まると、奴隷の中でも年季のない最下層の奴隷にされる。
 逃げ出した流民や奴隷が小集団を作り、それらが山野に潜んでさらに集合する。
 その流れの中に現れた“闇エルフ団”は、自然とその中心に位置するようになった。
 最初は使える手下が増えてきたと思っていたものの、増えてくる連中のほとんどはただの飢えた流民ばかりで、戦力というよりお荷物だと分かりだす。
 そこで誤算。
 サッドが頭に祭り上げられたのは、「強いけど乱暴で馬鹿な脳筋マッチョより、策士で頭の良いサッドの方が良い」という理由だったこと。
 
「流民なんか増えても邪魔だ、どーにも出来ねぇ」なんて正直に言えば、「なんだ、結局コイツもたいして頭良くねえんじゃん?」となる。
 賢さを期待されてる以上、サッドは増えてきた流民を集めてもうまくまとめられるという知恵を見せていかなければならない。
 そこでもう、あらゆる知恵を絞りに絞って増え続ける流民達を助けるため奔走した。
 
 サッドは人間社会で育ったハーフエルフなので、魔力の扱い方を知らないし、魔術もたいして使えない。幼少期に基礎を学べなかったようなハーフエルフは、後から魔術の勉強をしても、幼少期から学べたエルフの様にはなれないらしい。その代わりに子供の頃に学んだのは、路上から山野でのサバイバルライフスキル。何も持たない貧しい状態で生き残る術については様々な知識を持っていた。
 食べられる野草、虫、木の実にキノコ。簡易シェルターの作り方に動物の狩り方や罠の作り方。簡単な薬や石器での武器作りに土器、焼き物。草を編んでかごや履き物、服まで作れるし、安全な寝床の見分け方なんかも分かる。一つ一つは農民や流民にも知られているものもある。だがサッドのそれは、そういう貧民の生活の知恵の集大成で、さらにはそれらを適切にそれぞれへと指示してまとめ上げるのも上手かった。疾風戦団ではあくまで技術屋としてしか働いて無かったが、実はそう言うまとめ役の経験も多くあるのだとか。
 
 そうして半年。
 “毒蛇”ヴェーナ領の果ての果てに、既に300人を超える流民集団の新たな“闇エルフ団”が生まれていた。
 
「……どーしてそーなるンだよ?」
「俺が聞きてぇよ……」
 
 細かい込み入った話に関しては、「古馴染みと積もる話かあるから」などと言って闇エルフ団の護衛たちを遠ざけてのヒソヒソ話。
 なんというかまあ、俺も俺でクリスティナ探しの中で色々な冒険をしてきたけど、サッドもサッドで、なかなかの経験をしてきてるなあ。
 
 う~んむ、む、む……。
 まあ、とりあえず、だ。
 
「良かった」
 
「……は?」
「何だガンボン、突然?」
 
「サッドが、無事で、良かった」
 
 と、言う事よね? うん。
 
 そう言うと、サッドはもとより、ラシードにアリックさん、あまつさえセロンまでがポカーンとしてこちらを見る。
 いやいや、別におかしな事言ってないよね? まあ確かに、正直サッドの安否とか、特にこう、強くは気にしてなかったけどさ? 無事で良かったじゃん!? 
 
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